【速報】第18回日本ヒト脳機能マッピング学会

第18回日本ヒト脳機能マッピング学会が2016/03/07-2016/03/08の日程で京都大学桂キャンパス 船井鉄良記念講堂で開催されました。
研究室からは3名の学生が発表しました。

  • 異なる表示媒体が視覚探索時における脳活動に与える影響の検討 田中勇人
  • 雑音環境が記憶課題の成績と脳血流変化に及ぼす影響の検討 片山朋香


学会参加報告書

報告者氏名 片山朋香
発表論文タイトル 雑音環境が記憶課題の成績と脳血流変化に及ぼす影響の検討
発表論文英タイトル
著者 片山朋香,日和悟,廣安知之
主催 日本ヒト脳機能マッピング学会
講演会名 第18回日本ヒト脳機能マッピング学会
会場 京都大学桂キャンパス 船井鉄良記念講堂
開催日程 2016/03/07-2016/03/08

 
 

  1. 講演会の詳細

2016/03/07から2016/03/08にかけて,京都大学桂キャンパス船井鉄良記念講堂にて開催されました第18回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.このヒト脳機能マッピング学会は,ヒト脳の高次機能をMRI,NIRS,EEGなどの様々なイメージング装置によって解明し,臨床の分野に役立てるために,最先端技術や今後の展開の情報を交換することや研究成果について議論することを目的に開催されています.
私は7,8日の両日に参加いたしました.本研究室からは他に日和先生,村上さん,田中勇人さんが参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は7日の午後のセッション「ポスター発表1」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,90分間自由に参加者の方と議論を行いました.
今回の発表は,「雑音環境が記憶課題の成績と脳血流変化に及ぼす影響の検討」という題目で.脳血流変化の指標によって,雑音が記憶課題時の成績に与える影響について発表を行いました.以下に抄録を記載致します.

 現在のオフィスでは,作業効率を向上させるために最適な音環境が求められている.これまでに,音楽や雑音が作業効率に影響を及ぼすことが示唆されている.しかし,個人によって適切な作業環境が異なることが十分に検討されていない.これより,音環境が客観的指標となる生理的反応に及ぼす影響の検討が期待されている.そこで,雑音環境下で記憶課題を行った時の作業効率と脳活動の関連の検討をする.fNIRSで測定した脳血流変化を指標とし,雑音であるホワイトノイズ環境と基準である静音環境の2環境下で被験者20名に対して実験を行った.実際のオフィスにおいて,記憶や入力作業が想定されるため,数字記憶課題を用いた.被験者に共通して下前頭回や中側頭回付近に活性がみられた.その部位に着目し,環境ごとの脳血流変化と成績の関連を検討した.その結果,ホワイトノイズ環境で活性する被験者,静音で活性する被験者,両環境で活性する被験者の3つに大別された.活性する環境で成績が良くなる傾向が見られた.また,高成績者は両方の環境で活性し、低成績者は成績が良い環境のみ活性する傾向があった.両環境で共通して活性していた部位は短期記憶に関連があると考えられる.被験者の雑音の不快度が作業成績に影響し,作業成績が良いときに脳血流変化が大きいことが示された.雑音環境下において記憶課題を行ったとき,作業成績と脳血流変化に関連性があることが示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.積分値を用いた活性の定義が平均値を基準としているのは,よくある方法なのか,課題中に0より大きくなるものはすべて活性しているのではないか,という質問がありました.この質問に対して,今回の活性の定義では,より大きく活性している部位を検討したかったため,平均値以上と定義したと回答しました.活性の定義は今後見直す必要があると考えています.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.作業効率の向上を目的としているが,なぜあまり快と感じなさそうな雑音を用いたのか,という質問を受けました.この質問に対する回答ですが,作業効率の向上に向けての基礎実験として,どういった音で作業効率が悪くなるということを調査することは必要であると回答しました.また,先行研究においてホワイトノイズが作業効率を悪くするという報告がある一方で,作業効率に良い影響を及ぼすということが報告されているため,調査する必要があると考えたためと話しました.
 
・質問内容3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問は,静音で実験するときと比較して,ホワイトノイズの実験時には音を聞いている分だけ脳血流変化が大きくなるのではないか,というものでした.この質問に対して,その可能性もあるかもしれないが,今回多くの被験者に大きい活性がみられた部位に着目したため検討できていないと回答しました.今後,聴覚野付近の脳血流変化についても検討していく必要があると考えています.
 

  • 感想

今回の日本ヒト脳機能マッピング学会が,私にとって初めての学会参加となりました.ポスター発表のセッションの時間になるまでは,興味を持ってもらえるのか不安でいっぱいでしたが,絶えることなくたくさんの方がポスターを見に来てくださいました.研究結果を説明すると,多くの方に面白いと言っていただけたので,とても嬉しかったです.参加者の方との議論を通して,まだまだ検討しきれていない部分に気づけたのでさらに研究を深めていきたいと思いました.また,講演会や他のポスター発表から学ぶことがとても多かったです.積極的に最新の情報,知識をどんどん取り入れていく必要があると感じました.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 企業は脳科学に関心を持ち,ニューロマーケティングに触手を伸ばし始めている著者                  : 細野春義セッション名       : 共済セミナー
Abstruct            : 企業の販売活動は,常に「市場の声」,「顧客の声」を訊くことから始まる.そうした市場や顧客の声を集めて,それを販売活動に活かす一連の行動うぁマーケティングと呼ばれる.これまでいくたあまたのマーケティング・リサーチが行われ,それをもとに市場投入という企業の行動が行われてきたが,振り返ってみれば,これまで我々マーケターの行ってきた調査の信頼性は実に10%にすぎなかった.ききとりやアンケート調査で市場の動向や顧客のマインドを予測することの限界に対するアンチテーゼとして,統計学や脳科学を駆使した社会科学としてマーケティングの世界にもビッグデータとニューロマーケティングという新しいやりかたが生まれてきている.脳科学は今「感性と動機付け」に関する脳機能を明らかにした.プライミングによって脳のデフォルトモードが変化することで生まれるGO反応やNO-GO反応という知見は「買い物する脳」の研究に他ならない.「生のまま」のヒトの脳の反応を観察することが可能な脳科学的手法を使ったニューロマーケティングは,言語依存しない感性領域の結果を得ることもできる.グローバルマーケットにおける最善の手法であり,事後データであるビッグデータとは本質的に異なる情報がそこなる.未来を予見しうる可能性を秘めたマーケットリサーチのニューウェーブとして企業はニューロマーケティングの動向とその可能性に熱い視線を向けている.

この発表は,脳機能という研究と企業のつながりの最新の動向について知れるいい機会になりました.このセッションは「ニューロマーケティングのこれからの展望と課題」という共済セミナーでして,企業側の考え,研究者側の考えを同時に聞け,また互いに議論も行われるという非常に良い構成となっていました.私の研究で用いているNIRSがニューロマーケティングには多く使用されており,大変興味深かったです.経験的にわかっているというだけではなく,行動の根本を把握することが必要であるということから,脳機能を研究する意義について再確認できました.企業においては消費者のターゲットが限定されているため,目的が局所的で明確です.一方で,研究においては年齢や性差なども考慮して調査しなければならず,脳機能に対してのアプローチの仕方は異なるのだと思いました.この発表の聴講を通して,違った視点から脳機能の研究について考える機会となりました.
 

発表タイトル       :音環境構築のための脳波信号源推定法を用いた脳機能評価著者                  : 加藤和夫,安川知志,鈴木和憲,石川敦雄セッション名       : ポスター発表2
Abstruct            : 我々は,これまでオフィス等の建物空間内で知的活動を行う際の最適な音環境を構築する目的で,脳波を用いた影響評価について検討を行ってきた.その結果,ゆらぎ背景音が言語的,空間的な知的作業を模擬する認知課題遂行時の事象関連電位に影響をあたえることが示唆された.今回,これら事象関連電位に対する脳機能部位の同定と関連する脳機能について検討することを目的に信号推定を行った.その結果,潜時150msに出現するN1成分と潜時約330msに出現するP3 成分に対し信号源位置の推定を行ったところ,それぞれ課題に応じて特徴的な反応を示していることが示唆された.

この発表の研究目的が,私が行っている研究と同じでした.先行研究として参考にしている論文を私も以前読んだことがあり.大変興味深かったです.計測機器は異なるのですが,雑音を使っている点と記憶課題を使っている点が共通していました.空調音に似ているとされるブラウニアンノイズとブラウニアンノイズに3パターンのゆらぎを与えた音の4種類で実験をされていました.課題も言語的な課題と空間的な課題の2種類を用いており,脳機能が異なるという結果になっていました.最適な音環境を実現するためには,複数の音や課題の実験が必要だと改めて思いました.また,ゆらぎを与えるということに対して調査しようと思いました.
 
参考文献

  • 第18回日本ヒト脳機能マッピング学会, http://bfe.kuee.kyoto-u.ac.jp/jhbm18/

学会参加報告書

 報告者氏名 田中勇人
発表論文タイトル 異なる表示媒体が視覚探索時における脳活動に与える影響の検討
発表論文英タイトル
著者 田中勇人,日和悟 廣安知之
主催 日本ヒト脳機能マッピング学会
講演会名 第18回日本ヒト脳機能マッピング学会
会場 京都大学桂キャンパス 船井哲良記念講堂
開催日程 2016/03/07-2016/03/08

 
 

  1. 講演会の詳細

2016/03/07から2016/03/08にかけて,京都大学桂キャンパス 船井哲良記念講堂にて開催されました第18回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.この学会は,医学,工学,情報学,脳神経科学などの研究者が集い,計測やイメージングの最先端技術の情報や今後の展望を共有して議論し合うことを目的に開催されています.
私は7,8日両日参加いたしました.本研究室からは他に日和先生,村上,片山が参加されました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は7日の午後のセッション「ポスター発表1」にて発表およびディスカッションを行いました.発表の形式はポスター発表で,13:00-14:30の一時間半もの間,様々な研究者の方々と議論させていただきました.
今回の発表内容は,異なる表示媒体が視覚探索時における脳活動に与える影響です.紙媒体とディスプレイを使用した視覚探索実験を行い,紙媒体で成績が良かったPaper群とディスプレイで成績が良かったDisplay群に分けて,視覚探索時の脳活動の比較を行いました.
以下に抄録を記載致します.

【背景】近年,オフィスにおける執務者の知的生産性を向上させるための最適な作業環境が求められている.オフィスの知的作業には,紙媒体やディスプレイを使用する作業がある.【目的】そこで,異なる表示媒体が課題成績や脳活動に及ぼす影響を検討することを目的とする.
【方法】本実験では視覚的注意を必要とする視覚探索課題を用い,脳活動の調査にはfNIRS(ETG-7100,日立メディコ社製)を使用した.紙媒体とディスプレイを用いて,被験者15名に対して視覚探索時の脳血流変化量を測定した.
【結果】課題成績は正答率で評価した.15名の被験者のうち4名(Paper群)で,紙媒体で正答率が高く,紡錘状回で課題時に血流が増加する傾向が見られた.また,11名(Display群)はディスプレイで正答率が高く,下前頭回や中側頭回で血流上昇が見られる傾向が見られた.
【考察】紙媒体で成績が高い被験者では,顔の表情の認知機能を司る紡錘状回の血流が上昇した.このことから,紙媒体では画像刺激の文字をグループ化して探索し,正答率が高くなったと考えられる.またディスプレイでは,物体の形状認知を司る中側頭回の血流が上昇した被験者で成績が高かったことから,文字の形状を意識して探索したことが良い正答率を得ることにつながったと考えられる.
【結論】異なる表示媒体を用いて視覚探索時の脳活動の影響を検討した結果,紙媒体とディスプレイで視作業効率を向上させるための脳活動が異なる可能性が示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
東北学院大学所属の加藤和夫さんからの質問です.質問内容は,「視覚探索を誤ってしまった時の脳活動は正答率に反映されているのか」というものでした.この質問に対する私の回答は「被験者ごとに行動データを見返したのですが,誤って反応したタイミングに傾向が見られなかったので,今回は課題区間の正答率を成績の評価指標として使いました.今後,被験者の人数を増やして何回くらい誤って反応すれば,血流が下がるなどの傾向が見られたら面白いなと思っています.」です.
 
・質問内容2
新潟大学大学院 医歯学総合研究所所属の黒瀬雅之さんからの質問です.質問内容は,「Oxy-Hbデータの最小値と最大値を取る区間の平均値を活性指標とすることは,メジャーな解析手法なのか」というものでした.この質問に対する私の回答は「メジャーな解析手法は,課題区間の最初の点でゼロ点補正を行い,課題区間全体の積分値また平均値を算出する方法だと思います.しかし,本実験では,課題区間の最初は血流が下がる被験者が存在し,課題区間の後半で血流が上昇した部位に関しても考察をしたかったため,今回はこのように解析しました.」です.

  • 感想

日本ヒト脳機能マッピング学会は去年に引き続きの参加となりました.二回目の参加だけあって,ポスター発表では去年よりは落ち着いて発表やディスカッションを行うことができました.また,発表演題の内容に去年よりも興味を持って聴講することができました.普段の研究生活で先輩や同期,後輩と関わることで,自分の研究だけでなく周りの学生の研究に関する知識も去年より増えたからこそ,知識の幅をより一層広げることにつながったと思います.学会参加にあたり,ご指導してくださりありがとうございました.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       :他者からの肯定的評価および否定的評価による脳賦活部位著者                  :河野 理,星 詳子
セッション名       :一般講演(口演)
Abstract
他人からの評価は,ヒトの精神状態に大きく影響を与える要因である.本研究では,他人からの評価が脳活動に与える影響を検討した.就職活動中の被験者15名に対して,事前にエントリーシートを記入してもらい,光脳機能イメージング装置(島津:FOIRE-3000)を用いて肯定的コメントと否定的コメントを呈示させた時の脳活動を計測した.統計的仮説検定を行った結果,肯定的評価では前頭極が,否定的評価では腹外側前頭前野が賦活する結果となった.

この発表では,他人からのコメントにより精神状態に影響することから,精神状態と脳活動の関連性が考察されていて,非常に興味深いと思いました.腹外側前頭前野は不快感情を抑制したため賦活したと考察されていたのですが,前頭極が肯定的評価により賦活した理由があまり言及されていませんでした.被験者が快と感じることに前頭極の賦活が関与しているのか,文献調査をしてみようと思います.
 

発表タイトル       :脳の機能的ネットワークにおける中新世の発達的変化著者                  :保前 文高,渡辺 はま,多賀 厳太郎
セッション名       :一般講演(口演)
Abstract
発達過程にある乳児の脳において,機能の局在と共に,隣接していない領域間において活動が同期することが示されてきた.本研究では,94チャンネルの近赤外光脳機能計測装置(ETG-7000,日立メディコ)を用いて計測した安静睡眠時における3分間の自発活動の酸素化ヘモグロビン信号について,新生児,3か月児,6か月児(計59名)のデータを解析して,月齢ごとに機能的ネットワークの中心性を調査した.信号の時間相関をもとに,固有ベクトル中心性を計算して,ネットワークの中心となる領域を同定した.左下前頭回と右角回の一部では,新生児では高い中心性が見られなかったのに対し,左上・中側頭回では6か月児に初めて中心性が高くなった.これらの結果より,領域によって機能的ネットワークが形成される時期が異なることが示された.

この発表では,fNIRSデータを用いて機能的ネットワークの変化を検討されていることに着目しました.fNIRSデータから相関行列をつくり,ピアソンの積率相関係数を算出して,中心性を考察されていることはわかりましたが,具体的な算出方法は理解できませんでした.文献調査を行い,自分のデータで適用し,照明環境が機能的ネットワークに与える影響を考察してみようと思います.
 
 
参考文献
1) 第18回日本ヒト脳機能マッピング学会,http://bfe.kuee.kyoto-u.ac.jp/jhbm18/
 
学会参加報告書

報告者氏名 村上晶穂
発表論文タイトル fNIRSを用いたヒトの協調時の脳活動の検討
   
著者 村上晶穂,横内久猛,日和悟,廣安知之
主催 日本ヒト脳機能マッピング学会
講演会名 第18回日本ヒト脳機能マッピング学会
会場 京都大学 桂キャンパス 船井哲良記念講堂
開催日程 2016/03/07-2016/03/08

 
 

  1. 講演会の詳細

2016/03/07から2016/03/08にかけて,京都大学桂キャンパスにて開催されました第18回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.この学会はヒトの高次機能の解明という脳神経科学に寄与することを目標に開かれています.特に第18回はヒト脳機能マッピング分野の最先端技術情報の展開を目的に開催されました.私は7日8日の両日参加いたしました.本研究室からは他に日和先生,田中勇人,片山が参加いたしました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は7日の午後セッション「ポスター発表1」に参加しました.時間は90分で「fNIRSを用いたヒトの協調時の脳活動の検討」というタイトルでポスター発表しました.
以下に抄録を記載致します.

【背景】
私たちは常に他者と関わりながら生活をしている.他者と円滑に物事を進める際には,協調性が必要である.本研究では,ヒト同士が協調作業を行う際の脳活動の検討を目標としている.
【目的】
本稿では,その基礎的検討である,ヒト-機械の協調作業の脳活動の検討を行い,脳内でどのように相手の情報を処理し,自分の行動を決定するのかを検討する.具体的には,機械から提示される音刺激のタイミングにヒトが合わせる際の脳活動を検討する.
【方法】
協調性にはヒトのタイミング機構が関連していると言われている.そのため,課題は予測的なタイミング制御機能を調べる同期タッピング課題を使用した.実験では,音提示間隔を変化させ,それによりヒトが同期する際の脳活動をfNIRS (functional near-infrared spectroscopy)を用いて測定した.
【結果及び考察】
協調性と脳活動の関連をみるために,活性部位の検討を行った.被験者の80%以上の人が活性した部位は,前頭部では前頭前野背外側部,左側頭部では角回に相当した.前頭前野背外側部の機能は行動制御,また角回の機能は行動の予測に関係していると言われている.
以上より,音刺激間隔を変化させると,ヒトはタイミングを合わせようとする.その際に,次の音刺激を予測して行動するため,前頭前野背外側部と角回が活性したことが考えられた.
【結論】
よって,協調性には前頭前野背外側部と角回が関連していることが示唆された.
た.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では、以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
東京電機大学 東城さんの質問です.
こちらの質問は、「同期タッピング課題と協調性にはどう関係があるのか」というものでした.この質問に対する私の回答は、「協調性にはタイミングの同期が関連していると言われているため,タイミング予測を調べる実験として古くから用いられている同期タッピング課題を使用している.先行研究でも,同期タッピング課題を用いて,協調性とタイミングの同期の関連を報告したものがあります.」です.また,左の脳部位が活性した考察をあるといいというアドバイスもいただきました.
 
 
・質問内容2
花王株式会社 感性科学研究所 所属の左達秀敏さんからの質問です.
こちらの質問は、「協調に関連する部位が働かないようにしたらタッピングできなくなるというような実験をしたのか」というものでした.この質問に対する私の回答は、「いいえ,しておりません.今回の発表では,協調に関連する可能性がある部位を示唆しました.」です.
 
 
また横内先生からいただいたアドバイス
・活性した人がどんな人なのか探るとおもしろい.
それを知るにはアンケート,IQなどさまざまな被験者の情報を調べ,要因を考える必要がある.
・女子を測ってみてはどうか.
 

  • 感想

去年に引き続きの学会参加で要領を把握していたため,困惑することなく準備を行えた.
発表時間は多くの方にも興味を持っていただき,ディスカッションできた.
ポスターを作成する際に,図で見て分かるように工夫することが説明のしやすさにもつながることが分かった.
本学会の参加を通して,他大学の同世代の人が自分よりも多くの被験者やアンケートを取っているのを知り,良い刺激を受けた.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 他者からの肯定的評価および否定的評価による脳賦活部位
著者                  : 河野 理,星 詳子
セッション名       : 一般口演1
Abstruct
【目的】他人からの肯定的評価や否定的評価は,ヒトの精神状態に大きく影響を与える要因である.特に,社会的不安障害の根底には,他者からの否定的評価に対する恐れがある.本研究では,その神経科学的メカニズムを解明するために,評価者によって肯定的評価と否定的評価が与えられたときに生じる脳活動を検討した.【方法】事前に,就職活動中の被験者(15名)に,ア)将来就きたい職業,イ)その理由,ウ)そのために必要と考えること,エ)そのために努力していることを記述していただき,その内容が複数の評価者によって評価されたことが伝えられた.実験タスクは,1)記述内容(12項目),2)ランダム順序の否定的評価や肯定的評価(40項目),3)否定的評価(20項目),4)肯定的評価(20項目)の4セッションから構成された.各項目は主部(例:あなたの発想は)と述部(例:とても豊かです)から構成された.実験は光脳機能イメージング装置(島津:FOIRE-3000)を用い,実験タスクの内容が画面に呈示された時の被験者の腹外側前頭前野,背外側前頭前野および前頭極に生じる脳活動を計測した.解析は,肯定的評価と否定的評価によって生じる脳活動部位を特定するために,統計的仮説検定が用いられた.【結果】頭皮血流の影響を受けた被験者等を除外した結果,ある被験者において,肯定的評価は前頭極が,否定的評価は腹外側前頭前野が賦活する結果となった.

この研究では,他人からの肯定的評価と否定的評価が脳活動に与える影響を調べていた.この結果から,評価によって活性する部位が異なることが分かった.否定的評価を活性した部位は不快の際にも活性する部位で,評価の影響がヒトの快不快にも関連していると考えられる.私が就職活動中なこともあり,おもしろい実験課題だと思った.
 
 
 

発表タイトル       : fMRIによるプレゼンテーションの評価
著者                  : 井関 龍太,梶間 早太里,辻本 悟史
セッション名       :一般口演1
Abstruct
近年,社会のさまざまな場面でプレゼンテーションの比重が高まり,そのスキル向上が重要な課題になっている.しかし,聴衆の評価は数秒から数十秒の短時間のうちに内容以外の要因に大きく影響されるため,言語化に頼った従来の方法でのプレゼン評価・学習法には限界がある.そこで本研究は,脳活動を用いてプレゼンの非言語的な側面の評価にアプローチした.プレゼン素材としてTED動画の中から,オンライン視聴者によるのべ457万件のRatingをもとに相対的に評価の高い動画と低い動画それぞれ5本を選定し,各動画30秒間を切り取って英語音声(字幕なし)で使用した.健常成人20名(平均23歳)の参加者に対し統制条件(音声逆再生の静止画30秒)と交互に動画素材を提示して,fMRIの撮像を行った.事後の質問によると,使用した動画を以前から知っていた参加者はおらず,30秒の動画から内容を理解したものもいなかった.fMRIの解析の結果,後頭側頭皮質の視覚連合野を中心に,動画視聴時に,静止画視聴時よりも有意に高い活動がみられた.その中でも,時に左の中後頭回と上側頭回では,高評価の動画視聴時の活動が低評価動画視聴時に比べて有意に高かった.これらの活動が,プレゼンの非言語的側面の評価に関与する可能性がある.本研究で観察された活動を指標にすることで,プレゼンテーションの評価とスキルの新手法の開発につながることが期待される.

この発表は,プレゼンテーションの評価と発表スキルの向上のため,発表と脳活動の関連を調べていた.聴衆の評価は数秒で,内容が関係なしに決まるということから,プレゼンテーションは内容よりも見せ方に工夫する必要があると感じた.