【速報】 第15回日本ワーキングメモリ学会大会

第15回日本ワーキングメモリ学会大会 が京都大学 文学部校舎にて開催されました。
研究室からは下記の学生が発表しました。
[9] 暗算課題中の脳機能ネットワークに対する機能的結合度分布に基づく分類法の提案
萩原里奈(同志社大学大学院生命医科学研究科)
日和悟(同志社大学生命医科学部)
廣安知之(同志社大学生命医科学部)

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
萩原里奈
発表論文タイトル 暗算課題中の脳機能ネットワークに対する機能的結合度分布に基づく分類法の提案
発表論文英タイトル Proposal of classification method based on the distribution of functional connectivity to brain functional network during a mental arithmetic task
著者 萩原里奈, 日和悟, 廣安知之
主催 日本ワーキングメモリ学会
講演会名 第15回日本ワーキングメモリ学会大会
会場 京都大学 文学部校舎
開催日程 2017/12/09

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/12/09にかけて,京都大学 文学部校舎にて開催されました第15回ワーキングメモリ学会大会に参加いたしました.この大会は,日本ワーキングメモリ学会によって主催された学会で,脳科学研究に関わらず,教育現場などのあらゆる分野におけるワーキングメモリ研究に携わる方が参加して,ワーキングメモリの研究成果の情報交換,議論の場となることを目的に開催されています.本研究室からは他に日和先生が参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は9日の一般発表(2)に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で15分の講演時間と5分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,「暗算課題中の脳機能ネットワークに対する機能的結合度分布に基づく分類法の提案」と題して発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
 

本研究では,ワーキングメモリにおける脳機能ネットワークを分析するために,個人の脳機能ネットワークの特徴に基づいて被験者群を分類する手法を提案する.具体的には,機能的結合行列間の類似度として,Jensen-Shannonダイバージェンスを導入し,機能的結合度分布の特徴に基づいて,被験者群をk-medoids法により3群(Group A,B,C)に分類した.その結果,Group Aは背側注意ネットワーク(DAN)を中心として,必要な情報に注意を向けることが示唆された.Group Bは,背側注意ネットワーク(VAN)が中心となり,大脳基底核の結合を減少させた.提示された課題に受動的に注意を向け不要な情報を制御することが推察される.Group CはDANとVANが中心となり,トップダウンとボトムアップ注意で情報が処理されることが考えられる.以上から,提案手法がワーキングメモリに関わる脳機能ネットワークを自動抽出できることが示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
東京都医学総合研究所の渡邊正孝先生からの質問です.こちらの質問は結合は重みありか,なしか,というものでした.また,MOGをROIとした結合についての結果だが,他の領域の結合は検討していないのか,というものでした.この質問に対する私の回答は,被験者の際は重みありで,群の脳状態の検討では閾値処理後重みなしの結合を用いていると回答致しました.また,今回はMOGでのみ,群内に有意差があったため,他の領域の結合に関しては検討していませんと回答致しました.
 
・質問内容2
京都大学の齊藤智先生からの質問です.easy taskでは方略が複数存在することが考えられるが,処理過程をどのように考えるか,という質問をいただきました.easy taskでは処理資源を全て使わずにタスクを遂行できるため,easy taskであっても全ての資源を処理に当てる場合と,必要な分だけ割当てる場合があると考えていると回答致しました.
 
・質問内容3
京都大学の苧阪直行先生からの質問です.こちらの質問は,結果においてデフォルトモードネットワークをどのように捉えるか,というものでした.また,個人差をどのように考えるかという質問もいただきました.質問に対して,easy taskのGroup Aに関してはdifficult taskに遷移する中で,必要のないデフォルトモードネットワークの結合を減少させる傾向にあったと考えると回答致しました.また,被験者分類において,個人差が大きく外れ値となる被験者はクラスタリングで除外できたと考えていると回答致しました.
 

  • 感想

私が初めて参加した学会がワーキングメモリ学会であり,2年前と比べて自分の成長を実感することができた学会であったと思います.発表後の質問では決められた時間を過ぎるほど多くの質問をしていただけ,質問内容に関しても2年前よりも結果について質問を受け,興味を持っていただけたことを実感しました.一方で,発表の結果がギリギリであったこともあり,質問をいただく中で,自分の結果に対する考察が薄いことも感じ,まだまだ考えられることがあると思いました.研究室での研究生活の中で,残りの発表は修論発表会なので,今回不足していると感じた部分をより深めたいと思いました.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の1件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 社会性ワーキングメモリ
著者                  : 苧阪直行(京都大学文学研究科)
セッション名       : 講演②
Abstruct            : ワーキングメモリ(WM)は認知的適応を担う心的能力として,ヒトを対象として,二重課題や n-back 課題など認知課題を用いた実験が多く行われてきた。認知的課題では,非社会的負荷が用いられることが多かったが,一方,社会的負荷に対するワーキングメモリの寄与については未解明の事柄も多い。脳と WM については,外側前頭前野(LPFC)や頭頂の注意ネットワークと結びついた WM ネットワーク(WMN)が検討されてきた。最近,課題負荷をかけないときに生じている 0.1Hz 未満の遅い自発的な BOLD 信号の分析(rsfMRI)から,デフォールトモードネットワーク(DMN)が WMN との対比で注目されてきている。DMN は内側前頭前野(MPFC),後部帯状皮質(PCC)や,下部頭頂葉(IPL)が関与するが,面白いのは両者で内外側という違いがあるものの,PFC が共有されていることである。ここでは,両者を認知脳と社会脳ととらえる立場から整理してみたい。

この発表は社会脳と認知能の競合と協調に関する講演でした.私の研究においては,ワーキングメモリに関する研究を行っていますが,脳は1つの処理だけを処理するのではないため,ワーキングメモリのみならず,デフォルトモードなどの他の状態を踏まえながら,脳状態を考える必要があると感じました.自分の研究において,デフォルトモードネットワークの観点からも考察していきたいと思いました.
 
 
参考文献

  • 第15回日本ワーキングメモリ学会大, http://square.umin.ac.jp/jswm/ja/