【速報】第16回日本光脳機能イメージング学会

7月20日(土)に東京・星陵会館にて、第16回日本光脳機能イメージング学会が開催されました。
研究室からは下記の発表がありました。

  • 裸眼立体視における訓練の進展に対するfNIRSを利用した脳血流変化の検討
    • 早川温子(M1)
  • 音環境が数字記憶課題の成績と脳血流変化に及ぼす影響の男女差の検討
    • 將積彩芽(M1)

非常に実りのある学会でした。
お会いした先生方、ありがとうございました。
次回は研究成果をもう少しまとめて、口頭発表したいですね。

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
早川温子
発表論文タイトル 裸眼立体視における訓練の進展に対するfNIRSを利用した脳血流変化の検討
発表論文英タイトル Brain function imaging using functional Near-Infrared Spectroscopy for the development of training
著者 早川温子, 山本詩子, 廣安知之
主催 一般社団法人
講演会名 第16回日本光脳機能イメージング学会
会場 星陵会館
開催日程 2013/07/20
 

 
1. 講演会の詳細
2013/07/20に東京都千代田区永田町の星陵会館にて開催されました第16回日本光脳機能イメージング学会に参加致しました.脳機能イメージング学会は,一般社団法人によって主催された研究発表会で,光脳機能イメージング法を利用・開発する臨床医,研究者,技術者等に情報を交換する場を提供し,光脳機能イメージング法を発展させ,その普及・促進を図ることを目的とし開催されています.
私は7月20日に脳機能イメージング学会に参加致しました.本研究室からは他に廣安先生,横内先生,將積が参加しました.
 
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は20日の午後のセッション「一般演題 ポスター」に参加致しました.発表の形式はポスター発表で,3分の発表時間と2分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,裸眼立体視課題を用いた習熟度に関する研究報告を行いました.以下に抄録を記載致します.

本研究では,脳の活動情報から習熟度評価を行う方法の確立を目的としている.本実験では,目的を達成する前段階として,得意,不得意という能力差の生じる課題における脳活動に関して検討した.本研究では,習熟度の検討を行うために,fNIRS(functional near infrared spectroscopy)を使用し,脳血流変化の計測を行った. また, 訓練課題として立体視を用いた.
本実験の作業課題として,ひらがな一文字が知覚出来るステレオグラムを用いた立体視を行った.また,制限時間内に立体視出来たステレオグラムの枚数を課題成績として調査し, これを習熟度評価のパラメータとした.そして,同時にfNIRSを使用して脳血流変化の計測を行った.被験者は健常者11名(年齢:22-23歳)を対象とした.
最初に,課題成績により,立体視の得意,不得意群に分類した.次に,活性部位を検討するため,ベースライン処理後の各チャンネル(CH)のレスト区間とタスク区間のデータをそれぞれ15分割し,t検定(p<.01)を行った.その結果,両群共通して有意差の見られた部位は,前頭部の右下部,左下部のCHであった.側頭部や頭頂部には共通して有意差の見られた部位はなかった.そこで,前頭部で共通して有意差の見られたCH付近を習熟度の検討をする際の注目部位とした.データの処理方法として,両群で有意差の生じたCH及びその周辺のCHの加算平均を行い,全体の傾向を検討するため,平均値を算出した.注目CHの脳血流変化は,立体視の上達に伴い,減少する傾向が見られた.関連研究において,習熟に伴って前頭前野背外側部の脳血流が減少すると報告されている.これにより,本研究で注目した部位も前頭前野背外側部に該当する可能性があることが示唆され,習熟に伴い,本稿での注目部位で脳血流が減少する可能性があることが確認された.また,注目部位の血流量の変化を,課題が得意な群と不得意な群とで比較したところ,得意な群ほど血流量の変化が少なかった.そのため,個人の能力差に関しても前頭前野背外側部が関係するのではないかと考える.

 
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,輻輳など目の動きは検討したのかといったような質問を受けました.質問者の氏名を控え損ねてしまいました.
 
・質問内容1
こちらの質問は,立体視の評価を最初にきちんと行わないと習熟度が明確に見えないのではないかというものでした.この質問に対しては,いきなり習熟度を検討するのは要因が多いため,きちんと立体視について検討を行なってから習熟を見ると答えました.また,後ほどお話しする機会があり,改めてご助言を頂きました.立体視時の目の動きを追うことで習熟に関しても検討しやすいのではないかということでした.また,質問者の方が眼科のお医者様だったようで,NIRSという非侵襲の機器を使用していることから,乳幼児の斜視の判定に使用できるようになったら嬉しいとおっしゃっていました.私は立体視ではなく,習熟度に重点を置いて研究しておりますので,このようなご助言を頂いて新鮮でした.
 
・質問内容2
こちらの質問は,被験者の立体視の経験値などはどうなのかというものでした.この質問に対する回答は,立体視の経験値は今回検討対象としていなかったため今後検討すると答えました.また,後ほどお話する機会がありまして,その際にも質問を頂きました.それは,なぜ裸眼立体視を訓練課題として用いたのかというものでした.この質問に対しては,得意・不得意に個人差があること,出来・不出来にも個人差があること,さらに訓練によって身につく能力であることと答えました.
 
・質問内容3
こちらの質問は,被験者の輻輳や斜視など目の動き,機能に関する検討をしたかというものでした.この質問に対しては,検討を行なっていなかったため,今後目の動きについて検討を行なってみると答えました. また,他の部位,特に頭頂部などを計測していないのか,なぜこの注目部位なのかを聞かれました.そのため,私は全頭部を計測している,また,注目部位を決定した検討方法について説明致しました.
 
・質問内容4
こちらの方は,質問というよりは,ご助言と言った形で聞かせて頂いたお話です.今の実験設計で注視,ステレオグラムとしてあるが,一度ステレオグラムと同じ画像ではあるが立体像の知覚できない普通の平面画像を見せて比較してみてはどうかというものでした.今後の実験では,このご助言を元に検討してみようと思いました.
 
2.3. 感想
本や論文でお名前を拝見したことのある先生と会い,講演を聞くことが出来てとても楽しかったです.また,研究室内だけではない他の方の研究報告を聞いたのも初めてだったため,勉強になる良い経験だったと思います.自分のポスター発表では,初めての学会ということもありまして,とても緊張しました.発表時間が3分と決められてはいましたが,発表中は時間経過がわかるような形ではありませんでした,しかし,自分の中では練習の際と同様に発表することができたと感じています.しかし,3分という短い時間であったため,早口になってしまっていたと思います.今後,発表する際は,もう少し自分の言いたいことをしぼり,まとめ発表したいと思います.また,反省点としまして,自分のポスターの発表が終わりましたら,気が抜けたこともあり,その場を離れてしまいました.また,自分の場に戻った際もポスターを見に来てくださった方に説明をすることなく見ているだけでした.そのため,今後発表がありましたら,すぐにその場を離れるのではなく,なるべく自分の場に留まり,ポスターを見に来て頂いた方には自分から声を掛け,説明をしたいと考えています.他にも,質問を頂いた方の氏名を控え忘れてしまいました.今後,学会で発表を行い,質問を受けた際には質問者の方の氏名を伺うようにしたいと思います.
 
3. 聴講
今回の学会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : ニューロリハビリテーションへの適用の現状
著者                  : 宮井一郎
セッション名       : シンポジウム「社会に貢献する脳光計測技術の確立とその取組みについて(医療への応用を見据えて)」
Abstract            :トレッドミル歩行時の大脳皮質のNIRS信号の変化を計測することで,脳卒中後の機能回復の脳内機構を調査した.この実験の結果,健常人と比較し,空間的・時間的・量的な違いが生じ,神経障害のタイプや脳損傷部位,大きさに関連していくつかのパターンに分類されることが明らかになった.歩行機能の改善という点から,前頭前野,補足運動野の関与が示唆されている研究がある.この研究の結果より,脳卒中に対するニューロリハビリテーションのエビデンスが示された.近年,脳波や脳血流などの生体信号をフィードバックして脳活動を修飾しようといった試みがなされている.これらは,従来の脳機能計測ツールのリハビリテーション介入ツールへの進化と捉えることができる.ニューロフィードバックとリハ介入と組み合わせると手指機能回復が促進されることが示された研究もある.今後の問題としては,個々の患者において目指すべき適応的な可塑的変化が何かということである.そのために,改善に関連する脳活動を個々にデコードしたり,脳領域間の結合性を検出する試みもされつつある.

この講演は,fNIRSを従来の脳機能計測ツールで使用するのではなく,リハビリテーションのツールとして使用するという点が新しい考え方で斬新でした.neuro-modulationやneuro-feedbackなど初めて聞く言葉が多く,とても興味深い発表でした.自分で勉強してみたいと思います.また,お医者様の先生ということもあり,現在の医療現場でfNIRSがどのように使用されようとしている,またどのように考えられているのかを知ることができてよかったです. リハビリに関する研究は学生では少し難しいものがありますが,BMIなどの研究により補助ツールなどは作成できるのではないかと思いました.
 

発表タイトル       :精神疾患診療への応用の経験から学んだこと
著者                  : 福田正人
セッション名       : シンポジウム「社会に貢献する脳光計測技術の確立とその取組みについて(医療への応用を見据えて)」
Abstract            : 研究と臨床は全く異なるものであると感じた.精神疾患には診断・治療のための検査がない.そのため,予防・早期発見が不可能であるという問題がある.そこで,使用したのがNIRSである.2009年に先進医療として認められ,現在では24施設で光トポグラフィ検査が承認されている.NIRSは,生体の機能を大まかに捉える方法論であり,データの限界に応じた適切な形で臨床応用する必要がある.NIRSの解析方法としては,光路長の問題より,群での比較は不可能であるため,個別に検討する必要がある.解析のための数値には,重心値や積分値などを使用する.多くのパラメータを使用してもあまり結果の変化がないためである.今後,NIRSは実生活で使用できるようになったらいいのではないかと考える.対人相互関係など二人の脳の相互関係を調べることができるのはNIRSだけである.

NIRSの知識を増やすために使用している本の著者である福田先生のご講演でした.NIRSはまだ補助ツールではありますが,臨床応用として医療現場で使用されていることを聞いて驚きました.使用されつつあるものではあると考えていましたが,実際に臨床応用されているとは思っていませんでした.また,明確に確立されていないNIRSの解析方法に関しても言われていて,とても勉強になりました.先生がおっしゃられていました,積分値や重心値などを使用して新しい解析方法を考えてみようと思います.
 

発表タイトル       : 光計測における皮膚血流の影響評価について
著者                  : 木口雅史
セッション名       : シンポジウム「社会に貢献する脳光計測技術の確立とその取組みについて(医療への応用を見据えて)」
Abstract            :NIRS計測では,脳活動に起因する局所脳血流変化の他に頭皮皮膚脳血流変化や全身性血流変化が観測信号に含まれる.これまで,注目する脳活動信号のみを抽出するために様々な工夫がなされてきた.今回,NIRS信号に含まれる皮膚血流成分を定量的に計測する技術として,MD-ICA(Multi-Distance Independent Component Analysis)法を開発した.これは,皮膚血流信号振幅は光源・検出器間距離によらず一定であり,脳信号振幅は光源・検出間距離に比例するという性質を用いて,皮膚血流成分を分離する新しい手法である.

この講演では,NIRSの計測信号は皮膚血流なのではないかというものについての対策,解析方法についてお話されていました.NIRSの計測信号には様々な要因のものが含まれていることは知っていましたが,思ったよりもその要因数が多いことが分かりました.この新しい手法により,実験をまだ行なっていないと言われていた情動など他の課題でも計測を行い,皮膚血流が確実に除去できるとなればさらにNIRSの研究は進むのだろうと感じました.そうなれば,NIRSの研究も増え,臨床にも役立つようになるのではないでしょうか.
 
参考文献
1)    第16回 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 研究発表会