社会的相互作用中の動的な脳間ネットワーク分析

廣安 知之

研究期間 2020年度 ~ 2022年度

KAKENHI-PROJECT-20K11963

背景:

本研究では、非侵襲な脳機能イメージング装置の一つであるfNIRSを利用したハイパースキャニングシステムを構築し、同時に取得した複数人の脳機能データの解析から、それぞれがどのような脳機能状態であるかをデータ駆動的に明らかにする手法の提案を行う。提案手法がヒトの社会的行動時の脳機能状態の把握に有効であることを示すために、社会的行動の特徴の一つである「利他的な行動」を行っている際の脳機能データを解析の対象とする。脳機能状態を解析するためには、脳機能情報から動的ネットワークを表現するマトリクスを生成する手法の確立、進化的計算と並列処理による効率かつ高速な手法の開発が必要である。脳機能状態を理解するためには特に重要な要素から構成されるスパースなマトリクスを構築する必要がある。この課題に対して多目的最適化問題として定式化し、遺伝的アルゴリズムで解決する。決定変数が5,000を超える大規模問題を想定し、問題解決を行える遺伝的アルゴリズムの交叉法や並列処理を検討する。

研究目的:

本研究の目的は、ヒトの社会的な活動時の脳機能を計測できるfNIRSを利用したハイパースキャニングシステム(HSシステム)を構築し、得られたデータから脳機能の状態の推定を行うヒト-ヒト間の動的なネットワークを抽出するアルゴリズムの構築することである。 本研究においては、fNIRSを利用したHSシステムを構築する。複数名の脳機能を同時に計測する必要があることから大規模システム(製造元情報により日本初の116chのfNIRSを利用)の構築を予定している。これまでのfNIRSのHSシステムは前頭葉を計測する数十チャンネルの利用が主であるが、本システムではヒトそれぞれに50チャンネル以上の利用が可能であり、前頭葉以外の計測も可能であることが特徴の一つである。

研究成果:

本研究では、非侵襲性の脳機能イメージング装置であるfNIRSを使用してハイパースキャニングシステムを構築し、同時に取得した複数人の脳機能データの解析から、各者の脳機能状態をデータ駆動的に明らかにする手法を提案した。これを用いて、「利他的な行動」時の脳機能状態の把握について検討し、有効性を示した。

非侵襲脳機能イメージング装置として日立メディコ社製116chのfNIRS ETG-7100を利用しハイパースキャニングシステム構築した。 多チャンネルfNIRS装置であるため、2名用のチャンネルを十分に備えていた。 提示ソフトウエアは、Neurobehavioral Systems社のPresentationである。

構築したシステムでは、参加者が仮想的な経済的交換を必要とする最後通牒ゲームを対面条件と顔面ブロック条件の2つの設定で実行した。このシステムを利用して、前頭葉と側頭葉の神経活動を記録した。このゲームは、16組が実施し、その結果を分析した。

Interpersonal brain synchronization (IBS) は社会的相互作用中に観察され、親近感や社会的活動の種類などに影響を受ける。先行研究では、見知らぬ人同士の対面的な相互作用がIBSを増加させることが示されていた。本研究では、知人同士でも同様の効果があるかを確認した。 また、ランダムペア解析により、IBSが社会的相互作用によって誘発されるかどうかが確認された。我々の結果では、協力行動やタスクによるIBSの増加は見られなかった。逆に、ランダムペア解析の結果、左右の上前頭、中前頭、眼窩上前頭、右上側頭、前中心、後中心回で、課題条件でのみペア特異的なIBSが有意であることが明らかになった。この結果から、顔見知りペアの対面的相互作用はIBSを増加させないことが明らかになり、IBSは 誰とどのように相互作用するかによって影響を受けることが示された。

上記とは別のデータセットを対象に、決定変数が5,000を超える大規模な問題を想定し、重要な特徴量を遺伝的アルゴリズムで決定した。この特徴量選択には、Elastic netを用いたスパースアルゴリズムを検討し、時系列マイクロアレイ遺伝子発現プロファイル問題を対象とした。

また他のデータセットにおいては、先行脳活動の機能的結合度を説明変数、行動データを目的変数とした回帰モデルを構築した。特徴選択にはブートストラップベースの手法を用い、再サンプリングしたサブセットから安定した特徴を特定した。モデルは線形回帰を使用し、最小二乗法(OLS)で係数を推定した。リーブワンアウトクロスバリデーションと特徴選択を組み合わせてモデルを学習し、予測性能を評価した。最適なハイパーパラメータ設定を選び、その設定を元に回帰モデルを解析した。各参加者に固有の特徴と共通する特徴を捉えるように構築されたモデルにより、クラスタリング解析を行い、各個体のモデル特徴の類似性を可視化した。

本研究により、fNIRSを利用した簡易なハイパースキャニングシステムの構築とその有効性の確認が可能となった。さらに、取得した脳機能イメージのデータの解析方法についても検討し、有効性を確認した。

プロジェクト関連論文

学術論文および国際会議:

  1. Fukushima, A., et al. (2021). Bayesian approach for predicting responses to therapy from high-dimensional time-course gene expression profiles. BMC Bioinformatics, 22(1), 1-20.
  2. Kikuchi, Y., et al. (2021). Interpersonal brain synchronization during face-to-face economic exchange between acquainted dyads. bioRxiv. Advance online publication.
  3. Goudo, M., et al. (2022). The usefulness of sparse k-means in metabolomics data: An example from breast cancer data. bioRxiv. Advance online publication.
  4. Watanabe, T., et al. (2023). Performance comparison of deep learning architectures for surgical instrument image removal in gastrointestinal endoscopic imaging. Artificial Life and Robotics, Advance online publication.
  5. Ogihara, T., et al. (2022). Predicting the degree of distracted driving based on fNIRS functional connectivity: a pilot study. Frontiers in Neuroergonomics, 3, 864938.
  6. Toda, A., et al. (2022). Visualization, Clustering, and Graph Generation of Optimization Search Trajectories for Evolutionary Computation Through Topological Data Analysis: Application of the Mapper. In 2022 IEEE Congress on Evolutionary Computation (CEC). IEEE.

キーワード

謝辞

本プロジェクトは2020度 ~ 2022度の間,科学研究費補助金(課題番号 20K11963)の補助を受けた.