第12回日本ワーキングメモリ学会大会

学会参加報告書

報告者氏名 小淵将吾
発表論文タイトル ワーキングメモリ課題における異なる方略を用いた訓練の
脳活動と白質形態の統合性への影響
発表論文英タイトル Working memory training strategies and their influence on changes in brain activity and structural connectivity
著者 小淵将吾, 山本詩子, 田中美里,岡村達也,廣安知之
主催 日本ワーキングメモリ学会
講演会名 第12回日本ワーキングメモリ学会大会
会場 京都大学 芝蘭会館別館
開催日程 2014/12/13

 
 

  1. 講演会の詳細

2014/12/13に,京都大学 芝蘭会館別館にて開催されました第12回日本ワーキングメモリ学会に参加いたしました.この大会は,日本ワーキングメモリ学会によって主催された大会で,ワーキングメモリの今を議論し,研究の進捗を報告することを目的に開催されています.
本研究室からは他に真島さんが参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は13日の午後のセッション「一般発表(4)」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,12分の講演時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,「ワーキングメモリ課題における異なる方略を用いた訓練の脳活動と白質形態の統合性への影響」と題して発表いたしました.以下に抄録を記載します.

ワーキングメモリ (WM) の個人差を測定するリーディングスパンテスト (RST) において,単語を記憶する方略が容量に大きな影響を与えることは知られている.しかし異なる方略を訓練することによる,構造的・機能的な脳への影響は明らかでない.そこで本研究では,RSTにおける2つの方略(イメージとリハーサル)の訓練による脳への構造的影響を拡散テンソル画像法 (DTI) で,機能的影響を核磁気共鳴画像法 (fMRI) を用いて検討した.その結果,イメージ方略の被験者のみRSTの課題成績に向上がみられ,右下側頭回付近の神経髄鞘化の程度を示すFA値が上昇し,前部帯状回の脳活動が上昇した.また,FAが上昇した領域からの神経描画より右下縦束が描画され,脳活動上昇領域である右上後頭葉との関連が確認された.したがって異なる方略の訓練により,WM容量の向上,構造的・機能的な脳への影響は異なることが示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
東京医学総合研究所所属の渡邊正孝さんからの質問です.こちらの質問は脳皮質の形態的な変化は見られなかったのかというものでした.この質問に対する私の回答はT1による灰白質の形態的変化は観察していません.今後実施したいとおもいますと回答致しました.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は若年者において髄鞘形成は1ヶ月単位で生じるのかというものでした.この質問に対する回答ですがDTI撮像のFAの変化を説明するひとつの考察として,髄鞘形成と報告している先行研究はございます.しかし,実際の髄鞘形成は幼児期に多く生じ,若年者では稀であることも報告されていますと回答致しました.
 
・質問内容3
大阪大学所属の苧阪満里子先生からの質問です.こちらの質問は被験者数が少ないため,統計的に有意なのかを説明することはできない.実際のFAの変化はどのようになっていたのですかというものでした.この質問に対する回答は個々のFAの変化もイメージ方略の訓練群の方たちは全員上昇しており,リハーサル方略の訓練群と統制群はあまり変化がみられなかったと回答致しました.
 

  • 感想

苧坂夫妻が主催のワーキングメモリ学会ということで緊張しました.しかし,アットホームな学会でたくさんの知見を与えていただき,とても勉強になりました.特に心理的な考えが足らない私にとって,研究デザインや統計については今後の課題となり,実りあるとても良い経験をさせていただきました.

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : ワーキングメモリ・トレーニング研究から何を学ぶことができるのか
著者                  : 齊藤智(京都大学)
セッション名       : 講演
Abstruct : ワーキングメモリは認知の機能的枢要として、我々の様々な認知活動を支えている。ワーキングメモリ機能の重要性が認識されるにしたがい、この機能の向上を試みるワーキングメモリ・トレーニングが盛んに行われるようになってきた。その結果、トレーニングに関する研究も数多く報告されている。ただし、トレーニング効果の有無、その解釈については様々な議論が存在し、単純に結論を導くことができる状況ではない。ここでは、最近のいくつかの研究を軸にして、我々がワーキングメモリのトレーニング研究から何を学ぶことができるのかについて考えていく。特に、トレーニングの転移効果(transfer effects)について、近転移(near transfer)と遠転移(far transfer)の区分からとらえ直し、記憶エキスパート(memory expert)の研究において重要な概念である領域固有性(domain specificity)の問題との関連を論じる。その中で、トレーニング効果を査定する際に比較される統制群の問題、ワーキングメモリ機能に社会的な要因が作用する可能性についても考察する。

この講演はワーキングメモリ・トレーニングの効果についてでした.トレーニングに関する最近の論文や反論についてをまとめて講演して頂き,とても参考になった.特に近転移と遠転移は概念的に難しいところがありましたが,これからワーキングメモリ・トレーニングについてを考察し,実生活に及ぼす影響を考えていく上で必要な知識となり,大変勉強になった.
 
参考文献

  • 第12回日本ワーキングメモリ学会大会, http://square.umin.ac.jp/jswm/ja/jswm12_program.pdf