第93回日本消化器内視鏡学会総会

2017年5月11日から13日にかけて大阪国際会議場とリーガロイヤルホテルにて,第93回日本消化器内視鏡学会総会が開催されました.本研究室からは廣安 知之 教授,岡田 雄斗(M2),石田 直也(M2)が参加しました.
本研究室から本学会への参加は初めてであり,我々の研究が医師からどのように評価されるのかを体感すべく参加しました.本学会には日本中の大学や病院から内視鏡を取り扱う医師が参加し,最先端の情報や症例の報告が医学的観点からなされました.その中で,私が口頭形式,石田がポスター形式で発表しました.発表題目は以下の通りです.

  • 「胃部LCI内視鏡画像を用いたHp感染識別アルゴリズムの構築」
    岡田雄斗,八木信明,北江博晃,冨江晃,市川寛,廣安 知之
  • 「胃部NBI内視鏡画像を用いた病変部位の自動推定」
    石田直也,八木信明,北江博晃,冨江晃,市川寛,廣安知之


口頭発表では5分の発表と2分の質疑応答,ポスター発表では4分の発表と2分の質疑応答と短い時間にもかかわらず,多くの質問や意見をいただくことができ,自分たちの研究の存在意義を強く再確認することができました.今後,どんどん医学学会に進出していこうとする中で,とても有意義な学会となりました.


【文責:M2 岡田】

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
岡田雄斗
発表論文タイトル 胃部LCI内視鏡画像を用いたHp感染識別アルゴリズムの構築
発表論文英タイトル Diagnosing Algorithm of Helicobacter Pylori Infection on Gastroscopy Image by Linked Color Imaging
著者 岡田雄斗, 八木信明, 北江博晃, 冨江晃, 市川寛, 廣安知之
主催 日本消化器内視鏡学会
講演会名 第93回日本消化器内視鏡学会総会
会場 大阪国際会議場,リーガロイヤルホテル
開催日程 2017/05/11-2017/05/13

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/05/11から2017/05/13にかけて,大阪国際会議場とリーガロイヤルホテルにて開催されました,第93回日本消化器内視鏡学会総会(http://plaza.umin.ac.jp/jges93/)に参加いたしました.この学会は,日本全国の消化器内視鏡を用いる医者が集まり症例報告や技術の報告を行う学会です.
私は全日参加いたしました.本研究室からは他に廣安先生,石田直也が参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は12日の午後のセッション「一般演題 口演74 胃-HP関連」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,5分の講演時間と2分の質疑応答時間となっておりました.
以下に抄録を記載致します.

【背景】特殊光色彩強調機能として発売されたLinked Color Imaging(LCI)は,ピロリ菌(Hp)感染の特徴であるびまん性発赤を強調するが,その感染診断には客観的な指標がない.【目的】我々はこれまでLCI画像には,Fig.1のようにHp感染による炎症の色が赤に近い色を示す画像と,Fig.2のように紫に近い色を示す画像の2種類が存在することを明らかにした.さらに,ヒストグラム解析により紫に近い色は色相が高く,赤に近い色は色相が低いことがわかった.そこで本稿では,LCI画像を2種類に分類した後,それぞれにおいてSupport Vector Machine(SVM)によりHp感染識別を行い,その後症例毎にHp感染診断を行う多段階識別アルゴリズムを提案する.【方法】対象は,朝日大学歯学部附属村上記念病院にて内視鏡検査(LCI観察)およびHp感染診断を施行した33症例130画像である.まず画像における色相が高い部位を関心領域とした.そして関心領域の割合が高い画像を高色相画像,他の画像を低色相画像として分類した.高色相画像では関心領域の割合・関心領域における色相の平均値と中央値を,低色相画像では色相の中央値と分散・彩度の最頻値を特徴量としてSVMにより識別を行った. 【結果】Accuracyは高色相画像では90.48%,低色相画像では85.23%となった.また,画像毎に識別された結果を基に症例毎のHp感染診断を行った結果,33症例中32症例が正しく識別された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
京都第一病院の方から,「今回はびまん性の画像だけ使ってるのか.除菌後のデータがあるならどれくらいの時間がたったものを使っているのか」と質問をいただきました.それに対して「萎縮性の画像もある.除菌後の時間はわからない」と答えました.
・質問内容2
松下記念病院の方から,「観察する角度・距離によって,医師の精度はかわるが, 撮像は角度等を決めて撮像しているから システムはうまくいくのでは?さまざまな角度や距離の画像に対して検討をしてほしい」とのご意見をいただきました.
 

  • 感想

初めての医学学会で,医師の方が多い場での発表で久しぶりに緊張してしまいました.しかし座長の方や先生,企業の方から誉めていただき,初めて外部における私の研究の意義を感じることができよかったです.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : Helicobacter pylori除菌後胃癌におけるVS classification systemの有用性
著者                  : 宮岡正喜, 長浜孝, 八尾建史
セッション名       : ワークショップ02 Hp除菌後胃癌の内視鏡診断における問題点
Abstruct            : 【目的】近年Helicobacter pylori(以下HP)除菌後胃癌が発見されるようになったが,従来の胃癌診断学では診断困難な症例が存在する.そこで我々はHP除菌後胃癌の拡大内視鏡診断におけるVS classification system(以下VSCS)の有用性を明らかにすることを目的とし以下の検討を行った.【方法】対象は2016年1月から2016年10月までに当院当科にて内視鏡的粘膜下層剥離術を施行した分化型胃癌120病変(114症例)のうち,HP除菌の有無が明らかな67病変を対象に組み入れた.retrospectiveにVSCSに準じてmicrovascular pattern, microsurface pattern, demarcation line(以下DL)の頻度を算出し,HP除菌後胃癌群(除菌群)とHP陽性胃癌群(未除菌群)別にVSCSのどの所見が診断に有用かを求めた.【結果】除菌群は21病変,未除菌群は46病変であった.患者背景[除菌群vs 未除菌群]において,平均年齢(歳):71.2 vs 72.1,男女比:6.0 vs 3.6,病変部位(U/M/L):4/8/9 vs 10/16/20,平均腫瘍長径(mm):17.5 vs 17.2,肉眼型(隆起型/平坦または陥凹型):5/16 vs 12/34,腫瘍組織型(超高分化腺癌を含む癌/その他の異型度癌):11/10 vs 13/33であり,除菌群で超高分化腺癌を含む癌の頻度が高い傾向(P=0.059)にあった.NBI併用拡大内視鏡所見(VSCS所見)[除菌群vs未除菌群]ではirregular microvascular pattern(IMVP)あり/なし:19/2 vs45/1,irregular microsurface pattern(IMSP)あり/なし:14/7 vs 44/2,DLあり/なし:20/1vs45/1であり,IMVP出現頻度及びDL同定には有意差を認めなかったが,除菌群でIMSP出現頻度低下(P=0.002)に有意差を認めた.【結語】本研究により癌の表面が非癌粘膜に類似した所見を呈することで胃癌拡大内視鏡診断を困難にさせている可能性が示唆された.従って,除菌後胃癌では,表面微細構造より微小血管構築像が診断の指標としてより重要と考えられた.

NBIを用いた胃癌の診断において指標として有名なVS-classificationがピロリ菌除菌後の内視鏡画像でも使えるか検討する発表でした.微小血管構築像は見ることはできるが,除菌によって粘膜が変化し,表面微細構造は見ることができなくなるようでした.今後我々が胃癌の検出を進めていくためにはこれらの要因も考える必要があると感じました.
 

発表タイトル       : Helicobacter pylori除菌後胃癌に対するChromo-LCI拡大内視鏡の有用性
著者                  : 北川善康, 鈴木拓人, 山口武人
セッション名       : ワークショップ02 Hp除菌後胃癌の内視鏡診断における問題点
Abstruct  :【目的】Helicobacter pylori除菌後に発生する胃癌は,低異型度上皮(ELA)に被覆されることがあり,拡大内視鏡観察を行っても胃炎との鑑別に苦慮することが多い.我々は新規の画像強調モードであるLCIにインジゴカルミン散布を併用したChromo-LCI拡大内視鏡により従来の拡大内視鏡と比べ微小血管・表面微細構造の視認性が向上すると報告してきた.今回,除菌後に発見された胃陥凹性病変の質的診断におけるChromo-LCI拡大内視鏡の有用性についてBLI拡大内視鏡と比較検討する.【方法】2014年12月から2016年5月までにBLI,Chromo-LCI拡大内視鏡観察を行い生検または内視鏡的切除によって病理診断が得られた除菌後の胃陥凹性病変100例(癌54例,非癌46例)を対象とした.BLI,Chromo-LCIで同一条件下に撮像した各代表画像を4枚抽出し,熟練医3名がVS classification systemを用いて癌/非癌の質的診断を行った.<検討1>正診率,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率についてModality間で比較した.さらに,IMVP・IMSP別にそれぞれの正診率を比較した.<検討2>検者間一致率をFleissのkappa係数で評価した.<検討3>癌症例をELAあり/なしに分類しModality間で感度を比較した.なおELAは腫瘍の1/3以上で認められた場合に有意とした.【結果】<検討1>BLI/Chromo-LCIの質的診断能は正診率:67.0%/77.0%,感度:58.0%/71.0%,特異度:78.3%/84.1%,陽性的中率:75.8%/83.9%,陰性的中率61.4%/71.2%であり,Chromo-LCIにて正診率および感度の有意な向上を認めた(p<0.05).IMVPに基づくBLI/Chromo-LCIの正診率は66.5%/74.7%,IMSPに基づくBLI/Chromo-LCIの正診率は65.6%/67.5%であり,Chromo-LCIにてIMVPに基づく正診率の有意な向上を認めた(p<0.05).<検討2>検者間一致率はkappa係数がBLIで0.472,Chromo-LCIで0.559と,Chromo-LCIで高値であった.<検討3>ELAあり/なしは28例/26例であった.BLI/Chromo-LCIの感度はELAあり例で45.2%/63.1%,ELAなし例で71.8%/79.5%であり,ELAあり例でChromo-LCIにて感度の有意な向上を認めた(p<0.05).【結論】Chromo-LCI拡大内視鏡を用いることでBLI拡大内視鏡と比べIMVPの視認性が向上し,ELAを伴う胃癌に対する感度が向上したと考えられた.Chromo-LCI拡大内視鏡は除菌後胃癌に対する有用なModalityとして期待される.

LCIはインジゴカルミン法による内視鏡観察の代替になるよう開発された技術ですが,インジゴカルミンを散布した後にLCIにて観察することにより,どのように強調されるかを発表されておりました.実際に,散布した方が診断精度は向上するようで,代替を考えることも必要ですが,今までの技術を併用することの重要性も感じることができました.
 

発表タイトル       : 地図状発赤と除菌後胃癌に関する検討
著者                  : 森畠康策, 加藤順, 北野雅之
セッション名       : ワークショップ02 Hp除菌後胃癌の内視鏡診断における問題点
Abstruct            :目的:我々は,早期胃癌に対する内視鏡治療後にヘリコバクターピロリ菌除菌を行った後の異時性多発癌の危険因子として,除菌後の地図状発赤(MR)の出現が重要であることを報告した(Dig Endosc. 2016, 28(4), 434-442).MRは腸上皮化生の一表現型との見方が強いが,発癌との関係は明らかではない.また,MRの自然経過についても明らかではない.そのため,MRの臨床背景の特徴と,除菌後胃癌との関連性について検討した.方法:2005年5月から2015年7月まで当科で早期胃癌に対して初回の内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った564例を対象とした.その中で胃癌発見より1年以上前に除菌をし,ESD時にMRを認めた20例とESD後除菌を行い,1年後以降の初回内視鏡でMRを認めた54例の計74例を検討対象とした.これらからMRの臨床背景因子,発生前後の内視鏡的変化,自然経過,内視鏡治療後の異時性発癌とMRとの関連について検討した.結果:男性66例,女性8例(平均年齢69.0±7.5歳).MRの出現場所は,噴門-体部-胃角71例,前庭部15例(重複あり)であった.以前の内視鏡像と比較可能であった60例でMRの出現の仕方を検討するとび漫性発赤から除菌により周囲の発赤が軽減し,MRが出現した症例が45例(75%),もともと萎縮のあった,もしくは,発赤のない胃粘膜から出現した地図状発赤は15例(25%)であった.地図状発赤の1年以上の経過を追えた59例では,制酸剤の使用継続は17例(H2-blocker 9例,PPI 5例)で,1例でMRが消失した.ESD後の異時性発癌は27例であった.平均腫瘍径8.3±5.1mm,場所(体部-胃角部/前庭部)が20/7,色調(発赤/周囲と同程度の白色/混合)が19/6/2,肉眼型(IIa/IIa+IIc/IIb/IIc)が7/1/1/18,病理(tub1/tub2/混在)が22/1/4であった.異時性発癌がMR内から発生したものは12例(44.4%)であった.前庭部のみにMRがある3症例では,異時性癌の発生は見られなかった.また,MRの出現の仕方で異時性癌のリスクとならなかった.結論:MRの出現は,ほとんどが除菌前のび漫性発赤から炎症が軽減し,周囲の発赤がとれ,もともとあった発赤が浮かび上がり,MRとなることが多かった.しかしながら,萎縮した白色領域や胃粘膜から発赤が増強し,出現するMRもあった.このMRの出現の仕方で異時性癌のリスクに差異はなかったが,除菌後異時性癌は大きさが小さく,平坦陥凹型が多いために見つけにくい.しかし,体部の中間帯に出現することが多いため,これらを意識して除菌後のフォローをすることが大切と考えられた

この発表で着目したのは,ピロリ菌除菌後に現れると言われている地図上発赤と胃癌の関連を検討した部分です.ピロリ菌の感染を診断するために京都分類が制定されましたが,この京都分類をもう少し勉強すればシステムに取り入れることができるようになるのではないかと考えるきっかけになりました.
 
 
参考文献

  • JGES2017,URL:https://confit.atlas.jp/guide/event/jges93/top

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
石田直也
発表論文タイトル 胃部NBI内視鏡画像を用いた胃がんの検出
発表論文英タイトル Detection of gastric cancer using endoscopy with Narrow Band Imaging.
著者 石田直也,八木信明,北江博晃,冨江晃,市川寛,廣安知之
主催 日本消化器内視鏡学会
講演会名 第93回 日本消化器内視鏡学会総会2017
会場 大阪リーガロイヤルホテル・大阪国際会議場
開催日程 2017/5/11-2017/5/13

 
 

  1. 講演会の詳細

2017年5月11日から5月13日にかけて,大阪のリーガロイヤルホテルにて開催されました第93回日本消化器内視鏡学会総会に参加して参りました.本学会は,日本消化器内視鏡学会により主催され,日本全国から内科の医師らが集まり,症例報告や手技の提案を行う学会です.
本研究室からは,私とM2岡田君で参加しました.学生としての参加はおそらく私たち二人であり,本などを多く執筆する先生方も多くいらっしゃいました.また,企業も多く参加していました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は12日のポスター発表 胃―診断というセッションに参加しました.発表時間はポスター4分質疑2分です.
今回の発表では,Superpixelを用いる事によってDemarcation Lineを断定可能になり,35枚の画像における感度79%達成したことを報告しました.

【背景】胃癌の拡大内視鏡診断には,Yaoらの提唱するVS(vessel plus surface)classification systemが広く用いられている.しかし,この診断は目視により行われ,定量的な指標が存在しない.【目的】画像処理を用いたNBI併用(拡大)観察における早期胃癌の検出と DL の推定の支援を行うシステムを開発した.【手法】朝日大学歯学部附属村上記念病院にてNBI併用(拡大)観察を施行した早期胃癌 17病変(35 枚の内視鏡画像)を使用した.まず NBI画像を,似た領域の集合を表す Superpixel に分割した.次に,テクスチャ特徴量として病変にて低値を示す同時生起行列(GLCM),高値を示すランレングス行列(GLRM)を統合した値と模様を表すLocal Binary Pattern(LBP)を求めた.また,色特徴量として人の感覚に近い評価が可能とされるLAB色空間を使用した.Superpixel 毎にこれらの特徴量を平均し,Support Vector Machine(SVM)により病変・非病変の識別を行った.【結果】病変・非病変識別における Accuracy は 79.0±0.09%を記録した.また,病変確率を示すカラーマップは図右列のようになった.【結論】病変部位を定量的に検出し,カラーマップを基に早期胃癌のDL 推定を支援することが可能になった.
  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
組織型による精度の違いはあるのかという質問を頂きました.組織型とは,分化型癌か未分化型癌かということですが,それについては現段階では検討していないということをお伝えしました.すると,未分化型癌では構造が均一になる所見が報告されていることを教えていただき,GLCMなどの特徴量が逆転するようなことが実際に起きている事をお伝えしました.
 
・質問内容2
非拡大NBIのブラウニッシュの所見に上乗せする形でこのシステムを使うのかという質問を頂きました.非拡大の画像は対象にしていないということをお答えしましたが,おそらく,ただし回答ができておらず,正確には,非拡大NBIで病変疑いのある部位を,拡大した際に使うため,先生のおっしゃるような使い方で正しいということをお伝えするべきでした.
 

  • 感想

本学会は、工学系の学会ではなく、医師や農学博士などが多くいらっしゃいました。そのような方々から、再生医療の産業化に向けたこのソフトウェアは需要が高いことをしきりに言って頂き、大変嬉しく思いました。また、学会前日に本郷さんに研究背景を3時間にわたってご指導頂いたこともあり、発表当日には様々な質問に対応できたと考えています。また、研究進行に関して廣安先生、日和先生にご指導いただき、学会投稿では奥村先生、小泉先生、本郷さんなど多くの方にご指導を頂き、大変貴重な体験を与えてくださった先生方に感謝いたします。
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 高・中分化型早期胃がんにおける非拡大IEE所見の検討
著者                  :小林正弥, 渡二郎, 三輪洋人
セッション名       : 非拡大IEE(Image Enhanced Endoscopy)による消化管腫瘍の拾い上げ診断: その有効性と限界
Abstruct            :【背景】近年、胃病変において拡大機能を用いた画像強調内視鏡(IEE)による微細な表面構造や血管構造の観察で癌病変、非癌病変の鑑別が可能とされ、病理学的検討からもその有用性は広くコンセンサスが得られている。しかしながら、実地医療の現場において多くの施設では拡大内視鏡を有しておらず、また通常のスクリーニング検査では非拡大IEE観察により診断せざるを得ない場面も依然として多いのが現状である。【目的】非拡大IEE観察による癌、非癌の鑑別の有効性を検討する。【対象と方法】2013年7月から2016年4月まで当科で経験し、生検未施行で良好な画像が得られ、病理学的診断がなされた連続した10mm以下の表面陥凹型(0-IIc)の早期胃癌18病変と中心部分に陥凹を伴う0-IIc様びらん111病変を対象とした。IEE観察において、<1>病変陥凹部分の色調が周辺粘膜に比し白色調か褐色調であるか、<2>陥凹の辺縁隆起部分が滑らかなwhite zoneで覆われているかを後方視的に比較検討した。【結果】<1>非拡大IEE観察における陥凹部分の色調は胃癌症例では白色調13例(72%)、褐色調5例(28%)であるのに対し0-IIc様びらん症例では白色調15例(14%)、褐色調96例(86%)であった(p<0.0001)。<2>辺縁隆起のwhite zoneは胃癌症例では境界が明瞭2例(11%)、不明瞭16例(89%)であるのに対し0-IIc様びらん症例では明瞭78例(70%)、不明瞭33例(30%)であった(p<0.0001)。<3>これらの両者の所見を有する場合の癌の診断の正診率は88.9%で、感度61.1%、特異度94.6%、陽性的中率64.7%、陰性的中率93.8%であった。【結論】高・中分化早期胃癌の非拡大IEE所見の特徴は、陥凹部の色調は白色状で、病変辺縁の不明瞭なwhite zoneであった。これらの所見を用いることで生検すべき病変を絞り込むことができる可能性がある。我々が検討中の所見も併せて非拡大IEE観察の有効性、限界について言及する。

抄録とは違い,後方視的にimageJを使って病変を囲み,その平均輝度や円形度を用いて非拡大NBI内視鏡画像から胃がん病変を拾い上げられるかという報告.平均輝度・円形度と,目視での確認を併用することで医師の拾い上げを支援できるという結果であったが,何より後方視的な検討であったため,画像処理を専門とする私からすると物足りなく感じた.しかし,シンプルな特徴量で十分に病変を差別化できるということは自身の研究にも応用すべき点だと感じた.
 
 
 

発表タイトル       : H.pylori 除菌後胃癌のリスクとなる内視鏡所見の検討
-白色光と LCI の比較も含 めて-
著者                  :土肥統, 中野貴博, 寺崎慶, 岩井直人, 上田智大, 間嶋淳, 岡山哲也, 吉田直久, 鎌田和浩, 内山和彦, 半田修, 石川剛, 小西英幸, 内藤裕二, 伊藤義人
セッション名       :胃- 除菌後胃がん2
Abstruct            :【目的】H.pylori除菌後胃癌のリスク因子となりうる京都胃炎分類の内視鏡所見を明らかにすること。【方法】当院において2015年11月から2016年10月にH.pylori除菌1年以上経過後に上部消化管内視鏡検査を施行し、胃炎の京都分類による背景粘膜の評価が可能であった症例を対象とした。内視鏡所見の萎縮A、腸上皮化生IM、びまん性発赤DRは3段階(高度2点・中等度1点・軽度0点)、皺壁腫大Fと鳥肌Nは2段階(所見あり1点・なし0点)で評価。胃底腺領域におけるRACの有無と除菌後の特徴的な変化と考えられる地図状・斑状発赤(発赤陥凹)に関しても、RAC;なし:0点、一部にあり:1点、全体にあり:2点、発赤陥凹;なし:0点、あり(前庭部のみ):1点、あり(前庭部・体部):2点の3段階にわけ、それぞれ白色光(WLI)とLinked color imaging(LCI)で評価した。除菌後に胃癌が発見された58例(CA)と胃癌が発見されていない36例(NC)の2群に分け、各内視鏡所見の頻度および内視鏡所見スコアの比較を行った。なお、今回の検討は当院の倫理委員会の承認を得ている。【結果】WLI観察でA2点はCA:NC=74.1:55.6%、IM2点はCA:NC=91.4:61.1%、DR2点はCA:NC=0:2.8%、F1点はCA:NC=10.3:2.8%、N1点はCA:NC=0:0%で有意差は認めなかった。しかし、IM2点はCA:NC=91.4:61.1%(P=0.0003)、発赤陥凹ありはCA:NC=70.2:36.1%(P=0.0018)、RACありはCA:NC=37.9:61.1%(P=0.029)でCAには有意に高度のIM、発赤陥凹の出現、RAC消失を認めた。LCIにおいてA2点、IM2点、DR2点、F1点、N1点、RACありは著変ないが、発赤陥凹ありはCA:NC=91.1:38.9%(P<0.0001)とWLIに比して有意差が大きくなった。また、FとNを除いた評価項目のスコア合計平均はWLI観察でCA:NC=4.62:2.94(P=0.0003)と有意にCA群で高値であり、LCI観察でも同様であった。【結語】H.pylori除菌後の胃底腺領域のRAC消失および発赤陥凹の出現は、新たな除菌後胃癌のリスク因子であり、これらの所見を加味した京都胃炎分類の内視鏡所見スコアはH.pylori除菌後胃癌リスクの判定に有用であると考えられた。また、皺壁腫大と鳥肌は除菌後に認める頻度が低くリスクの評価には適していないと考えられた。また、発赤陥凹所見の判定にはLCIでの観察が有用であると考えられた。

私のポスター発表にも質問してくださったKOPTの土肥先生の発表.知り合う前だったが聞いて
いた.LCIはびまん性発赤で有利である.RAC(Regular Arrangement of collecting venules)はピ
ロリ菌がいない指標として知られ,胃の中で毛細血管がきれいに並んだ毛穴のような状態をいう.こ
れが消失している事は除菌後胃がんの重要な因子であるという報告だった.除菌前後で所見が変
わってくるという報告がとても多くあるが,近年は除菌施行者や自然除菌が増え,多くの人が除菌
後の胃であることもわかった.
 
 
 
 
 

発表タイトル       : ヘリコバクター・ピロリ除菌後胃癌の微小血管構築像
̶画像解析を用いた比較̶
著者                  :花村祥太郎, 岩橋健太, 小澁尚子, 小林孝弘, 田淵晃大, 新谷文崇, 宮尾直樹, 吉田詠里加, 東畑美幸子, 林将史, 上原なつみ, 中西徹, 高野祐一, 山村詠一, 五味邦代, 黒木優一郎, 井上和明, 長浜正亞
セッション名       : 胃-除菌後胃がん1
Abstruct            :【背景】2013年2月にHelicobacter Pylori(HP)感染胃炎が除菌治療適応症に加わり、除菌治療は大きく広まった。今後増加すると考える除菌後胃で発症する早期胃癌の特徴について様々な報告がされている。【目的】早期胃癌病変の微小血管構築像について画像解析を加えることで血管構造の特徴を定量化して検討し、臨床への応用について検討した。【方法】当院でESD加療を施行し、病理組織診断で高分化型腺癌の診断を得た表面陥凹型の早期胃癌病変例99病変を対象とした。HP感染についてはESD目的の入院時に施行したHP血清抗体で判定を行い、カットオフ値は3.0U/mLとした。HP陽性が54例であり、残りの症例45例すべて、当院または他院で除菌加療歴のある患者であった。また、不規則な血管構造を認めるが生検病理組織診断で良性びらんと診断された65例を対照とした。NBI拡大内視鏡画像より、最も血管像が明らかと考える部位を128×128ピクセルの範囲を関心領域として設定し解析を施行した。解析ソフトとして、ProStudy<オリンパス社製>を使用し、解析のパラメータとして血管像の特徴項目を複数設定し、定量化を行った。HP陽性胃癌症例群と除菌後胃癌症例群間、除菌後胃癌症例群と良性びらん症例群で得られた数値を検定し差異を検討した。【結果】HP陽性胃癌と除菌後胃癌では、血管面積比、フラクタル次元、血管交点数というパラメータにおいて、有意差を認めた。また除菌後胃癌と良性びらんでは血管面積比、フラクタル次元、血管交点数、血管端点数、1本の血管長平均値で有意差を認めた。血管の本数では3群間に有意差は認めなかった。【考察】除菌後胃における早期胃癌はHP感染胃に比較して、微小血管構築像の所見が乏しくなる傾向を認めた。それでも良性びらんと比較すると、血管構造の特徴は顕著であると考える。除菌後胃における早期胃癌の内視鏡診断においてNBI拡大観察による血管構造が診断に有用と考える。

自身と同じように,画像解析を用いた解析を行う報告.本報告では,恣意的に128x128pixelで画像をトリミングし,その中に含まれる血管面積比・フラクタル次元・血管単点数・血管分岐点数+交差点数,描出血管数,血管長平均,血管画素数,総血管数などを算出していた.使用したソフトウェアはOLIMPYS社製のProStudyというソフト.血管のみをきれいに抽出しているようだったが,画像のトリミングできれいに取れる場所を取ってきている印象だった.しかし,微小血管構築増の定量化手法として,自身は色の平均しか見ていないので,血管抽出による血管の情報を直接特徴量として加える事で自身の研究にも良い効果が出るように感じた.