JALの経営破綻と再建に学ぶ:危機感と組織改革の本質

JALの方から破綻と再建のお話を聞きました。

それをもとにレポートしました。

はじめに

2010年、日本航空(JAL)は約2.3兆円の負債を抱えて経営破綻した。 「JALでも破綻するのか」という衝撃は、日本中に大きなインパクトを与えた。 国を代表するインフラ企業ですら破綻する現実を目の当たりにし、 多くの人が「危機感とは、危機が来て初めて芽生えるものだ」と痛感した。

本レポートでは、JALの破綻と再建の過程を振り返りつつ、 「なぜ破綻まで危機感を持てなかったのか」 「破綻寸前の組織に何ができるのか」 「再建後に再び緩んでしまうのはなぜか」 という問いを通して、組織改革の本質に迫る。

1. JAL破綻の背景と要因

● 慢性的な構造問題

  • 過剰設備と非効率運営
  • 多角化の失敗と路線の赤字化
  • 巨大な組織が持つ既得権益と惰性

● リーマンショックで一気に顕在化

  • 2008年以降の業績悪化に対応できず、2010年に会社更生法を申請

2. 破綻前の組織的な問題

以下のような状態が社内に蔓延していた:

問題点 説明
目的の共有がない 会社として「何のために存在するか」が曖昧
一体感がない 部門間がバラバラ、連携なし
ダメなのが他人事 課題があっても誰も責任を取らない文化
収益の感覚がない 自部門が赤字かどうか把握していない

3. 破綻後の再建プロセスと改革

● 稲盛和夫氏の就任と理念経営の導入

  • 京セラ創業者・稲盛氏が無報酬で会長に就任
  • 「JALフィロソフィ(哲学)」を全社員に共有
  • 理念と数字の両輪経営を徹底

● アメーバ経営の導入

  • 組織を細分化し、各ユニットで損益を管理
  • 一人ひとりが経営者意識を持つように

● 構造改革とIT刷新

  • 不採算路線・関連子会社の整理
  • 「サクラプロジェクト」により予約システムをクラウドへ刷新

● V字回復の実現

  • 破綻翌年には営業利益1884億円を達成
  • わずか2年8か月で再上場し、支援額の倍以上を国に返還

4. なぜ破綻前に改革はできなかったのか?

● 「JALは潰れない」という空気

  • 国策企業という特権意識
  • 政府支援への期待から本気の改革が進まなかった

● 正常性バイアスと責任の希薄さ

  • 問題は共有されていたが「自分ごと」にならなかった
  • 既得権と形式主義により、現場は動けなかった

● トップの覚悟と構造改革の欠如

  • 経営層が危機を軽視し、問題を先送りしていた

5. 破綻寸前の組織にできることは何か?

JALの教訓から、破綻前の段階でも取り得る対策を以下に整理する。

対策 内容
仮想破綻体験 「もし会社が死んだらどうするか」を気づくワークショップを実施
損益の可視化 組織を小型化し、自分たちの活動の現実を直覚
統同目的の再定義 「なぜこの組織が存在するのか」を語り直す
情報の流通と声の橋渡し 現場の声を経営に届けるルートを作る
聞こえないものを終わらせる勇気 保護されている会社文化や習慣を改革する気様

6. 再建はゴールではない~JALの“再緩み”問題

JALは破綻後、立て直しに成功したが、最近は再び「元に戻りつつある」「緩んできた」という指摘が上がっている。

● 再び緩む原因

  • 成功体験が新たな慢心を生む
  • 績成に依存し、問題を目覚めずに現状維持に慣れる
  • 理念が形式化し、行動に繋がらなくなっている

● 再緩みを防ぐために

実務 内容
理念を再体験させる 読み合わせより、それを現場で語り直す場を絶えず設ける
実質的な対話の保持 経営層と現場の集中フィードバックの場を絶えず保つ
毎年シミュレーション 「もう一度破綻したら」を願設して考えさせる
新たな目標を定義 「再復」の次に、この組織が目指す未来像を定義し相談を経続

7. おわりに

「JALでも破綻するんだ」という衝撃は、組織として、個人として、大きな学びをもたらした。 本当の危機感とは、「自分ごと」としての責任と気づきがないと生まれない。

しかしその危機を「実際に許さなくても」、「意図的に体験する」ことで救える組織もある。 JALは一度は破綻してしまったが、そこから学べることは、他の多くの組織を救う矩網となるだろう。

本当の変革とは、「変わり続ける力」を文化として根づかせることである。