Answer to the Earth Simulator

だんだんと春に向かって

Knoxvilleの夏は暑い暑いと皆が言っていたのですが,それほど大して暑いわけではなかったので,Knoxvilleの冬は本当に寒いんだよと言われてもそう?ってなもんだったのです.実際にSCの頃は,結構暖かくてきっと京都よりは暖かいのだろうなあと思っていました.しかし,それは完全に油断というものでした.1月は本当に寒くて,なんたって氷点下15度だったこともありますし,最高気温が零下だったことも何日もありました.今年の京都は寒かったそうですが,その比ではありません.2月に入っても,年に1度降るか降らないかのKnoxvilleで2度も雪が降りました.それでも,だんだんと暖かくなって,また寒くなって,それを繰り返しながら春に向かっていっているようです.

Answer to the Earth Simulator

昨年,登場したEarth Simulatorは衝撃的でした.なによりもそれまでのトップ10を合計してもまだ勝てないわけですから.Jack Dongarraはそれを"Computonic"と称しました.そして,Jack Dongarraが夏のミーティングで 「われわれはEarth Simulatorになんらかの答えを出さなければならない.」 と言っていたわけです.それから半年ぐらいがたち,各社が色々な回答を出してきように思われます.

一番の状況の変化としては,それまで,ベクトル機なんて 「へっ」って言っていましたが,ベクトル機じゃないと勝てないんではないか?と思いがぐらついていたりすることでしょう.ベクトル機とまではいかなくても,やはり専用CPUとかがいるのではないか?と思いが揺れています.しかしながら,各社は専用CPUを開発して,純粋にEarth Simulatorだけをターゲットにすることができません.

なぜならば,儲けないといけないからです.

なので,各社,開発にあたり,基本的には以下の命題があると思います.

これらの命題を解決しつつ,Earth Simulatorに対する回答を用意しなければなりません.

幸い,私がお世話になっているInnovative Computing Laboratory(ICL)に居ますと,いろいろな会社がそれぞれの回答を持ってJack Dongrraに説明にやってきます.ここではそのときに感じた私の印象を記していきます.あくまでも個人的な印象です.例えばHPの担当の方とは話す機会を持っていません.また,私が現在アメリカにいること,所属が同志社大学であるからなどの理由により日本からのEarth Simulatorに対する回答は残念ながら届きにくいものになっています.正確な情報が必要な方は各社からの情報をお探しください.また,事実と違う部分があれば是非ご連絡ください.訂正します.

IBM

IBMの強みは,なんといっても総合的なパワーが圧倒的だということでしょう.昔,同志社大学で開催したクラスタ講習会の座談会で,私はIBMのことをスターウォーズの帝国だと称しましたが,あながち間違っていないでしょう.すべての要所 要所で特色がある商品があるのが売りだと思います.

ノートパソコンからスーパーコンピュータまで,そのラインナップは特徴的です.そして戦略的でもあります.IBMは現在,で,HPC新しいアーキテクチャを作ろうとしていていますが,それがBlue Gene/Lです.Blue Gene/L はもともとは1999年に発表されたBlue Geneプロジェクを基にするもので, 2005年にローレンス・リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)に納品予定のマシンです. Blue Gene自体はタンパク質専用マシンの趣がありましたが,Blue Gene/Lは完全に汎用マシンで,将来的には,なーんと約200テラ・フロップスを目指すとされています.

このマシンにはいくつか面白いところがあります. まず,計算ノードにCPUがあるのは当たり前ですが,IO用にもCPUがあります. IOのアクセス処理をすばやくやろうということだけでなくて,このIOノードと計算ノードでは別々のOSが動くというのです. すなわちIOノードではLinuxが動いて,計算ノードではIBMの独自のOSが動くのです. この仕組みによって,外からはBlue Gene/LはLinuxのように見えます.

これは面白いし,重要でしょう.Linuxは決して計算専用のOSには適していないはずです.しかもユーザーも管理部分にLinuxが慣れているから使うだけなのですから,この部分だけにLinuxを使用するというこの割り切りかたはすごいのかもしれません.HPCマシンはバージョンアップは自分たちでしないだろうし. 上記の2番目の問題の解決になっているわけです.

次に,恐ろしく消費電力が少ない.非常に小さな,筺体にたくさんのCPUがつめる構成になっています.ここが,自社でCPUをつくる会社の強いところだと思うのです.体力が違う.

それから,IBMらしくないのですが,なーんと安いのだそうです.ほんとでしょうかねえ.

このような構成のために,ノードのスケーラビリティは非常に高くなっています. 8ノードから65kノードまで同じアーキテクチャでいくのです.これが上記の1番目の答えです.

IBMらしい非常にユニークなマシンだと思えます.しかも安かったら...

一方,IBMにおけるIntelマシンはどうでしょう.IBMはお客さんが欲しいといえば,ブレードもPCも,技術もあるので,簡単に売ることができるのですが,特殊なものまでを用意して積極的にやっていこうということではないと思います.

サーバーとアーキテクチャを同じにして,HPCでも儲けるなどというやわなことはこの会社はしません.HPCにはHPCマシンで勝負です.

CRAY

Earth Simulatorの登場で俄然,勢いを盛り返しているのがCrayでしょう.説明してもらった,開発者の鼻息も非常に荒かったです.

「これからはうちの時代だぜい」と言っているようでした.

最近の特筆すべきニュースの一つは,Crayの主力機とは別に,Crayは最近,米エネルギー省のSandia国立研究所と「Red Storm」というスーパーコンピュータの開発で9,000万ドルの複数年契約を結んだことでしょう. ここで使用されるのは,ベクトルではなくて,AMDの「Opteron」を採用しています. 2004年度の導入で,40TFLOPSを目指し,60TFLOPSへのアップグレードもオプションとして含まれているらしいです.

後述するX1というベクトル機がCrayの主力だと思うのですが,お客さんが欲しいと言えば,コモディティを用意するという上記の2番目の問題がここで出てきてしまうのです.将来的には,Red Stormのネットワーク技術がX1に導入されるのだと開発者は言っていましたが,これは苦しい言い訳でしょう.

Crayの売りたいものは,やはりベクトル機でしょう.ここがつらいところ.売りたいものとお客さんが望むものがずれる場合があるわけです.

さて,X1はCrayが,まんを持して用意したベクトル計算機です.2010年までにPETAFLOPSを実現できるのはCrayだと豪語していました.でもその豪語もEarth Simulatorがあったからでしょう.すべての面で新しく,これまでのCrayの資産を受け継ぐマシンで,システム全体はccNUMAであり,X1の第1バージョンは52.4 TFだそうです.

NECのマシンと何が違うの?という問いに,もちろんお客さんがNECが欲しいと言えば売るけれども,と答えていましたが,X1にはノードのスケーラビリティがあるのだと言っていました.

Crayの問題点は,上記の1番目の問題です.少ないノードでも大きなノードでもX1は素晴らしい. そう言いたいのでしょう.しかしながら,価格はどうなのでしょうか.そして,コモディティハードウエアの路線と統合して,Crayの資源を集中することが将来できるのでしょうか.

SGI

残念ながら,最近聞いた話のなかで,アメリカ勢で最も力弱かったのが,SGIです.  ccNumaが特徴なのでしょうが,その特徴をどうやってだせばよいのかSGI自身も悩んでいるように映ります.売りたいものは別にあるのだけれど,お客さんがほしいといっているのはIntel何だよー という嘆きが聞こえてきそうです.Origin がMIPS路線でAltixがItanimu路線です.グラフィックスが強いSGIですが,今後のグリッドのサポートなどを含めて,この戦いは厳しそうです.

Dell

不気味なのは,Dellかもしれません.できなくてもできると言っちゃいそうな勢いがあると思います. 少なくとも,日本ではそうだと思います.しかも,コモディティだけに注力して勝負しようとしている姿は美しさ,さえあります.ある程度,どうせ計算機のお守りには技術が必要だと管理者に技術があって割り切ることが可能なサイトでは,Dellは適しているのかもしれません.Earth Simulatorに勝負できるとは思わないけれども,特徴はあるし,十分戦いになるのではないかと思われます.

日本勢

さて,一方日本といえば...

残念ながら,私のところには,日本からのEarth Simulatorの回答は届いてこないように思えます. これはどうしたことでしょうか.日本はできることが示せました.これからもっともっとやるべきでしょう.もったいない気がします.

Earth Simulator開発元のNECですが,素晴らしいマシンを構築する技術力を世界に見せ付けました.歴史に残る,プロジェクトXに出てきてもおかしくない業績でしょう.もっともっと賞賛されてもよいでしょう.そして,今後のNECはどのような展開を見せるのでしょうか.一つ心配なのは,上記のノードのスケーラビリティの実現です.これはなかなか大変なのではないでしょうか? Earth Simulatorの半分の規模のシステムの受注があった場合にすぐに対応できるのでしょうか.日本代表として是非,がんばってもらいたいと,本当に応援しています.

Fujitsuの戦略は素人にもわかりやすいというか,富士通らしいというか,すべてを捨ててコモディティで行くぜい.しかも総力戦だぜい.ということなのでしょう.ただ,これは,Earth Simulatorへの回答ではなくて,それ以前の規定路線だと思われます.ある程度の規模のマシンはターゲットにできると思われますが,Top 500のTopはもう狙わないのでしょうか.それともまだまだターゲットの範疇なのでしょうか.Earth Simulator以後,戦略の転換は無いのでしょうか.

海外の会社がぞくぞくとEarth Simulatorへの回答を出しています.日本からも是非,日本からこそ,次の回答を出してもらいたいと思っています.