張良の逸話

待ち人来たらず。

老人はどこか見所のある若者がいると自分の靴をほおりなげて若者を試していた。
靴自体には何の意味もない。
その行為が自分に対して何を示しているのかを探索しようとする気持ちがあるのかを試し、その若者に自分の未来に何か関係するものをこの人が持っているという直感力があるのかを試したのである。
老人は「5日後の朝にここに来い」といい、老人はここに来た。
若者はここには来なかった。
老人は何をしにここにきたのだろうか。若者に教えるためである。
若者はここには来なかった。
だから老人もここには来ないことにした。
そして、若者は教えられることがなかった。
だからどうしたというのだ。
若者は教えられるべきこともしらず、教えられたいとも思わない。
老人の気持ちには、若者が知るべきこと、知った後はどのようになるのかという想いだけが残った。

ある日、張良が橋の袂を通りかかると、汚い服を着た老人が自分の靴を橋の下に放り投げ、張良に向かって「小僧、取って来い」と言いつけた。張良は頭に来て殴りつけようかと思ったが、相手が老人なので我慢して靴を取って来た。すると老人は足を突き出して「履かせろ」と言う。張良は「この爺さんに最後まで付き合おう」と考え、跪いて老人に靴を履かせた。老人は笑って去って行ったが、その後で戻ってきて「お前に教えることがある。5日後の朝にここに来い」と言った。
5日後の朝、日が出てから張良が約束の場所に行くと、既に老人が来ていた。老人は「目上の人間と約束して遅れてくるとは何事だ」と言い「また5日後に来い」と言い残して去った。5日後、張良は日の出の前に家を出たが、既に老人は来ていた。老人は再び「5日後に来い」と言い残して去って行った。次の5日後、張良は夜中から約束の場所で待った。しばらくして老人がやって来た。老人は満足気に「おう、わしより先に来たのう。こうでなくてはならん。その謙虚さこそが大切なのだ」と言い、張良に太公望の兵法書を渡して「これを読めば王者の師となれる。13年後にお前は山の麓で黄色い石を見るだろう。それがわしである」と言い残して消え去ったという。
後年、張良はこの予言通り黄石に出会い、これを持ち帰って家宝とし、張良の死後には一緒に墓に入れられたという。

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