【速報】 第18回 日本光脳機能イメージング学会 学術集会

第18回 日本光脳機能イメージング学会が東京・星陵会館で開催されました。

学会参加報告書
報告者氏名
滝謙一
発表論文タイトル 部位ごとの血流動態反応関数の推測による脳機能の結合性の検討
発表論文英タイトル Study of brain functional connectivity due by estimating the hemodynamic response function of each region
著者 滝謙一, 廣安知之
主催 日本光脳機能イメージング学会
講演会名 第18回 日本光脳機能イメージング学会 学術集会
会場 星陵会館
開催日程 2015/07/25
1. 講演会の詳細
2015/07/25にかけて,星陵会館にて開催されました日本光脳機能イメージング学会 第18回学術集会に参加いたしました.この日本光脳機能イメージング学会 第18回学術集会
は,多賀厳太郎先生によって主催された学術集会で,functional Near-Infrared Spectoroscopy(fNIRS)の応用を確立する目的で開催されています.
私はポスター発表に参加いたしました.本研究室からは他に廣安先生,信楽が参加しました.
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は25日の16時40分からのポスターセッションに参加いたしました.発表の形式は90秒のフラッシュ発表およびポスター発表でした.
今回の発表は,部位ごとの血流動態反応関数の推測による脳機能の結合性の検討という題目で,計測データから血流動態反応関数を推測し,その関数のパラメータから検討した脳活動を発表しました.以下に抄録を記載致します.
【目的】
functional Near Infrared Spectroscopy(fNIRS)によって得られる脳血流のデータの解析の方法の一つとして一般線形モデルが挙げられる.これはあるHRF(HRF:hemodynamic response function)を用いて,課題による脳血流変化のモデルを立てている.しかし脳部位や個人差,課題によってそれぞれ脳活動は異なり,必ずしもこの一般的なHRFと一致するとは限らない.その為これらの因子を考慮したHRFを用いた解析を行う必要がある.
本研究では,計測データからその部位におけるHRFを推測し,脳機能の結合性の検討が可能であるか調査した.
【方法】
fNIRSで得られたリーディングスパンテスト中の脳血流データに最も一致する推定モデルを構成するHRFを最適化によって求める.求められたHRFから構成した推定モデルから課題に対する脳活動の検討を試みた.最適化の指標は推定モデルと計測データの回帰分析で得られたt値とし,HRFの最初のピーク到達時間と後のピーク到達時間,およびそれぞれのピーク値の比率を決定した.計測装置にはfNIRS装置(ETG-7100:日立メディコ製)を使用し,前頭部(22チャンネル),両側頭部(各24チャンネル)で計測を行った.被験者は右利きの女性健常者12名(22-23 歳) を対象とした.
【結果と課題】
計測チャンネルごとに異なるHRFを得ることが出来た.しかし一部のチャンネルでは十分に一致したモデルを推定できなかった.これは矩形関数に原因があると考えられる.一つは回答時間をレストとしている事,もう一つは時間経過ごとの血流の反応の挙動に合わせられていない事が挙げられる.これらの事から矩形関数の値をタスクブロックごとに変える必要があると考えられる.これらを考慮することで,今回達成できなかった脳の結合性の検討が可能なモデルの推定を目指す.
図.計測値と推定モデル
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
首都大学東京所属の保前文高さんからの質問です.こちらの質問は,今回注目した部位以外はどうなっているか,というものでした.この質問に対する私の回答は,まだ検討出来ていないため今後の課題にするつもりですと返答いたしました.
・質問内容2
九州大学所属の寛藤雅文さんからの質問です.こちらの質問は,計測データのピーク値をどのように決定しているか,というものでした.この質問に対する私の回答は,計測したデータに最もフィットする血流動態反応関数のパラメータを最適化で決定し,そのパラメータから決定していると返答いたしました.
・質問内容3
国立障害者リハビリテーションセンター研究所所属の森浩一さんからの質問です.こちらの質問は,タスクブロックごとの成績の差はどうなっているか,というものでした.この質問に対する私の回答は,まだ確認できていないと返答いたしました.
・質問内容4
中央大学所属の壇一平太さんからの質問です.こちらの質問は,ピーク値の差からネットワークが説明できる理由がわからないというものでした. この質問に対する私の回答は,注意から記憶保持の順に活動が生じると考えたためですと回答いたしました.
2.3. 感想
解析手法の実装に時間がかかり,肝心の脳機能の検討に時間を割くことが出来なかったことです.しかしこの手法に多くの方が興味を示してくださり嬉しかったです.また建設的な意見も得ることができ,今後の研究活動へのやる気が向上しました.
3. 聴講
今回の講演会では,下記の1件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 脳血液動態の位相が意味するもの
著者 : 多賀厳太郎
セッション名 : 大会長講演
Abstruct : 脳機能の研究の歴史を見れば、局在論と全体論との聞を揺れ動きながら発展してきたことがわかる。特定の感覚・知覚・運動・認知に関連して発火頻度を変化させる神経細胞が脳の特定の場所に局在することは、脳の機能局在性を示している。一方、異なる場所の神経細胞どうしの発火のタイミングに、情報がコードされていることを示す知見は、神経細胞がネットワークを形成し、脳が全体として機能することを示している。 これらのことから、神経活動の摂幅と位相は、機能の局在性と全体性の側面をそれぞれ表していると捉える事ができる。
近赤外分光法(NIRS)による脳機能イメージングは、磁気共鳴画像(MRI)による脳機能イメージングと同様に、神経活動と血液動態との密接な関係性、すなわち、神経血管結合に依拠する方法である。神経活動にともなう局所的な脳血液動態は、数cm間隔で‘頭表に格子状に配置された近赤外光の照射部と検出部により、酸素化および脱酸素化へモグロビンの濃度の脳表での多チャンネノレのイメージングとして捉えられる。特定の機能に関連して、ヘモグロビン信号の振幅の変化を示す脳領域を同定することが、脳機能イメージングの標準的な手法として用いられてきた。ただし、脳内で散乱する近赤外光の光路長の情報が得られない場合には、ヘモグロビン信号の変化の絶対値を得る事ができないという限界もある。
一方、信号のチャンネル間の相関は、信号の絶対値に依存しない量である。 特に、自発活動のチャンネル間の相関は、脳の大域的な機能的結合のネットワークの特徴を明らかにするために用いられてきた。さらに、信号変化の位相は、信号の振幅の変化とは独立に、時間的な情報を示す。NIRSは、酸素化および脱酸素化ヘモグロビンの両者の変動を、MRIに比べて高い時間分解能で計測し、より多くの時間情報を捉えている。例えば、個々のチャンネノレにおける俊素化および脱酸素化ヘモグロビンの変動の位相差は、脳血液動態の情報を含んでいる。 また、チャンネノレ聞の位相差は、情報の流れの方向性や、脳の機能的ネットワークの様相を表す。さらに、刺激による位相反応曲線の分析により、自発活動と刺激誘発活動との関係性を調べることができる。
NIRS は、乳児の脳機能の研究に有効である。 生後数ヶ月の脳において、脳回レベルの空間分解能で、多様な脳機能に関連する局在性が見られる。また、脳全体の機能的ネットワークの発達過程も示されている。さらに、NIRS信号の位相に着目することで、神経血管結合の発達や、睡眠状態の違いに応じた脳活動の位相同期パターンの違い等も明らかになりつつある。今後、MRIによる脳の構造に関する情報を融合し、非線形動力学シミュレーションや情報理論を導入し、脳全体における活動の時空パターンの発達を精査することで、脳の構築原理の必要条件が明らかになると期待される。その際、NIRS信号の位相は、重要な手がかりとなると考えられる。
この発表は乳児の脳の発達をfNIRSの計測データの位相に着目して観察したものでした.生物の発達には位相が重要な意味を持つことから,fNIRSでデフォルト状態の乳児の血流変化を計測し,発達時期の異なる乳児と位相の位置関係の関係を観察している.血流変化をみる脳機能イメージングにおいて,脳機能の検討はその波形から考えることが従来の方法であるため,位相を見るという発想には驚き,しっかりと発達によって位相が変化していることに驚きました.fNIRSの新たな可能性を感じることが出来ました.
参考文献
1) 第18回日本光脳機能イメージング学会, http://jofbis.umin.jp/