同志社大学工学部知識工学科/

Innovative Computing Laboratory,

University of Tennessee

廣安 知之

ICLのSC 2002

2002年のシーズン総括

University of Tennesse (UT) で暮らしていると自然にフットボール(アメリカンフットボール)に興味がわいてきます.なんたって,20万人しかいない街なのに,10万人収容のスタジアムがキャンパスにあるんですから.

11月30日をもってUTの2002年のフットボールシーズンは終了しました.

しっかし,今年のチームは非常にがっかりでした.(これまでのチームを知っているわけではないのですが.) シーズンが始まった当初はUTはランキング4位から始まりました.これは,もしかして私がいる年に再び全米チャンピョンになれるのでは...と期待させたものでした.

しかしながら,シーズン序盤の第3戦の対フロリダ戦のビッグゲームをあえなく落としてからは,GeorgeaにもAlabamaにも敗戦,ましてやランキング1位のMiamiには勝つことはおろかタッチダウンすら奪うことができませんでした.

最終的には25位圏内からも外れてしまい,30位くらいでしょうか.敗因の一つに怪我人が多発したからというのがあるらしいので,来年の活躍に期待したいところです.ですが,うまく選手が成長しているのか.怪しいところです.

図1:フットボールシーズンの終了

Super Computing

話が最初からそれてしまいましたが,本日のお話はSuper Computing 2002です.

Supercomputing 2002 (SC2002)はIEEE Computer SocietyとACM SIGARCが毎年この時期に開催するHPC関連の国際会議です.国際会議といっても,企業や大学,研究機関の展示があったり,多数の会議やミーティングあったり,企業のパーティーがあったりで,巨大なお祭りとなっています.

今回は15回目で11月18日から23日までメリーランド州ボルチモアのBaltimore Convention Centerで開催されました.

詳細は東大の小柳先生のレポートや産総研の首藤さんのwebページに詳しいので,ここでは,私のお世話になっているInnovative Computing Lab (ICL)がどのようにSC2002へ準備をすすめてきたのかと,同志社大学のブースのをお話することにします.

SC02002のイベントの一つに,Exhibits (展示)があります.企業や研究機関がそれぞれの製品の紹介や研究の発表を行うのです.企業の中にはSCにあわせて新商品を発表するところもあります.ICLも我々同志社も,ブースのサイズは違いますが,研究展示を行いました.

ICLのSCへの準備

夏の終わりに研究室の合宿があったことはお話したとおりですが,秋が深まるにつれて,だんだんと研究室はSCの準備を始めていきます.

NetSolveチームに限った話をすれば,毎年の前半は新しいバージョンアップの仕事を行い,後半はSCの準備を行います.主に,NetSolveの持つ特徴や新機能を紹介するデモの用意を行うのです.

ここがJack Dongarraの無理を行わないところです.前にも述べましたが,私だったら,貧乏性なのでしょうが,SCの準備も行うし,新しいバージョンの開発も行うでしょう.

さらにICLには,専属のデザイナーと文書などを管理する担当の人がいます.このデザイナーは研究室のweb,ポスター,デモのアプリなどのデザインの統括を行っています.そのため,すべてにわたって統一感が持てるようになっているわけです.我々の同志社大学の研究室のように,多くの部分をその都度,その都度,代わって行く学生に任せているのとでは大違いです.しかも,このポスター作製やパンフレット作成という業務はSCに向けて行われているわけではなく,SCの時が一番変更量が多いのでしょうが,1年を通じて行われているのです.作製されたポスターは常時,ミーティングルームに掲示されています.

日本の多くの大学や研究所では,SCのブースを出す直前になって,ポスターを大急ぎで作製し,パンフレットを印刷したりする作業を行われているのではないでしょうか.もしかして,そういうのは,同志社だけでしょうか...とにかく,このような作業は,SCの直前だけに行われるのではなく,1年を通じて,ポスターのメンテナンスとパンフレットの更新が行われているため,SCの直前だからといって大慌てなことになりません.

もう私などは,このシステムを目の当たりにすると,でるのはため息ばかりです.ICLの人たちは,SCに向けて忙しくなってストレスも感じるでしょうが,同志社大学がブースを出すにあたって行っているような行き当たりばったりな作戦により受けるストレスに比べれば本当に微々たるものです.もうちょっと私もどうにか考えなおさなければなりません.

NetSolveチームは秋学期が始まるのと同時に,通常のミーティング以外に,2週間に1度のSCのデモミーティングが開催されるようになりました.どのような,デモができるのか.どのようなデモが有効なのか.デモの準備の進捗はどのようなものなのかを検討するのです.

私も,開発中のアルゴリズムをNetSolveの機能を使って処理するシステムのデモを行う手伝いをすることになり,準備を始めたのですが,いくつかの障害にぶちあたり,かつ,国際会議などに参加しなければならず時間があまりさけず,デモができるのかひやひやしました.日本の学生の何人かに頑張ってもらって,なんとか締め切りぎりぎりまでになんとかなりました.

デモではNetSolveには新機能がいくつかあり,それを紹介するわけですが,visPerfというモニタを中心に据え,それをフル活用しながら説明することになりました.visPerfは韓国からこの6月までICLに在籍していた博士課程の学生のDongWoo Lee君が最初に開発したもので,彼の帰国後,正式にNetSolveのサブプロジェクトとなっています.NetSolveではクライアント,エージェント,サーバーと3種類のモジュールから構成されるわけですが,それらがどのように動いているのかわかるというJava Applicationです.

SC開催の1週間前から,各プロジェクトのデモのリハーサルが何度も行われます.さすがにこの時期になると,それぞれのプロジェクトの研究員は大慌てで形を整えていきます.それでも,リハーサルがあるところがすごいですね.ここでも行き当たりばったりのデモではありません.全体の通しのデモをチェックし,バックアップとしてDVDを焼くことになりました.

そして,それではバルチモアで会いましょうを合言葉に,それぞれ旅立っていくのでした.

Super Computing当日

さて,ICLからの参加者は15 名程度でしょうか.SCと平行して開催されるワークショップ,Grid 2002や,チュートリアルで講義する人,ブースに張り付いている人,他のブースで発表を行う人,いくつかのBOFで発表する人など,それぞれが忙しいのです.もちろんその中で一番忙しいのがJackでしょう.チュートリアル,ICLでのブースでの発表,それ以外のブースでの発表,Top 500を始めとするBOFなどなど,あちこちに顔を出さないといけないのです.

ブースの設営は主に,依頼した会社の人が行い,スタッフがこまごまとしたことを行っていきます.ここでも,学生が駆り出されることなく余裕があります.ただ,ICLのブースは展示会場の端にあり,あまり良いポジションではありませんでした.

図1:ICLブースの準備

展示は月曜日の夜のオープニングに始まり,木曜日の16時まで続きます.(火曜日,水曜日は10:00から18:00)まで.

昨年はテロの影響があって,特に日本からなのですが,企業が参加を辞退したりしていたのですが,今年は非常に多くの方が来られたようです.主催者の発表によると7200人の参加者があったようです.

今年のテーマは、"FROM TERABYTES TO INSIGHTS"でした.多くのブースでストレージやネットワークの話をしていました.これは,今年のテーマに沿ったものであったこと,実際にどれだけのバンド幅を出すかを勝負するBandwidth Challengeがあったこともあるのでしょうが,10G規模のネットワークの敷設のコストが非常に下がり,あちこちで大きな帯域を持つネットワークの導入が始まっており,それに伴い,大規模な分散ストレージの研究が実際に使用可能になってきたことが背景にあるのではないかと私は考えています.コストの話は,日本も同様だと思いますが,これまでの歴史や政治的な背景があり,なかなかすぐには導入できないのではないでしょうか.PCクラスタもそうですが,コストが下がってきたことにより,ハードウエアの代謝は非常にサイクルが短くなってきています.ゆっくりと吟味して決定し,長い間使用するというこれまでの日本のやり方がではたちうちできなくなっているようにも思えます.ここでも構造改革が必要でしょうか.

このほかにもTechinical Paperや基調講演,各種BOF,表彰がありました.これらについては,小柳先生のレポートに詳細がありますので,そちらに委ねることにします.

図2:TOP500のBOF

ICLのブースは30feet×30feetのサイズですが,そこは4つのパートに分かれています.一つは,プロジェクタとスクリーンを備えた発表するスペース.ここで,各プロジェクトの代表が入れ代わり立ち代わり紹介を行います.Jack DongarraもICLのプロジェクトの全体像の紹介やTOP500の紹介などを行っていました.私も木曜日の午前中に発表をしました.

図3:ブースで発表を行うJack Dongarra

一つは,UTにある別研究グループのLOCIのスペース,3番目のスペースが,ミーティングを行うスペースです.SCはHPC関連の最大の会議であり,お祭りです.普段は忙しくて会えない人も,このSCには参加されているのではないでしょうか.私も,日本で会えない,多くの先生方にお会いし,直接お話することで,たまっていたいくつかの問題を解決することができました.このように,SCは人と出会う場でもあるわけです.ICLでは,他期間との共同プロジェクトも多数ですので,ミーティングを行うにはもってこいの場なわけです.プロジェクトの紹介スペースの裏側で,違うプロジェクトのミーティングが行われていました.

そして4番目のスペースがソファなどが置いてあってくつろげるスペースです.

SCでは火曜日の夜に企業のパーティー,木曜日に夜に,Techinical Sessionのパーティがあるのですが,水曜日にはICLの関係者のパーティーがありました.ICL出身者は全米に散らばって,多くの人がHPC関連の企業で働いていたり,研究を行っていたりします.そのため,SCではOB会のようなものが開催されるわけです.今年は,会場のコンベンションセンターから少し外れたイタリア人街のイタリアレストランで開催されました.

図4:ICLのパーティーが開催されたレストラン

この夜は,ICLにやって来て本当に良かったなと感じた一夜でした.着席のイタリア料理のちょっとしたコースだったのですが,アットホームな雰囲気でまるでイタリアマフィアのパーティーのようでした.現在ICLに在籍している人,学生だった人,研究者だった人が集まっての歓談です.このパーティーが終わった後も多くの人が飲みに行ったり踊りにいったようです.私は残念ながら,安めのモーテルに泊まっていたので,車で帰らなければならず,涙を呑みました.来年は,会場に近いところに泊まって,飲み明かすぞ.

一方 同志社のブースでは

同志社大学は昨年に引き続き,展示を行いました.2年目です.

今年は緊縮財政で展示を行う覚悟だったのですが,手伝ってくれていた学生の何人かが,自費でもSCに参加してみたいということで,参加して手伝ってくれました.良い学生をもったものです.私立大学では,国立の大学や研究機関とは違い,スタッフも予算も十分ではなくて,その中でやりくりしなければならないため,他の人から見ればいい加減なことになっていることも多々あるのですが,そこはぐっと我慢してできることを精一杯やらねばなりません.日本からは唯一の私学からの参加だったと思います.関西からは阪大と仲良く並列で展示させていただきました.

図5:同志社のブース

会場に到着した早々,「やられた」と思いました.参加された人,みなさんそう思われたと思いますが,われわれのグループの展示会場は,ちょっと孤立した一角にあったのです.そのため,参加者が昨年よりも増えたのにもかかわらず人の流れはいまいちでした.

図6:我々がいたのはzone1というセクションなのだが...

SCで展示してみると,我々の研究のどこの部分に皆さんが興味を持ってくれるのか,世界の中で,日本の中で我々のグループの立つ位置がどこにあるのか,ニッチの中でどこに立てるのかということが明確にわかります.

PCクラスタなどもその一つです.今年は新たに64ノード,128CPUのクラスタを構築することができ,無事,TOP500のリストの195位にランクインすることができました.大型計算機センターに属さない,一介の私立大学の研究室が作製した計算機が200位に入ることができたのです.

これを基盤にますます我々らしいこと,我々だからできることを追及していきたいと感じました.そして,来年もまた展示することが,重要なのだと感じた次第です.

おわりに

SC2002という巨大なお祭りが終わりました.ICLの現役のメンバーも巣立っていったメンバーも来年の再会を約束して自分たちのところに戻っていきました.

僕も,ノックスビルに帰ります.今年は,過密スケジュールにしてしまい,多くの会議に参加したのは良かったのですが,忙しすぎました.ようやく一段落です.

来年の今頃は同志社へ戻っていることでしょう.SC2003でまた同志社大学のブースを出せるかは現時点では定かではありませんが,是非,チャレンジしたいと思っています.