【速報】第57回日本生体医工学会大会

札幌コンベンションセンターで開催された第57回日本生体医工学会大会にて2名の学生が発表しました。

  • fNIRSを用いたhyperscanningによる協調時の脳活動の検討 谷口尚(M1)


学会参加報告書

 
報告者氏名
 
谷口尚
発表論文タイトル fNIRSを用いたhyperscanningによる協調時の脳活動の検討
発表論文英タイトル Frontal lobe brain activities during cooperation task: A fNIRS-based hyperscanning study
著者 谷口尚,日和悟,廣安知之
主催 公益社団法人 日本生体医工学会
講演会名 第57回日本生体医工学会大会
会場 札幌コンベンションセンター
(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)
開催日程 2018/06/19-2018/06/21

 
 

  1. 講演会の詳細

2018/06/19から2018/06/21にかけて,札幌コンベンションセンターにて開催されました第57回日本生体医工学会大会に参加いたしました.この第57回日本生体医工学会大会は,日本生体医工学会によって主催された学会で,臨床の場に届く高度な研究からオリジナリティ溢れるチャレンジングな研究や今後の展開が見通せないユニークな研究まで、幅広く研究発表とディスカッションを行い,社会に貢献する新たな生体医工学の発展に寄与することを目的に開催されました.また,本学会のテーマは,開催地である北海道の開拓150周年に合わせ,「生体医工学の新たな水平線の旅」でありました.
私は全日参加いたしました.本研究室からは他にM2の中村清志郎さんが参加しました.
 
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は20日の午前9時から11時に開催されたセッション「近赤外線分光法(NIRS)による脳機能計測応用の最前線」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,15分の講演時間と2分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表では,“fNIRSを用いたhyperscanningによる協調時の脳活動の検討”という題で発表を行いました.以下に抄録を記載致します.

価値観が多様化する現代,良好な対人関係を維持するために,他者の気持ちを他者の視点に立って考える協調性が重要となる.ヒトの協調時における状態の解明については,脳神経科学の側面からも多くの研究が行われている.その際に利用されるのがfMRI やfNIRS等の非侵襲な脳機能イメージング装置による脳活動計測である.しかし,先行研究では単独脳やコンピュータを相手にした実験が多く,より現実に即した人対人の動的な脳活動を計測する実験は少ない.それに対して近年,hyperscanningと呼ばれる複数脳を対象とし同時計測する技法が,社会的相互作用に関わる神経基盤の解明に寄与するとして注目されている.ヒトの協調時における状態推定においても,hyperscanning による脳機能解析が有用であり,本研究では基礎的な実験を行った.具体的には,実験において二者間の行動同期時における脳活動を検討するためにfNIRSを用いた hyperscanningによる同期タッピング課題を行った.脳活動の時間的同期を評価する指標としてペア間の同じ脳領域の脳血流変化量に対して相関係数を算出した.その結果,前頭前野背外側部と内側部に関して同期課題時の脳血流変化量の相関が安静時に対して増加した.これらの領域は相手の心の状態の想定と理解に関連することが報告されており,協調時にこれらの領域の脳活動が同期することが示唆された.さらに脳活動の強度と位相の違いを考慮し検討していく必要がある.

 
 
 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
東北大学の中川さんからの質問です.こちらの質問は,ある程度賢い人だと相手のタッピングのタイミングを学習し,最終的に相手に合わせるのではなく時間に合わせる複雑な抑制課題となり,協調しているのかわからないのではないかというものでした.この質問に対する私の回答は,単独課題と協調課題の反応時間差において有意に差があることが,単に合図や時間に反応した訳ではないという1つの根拠であると回答しました.また,ペアによってタイミングを合わせる戦略や課題の達成度も異なると考えられるため,アンケート結果と協調状態の関連も検討していきたいと回答しました.後ほどお話しする機会があり,ペア毎の解析や他の生体情報の同時計測もしてみてはどうかというアドバイスをいただきました.相手との関係性により相性などの違いもあると考えられるため,ペア毎の解析は行う必要があると考えていたため今後行っていきます.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,被験者に課した競争課題の勝ち負けがどのように決められているのかというものと競争課題が協調課題とどのように関連しているのかというものでした.1つ目の質問に対しては,相手よりも早く合図に反応したら勝ちになるという回答を,2つ目の質問に対しては,相手を意識する(相手がいる)課題としての対照実験であるという回答をいたしました.
 

  • 感想

初めての学会参加で,また口頭発表ということもあり非常に緊張しましたが,時間が経つにつれ落ち着いて自分らしい発表ができたように思います.心配であった発表時間も丁度の時間で発表することができました. 嬉しいことに,私の発表をお聞きになっていた医学部の先生が臨床の立場からも興味深い研究であると関心を持ってくださり,自分の研究の意義を実感することができ,研究意欲がより一層高まりました.一方で,伝えることの難しさも改めて実感しました.発表の準備段階では,先生方や同じ研究班の皆様にたくさんのアドバイスをいただきました.この説明で分かるはずと思っていた部分でも伝わらないこともあり,もっと受信する聞き手を意識しないといけないと考えさせられました.発表が分かりやすい講演者の方は,適度なスピードで話し,スライドは詰め込みすぎず必要なものだけを載せるなど,普段研究室でも指摘されるようなことができていたように思います.そして,何よりも自分の研究に自信を持ち楽しそうに話していました.これらのことを意識して今後の研究発表に生かしていきたいです.学会に参加するにあたり自身の研究をまとめることを通し,理解が深まっただけでなく,自身の研究室で行われている研究以外にどのような研究が行われているのか知る機会にもなり,非常に有意義な時間になりました.
 
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の4件の発表を聴講しました.

発表タイトル       : Designing spaces for breastfeeding in public
著者                  : 仲綾子
セッション名       : 育児工学と福祉
Abstruct            : Baby rooms for parents to feed and change diapers have been recently added to commercial and public facilities based on the government concept to support families with children. However, there are no specific guidelines for planning baby rooms. As a result, a number of non-user-friendly and uncomfortable baby rooms are provided in some facilities. The objective of this research is to formulate a set of design guidelines for baby rooms. 5 surveys: field surveys on baby rooms (n=44), questionnaire surveys for users (n=605), observation surveys on users’ behavior (n=1,085), interview surveys for specialists (n=11), and questionnaire surveys for facilities’ managers (n=42) were conducted from 2010 to 2016. Based on these surveys from the various points of view, we analyzed the data to identify the problems, and then set guidelines for designing baby rooms, including: location, size, zoning, line of movement, interior design, lighting and other considerations.

このセッションは,事前申し込みをすれば一般の方,子供連れの方も気軽に聴講のできるセッションとなっており,育児をテーマにしたユニークな発表ばかりでした.実際に一般の方,赤ちゃん連れの方も数名参加していました.育児工学とは,育児と工学を融合させ,言葉を喋られない赤ちゃんの気持ちを推し量り,母親と赤ちゃんのために快適な育児環境を実現する学問のことです.この発表は,近年増加しつつあるベビー休憩室について環境デザインの観点からどのような設計が望ましいのかを検討するというものでした.育児の経験がなく,そのような設備をそもそも利用したことがない私にとっては知らないことばかりでとても新鮮でしたが,自分が親や赤ちゃんの立場であればと想像すると,見えてくることも多くありました.この研究は,仲さんが実際に母親となりベビー休憩室を利用することで経験した,使いにくさや居心地の悪さから始まったとのことでした.疑問に思い不便さを感じても,その場をやり過ごしてしまうとそのことを忘れてしまうことは多々ありますが,それに向き合い,地道に調査をすることの大切さを感じました.また,少子化が深刻視されるなか,このように育児を行ってく上での負担などを少しでも軽減し,育児のしやすい環境を整えていく重要性も感じました.
 
 

発表タイトル       : 安静時fMRI信号によるインターネット依存者の機能結合解析
著者                  : 栗城眞也
セッション名       : マルチモーダル脳情報研究の最前線 〜基礎から応用まで〜
Abstruct            : 近年,スマートフォンやタブレット端末の普及によりインターネット依存症が社会問題になりつつある.しかしその症状は明らかになりつつも,インターネットに依存することで脳活動がどのように変化するのかは解明されていない.そこで今回は安静時機能的MRIにより脳活動を計測し,インターネット依存症との関係を検討するために解析を行った.被験者は健常者群として精神科,精神内科の既往歴がなく,インターネット依存度傾向のない成人男性(19~24歳)を21名,患者群としてインターネット依存症と診断を受け,fMRI による検査を受けた者の中から25名(男性13~17歳)を選択した.得られたデータに対してSPM8を用いて前処理を行なった後に,安静時の脳活動をよく記述しているとされる0.017~0.09Hzの範囲でバンドパスフィルタを施した.さらに 8mm×8mm×8mmを1つのボクセルとし,小脳を除いた2492個での相互相関係数を総当たりで行い,健常者群と患者群との間で有意差が見られた(p<0.05,両側t検定)ペアを算出した.その後,有意差がみられたボクセルの脳部位をAAL領域に対応させ分別し,有意ボクセルの割合が高い脳領域のペアをインターネット依存に関係する可能性が高いと考えた.その結果,左右中心傍小葉,中心前回,右側頭極などから構成されるネットワークの結合がインターネット依存によって変化することが示唆された.

この発表は,全脳を対象にした機能的コネクティビティ解析によるネット依存症患者の脳活動についてでした.先日,世界保健機関が日常生活に支障をきたすゲーム依存症をゲーム障害として国際的に疾患として認めました.また,スマートフォンなどの普及によりネットへの依存が高くなりやすくなっています.そのような背景もあり依存症は社会的問題となっているため,脳と依存症の関係の解明が急がれます.結果としては,健常者群と患者群との間に安静時の機能的コネクティビティに差があるとのことでした.さらに,青年と若年でこれらの差異が異なるということでした.同じ依存症でも年齢により機能的コネクティビティに違いがあるということはとても興味深かったです.実際のネット依存症患者に実験に参加してもらう必要があり,データ収集に3年ほどかかったというお話を聞き,研究への強い気持ちを感じました.自分もそのような強い気持ちを忘れず研究に取り組んでいきたい所存です.
 

発表タイトル       : Investigation of Mindfulness Mechanism via Estimation of Mind-wandering using Electroencephalogram
著者                  : 川島一朔
セッション名       : 生体信号計測・解釈
Abstruct            :Mindfulness-based interventions (MBI) might improve the controllability of mind-wandering (MW), that is, the ability to decrease MW frequency, to notice MW, and to shift attention from MW. This study investigated whether such controllability of MW mediates the effect of the mindfulness-based intervention (MBI) on depression. Since the MBI, which instructs participants to be aware of the occurrence of, and their engagement in, MW, might bias self-reports of MW, a measurement method that does not rely on subjects’ verbal report is needed. Therefore, we estimated MW intensity using one-second electroencephalogram (EEG) samples and a machine learning model developed previously. We recorded EEG before and after MBI, and observed fluctuations in mind-wandering during a 14-minute meditation and quantified the three types of MW trait. The magnitude of the change of depressive symptom and ability to shift attention from MW were correlated. This MW trait is a plausible mediator between MBI and depression.

この発表は,マインドフルネス瞑想のうつ症状に対する効果にマインドワンダリング状態から注意を素早く戻す能力が媒介するかどうかについての研究でした.私たちの研究室でも瞑想の研究をしているため,入ってきやすいテーマでした.この発表で着目したのは脳波と機械学習モデルを用いてマインドワンダリング強度を推定していた点です.この手法は従来とは異なり,言語報告のような自己報告によらないマインドワンダリングの柔軟性を測定することができます.機械学習をうまく利用しており,参考になりました.多くの人から質問も出ており,マインドフルネスへの関心が高まっていることが感じられました.今後さらにマインドフルネスが一般の人にも広く認知され,研究や議論が活発になるのが楽しみな分野です.
参考文献
第57回日本生体医工学会大会, http://www.c-work.co.jp/jsmbe57/index.html
学会参加報告書

 
報告者氏名
 
中村清志郎
発表論文タイトル ラジコンカーの操作が脳活動に及ぼす影響
発表論文英タイトル Effect of driving remote control car on brain activity
著者 中村清志郎,日和悟,廣安知之,
主催 公益社団法人 日本生体医工学会
講演会名 第57回日本生体医工学会大会
会場 札幌コンベンションセンター
(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)
開催日程 2018/06/19-21

 
 

  1. 講演会の詳細

2018/06/15-21に札幌コンベンションセンター(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)にて開催されました第57回日本生体医工学会大会(http://www.c-work.co.jp/jsmbe57/index.html)に参加いたしました.日本生体医工学会は生物学における電子工学、機械工学などの方法、および工学における医学、生物学的知見の応用に関する研究の発展、知識の交流および社会における事業の振興をはかることを目的として設立されました.本学会は,医学・生物学と理工学との中間領域に関係する研究者の協力の場として機能しています.
本学術集会では,開催テーマを「生体医工学の新たな水平線の旅」に設定されました.これは北海道開拓150周年であること,フロンティア精神に則ったものです.そこで,臨床の場に届く高度な研究はもちろんですが,オリジナリティ溢れるチャレンジングな研究や今後の展開が見通せないユニークな研究まで様々な発表が行われました.
本学会で私は,M1の谷口さんとともに口頭発表しました.

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は9:00-11:00のオーガナイズドセッション「近赤外線分光法(NIRS)による脳機能計測応用の最前線」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,15分間の発表となっておりました.
今回の発表では,ラジコンカーの操作が脳活動に及ぼす影響について発表しました.以下に抄録を記載致します.

スポーツや運動などの身体活動は認知機能の改善に効果があると言われている.本研究では,新しい認知トレーニングとしてのラジオコントロール(RC)カー操作の可能性を検討する.そこで本稿では,RCカー操作が脳活動にどのような影響を及ぼすかをfNIRS を用いた脳活動計測により解析した.本実験では被験者にRC カーを操作するよう指示し,8 の字走行およびオーバル走行を各5 分間行った.脳活動はfNIRS 装置(OEG-16,Spectratech 社製)を用いて計測した.測定部位は国際10-20 法に従ってプローブを配置し,前頭部16 チャンネルとした.本実験では刺激を参照することができないため,GLM による活性解析を適用できない.そこで,活動指標として低周波振動振幅(fractional Amplitude of Low-Frequency Fluctuation:fALFF)を算出した.fALFF は脳活動と考えられる周波数帯(0.008-0.09Hz)の振幅の和を測定された全周波数帯の振幅の総和で除算することにより得られる.本実験では各チャンネルにおけるfALFF を算出し,z 変換を行い,各チャンネルでのタスク・レスト間の比較を行った. 解析の結果,レスト時と8 の字走行時ではfALFF に有意差が見られ,RC 操作が前頭部の操作に影響を与えていることが示唆された.

 
 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は元々アイトラッキングが上手くない人も多く,視力の左右差などの影響がたまたま出てしまった可能性もあるので実験する前に見るべきではないか.また,リモコンを扱うというのは利き手とかも考慮すべきではないかというものでした.この質問に対する私の回答は質問者のおっしゃっていることはごもっともで,今後検討する必要があると考えていると回答しました.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は実験をやっているうちに被験者が慣れてしまうことはないかというものでした.この質問に対する回答ですが,慣れが生じにくくなるためにランダムに実験を行っているが,慣れを完全に除去できているとは言い切れないと回答しました.
 

  • 感想
    本学会に参加するにあたって,実験結果が思うように出なかったこともあり,とても準備に時間がかかってしまい,発表直前まで準備をしていました.また,会場の壇上で発表した際には緊張してしまい,言葉に詰まる場面もありました.質問時間が少なかったですが,かなり密度の高い質問をいただいたため,今後どのように解析を進めるか考えさせられました.今後はより簡潔で分かりやすく,深い発表ができるように精進していく必要があると感じました.



 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : ウエアラブルNIRS を用いたドライバの脳機能計測と評価
著者                  : 綱島 均
セッション名           : 近赤外線分光法(NIRS)による脳機能計測応用の最前線
Abstract      : 交通事故削減や渋滞緩和など交通に関する問題解決手段として自動運転が注目されている.特に自動運転から手動運転に切り替わる場合において,ドライバが適切に運転できる状態でなければ,事故が発生する恐れがあると考えられる.そのため,ドライバの状態をモニタリングする必要がある.本研究ではドライバの脳活動の状態についてNIRS 計測装置を用い,手動運転,自動運転の2 つの条件で実車およびドライビングシミュレータを用いて脳活動の計測と評価を行った.その結果,自動運転車両を用いた検
討では,自動運転時は手動運転時と比較して,ドライバの脳活動の変動が少ないことがわかった.また,ドライビングシミュレータを用いた検討では,自動運転では手動運転と比べ,ドライバの覚醒度が低下しやすいことを示した.
 

 
この発表は市街地ルートと郊外ルートでどのように脳活動が異なっているかをNIRS装置を用いて計測・比較を行うことに加え,自動運転時と手動運転時での脳機能の変化を調査したとのことでした.自動運転から手動運転へ移行する際にドライバの状態が移行することに対して適切かどうかを評価した.その結果,脳活動が低い状態になっていることがわかった.しかし,現在被験者は少なく,今後実験を進めていくとのことだった.また,大学の倫理委員会の都合で被験者を増やしづらいともおっしゃっていた.私も実車での実験を行う予定なので,これらの実験も参考に進めていきたいと考えている.
 
 
 
 
 
 
 
 
 

発表タイトル       : 音声分析による診断技術の自動車への応用とその今後の願望について
著者                  :岡崎 俊実
セッション名           :音声分析による診断技術の開発と社会実装への展望
Abstract      :我々は、音声による病態診断技術を運転中のドライバーの心身状態推定に応用しようとしている。この音声による推定結果を基に、走行中のドライバーの心身状態に適合した高度な運転支援が可能になると考えている。応用例の一つとして自動車を運転するドライバーのストレス状態を観測する指標へ応用することを考えた。運転によって生じるストレス反応の結果として現れる精神状態の指標として、音声分析による抑うつの指標(元気圧)の適用を試みた。比較的短時間の運転前後の音声サンプルを取得し、ドライバーの状態を観測した結果、運転前に比べて運転後に抑うつ指標が改善される傾向が多くの被験者で確認された。これは、別途実施した記述式の主観気分指標による結果とも一致している。またこの結果の中では、車両の運転特性の違いによって、精神状態の変化が異なる場合があることも観測できており、本分析技術が運転時の微妙な精神状態の変化を捉えるレベルにあると判断した。音声分析による診断技術は非侵襲で低コストな方法として、ドライバー状態をモニタリングするシステムの重要な要素となる確信を得た。状態推定をよりきめ細かなものにしていくためには、車載化する他のセンサの情報との組み合わせることが一つの有効な手段であると考えられる。状態推定の範疇としてはドライバーの認知判断能力の状態分析への拡張が考えられる。

 
この発表はドライバの運転中の音声からストレス状態を観測するために行った実験に関する発表でした.会社として,自動車の価値は個人の自由な移動による生活の充実することにあると考えており,人中心のクルマづくりで心と体を活性化したいという明確な目標がある.そこで音声に着目した.自動車運転中は音声検索に対して抵抗がないと考えられており,その音声からストレスの計測が可能であるとされている.また,運転後にはワーキングメモリを活性化させることもわかったので,今後はより長期的なモニタリングを行っていきたいとのことだった.運転支援に音声を使うという発想が考えられなかったので,そのような新規性を自ら考えだせるように成長していきたいと改めて感じた.
 
 
 
 
 

発表タイトル       :母乳育児の短期・長期効果
著者                  :瀬川雅史
セッション名           :育児工学と福祉
Abstract      :近年の疫学研究の発展、新しい科学技術による研究の進歩によって、母乳育児が乳幼児のみならず母親、家族、社会において、非常に大きな利点を持つことが明らかにされている。これらには、健康や栄養、免疫、発達、心理、社会、経済、環境面などにおける広範な利点が含まれる。
小児において様々な急性・慢性疾患のリスクが低下することは、多くの疫学研究によって示されている。感染症、乳幼児突然死症候群のリスク低下は有名であるが、不正咬合のリスクも大きく下がることがわかっている。また認知能力にも母乳育児はより良い影響をもたらしている。こういう母乳育児の効果は、より長く、より多く母乳を飲んだ方が、そうでない場合に比べ高くなることが示されている(母乳育児の量依存性効果)。
近年の研究では、成人における母乳育児の効果も明らかになっており、肥満や2型糖尿病などの疾患のリスク低下が示されている。このような母乳育児の生涯にわたって続く効果は「lifelong effect」と呼ばれている。
母乳育児は母親にとっても多くの利点があり、乳癌や卵巣癌、さらには肥満、2型糖尿病、心血管系疾患などのリスク低下が示されている。
母乳育児の長期効果の機序については、免疫学やエピジェネティクスなどの分野から解明が進められているが、近年はマイオクロバイーム研究の進展によって、母乳が子どもにとって「最良の個別的な薬」であること明らかにされつつある。

 
この発表は母乳による育児は様々なメリットがあるという発表でした.感染症リスクも非母乳と比較して1/9になり,下痢に対するリスクも減少している.また,母乳で育つことで脳が大きくなり,認知能力との関連性も示唆されている.また,哺乳瓶でミルクを飲む場合,不正咬合のリスクも上昇している.なぜ母乳がよいのかという理由として,常在細菌が挙げられる.本来赤ちゃんの中には存在していないが,母乳によってその常在細菌が入り込み,結果としてメリットを生んでいる.母乳育児がうまくいかないことが多いが,それは母親の自信がないことが多い.しかし,その結果を生んでいるのは母親に対する社会の支援が不足しているためである.他人事のように考えるのではなく,自分自身も支えていくという意識を持つことが大事であると思う.
参考文献
第57回日本生体医工学会大会
http://www.c-work.co.jp/jsmbe57/index.htmll