多目的モデルに基づくインタラクティブ遺伝的アルゴリズムに関する研究

廣安 知之

研究期間 平 成 20年 度 ~ 平 成22年 度

概要:

 遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm: GA)は生物の遺伝と進化を模倣した確率的多点探索手法の一つである.インタラクティブGA(interactive GA: iGA)は,GAの評価部分を人間が評価することにより,人間の感性や嗜好といった数量化できない問題に対応することが可能である.本研究では,これまで単一目的のモデルとして定式化されてきたiGAに対して多目的モデルを提案し,多目的モデルに拡張する際の問題点の整理,検討,システム構築を行うことを目的とする.これにより,よりユーザーの嗜好に沿った解選択が可能となる.本研究のサブ目的として,設定された目的を構成する複数目的の抽出および相反する目的関数の評価方法の検討などがあげられる.

研究目的:

 GAは定式化の際の柔軟性が非常に高く,多くのタイプへの問題の適応が可能である.さらに,近年の計算機能力の爆発的な向上を背景に多くの問題に適用され数多くの成果をあげている.GAでは複数の探索点を生成し,それらの適合度値,および設計変数の情報を基に,交叉,突然変異,選択といった遺伝的操作を行うことで,次の探索点群を生成する.これらの操作を繰り返すことで最終的に良い解を得ることが可能となる.iGAはこれらの適合度値の計算を行う際に,人間(ユーザー)が点数付けを行うことにより,システムやシミュレーションが行うことのできない,完成や嗜好情報を取り扱うことを可能とするシステムである.iGAは多くの分野で利用されており,多くの成果が上がっている.
 本研究では,Web上でのネットショッピングシステムなどでユーザーがショッピングを行う際に,ユーザーの嗜好情報を基に膨大な商品候補の中から購入する候補を絞り込むようなシステムの構築を念頭に置いている.例えば,ユーザーがTシャツを購入することを想定した場合,非常に多くの色や形,柄などを組み合わせ,ユーザーの好みのTシャツを提示することは,非常に有効である.また,このようなシステムはTシャツだけでなく多くのショッピングサイトで利用でき他の分野にも応用可能である.このようなシステムを構築する際には,iGAは非常に強力なアルゴリズムの一つであると考えられる.研究代表者のグループでは,iGAのシステムを構築し,ウェブ上でのショッピングサイトへの応用を検討している.

 さて,従来のiGAでは単一目的を取り扱っている場合がほとんどである.上記のTシャツの例で言えば,「ユーザーの好みにあうTシャツ」であるとか「夏らしいTシャツのデザイン」などといった目的がそれである.このモデルでは基本的には,一つの解をユーザーが決定することを想定している.この場合,システムが提示する解候補は,探索前半では多様性のある解が提示され,探索後半では次第に解が収束し,ユーザーが解を決定することとなる.しかしながら,研究代表者の行った予備実験では,商品選択などを行う際には,ユーザーは常に多くの多様な解候補の中から解を選択することを希望していることが明らかとなった.しかしながら,一方で,ランダムな解候補をユーザーに提示することで解候補の多様性の維持を図るだけでは不十分であった.さらに,得られているベスト解の近傍のいわゆる準最適解もしくは,局所解を提示しても,ユーザーは解候補に多様性を十分に認識しなかった.また,探索過程においては,ある解の近傍をベストな解として選択していたユーザーがあるステップで突然,別の解をベストとして選択することも多々見られた.これらのことから,従来のiGAで用いられている単一目的のモデルでは不十分であると考えられる.そこで,本研究では,これらの問題に対応するために,多目的モデルによるiGAを検討する.

従来のiGAでは,問題の決定変数xを定式化し,人間(ユーザー)の中に求めたい解の適合度関数がΦが一つ存在するものと仮定し,Φ(x)が決定変数xから構成されるのが単一目的モデルである.一方で,人間(ユーザー)の中に適合度関数がΦが一つ存在するところは同様であるが,Φ(f1, f2)といったように複数の目的関数から適合度関数Φが構成され,それぞれの目的関数f1(x), およびf2(x)がそれぞれ決定変数xで構成されるのが多目的モデルである.単一目的では,適合度関数Φの値が類似した解を表示することが,多様性のある解の提示になるのに対して,多目的モデルでは,複数の目的が相反する場合,そのパレート解集合を提示することで,ユーザーに多様性のある解集合の提示が可能である.さらに,複数の目的から構成されているため,着目していたベストな解とはかけ離れた解候補へユーザーの嗜好が変化することも,このモデルであれば説明がつけやすい.すなわち,単一目的モデルよりも多目的モデルのほうが,商品選択などで見られる行動にあったモデルであるといえる.
本研究では,iGAにおけるこの多目的モデルの検討を行い,システムの構築を行う.

研究成果:

2010年度

対話型遺伝的アルゴリズム(interactive Genetic Algorithm:iGA)は,人の感性情報を用いて最適化を行う手法の一つである.iGA では,人間が遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)における評価の部分を人間が行うことで,ユーザの嗜好や勘といったこれまで数値化できなかった対象に対しても最適解を求めることが可能である.
本年度は,iGAの多目的モデルへの適用において,iGAを利用してトレードオフ関係にある複数の判断要素を自動的に抽出するアルゴリズムについて検討を行った.これを行うことにより,単一目的の最適化問題として対象となる問題を設定し,その単一目的が複数のトレードオフ関係を有するサブ目的から構成される場合においてもiGAを対応させることが可能となる.
提案アルゴリズムでは,一対比較を行い,それらの結果をAHPで分析し,矛盾点を探る.この矛盾点を解消する判断要素を見つけることで,その解候補が各判断要素に沿っている度合いを抽出した.また,それらの判断基準を基に最適化を行う場合,評価部において世代間の評価値の問題が存在する.その問題を解決するため,世代間の評価値スケールを調整する改良アルゴリズムも提案を行っている.

 以上の提案アルゴリズムの有効性を検討するため,前者では評価エージェントを用いてシミュレーション実験を行い,後者は被験者実験により提案手法の有効性の検討を行った.これらの実験の結果から,複数の判断要素が抽出できる可能性とその結果を基に最適化が可能であることが明らかとなった.

2009年度

2009年度は,インタラクティブ遺伝的アルゴリズム(対話型遺伝的アルゴリズム)の多目的モデルへの適用において下記の2点の検討および開発を行った.
1)多目的遺伝的アルゴリズムのインタフェースおよび適合度の検討:昨年度に引き続きインタラクティブ遺伝的アルゴリズムを多目的最適化問題に適用するためのインタフェースの検討を行った.本研究では,優越関係を陽に取り扱う方法を検討しているが,世代毎に評価が異なるという問題が発生し,その問題に対応する必要がある.成果は22年度に開催される国際会議へ投稿を行った.および論文などで発表する予定である.
2)インタラクティブ遺伝的アルゴリズムのための解探索空間の生成方法の検討:これまでインタラクティブ遺伝的アルゴリズムにおいては,設計変数空間を定義しそこに解候補を生成,ユーザの評価を行ってきた.一方,ウェブ上の商品の推薦システムなどにおいてインタラクティブ遺伝的アルゴリズムを利用する場合,解候補がすでに存在し,それに対応する解探索空間を生成する必要がある.その自動生成アルゴリズムの開発と検討を行った.商品の関連性から自動的に解探索空間を生成する方法を提案した.

2008年度

2008年度は,インタラクティブ遺伝的アルゴリズム(対話型遺伝的アルゴリズム)の多目的モデルへの適用において下記の4点の検討および開発を行った.
1)多目的遺伝的アルゴリズムのインタフェースおよび適合度の検討: これまで複数の目的関数を陽に取り扱った対話型遺伝的アルゴリズムの研究はほとんど行われていない.まず,解候補の表示方法について検討し,得られているパレート解集合を陽に取り扱う手法を検討した.また,探索のステップ間で適合度値の絶対的評価が異なるため,スケーリングを行うことにより絶対的評価を近づける方法を提案した.これらの結果は21年度の国際会議および論文などで発表する予定である.
2)対話型遺伝的アルゴリズムにおける多峰性関数に適した交叉手法の開発:人間の嗜好のランドスケープは単峰性ではなく,多峰性であると考えられる.これに適した交叉手法を開発した.
3)対話型遺伝的アルゴリズムにおける汎用的な問題に対する設計変数の自動生成手法の開発:対話型遺伝的アルゴリズムのシステム構築において,大きな問題となるのが,対象問題の設計変数空間を一から構築する必要があることである.これは実用化においては障害となる.ウェブ上の情報から対象問題の設計変数空間を自動的に抽出する手法を提案した.
4)対話型遺伝的アルゴリズムを利用したシステム構築:浴衣のデザインやサインオンの生成に対話型遺伝的アルゴリズムを利用するシステムを構築した.

 

プロジェクト関連論文

査読有りの学術論文および国際会議:

講演:

本:

キーワード

謝辞

本プロジェクトは平 成 20年 度 ~ 平 成22年 度の間,科学研究費補助金(課題番号 20500146)の補助を受けている.