3月といえば,日本は卒業式のシーズンです.今年は,私はこちらに来ていましたので,本当に日本の私の学生には迷惑をかけました.皆,なんとか卒業できて良かったです.特に,私が初めて実質的に指導した学生が博士号を取得し,感無量でした.
ノックスビルには良いところがいくつもありますが,その一つに,四季がはっきりしていることが挙げられます.夏は暑くて毎晩雷雨で,秋は紅葉が恐ろしく美しく,冬はきちんと寒い.といった具合です.
そして,3月の半ばごろから春がやってきました.
そろそろこちらへ来てから1年が経つわけですが,春の訪れはなかなか感動的でした.特にこの季節はいろいろな花が咲き乱れました.日本人には馴染みのない花も咲いているのですが,やはり桜が咲いているのを見るとうれしくなりました.学内に桜並木があることも発見しました.宴会はしてないですけど.八重桜も咲いていました.
本当に春はよい季節です.
ご存知のとおり,3月の始めに東京・新宿でGlobal Grid Forum (GGF)が開催されました.第7回目にして初めてのアジアでの開催です.準備された方々は本当に大変だったと思います.心から敬意を表します.そして,成功裏に終了し,記念すべきアジアでのGGFだったのではないかと思います.
私は,Access Gridを利用して,いくつかのセッションを見学させていただきました.同志社で行っていたテレビ会議の設備がしょぼかったからかもしれませんが,初めてAccess Gridを利用しましたが,これは便利で必須だなあと感じました.現地にいかなくても雰囲気のいくらかを知ることができました.知っている方々の顔が見えるとそれだけでジーンときました.また,同じくAccess Gridで参加されている方の様子も見ることができそれもなかなかでした.
しかし,残念ながら,予定していたスケジュール通りには参加できませんでした.まず,初日のチュートリアルの日にはまったくつながらずあきらめました.TV会議の困るところは,トラブルがあると,そのトラブルの原因がどこにあるのかまったくわからないところですね.ブロードキャストを行っているのか行っていないのかがわかりませんし,こちらに問題があるのかもわかりません.産総研のSさんにメイルを打って,ブロードキャストしてますか?と尋ねたり,なかなかどたばたしたのですが,この日はあきらめました.次の日は,テネシー大学のマルチキャストがこけていました.それには気づかず四苦八苦していたのですが,ようやく事情がわかり,なんとか映像を拝むことができました.3日目は問題なくAccess Gridを利用することができたのですが,今度は,研究室内のメイリングリストに,夜中になんだか騒がしいやつがいるという苦情のメイルが流れてしまいました.ボリュームの調整方法がよくわからなかったので,大音量で聞いていたためです.そして,最終日.今度は,こちらの管理者が,我々の利用について忘れていて,システムのセッティングができていませんでした.うーむ,なかなか使いこなすにはいくつかの壁があるようです.どこかで書いたのですが,グリッドは「送電網」から語源をとっています.グリッドを同じように使うには,高品質なサービスを安定して供給することが必要となります.Access Gridも今後そうなっていくことを願います.また GGFの他のワーキンググループの様子ももう少し見たかったですね.
そして,GGFが開催されたのを気に一般にも”グリッド”という言葉が急速に拡まった感があります.一般誌にもグリッドという言葉が出てきているという噂を聞きます(未確認).そうなると,商売をされている方は真剣にグリッドでどう儲けるかを考えなければならないのでしょうか.
僕が最初にグリッドの話を聞いたとき,何がなんだか良くわかりませんでしたが,なんだか非常におもしろそうなものだと感じました.それは,Internetに始めて接したころ同様の感じでした.Linux,特にDebian GNU/Linux を知らされたときも,何故だかわからないものでしたが,これだよこれと思ったものです.そして,グリッドも,何ができるのか未だにはっきりしませんが,まだまだ自分をわくわくさせる何かを持っています.
InternetやLinuxは結局大いに普及し,Internetに至ってはIT革命とも言えるものを引き起こしました.そうなのですが,これらの例で忘れてはならないことがあるように思います.それは,結局,InternetやLinux自体では儲けられなかったのではないかということです.wwwが起爆となってInternetが普及し,なんとかInternetがらみで儲けられないかと四苦八苦された方が多かったと思います.Linuxにおいても,そのオープンソースという開発形態が賞賛され,新しいビジネスモデルとして取り上げられました.多くの,Linuxのディストリビューションが名乗りをあげました.しかしながら,それらの多くのものは消え去りました.Linuxのディストリビューションだけで儲けてやろうと考えている人も今はいないのではないでしょうか.
グリッドのコンセプトは,「Electric Power Grid」,つまり「電力送電網」からきています.米国シカゴ大学情報科学教授のイアン・フォスター氏が『The Grid』の中で述べているように,電気が一体どこでどうやって発電されて,どこを通ってやって来るのか,また,どこの電力会社がどのような技術を有していて,それらの技術に対し電気料金の何割が支払われているのか,といったことは,電気を利用する側のユーザーには関係のない話で,われわれユーザーは,ただ電気を使うだけである.それと同様にネットワーク上のIT資源を活用できるようにするのがグリッドなのでしょう.グリッドが送電網であるのならば,グリッドはサービスの名前ではなくて,インフラの名前であることになります.Internetも結局はインフラでした.ユーザーにとって,面白いことはその上にのるサービスであり,インフラそのものにあるわけではありません.ですから,インフラが人をひきつけているわけではなく,その上のサービスが人を魅了しているわけなのです.Internetを利用して成長した新興企業もありますが,Internetで変革することができた多くの企業は,売りものになるサービスをすでに有していた従来の企業だったのではないでしょうか.また,Linuxも多くのディストリビューションが収益を上げられなかったのは,それがインフラ的な性質なもので,それに関連したもしくはその上にのるサービスをうまく提供できなかったからではないでしょうか.ですから,「グリッドっておもしろいの?」という問いには,面白いかもしれないし,面白くないかもしれませんというのが答えでしょう.そして,サービスが面白ければ,それがグリッドの技術を利用しているかどうかはあまり問題がないのかもしれません.
なので,既存のサービスの中でグリッドが使え,かつ,それにより効率化であるとか生産性であるとかが向上するケースを探すのが,ビジネスチャンスをつかむためには,手っ取り早い方法であると言えるかもしれません.グリッドはネットワーク上の様々な資源が利用できるだけでなく,それらの資源が有する違いをうまく乗り越えて利用できることが一つの特徴として挙げられます.それは,我々ユーザーが電力の生成方法が水力だろうが火力であろうが気にせず使えるのと同様です.いろんなものが同時に使えれば便利なんだけど,それぞれ使い勝手が違うからメンドクサイんだよね.ってなサービスがあれば,一攫千金のチャンスかもしれません.その違いというのは,ハードウエアかもしれないし,ソフトウエアかもしれないし,もしかしたら文化的な違いも含むかもしれません.