【速報】進化計算シンポジウム2017

進化計算シンポジウム2017 が、2017年12月9日(土)-10日(日) の日程で、グリーンピア大沼 (北海道茅部郡森町)で開催されました。
研究室から、下記の3件の発表を行いました。
P2-02
動的な重みベクトル割当てを行うMOEA/D
○原田圭,日和悟,廣安知之 (同志社大学)
* IEEE YRA賞 いただきました。!*
P3-15
Evolutionary Feature Selection for Functional Brain Imaging
○廣安知之,郡悠希,石原知憲,日和悟 (同志社大学)
P4-13
多目的GAを用いた転写因子Nrf3が機能する細胞の抽出
○藤井光央,和久剛,小林聡,日和悟,廣安知之 (同志社大学)\

学会参加報告書

報告者氏名 原田圭
発表論文タイトル 動的な重みベクトル割当てを行うMOEA/D
発表論文英タイトル Adaptive weight vector assignment method for MOEA/D
著者 原田圭、日和悟、廣安知之
主催 進化計算学会
学会名 進化計算シンポジウム2017
会場 グリーンピア大沼
開催日程 2017/12/9-2017/12/10

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/12/9から2017/12/10にかけて、北海道茅部郡森町にて開催されました進化計算シンポジウム2017に参加致しました。進化計算シンポジウムは、進化計算学会によって主催された国内学会で、進化計算分野の活性化を図るために議論・ショートプレゼン・ポスターセッションを行い、今後の進化計算分野の大きな発展を目的に開催されています。また、この学会は合宿形式で行われ、夜中まで様々な方と議論する機会に恵まれています。75件のポスター発表があり、これは昨年と変わらず多く件数が発表されました。また、シンポジウム初日の午前中には、初の試みでもある企画コンペティション「進化計算コンペティション2017産業界で使える進化計算とは?」及び2件のチュートリアルが開催され、例年に増した盛り上がりを見せました。本研究室からは廣安先生、M2原田、M0藤井が参加しました。
発表日時は、原田が9日の15:20~17:00、廣安先生が10日の9:00~10:40、藤井が10日の10:50~12:30で2分間のフラッシュトーク及びポスターによる研究発表を行いました。脳機能や遺伝子ネットワークに関する実問題に進化計算を適用した研究発表を行った私たちのポスターには、多くの方に足を運んで頂き、様々な議論を交わすことができました。また、原田の発表がIEEE CIS Japan Chapter Young Researcher Awardを受賞し、実りの多い学会となりました。
進化計算学会ホームページhttp://www.jpnsec.org/symposium201703.html
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は、9日の15:20~17:00にかけてポスター発表致しました。発表形式は1人2分のフラッシュトークと1時間のポスター発表形式で行われました。
今回の学会発表では、脳機能に関する実問題をMOEA/Dで解法し、MOEA/Dの持つ問題点を明らかにしたうえで、計算資源を動的に変更させるMOEA/Dの提案を行いました。脳機能に関する実問題では、2つの脳状態の識別誤差率最小化と選択脳部位数最小化を目的関数とした多目的最適化問題として定義しました。この実問題に対して従来のMOEA/Dで解法すると、2つの目的関数の難易度の差が原因で、偏りのある探索が行われました。そこで、探索難易度の差を考慮した動的な重みベクトルの割当てを行うMOEA/Dを提案し、実問題に適用しました。その結果、探索が困難な目的関数空間に対して提案手法の有効性が示唆されました。1時間という発表の中で、大変多くの先生方や他大学の学生に貴重な意見を頂きました。以下に抄録を記載致します。

functional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)装置やfunctional Near Infrared Spectroscopy(fNIRS)装置をはじめとする非侵襲な脳機能イメージング装置を用いて、脳機能の解明を目指す研究が注目を集めている 。ヒトの脳は多くの部位に分割され、その機能はそれぞれの領域に分化している。これらが協調して働くことによって、ヒトは思考や行動を行うことができる。ここで、思考や行動時における脳機能の検討を行う場合、重要となる脳部位の絞り込みが必要となる。しかし、その絞り込みには脳機能に対する高度な知識を必要とするために研究の初心者には非常に困難である。そこで、計測した脳状態から重要な脳部位を特定する新たな手法が重要となる。我々の研究グループではある二つの思考時の脳状態を計測し、それら脳状態を識別するために重要となる脳部位を特定することで脳機能の解明を進めている。本稿では、重要な脳部位を特定するfNIRSのチャンネル選択問題を多目的最適化問題(Multiobjective Optimization Problem:MOP)として定式化し、最適化手法によって解法へと導く。多目的最適化問題においてパレート解集合を求めるためには、進化的計算手法が有効である。その中でもMultiobjective Evolutionary Algorithm Based on Decomposition(MOEA/D) は有力な手法の一つである。MOEA/Dはトレードオフ関係を把握するために、MOPをサブ問題に分割して探索する手法であり、得られるパレート解の分布が均一であることが特徴である。本稿においても、MOEA/DをfNIRSのチャンネル選択問題に適用する。fNIRSのチャンネル選択問題にMOEA/Dを適用したところ、均一にパレート解が得られないという問題が明らかになった。これは、複数存在する目的の探索に難易度の差があるために、探索が困難なサブ問題のパレート解が探索できないからである。本稿においては、この問題を解決するために、MOEA/Dの重みベクトルを動的に変更する手法の提案を行う。提案手法により、探索が困難なサブ問題に多くの計算資源を割当て、探索が容易なサブ問題に少ない計算資源を割当てることが可能となる。これにより、探索難易度が異なるサブ問題の探索速度を均等にし、探索が困難なサブ問題の解の取得が期待される。本稿では、多目的最適化とMOEA/Dの概要を述べた後、提案手法を説明する。その後、fNIRSのチャンネル選択問題について解説する。本稿では、ワーキングメモリ課題を行った際のfNIRSデータを利用して従来のMOEA/Dの問題点を明らかにした後、本手法の有効性を述べる。

 
 
 
 
 

  • 質疑応答

今回の講演発表では、以下のような質疑を受けました。
・質問内容1
提案手法によって動的に計算資源を割当てた後、割当てが減少した目的関数空間に再度計算資源を割当てる仕組みはないのか、という質問を受けました。私は、現在の手法では、計算資源の割当てはその世代におけるEPの数に依存するため、意図的に計算資源を少なくした空間に再割当てする仕組みはないと回答しました。これに対して、RVEAというアルゴリズムはそのような特徴を持っているので、一度勉強して参考にするとよいという意見を頂きました。
 
・質問内容2
提案手法は50世代毎に実行されるが、49世代目の情報は加味されないのか、という質問を受けました。私は、提案手法が実行される世代数のEPの数に従って計算資源を割当てるため、49世代目の情報は加味されないと回答しました。
 
・質問内容3
提案手法は2目的以外にも適用ができないのか、という質問を受けました。私は、現在の提案手法では2目的以外で適用はできませんが、このコンセプトをもとに3目的以上に応用することが可能だと考えていますと回答しました。
 
・質問内容4
提案手法において、重みを動的に変更した際、個体の割当てはどのように引き継ぐのか、という質問を受けました。私は、個体の設計変数が同じままで、個体に付与されている探索方向である重みベクトルの向きのみを変更すると回答しました。これに対して、一度引き継ぐ際の個体の設計変数についても検討をすべきという意見を頂きました。
 
・質問内容5
パレート解集合のどこの解を求めたいのか、という質問を受けました。私は、理想的なのは選択数が2~5chの解であるが、その解は識別誤差率が高くなるため、その解だけの獲得は不十分であり、パレート解集合全体の獲得が必要である。また、今回は識別誤差率が低くなる解の探索が困難であり、その解の探索が可能となる手法を提案した、と回答しました。
 
・質問内容6
脳の識別データは脳血流量の時系列データを使っているのか、という質問を受けました。私は、複数の計測点で得られる脳血流量の時系列波形の相関値を計算し、その全計測点間の相関値を計算した相関行列を生成し、使用していますと回答しました。それをうけ、では、結局何を識別しているのか、またどの手法で識別しているのか、という質問を受けました。私は、計測点が選択されたら、計測点間の相関値を軸に線形のSupport Vector Machine(SVM)によって識別していると回答しました。それをうけ、SVMのパラメータも設定が必要だと思うがどうしているのか、という質問を受けました。私は、線形で行う理由は、線形SVMで識別できるということは二群がきれいに線形で識別できる特徴を使用しているということであり、理解が容易であることと回答しました。また、SVMのコスト・ガンマのパラメータに関してはデフォルトの状態で現在行っているが、この点に関してはグリッドサーチなどを利用して最適なパラメータを今後適用する必要があると回答しました。
 

  • 感想

一昨年、昨年に引き続き3度目の進化計算シンポジウムの参加となりました。今回は、自身の研究を3年間行い、また様々な進化計算の知識を蓄えて臨んだこともあり、自身をもって自身の研究内容を先生や学生方に説明することが出来ました。また、先生や他学生の意見の中には、提案手法において再検討すべき内容に関する言及もあり、進化計算シンポジウムで発表したからこそ得られた貴重な知見であると強く感じました。また、私を含め75件のポスター発表があり、そのうち10件程度の発表者から密に議論を交わすことが出来ました。そして、学会の醍醐味でもある夜の宴会では、多くの学生と研究や今後について語り合うことができ、楽しいひと時を過ごすことができました。同じ年代、同じ研究分野の他学生と夜通しで語り合うことは楽しく、またとない経験をすることが出来ました。進化計算シンポジウムには今回で3度目となりましたが、今回は多くの先生方や学生に「わかりやすい!」、「こんな研究をしたかった!」、「賞も頂けるんじゃないか?」と声援を頂き、自身でも初めての体験だったので驚きました。そして、その声援を受け、IEEE YRAを受賞することが出来、嬉しく思います。これは、ご指導いただいた廣安先生や日和先生、研究室の皆様、そして私を応援して下さった進化計算シンポジウムの参加者の皆様のおかげと感じており、感謝しております。
 

  1. 聴講

今回の学会では、下記の2件の発表を聴講しました。

発表タイトル: 目的数が異なる最適化問題群マップの生成に関する検討
著者    : 角口元章、宮川みなみ、高玉圭樹、佐藤寛之
セッション名: ポスターセッション3
概要: 多目的最適化のための進化計算は、この20年間で盛んに研究され、様々な最適化問題に対して、多数のアルゴリズムが提案されてきた。すべての問題に万能なアルゴリズムとパラメータは存在しないため、問題ごとに適切なアルゴリズムとパラメータは異なる。多種多様な最適化問題は存在するものの、問題間の類似度は明らかになっていないため、問題特徴ごとに有効なアルゴリズムやパラメータを明らかにするには至っていない。その結果、進化計算の利用者は、アルゴリズムとパラメータを試行錯誤せざるを得ない状況にある。この状況を打破するためには、既存の最適化問題ごとの適切なアルゴリズムとパラメータに関する知識を組織化することが必要だと考えられる。我々はこれまでに、多目的最適化問題群を類似性に基づいて一つの問題空間にマッピングして問題領域ごとに適切な進化計算のパラメータを図示する方法を提案し、異なる問題間の類似性を精緻に表現することで最適化問題と進化計算のパラメータの相性の整理に取り組んできた。これまでの研究においては、2目的最適化に着目し、問題に内在する悪スケール性、多峰性、パレートフロント形状をパラメータによって変化させた問題群をマッピングし、各パラメータの変化に伴って問題マップ上の問題の位置が異なる方向に移動することなどを明らかにしてきた。一方、多目的最適化問題は、目的数の増加に伴って、問題の難しさが増加することが知られている。しかし、それぞれの目的関数に内在する悪スケール性、多峰性などの問題の特徴変化がアルゴリズムの性能に与える影響と、目的数の変化がアルゴリズムの性能に与える影響の大きさの違いは明らかになってない。目的数の異なる問題群も併せてマッピングすることにより、多目的最適化問題において問題の様相を大きく変化させる要因と、その変化の大きさを明らかにできる可能性がある。本研究では、目的数の異なる最適化問題群を用いて問題群マップと適したパラメータマップを生成し、各問題の類似度と適したパラメータの変化を明らかにすることを目的とする。DTLZ2-46) の問題モデルを利用し、目的数と問題特徴の異なる75種類の問題群のマッピングに取り組む。MOEA/Dを用い、そのパラメータとして、SBX (Simulated Binary Crossover)の分布度nc、交叉率Pc、PBM (Polynomial-Based Mutation)の分布度nm、変異率Pmによってパラメータテーブルを構築、これらのパラメータの違いによる最適化性能のランキングに基づいて問題群マップと適したパラメータマップを作成し、目的が異なる問題の類似度と適したパラメータの変化について議論する。

この聴講は、ベンチマーク問題における特性をMOEA/Dのパラメータを変更して複数回試行することで可視化する手法であり、興味を持って聞きに行きました。発表では、問題に内在する悪スケール性、多峰性、パレートフロント形状に着目し、2、3、4目的のDTLZ2-4(全75種類)に対して問題群のマッピングを行っていました。発表者と議論を交わす中で、この手法を答えが未知の実問題に適用することで、どのベンチマーク問題と実問題が似ているのかわかることができるのではないかと考えました。これは、実問題と同じような特徴を持つベンチマーク問題に対して提案アルゴリズムの性能を検討することができるようになり、私自身も必要となる方法であると強く感じました。
 
 

発表タイトル       :多目的集合パッキング問題におけるMOEA/Dの重みベクトル群を活用した実行不可能解の修復法
著者                  : 田中麻莉子、山岸雄樹、永井秀稔、佐藤寛之
セッション名           : ポスターセッション4
概要: 組み合わせ最適化問題のひとつに集合パッキング問題がある。本稿では、集合パッキング問題を目的数、制約条件と制約数について一般化した多目的集合パッキング問題を研究対象とする。多目的集合パッキング問題は、集合パッキング問題のみならず、集合被覆問題やナップザック問題を内包し、さらに多目的に対応した汎用組み合わせ最適化問題である。最適化法として、進化計算を用いる。多目的最適化のゴールは、複数の目的間に存在するパレートフロントと呼ばれる最適なトレードオフを近似する解集合を獲得することである。組み合わせ最適化法として、動的計画法や分枝限定法といった厳密解法があるが、これらは1回の実行でパレートフロント上の1つの解を獲得するのが基本である。近年、多目的最適化において、解集団を用いた進化計算が注目されている。進化計算は、1回の実行でパレートフロントを近似する複数の解を獲得できる利点がある。進化計算によって多目的集合パッキング問題を解くとき、最適化を困難にする要因の一つは、制約条件を満たさない実行不可能解が解探索中に多数生じることにある。多目的集合パッキング問題には、上限制約と下限制約という2種類の制約条件があり、双方を満たす必要がある。進化計算における実行不可能解の取り扱い方は、これまでにいくつか提案されているが、本稿では、実行不可能解を実行可能解に変換する修復法に着目する。これまでに我々は、多目的集合パッキング問題における実行不可能解の修復法を提案してきた。この方法は、上限制約と下限制約を二段階に修復するため、二段階修復法と呼ぶ。二段階修復法は、パレートフロントを広域に近似する解集合を獲得するため、一様分布の重みベクトル群を用いるところに特徴がある。前報では、二段階修復法をNSGA-IIと組み合わせた場合の効果を検証した。しかし、NSGA-IIは、重みベクトル群を利用しないため、解と重みベクトルを関係付けることはできない。その結果、目的関数空間における解の位置と修復方向ベクトルが乖離した非効率な修復が実行され、解集団の多様性が低下する問題が生じる。解の取捨選択に重みベクトル群を利用する代表的なアルゴリズムとしてMOEA/Dがある。MOEA/Dは、解と重みベクトルを関係付ける。二段階修復法とMOEA/Dを組み合わせ、これらが同一の重みベクトル群を利用することで、修復法と進化計算アルゴリズムの親和性が高まり、多目的集合パッキング問題における最適化性能がさらに改善される可能性がある。本稿では、多目的集合パッキング問題の最適化において、同一の重みベクトル群を用いる二段階修復法とMOEA/Dを組み合わせることによって、パレートフロントに対する解集団の進化を促進する方法を提案する。実験では、2-4目的の多目的集合パッキング問題において、NSGA-IIと二段階修復法を組み合わせた方法と最適化性能を比較する。

この聴講では、MOEA/Dの特性を生かした実行不可能解の修復方法が研究テーマであり、どのようにMOEA/Dの特性を導入しているのかが気になり聞きに行きました。研究では、解修復に使用するコスト値の計算に重みベクトルを使用しており、前回のNSGA-IIをベースとした割当て方法ではなく、MOEA/Dをベースとした一様に生成された重みベクトルの付与による手法の提案を行っていました。発表者とは、NSGA-IIベースの修復とMOEA/Dベースの修復の違いによって、どのように探索が異なったのかが気になり、議論を行いました。特に早期の世代についてその探索状況を確認する必要性があると感じました。