「パテンティクス」の挑戦

脱炭素社会の実現に向けて、電力の効率的な利用が世界的な課題となっている今、日本の大学発ベンチャーが革新的な技術で注目を集めています。立命館大学発のスタートアップ「パテンティクス(Patentix)」が開発する次世代パワー半導体技術は、従来の常識を覆す可能性を秘めており、2025年10月には約7億円の大型資金調達を実現するなど、その将来性に期待が高まっています。

ある方にこの会社のことを教えていただいたいのですが、なんともすごそう。
gensparkにまとめてもらいました。

会社概要と創業背景

基本情報

  • 会社名:パテンティクス株式会社(Patentix Inc.)
  • 設立:2022年12月1日
  • 本社所在地:滋賀県草津市(立命館大学BKCインキュベータ内)
  • 代表取締役社長:衣斐豊祐
  • 取締役CTO:金子健太郎(立命館大学教授、RARAフェロー)
  • 事業内容:新規機能性材料の製造販売、各種研究成果の社会実装事業

パテンティクスは、立命館大学総合科学技術研究機構の金子健太郎教授が中心となって設立されたディープテックベンチャー企業です。金子教授は立命館の中核研究を担うRARAフェローを務める研究者で、新しい半導体材料の開発と知財戦略を組み合わせた事業展開を目指しています。

同社の創業背景には、世界的な脱炭素化の流れと、電力変換効率の向上に対する強いニーズがあります。現在広く使用されているシリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)を超える性能を持つ材料の実用化により、エネルギー効率の大幅な改善を目指しています。

革新的な技術「r-GeO₂」とは

パテンティクスの核となる技術は、「ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO₂)」という超ワイドバンドギャップ半導体材料です。この材料の革新性を理解するために、まず基本的な概念から説明します。

バンドギャップとは

バンドギャップとは、半導体材料において電子が移動するために必要なエネルギーの大きさを表す指標で、単位はeV(エレクトロンボルト)で表されます。バンドギャップが大きいほど、高温・高電圧での動作が可能になり、電力損失を抑えることができます。

材料 バンドギャップ 特徴
シリコン(Si) 1.12 eV 現在主流の材料
炭化ケイ素(SiC) 3.3 eV 次世代材料として実用化進行中
窒化ガリウム(GaN) 3.3 eV 高周波用途で実用化
r-GeO₂ 4.6 eV 超ワイドバンドギャップ材料

r-GeO₂の優位性

  • 超低損失:4.6eVという大きなバンドギャップにより、従来材料を大幅に上回る低損失を実現
  • p型・n型両対応:他の次世代材料では困難なp型とn型の両方を理論上実現可能
  • 高耐熱性:高温環境での安定動作が期待
  • 放射線耐性:理論上、放射線に対する耐性も見込まれ、人工衛星への応用も可能

技術開発の現状

r-GeO₂の優れた特性は理論的に証明されていますが、実用化には大きな技術的課題がありました。最大の課題は「基板全体に均一な単結晶膜を成膜すること」の困難さです。

パテンティクスは段階的なアプローチでこの課題に取り組んでいます。まず酸化チタン基板上への成膜で15ミリメートル角での成功を収め、次にSiC基板上での成膜にも成功しました。現在は、コストと性能の両面で優位性を発揮できるシリコン基板上への成膜に注力しており、すでに4インチSiウェハーでの成膜に成功しています。

最新の資金調達ニュース

シリーズAで総額約7億1,900万円の資金調達を実施

調達時期:2025年10月
参加企業:三菱電機、アイシン、デンソーなど大手企業

この大型資金調達は、パテンティクスの技術力と将来性が高く評価されたことを示しています。特に、自動車業界の大手企業であるアイシンやデンソーが参加していることは、同社の技術が自動車の電動化において重要な役割を果たすことが期待されていることを物語っています。

調達した資金は、r-GeO₂半導体の社会実装加速に向けて活用される予定です。具体的には、製造技術の向上、量産体制の構築、さらなる研究開発への投資などが計画されています。

これまでの資金調達・支援実績

  • 2023年8月:RSIF(立命館ソーシャルインパクトファンド)からの出資
  • 2023年9月:「U-START UP KANSAI オープンピッチ」でNEDO賞受賞
  • NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの優遇措置

事業展開と今後の計画

製造拠点の確保

パテンティクスは、岐阜県の日電精密工業の神戸工場のクリーンルームで製造を行う計画を発表しています。この工場では、Si基板へのr-GeO₂成膜および6インチウェハーでの成膜を実施する予定です。

製品化ロードマップ

  • 2025年秋:15ミリメートル角Si基板の有償サンプル出荷開始
  • 2027年:6インチウェハーでの有償サンプル出荷開始
  • 将来:12インチウェハーへの大口径化(Si業界標準への対応)

「琵琶湖半導体構想」

パテンティクスが推進する「琵琶湖半導体構想」は、r-GeO₂パワー半導体の早期社会実装を目指すコンソーシアムです。この構想では、加工・デバイス・パッケージなど様々な技術分野の企業と連携し、「餅は餅屋」のアプローチで短期間での実用化を目指しています。

市場への影響と期待

適用分野

r-GeO₂パワー半導体は、その優れた特性により幅広い分野での応用が期待されています:

  • 鉄道業界:電車の電力変換システムの効率化
  • 自動車業界:電気自動車(EV)のパワーユニット効率向上
  • 産業機器:工場の電力システムの省エネ化
  • 宇宙・航空:放射線耐性を活かした人工衛星への搭載
  • 再生可能エネルギー:太陽光発電システムの変換効率向上

市場のゲームチェンジャーとしての可能性

衣斐社長は、r-GeO₂がパワー半導体市場において「ゲームチェンジャーになり得る」と述べています。その理由は以下の通りです:

  • 従来のSiC半導体と比較してオン抵抗、高周波動作、耐熱性で優位性
  • 製造コストの観点でも競争力を持つ可能性
  • 既存の6インチ製造ラインの有効活用が可能
  • 脱炭素社会実現への大きな貢献

社会的インパクト

パテンティクスの技術が実用化されれば、社会全体の電力効率が大幅に改善されることが期待されます。電力変換ロスの削減は、発電量を増やすことなくエネルギー利用効率を向上させることができるため、脱炭素社会の実現に向けた重要な技術として位置づけられています。

まとめ

立命館大学発スタートアップのパテンティクスは、革新的なr-GeO₂技術により次世代パワー半導体市場に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。約7億円の大型資金調達の成功は、その技術力と将来性が市場から高く評価されていることの証左です。

2025年秋からのサンプル出荷開始、2027年の6インチウェハー対応と、着実な事業化ステップを踏んでおり、「琵琶湖半導体構想」による産業連携も進んでいます。同社の技術が実用化されれば、自動車の電動化、再生可能エネルギーの効率化、さらには宇宙産業まで、幅広い分野で革新をもたらすことが期待されます。

日本の大学発ベンチャーが世界をリードする技術で勝負を挑むパテンティクスの今後の展開に、大きな注目が集まっています。

レポート作成日:2025年10月16日
※情報は調査時点のものです