今年も、学内高校見学会が終わった。
同志社系列高校の生徒たちが大学を訪れ、研究室を見学するイベントである。私たちの研究室では、毎年恒例になりつつある 「NIRSで運転時の脳の活動を見てみよう!」 を実施した。
高校生にとっては、「大学の研究ってどんなことをしているのだろう?」を少しだけのぞく時間。こちらとしても、研究の魅力をどう伝えるか、毎年少しずつ工夫を重ねている。
ただ、今年改めて感じたのは、実はこのイベント、高校生だけのためのものではないのかもしれない、ということだった。
教えると、理解が少し深くなる
今回のデモでは、NIRS(近赤外分光法)を使い、運転中の脳活動を見てもらった。
高校生には、ドライビングシミュレータを操作してもらいながら、
「運転中って、脳は何をしていると思う?」
「危険を予測したり、集中したりしているんだよ」
そんな会話を交えつつ、リアルタイムに変化する脳活動を見てもらう。
説明を担当したのは、研究室の学生たちだ。大学院生やB4が中心となって、装置準備、進行、説明、誘導まで行ってくれた。
見ていて面白いのは、学生たちが説明しながら、少しずつ言葉を変えていくことである。
最初は、つい研究室で使う言葉が出る。
「前頭前野の賦活が……」
「酸化ヘモグロビンの変化を……」
しかし、高校生の表情を見ながら、自然と言い換え始める。
「考える脳が動いている感じかな」
「集中すると血流が増えるんだ」
研究室では当たり前だった言葉が、外に出た瞬間に「伝わらない言葉」になる。そのとき初めて、「自分は本当に理解していたのだろうか」と少し立ち止まる。
不思議なもので、人に説明しようとすると、自分の理解の輪郭がはっきりする。
研究というのは、論文を書くだけでは完成しないのかもしれない。
研究は、誰かの未来につながる
高校生たちは、思った以上に楽しそうだった。
「脳って本当に動いてるんですね」
「ゲームみたいで面白い」
「こういう研究、やってみたいです」
そんな声が聞こえてくる。
大学にいると、研究はどうしても内向きになる。実験をして、解析をして、うまくいかなければ考え直す。その繰り返しである。
もちろん、それは大切な営みだ。
でも、ときどき研究室の外から来た人の反応に触れると、「ああ、自分たちの研究は、ちゃんと社会につながっているのだな」と思い出させてもらう。
研究が、誰かの「未来の選択肢」になることがある。
高校生が「大学って面白そうだな」と感じる。そのきっかけの小さな一つに、自分たちの研究がなっているかもしれない。
そう考えると、研究室紹介というのは、ただの広報ではない。
未来への、ちょっとした橋渡しなのだろう。
学ぶのは、いつも少し逆方向
イベントが終わると、学生たちがぽつりと言う。
「意外と勉強になりました」
「説明するの難しかったです」
「自分でも理解が曖昧なところがありました」
高校生のために準備したはずなのに、終わってみると、教えた側のほうが学んでいる。
少し不思議で、でもよくある話だ。
教育というものは、一方向ではないのかもしれない。
教える人と学ぶ人がいて、その矢印は片方にだけ向いているように見える。でも、実際には、静かに反対方向にも流れている。
高校生が大学を知る時間でありながら、学生たちが「研究を伝えるとは何か」を学ぶ時間でもあった。
そんなふうに考えると、学内高校見学会は、毎年少しだけ、研究室を成長させてくれているのかもしれない。
そして来年もまた、きっと同じように準備をしながら、少しだけ違う学びが起きるのだろう。研究室という場所は、案外、実験室の外でも育っていく。
