今年の夏はなんだか雨が多く,そして蒸し暑いような気がします.日本の蒸し暑さとは比較になりませんが.この雨のお陰で,あちらこちらの草はのびのびです.
このネタは7月ではなく6月に得たものなのですが,この場を借りてどうしても書いておきたかったので取り上げました.
昨年の11月のSCでどなたかとお話していたときに「インフィニバンドってどうなんですかね?」という問いがありました.それに対して,私は,「もうだめでしょう.」と答えておりました.
本当に申し訳ありません.私が間違っておりました.
どなたとお話したことなのか,記憶がさだかで申し訳ありませんが,もう本当に大間違い.でもIntelがInfinibandのチップを製造しないことにしたというニュースやMicrosofutが気乗り薄というニュースがあったり,SCの各ブースでもInfinibandのプロダクトはそんなにあったわけではない状態だったので許していただけないでしょうか.
6月の23日から26日までSan Joseにて第1回Cluster World Conference and Expo というCluster関連の丁度Super Computingを小さくしたようなConferenceが開催されました.第1回めということ,GGFと日程が重なったこともあって,特に日本からの出席者は多くない会議でしたが,私にとってはいくつかの見所がありました.
その一つが,展示会場のあちこちで発表されていたInfinibandの製品群でした.SCではあまり見ることのなかったプロダクトがそれはニョコニョコと竹の子のように展示されていのです.
Infinibandとはデータを10Gbpsで伝送できる技術で,当初はPCIデータ経路を代替できる技術として注目されていたように思いますが,最近はサーバやストレージシステムを接続する技術として採用されているようです.追い風になっているのは,PCI-Xがそろそろ出てくること,データのストレージの重要性がますますたかまっていることなどでしょうか.
そして,何よりも最大の特徴は,「コストパフォーマンス」です.Cluster Worldへ出品していた各企業とも,1ノードあたりのコストはMyrinetと変わらないといっていました.
それなら10Gにしようとかというのが人情というものです.
私は,Infinibandに対してぼやぼやしていましたが,日本の企業はしたたかで,多くの製品の代理店が決まっていました.驚きました.ちなみにCluster Worldで出品していたのは下記のような企業の製品です.
- TopSpin
- Voltaire
Cluster Worldで行われたネットワーク関連のパネルディスカッションでもInfiniband陣営はMyrinetを押せ押せの状態で話を展開していました.俄然,クラスタのネットワークの一候補としてInfinibandがあがってきた感があります.
話は変わってUniversity of Tennessee (UT)の学内のネットワークの話です.
その前に,私のお世話になっている研究室,Innovative Computing Lab (ICL)では専属のネットワーク管理者がいます.一研究室にネットワーク管理者がいるのですから驚きです.しかしながら,ネットワーク管理者がいることで,研究者は研究に専念できます.クラスタの構築やらGlobusのインストールなどをしていると本当に日が暮れるどころか1週間が過ぎてしまいますから.
今回は,このICLの管理者から聞いた情報を基にしています.
一番驚いたことは,各学科,研究室ともにネットワークの利用に対して,大学にお金を払っているということです.お金のないところは多くのIPやソケットが利用できないということです.多くのネットワークが必要な研究室はそれだけお金を用意しなければなりません.用意できる資金がここでも差となってあらわれるわけです.
キャンパスネットワークの維持管理はOffice of Information Technology (OIT)のNetwork Service担当がやっているとのことです.いわゆるシステム情報課ですね.
私の所属している同志社大学では,現在,新入生に対するインターネット利用の基礎教育に力を入れています.すなわち,ある指定された講習を受けなければ学内のアカウントをもらえないという仕組みです.他のサイトへの不注意なアクセスやマナー違反,著作権の侵害などが問題になっているからです.
UTでも3年ほど前は行っていたそうですが,最近ではこのような講習は行っていないようです.莫大なコストがかかる割には,効果が得られないからのようです.
日本の各大学では同志社大学のように,初心者にITやインターネットのリテラシの教育を行うことがブームになっていると思われますが,そのブームももしかしたら数年すると再考されるのかもしれません.
UTにはスーパーコンピューティングセンターのような機関は存在しません.一方で,学内グリッドプロジェクトScalable Intracampus Research Grid (SInRG)が進行しています.これは,学内の7つの機関に大型のクラスタやその他のITサービスを設置し,学内のグリッドシステムを構築するプロジェクトです.学内のグリッドシステムでICLやその他の研究室が開発しているNetSolveやIBPを利用しています.
今後は,Internet 2やTeraGridと接続され,各大学のキャンパスグリッドと協調してさらに大きなグリッドコンソーシアムができるのかもしれません.本格的にGlobusを利用するようになるかもしれません.同志社でも早くキャンパスグリッドを構築しなければという気になりあせります.
おおきな大学だけに,いろいろなサービスを全学的に行うことはやはり難しいのだそうです.希望のサービスがあっても,やはりドメインごと,部分,部分ごとに行わざるを得ません.例外はwirelessのシステムです.なんと,現在,メインキャンパスのほぼ全域をカバーしています.
これは非常に便利なサービスで,研究室内のどの部屋でももちろんwirelessネットワークが利用できますし,食堂,図書館,スターバックスでも利用ができます.図書館内では,無線LANを有したノートPCを貸し出しています.
このページによると2001年から学内全体へのwirelessサービスを行うプロジェクトは開始されたようです.現在も,続けて更新がされており,802.11a and gの実験が現在,行われているようです.
しかし,組織において新しい技術に投資することを決定することは非常に難しいことです.特にITは技術の更新のサイクルが早いのでなおさらです.例えば,wirelessネットワークの導入をするということは,学内に新しいネットワークを導入することと等しかったことでしょう.そうすると,事務的にも仕事が増加するわけです.これまでの仕事をどこかでカットするか,予算を増加させなければなりません.また,セキュリティなどの問題も解決しなければならなかったでしょう.
多くの組織では,もう少し,様子をみてから導入の決定を行う必要があるということで,導入が先送りになることはしばしばあることでしょう.しかしながら,これらの導入は早急にできるだけ早い時期に検討・決定が必要なのです.その技術の利用がないために手遅れになったり,出遅れたりすることが発生したりするからです.少し前の例になりますが,IPの取得はその例でしょう.早くからIPの取得に動いていた大学はクラスBを取得していますが,出遅れているところではクラスCしか取得できませんでした.
今後は大学でも,新しい技術が導入されているかどうかが人気を左右することにもなるでしょう.表立った特長にならないとしても,その新しい技術が導入されているかどうかで,先進的な研究や授業が行えるかどうかという問題にもなるかもしれません.しかし,導入を躊躇していたら,出遅れることにもなります.一方,間違った予測と検討のもとにおかしなシステムを導入したならばさらに問題が悪化する場合もあります.難しい問題です.
そんなこんなで,ノックスビルの滞在もあと1ヶ月を残すのみとなりました.ついに帰国の飛行機のチケットを購入しました.日本の気候に対応できるのか.学生の面倒がみきれるのか.授業をきちんとできるのか.日本で研究活動を再開できるのか.大学の仕事は.学会の仕事は.そして,こちらではほとんど呑んでいなかったのに,日本の呑み会に対応できるのか,さまざまな不安がありますが,帰国後もよろしくお願いします.
そして次号が最終回になるのでしょうか.