【速報】第5回進化計算学会研究会

第5回進化計算学会研究会が室蘭工業大学にて開催されました。
廣安は現在、進化計算学会の会長を務めています。
今回の研究会では、下記の発表を行いました。

  • 性能とコストのトレードオフを考慮したデータグリッドにおけるデータレプリケーションの検討100
  • 藤井亮助(M2)、山本詩子、廣安知之(同志社大学)

懇親会では、室蘭名物 焼き鳥をいただきました。
焼き鳥なのに豚なんですけどね。
 

学会参加報告書

 報告者氏名 藤井亮助
発表論文タイトル 性能とコストのトレードオフを考慮したデータグリッドにおけるデータレプリケーションの検討
発表論文英タイトル A Data Replication Method based on Relationship between Performance and Cost in Data Grid
著者 藤井亮助, 山本詩子,廣安知之
主催 進化計算学会
講演会名 第5回 進化計算学会研究会
会場 室蘭工業大学
開催日程 2013/09/12-2013/09/13
 

 
1. 講演会の詳細
2013/09/12から2013/09/13にかけて,室蘭工業大学にて開催されました第5回 進化計算学会研究会に参加しました.この進化計算学会は,進化計算に関する研究の推進および知識の普及を図り,学術の発展に寄与する事を目的とした学会です.
私は12,13日と全日程に参加しました.本研究室からは廣安先生が学会長として参加しました.
 
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は13日の午前のセッション「ポスターセッション2」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,1時間20分の発表時間となっておりました.
今回の発表は,以下に抄録を記載致します.

データレプリケーションは,データグリッドの性能を向上させるために用いられている.レプリカ配置の決定には,性能とトレードオフにあるコストを考慮しなければならない.本稿では,性能とコストの関係を事前に推定し,システムの管理者に最適なレプリカ配置を決定できる手法を提案する.性能とコストの関係を算出するために,レプリカ配置の探索問題を多目的最適化問題に定式化する.次に,多目的最適化手法により目的関数である性能とコストが最適となるパレート最適解集合を探索し,システムの管理者は得られた解集合からレプリカ配置を決定する.実験では,ストレージ容量の制約下で最適な関係を推定し,提案手法が有効である事を示した.

 
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
東京工業大学所属の小野先生さんからの質問です.こちらの質問は「レプリカ配置問題の最適化への定式化をどのようにしているのか」,「既存のデータレプリケーションによるレプリカ配置と今回の最適化によるレプリカ配置との比較はしていないのか」,「今回の実験ではシミュレーションソフトを使用しているのか.そうであれば,そのシミュレーションソフトはファイルへの同時アクセスを考慮しているのか.」の3つでした.
まず,1つめの質問に対して「性能を表す目的関数は,アクセス距離とアクセス頻度の2つの要素を考慮した式になっている.また設計変数はレプリカ配置の組み合わせです.」と準備していた資料を使いながら答えました. 2つめの質問に対しては,「現状では,既存のデータレプリケーション手法との比較はできていません.」と答えました.3つめのシミュレーションソフトの仕様に関する質問には,「シミュレーションソフトのシミュレーションの設定および多目的最適化の目的関数では,ファイルへの同時アクセスの場合を考慮していません.」と答えました.
 
・質問内容2
電気通信大学所属の佐藤寛之先生からの質問です.こちらの質問は「設計変数の大きさを削減するために,関連性のある複数のファイルを1つのアーカイブとして扱う案もあるのでは」というものでした.この質問に対する私の回答は,「確かにデータグリッドの環境では,複数のファイルに関連性がある場合が考えられるので,そういった方法は妥当だと思います.」でした.
 
・質問内容3
室蘭工業大学所属の渡邉真也先生からの質問です.こちらの質問は「ファイルのアクセスの内容や回数は,全てのサイトから均一か」というものでした.この質問に対して,「今回の設定では,各サイトからのファイルのアクセスは全て均一で実験しましたが,実際の想定している環境では,各サイトが異なるファイルおよび異なる回数を持ってアクセスする事が考えられる」と答えました.また,問題の前提条件を詳細に説明した方が良いとアドバイスを頂きました.
 
 
 
 
2.3. 感想
発表時間は1時間20分と非常に長い時間でしたが,実際に発表を行うと説明と質問に対する回答をする事に夢中になり,数分で出来事であったかのようにすぐに終了してしまいました.研究に対する質問は,対象問題のデータグリッドについて詳細に教えて欲しいというもの大半であり,前提の問題を上手く説明しきれていなかったのではないかという反省が残りました.聞き手側にどういった知識があり,どういった内容を重点的に教えるべきかを考える事が重要であると改めて感じました.
 
3. 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : MOEA/Dにおける理想点の高精度化のための探索方向ベクトルの分布制御に関する基礎検討著者                  : 佐藤寛之
セッション名       : ポスターセッション1
Abstruct            :代表的な進化型多目的最適化法のひとつであるMOEA/D (MOEA based on Decomposition)は, 多目的最適化問題を多数の単一目的最適化問題 に分解して,パレートフロントの近似を試みる.MOEA/Dは,解探索中に得られた各目的関 数の最良値(最小化問題なら最小値,最大化問題 なら最大値)からなる理想点ベクトルを基準としてパレートフロントの近似範囲を決定し,その範囲を等間隔に近似するために均一分布の重み ベクトルに基づく集約関数群を最適化する. 真のパレートフロントを近似するためには,各目的関数の最良値ベクトルである真の理想点が必要だが,当然ながら真の理想点は未知である. パレートフロントを分解する基準にする解探索中に獲得した理想点が,真の理想点から乖離していると,真のパレートフロント全体を近似することが出来ない.真のパレートフロント全体を近似するためには,真の理想点に近い理想点を解探索中に獲得する必要がある. 本稿では,MOEA/Dのフレームワークのもとで,より高精度な理想点を獲得することを目的とする.重みベクトルの分布を制御することによって,各目的関数の最良値の積極的な獲得を試みる方法を提案し,その効果を検証する.
 

この発表はMOEA/Dにおける解の探索を高速化するための探索方向ベクトルの付加方法に関するものでした.従来,MOEA/Dにおける探索方向ベクトルの付加の方法として採られてきたアプローチは.目的関数空間を一様に分割する複数のベクトルを各個体に付加するというものでした.今回の提案された手法では,一様な探索方向ベクトルを生成するのではなく,理想点の更新に関わる目的関数の軸方向へのベクトルを重点的に生成するというもので,この発想はとても素晴らしいと思いました.私の研究では,多目的最適化手法にMOEA/Dを使用しているため,自身の研究への応用が可能であると感じられました.
 

発表タイトル       :科学観測用単段式ハイブリッドロケット概念設計への設計情報学の実運用著者: 千葉一永,金崎雅博,中宮賢樹,北川幸樹,嶋田徹
セッション名       : 口頭発表セッション1
Abstruct            :多段式ロケットがベイロードの軌道投入を目的とする一方,単段式ロケットは主に科学観測や高高度無重力環境実験を目的とした機体として研究開発及び運用が行われてきた.宇宙航空研究開発機構(JAXA; Japan Aerospace Exploration Agency)宇宙科学研究所(ISAS; Institute of Space and Astronautical Science)ではこれまでK(Kappa), L(Lambda),及びM(Mu)シリーズ単段式固体燃料ロケットが科学観測用として開発運用されてきたが,2008年のM-V引退を受け,更なる宇宙理学研究推進のため,より低コスト且つ効率的運用が可能な単段式ロケットが望まれてきた.
一方で,固体燃料ロケットとは一線を画す革新技術として,固体燃料と液体酸化剤を用いたハイブリッドロケットエンジンを搭載した宇宙輸送機が近年注目され,欧米を中心に研究開発が進められつつある.
本研究では,固体燃料液体酸化剤を用いたハイブリッドロケットエンジンを搭載したオーロラ科学観測用単段式宇宙輸送機の概念設計を, 設計情報学を用いて実施し,ハイブリッドロケットエンジンの優位性を定量的に提示すると供に,基礎物理の解明を目的とする.第一段階として, 現行の固体燃料ロケットと同様の単一燃焼条件下でハイブリッドロケット最適化問題を定義し, 固体燃料ロケットに対する定量的優位性を示すと供に,設計情報を収集する.

この発表は,ハイブリッドロケットの設計問題を多目的最適化に定式化し,得られた解集合から自己組織化マップ(SOM; Self-Organizing Map)と呼ばれるデータマイニング手法を用いて有益な設計情報を獲得するものである. この発表で着目したのは,多目的最適化問題において解を導きだすだけでなく,目的関数に影響を持つ設計変数を抽出や,設計変数の影響の方向性など様々な有益な情報を明らかにしている点である.私の研究においても多目的最適化問題で得られた解集合に対してどのように考察すれば良いか,悩むところでありましたが,このような設計情報を抽出する事ができれば,新たなデータレプリケーションの手法の開発にも役立つのではないかと感じました.
 
参考文献
1)    進化計算学会, http://www.jpnsec.org/