進化計算シンポジウム 2016

進化計算シンポジウム2016が2016年12月10日~11日にかけて、千葉県九十九里にある一宮シーサイドオーツカにて開催されました。本研究室からは、廣安先生、原田圭(M1)の2名が参加しました。シンポジウム2日目の11日に、廣安先生、原田がショートプレゼンとポスター発表を行いました。また、進化計算シンポジウムの前々会長にあたる廣安先生は、進化計算シンポジウム2016における閉会の辞も述べられました。発表題目は以下の通りです。
「脳機能イメージングデータにおける進化計算による特徴量抽出」
廣安知之、郡悠希、原田圭、日和悟
「fNIRS のチャンネル選択問題におけるNSGA-II とMOEA/Dの探索性能比較」
原田圭、日和悟、廣安知之
進化計算シンポジウムは毎年1回開催され、進化計算分野の研究者が都道府県から集まり、一年間の成果を発表する場です。このシンポジウムの特色としては、参加者全員がホテルに泊まりこみで行う合宿形式を採用している点です。その日出会ったばかりの他大学の学生と夕食や寝室、さらには温泉も共に入り、研究のみならず飽くなき議論を行うことができる環境にあります。今回は千葉県の九十九里で開催され、屋上の展望台からは九十九里浜を一望できる素晴らしい環境に位置していました。
また、例年の進化計算シンポジウムと違う、新たな試みとして企業の方をお招きしての講演が2件ありました。企業では、どのような形でどのようなモチベーションで進化計算や最適化を実問題に適用しているのか。企業が進化計算シンポジウムに今後期待していることや、それに対する進化計算シンポジウム側からの提案など、学生の私にとって目からウロコのような話の連続で大変勉強になりました。
本シンポジウム2回目の参加となる私は、昨年のシンポジウムや進化計算分野の学会で出会った多くの先生方や友達と再会でき、楽しい日々を過ごすことができました。私にとってのシンポジウム参加の大きな収穫は、一年間の研究を通して、昨年に比べてより濃厚な研究議論を参加者とできたことです。そして逆に、ポスターにて説明をしていただいた先生方の研究への取り組む姿勢や成果を肌で感じ、より一層の努力が今後必要であると自覚しました。この経験を糧に、また成長した姿を進化計算シンポジウムで会う先生方や学生にみせられるよう、これからまた一年間自身の研究に邁進致します。
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【文責:M1 原田】

 
学会参加報告書

報告者氏名 原田圭
発表論文タイトル fNIRS のチャンネル選択問題におけるNSGA-II とMOEA/Dの探索性能比較
発表論文英タイトル Comparison Study of Search Performance of NSGA-II and MOEA/D in fNIRS Channel Selection Problem
著者 原田圭, 日和悟, 廣安知之
主催 進化計算学会
学会名 進化計算シンポジウム2016
会場 千葉県九十九里 一宮シーサイドオーツカ
開催日程 2016/12/10-2016/12/11

 
 

  1. 講演会の詳細

2016/12/10から2016/12/11にかけて、千葉県九十九里にて開催されました進化計算シンポジウム2016に参加いたしました。進化計算シンポジウムは、進化計算学会によって主催された国内学会で、進化計算分野の活性化を図るために議論・ショートプレゼン・ポスターセッションを行い、今後の進化計算分野の大きな発展を目的に開催されています。また、この学会は合宿形式で行われ、夜中まで様々な方と議論する機会に恵まれています。今回は、78件のポスター発表があり、例年に増した盛り上がりを見せました。本研究室からは廣安先生、M1原田が参加しました.
廣安先生と私はそれぞれ、11日の9:00~10:40で2分間のフラッシュトーク及びポスターによる研究発表を行いました.脳機能を進化計算で解明する研究発表をした廣安先生、原田のポスターには、多くの方に足を運んで頂き、様々な議論を交わすことができました。
また、進化計算シンポジウムの閉会式では、前々会長を務めた廣安先生による閉会の辞を述べられました。
進化計算学会ホームページ http://www.jpnsec.org/symposium201603.html

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は、11日の9:00~10:40にかけてのポスター発表に参加致しました。発表形式は1人2分のフラッシュトークと1時間のポスター発表形式で行われました。
今回の学会発表では、脳機能の解明において脳状態の識別率と脳部位数にトレードオフ関係を想定し、多目的最適化問題として定義し、それをNSGA-IIとMOEA/Dによる解法を行いました。その結果、明らかに探索が行われない空間が存在し、MOEA/Dのよる重みベクトルの遷移を確認することで実問題での困難性が示唆されました。1時間という発表の中で、先生方や他大学の学生に貴重な意見を頂きました.以下に抄録を記載致します.

functional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)装置やfunctional Near Infrared Spectroscopy(fNIRS)装置をはじめとする脳機能イメージング装置を用いて,脳機能の解明を目指す研究が盛んに行われている.fNIRS装置は,近赤外光を用いてヒトの脳神経活動時に起きる脳の血流量変化を多チャンネルに分けて計測している.脳の血流量変化の計測は,頭部表層の神経細胞の活動を推定し,ヒトが思考・行動する時に重要となる脳部位を検討できる.脳は,機能局在性のために脳領域によって担う機能が分化している.そして,それら複数の脳部位が協調することで思考や行動を行っており,脳部位間のつながりを検討することは重要になる.すでに我々は,fNIRSデータに対して組み合わせ最適化手法であるGenetic Algorithm(GA)と機械学習のパターン分類手法を用いることによって重要となる脳部位を抽出する研究を行っている.しかし,fNIRSのチャンネル選択問題を脳状態のパターン分類による識別率最大化を目的関数とした単目的最適化問題として捉えており,高い識別率を求めるために多数の脳部位が選択されたため脳機能の解明が困難であった.我々は,ヒトが思考・行動する時に大きく寄与する脳部位の組み合わせを発見することで、脳機能の解明を試みている.ヒトが思考・行動をする際,脳内では膨大な数の脳部位が協調して情報処理を行っており,どの脳部位が欠けても正常に機能しない.つまり,脳機能の解明を行うため,少数の脳部位に焦点を絞ると,それらの脳部位だけで脳全体を説明することは困難であると考えられる.ここで,思考・行動に対する脳部位の寄与とその脳部位数にトレードオフ関係があると考えられる.そこで本稿では,fNIRSデータにおける重要なチャンネル選択を多目的最適化問題として捉える.これにより,膨大な脳部位の組み合わせの中から,どの脳部位が思考・行動に大きく寄与しているかを客観的に判断でき,脳機能の解明を行うことができるようになる.トレードオフ関係を考慮することができる多目的最適化手法には,高速非優越ソートアプローチを持つNon-dominated Sorting Genetic Algorithm-II(NSGA-II)とスカラー関数に基づいて分割された複数の単目的最適化問題の最適化を行うMultiobjective Evolutionary Algorithm Basedon Decomposition(MOEA/D)を用いる.本稿ではfNIRSデータにおける多目的最適化問題に対して,二種類の多目的最適化手法により重要なチャンネル組み合わせを探索した.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
脳状態の識別率最大化、選択CH数の最小化という2目的関数について考慮したとき、CH数が少なく識別率が低い解が探索されやすい構造ではないかと質問を受けました。そのため、一度重みベクトルによる偏った探索が行われてから、識別率の最大化へ向かうため、今回の結果のような偏った重みベクトルの探索がされている可能性があると指摘されました。この質問に対して、私が今後重みベクトルを疎な方向へ向けて探索するアルゴリズムを開発する予定であると伝えました。すると、それよりかは選択CHごとに水平に重みベクトルを置いて探索するほうが確実であると助言されました。
 
・質問内容2
結果の部分で、探索パレートが偏るのは、2目的関数である脳状態の識別率と選択CH数の最小化が全く別次元であるから当然ではないのか、という質問を受けました。比較対象にしていたナップサック問題では、2つの目的関数がどちらもナップサックであるため、そして分解能が同じであるため、きれいなパレートフロントが存在するはずといわれました。それを受けて、私はfNIRSのチャンネル選択問題において疎の目的関数空間を探索し、真のパレートフロントの確認をすべきだと気づき、そのように回答しました。
 

  • 感想

昨年に引き続き2度目の進化計算シンポジウムの参加となりました。今回は、自身の研究を2年間行い、また様々な進化計算の知識を蓄えて臨んだこともあり、自分にとって実りの大きい学会となりました。しかし、他の学生や教員の方々の知識は、私の知識をはるかに上回っており、さらなる研究に対する努力の必要があることを実感しました。本学会では、積極的に自身の研究とは異なる進化計算の利用方法を行っている学生のポスターにも足を運び、そして議論をすることができました。時には先生方から研究について解説してもらいました。そして、学会の醍醐味である夜の宴会では、多くの学生と研究や今後について語り合うことができ、楽しいひと時を過ごすことができました。また、来年一段と成長した姿で先生方や生徒に会えるよう、精一杯頑張って参ります。

  1. 聴講

今回の学会では,下記の2件の発表を聴講しました.

発表タイトル:局所個体群のfitness に基づくfitness 景観の勾配推定を導入した花火アルゴリズム著者    : 余俊, 高木英行
セッション名: ポスターセッション1
概要: 群知能・進化計算は,個体ベースの最適化探索手法で,単純,ロバスト,並列処理,処理能力などの特長から関心と応用が拡がっている.群知能は生物進化に由来する演算に拘ることなく,複雑な個体群の振る舞いを単純な個体間の相互協力で表現するよう模擬するものであり,particle swarm optimization 1) ,artificial bee colony ant colony optimization 2) など多くのアルゴリズムが広く使われている.
2010年に提案された花火アルゴリズム(Fireworks Algorithm: FA) 3) もそのうちの一つである.花火が夜空に打ち上げられると炸裂点の周りにスパークが飛び散る.花火アルゴリズムは,この大小の複数の花火が夜空に広がる様子を,夜空(探索空間)に複数の花火炸裂点(探索点)があり,各炸裂点の周りにスパーク(局所探索点)を散らしながら徐々に大局的最適解に集中していく,と模擬したアルゴリズムである3) .最近は様々な改良型花火アルゴリズムが提案されている.例えば,Enhanced Fireworks Algorithm (EFA) 4) はオリジナルの花火アルゴリズムの演算を改良し性能向上を図ったものであり,Two-stage Explosions Fireworks Algorithm (TsEFA) 7) は広域探索と局所探索のバランスを強調した改良である.
しかし,これらの改良アルゴリズムも含めてこれまでの花火アルゴリズムは,生成された多くの花火のスパーク(探索点)利用に焦点を当てておらず,次世代探索点決定以降はもう使われない.本論文では,花火の炸裂点fitnessとスパークfitnessの差を考慮した,局所合成スパークの概念を導入する.さらに,オリジナルの花火アルゴリズムで使われている距離ベースの選択ではなく,個体群の多様性維持のために局所最適選択戦略を採用する.
以降では,第2節で花火アルゴリズムも枠組みを概観し,第3節で提案法を述べる.第4節では,3種類の次元数×20個のベンチマーク関数で提案手法を評価してオリジナルの花火アルゴリズムと比較する.最後に第5節で考察し第6節で結論を述べる.

この聴講は、花火アルゴリズムとはなんだろうと思い、ポスターを聴講しに行きました。その場で高木先生が私に問いかけてくる形で説明してくれました。最適化探索において、良い解が集中しているところ、悪い解があるところ、その時の探索範囲や個体数の話から始まり、花火アルゴリズムで考えるべきところはどういった視点かを教えていただきました。また、研究をするうえで、ただツールを比較するのではなく、違いを述べたいのなら正当な検定を使うことや、比較結果から使用したアルゴリズムのどこが悪くてどこを向上させれば探索が効率的になるのかなど、多くのことを勉強させて頂きました。
 

発表タイトル       :探索空間に注目した進化型多目的最適化手法の探索性能比較著者                  : 谷垣 勇輝,能島 裕介,石渕 久生
セッション名           : ポスターセッション1
概要: 進化型多目的最適化 (Evolutionary Multiobjective Optimization: EMO) では,複数の目的関数を同時に考慮した最適化が進化型探索に基づいて行われる.これま
で多くのEMOアルゴリズムが提案されており,それらの性能は一般的にテスト問題によって調べられる.有名なテスト問題として,DTLZ [1]やWFG [2]といったテスト問題セットが挙げられる.これらは,収束性の難しさやパレートフロントの形状に関して異なる特色が
定義された問題群によって構成されるベンチマークセットである.しかし,これらのテスト問題では目的関数空間における実行可能領域の形状を共通の方法で定義しており,探索空間の形状に注目した場合,ベンチマークセットに含まれる問題は共通の特徴を持っている.そのため,これらのテスト問題を用いた性能評価では,探索空間の形状がEMOアルゴリズムの探索性能に及ぼす影響を調べることが難しい.
Masudaらによって提案されたテスト問題フレームワーク [3]では,B-Spline [4]を用いて目的関数空間における実行可能領域を定義しており,探索空間の形状を自由に変更できるという特徴がある.本論文では,既存のEMOアルゴリズムが得意,不得意とする実行可能領域の形状を,フレームワークを用いて作成することで,探索空間の形状が探索性能に及ぼす影響を調べる.このとき,アルゴリズムが得意,不得意とする実行可能領域の形状は,EMOアルゴリズムで探索した結果に基づくメタ最適化で策定する.
本論文の構成は次の通りである.まず第2章においてDTLZ, WFGに含まれるテスト問題の実行可能領域の形状を示す.次に第3章でB-Splineを用いた実行可能領域の定義方法について説明する.第4章において,メタ最適化を用いた実行可能領域の形状最適化について説明し,第5章で既存のEMOアルゴリズムに対してメタ最適化で得られたテスト問題の特徴を示す.また,それらの実行可能領域の形状の違いが各EMOアルゴリズムの探索に及ぼす影響について調査する.最後に第6章をまとめとする.

この聴講では、問題の困難性について自ら問題を設計する、という研究で大変面白く聞かせて頂きました。特に面白かったのが結果のところで、真のパレートフロントを獲得するためには疑似パレートフロントから抜け出す必要があり、そのためには一度探索を戻さないといけない点でした。この点において、MOEA/Dでは現在獲得している個体群の中から重みベクトルによる探索を行うことが弱点になることがあるなど、自身の研究にも似た点があり、興味深かったです。