【速報】生体医工学シンポジウム2016

生体医工学シンポジウム2016が 旭川市大雪クリスタルホール国際会議場にて開催されました。
研究室からは下記の学生が発表しました。

  • M1 石原知憲 EEG-BCIを用いた異なる運動想起における脳活動の検討


学会参加報告書

 報告者氏名 石原知憲
発表論文タイトル EEG-BCIを用いた異なる運動想起における脳活動の検討
発表論文英タイトル
著者 石原知憲,日和悟,廣安知之
主催 一般社団法人 日本生体医工学会,日本生体医工学会 北海道支部・東北支部・関東支部・甲信越支部・北陸支部・東海支部・関西支部・中国四国支部・九州支部
講演会名 生体医工学シンポジウム2016
会場 旭川市大雪クリスタルホール国際会議場
開催日程 2016/09/17~18

 
 

  1. 講演会の詳細

生体医工学シンポジウムは,生体医工学分野の発展の一助とするため研究者間のコミュニケーションの場の提供,理工系・医学系研究者の研究活動促進,若手研究者の本分野への勧誘,迅速な研究成果報告の機会の提供を目的としている.演題は生体医工学分野全般から広く募集しており,会員,非会員を問わず,学生,若手研究者の参加・発表を歓迎している学会である.
私は17日, 18日のポスター発表と口頭発表に参加いたしました.本研究室からは他に廣安先生,日和先生,横山が参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は17日の午前の口頭発表とポスターセッションに参加いたしました.発表の形式は口頭発表で発表時間が2分,ポスター発表で,発表時間が90分となっておりました.
以下に抄録を記載致します.

近年,脳卒中やALS(Amyotrophic lateral sclerosis)などの神経疾患により身体の特定部位のコントロールが困難な患者が増加している.EEG-BCI(Brain Computer Interface)は物理的な身体的動作を必要とせず,脳波で外部機器を制御し,動作させる技術である1).しかしEEG-BCIにおいて,入力信号となる想起時の脳波は,想起方法の違いによりEEG-BCIの制御に大きく影響を及ぼすため,最適な運動想起方法の同定が求められている.また被験者はどのように想起を行えば運動の意思を脳波に反映できるかを理解することが難しい.このため運動想起を行う際,具体的な運動想起方法の指示を被験者にフィードバックする必要がある.本研究は,被験者の訓練に最適な想起方法を同定するために異なる運動想起方法が脳活動に及ぼす影響を2種類の運動想起課題を用いて調査した.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
「被験者は訓練をした人に協力を得たのか?
4種類のタスクを連続で行ったことによる慣れの影響は考慮しているのか?」
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問に対する回答ですが被験者は訓練を行っておらず,運動想起課題を行った経験のない被験者に協力を得たとお答えしました.二つ目の質問の回答は今回の実験では被験者の慣れについては特別考慮しておらず、慣れを考慮した実験設計を考える必要があるとお答えしました.
 
・質問内容2
Common Spatial Patternでは具体的にどんなことをしているのか?
 全脳CHCSPを行っているのか?CHを絞ってCSPをしたほうがいいのではないか?」
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問に対して私は「CSPは各クラス間(左手想起と右手想起)での脳波の分散値を特徴量として抽出しています。各クラスにあたる運動想起時の脳波の時系列プロットに白色化をかけ、直行させたのちPCAをかけることでCH数次元分の主成分を求めます。ここで求めた第一主成分は最終主成分と直行しており,第一主成分を表すベクトルは左手想起時の脳波の分散値を最大化させ,右手想起時の脳波の分散値を最小化させるベクトルになっています.同様に最終主成分のベクトルは右手想起時の脳波の分散を最大化,左手想起時の脳波の分散値を参照化させるベクトルとなります.この特徴ベクトルによって計算される分散値の差を利用して識別に必要な特徴量を抽出しています.」とお答えしました.
 
・質問内容3
「実験を行う際には手を隠して実験をしたのか?
 運動想起課題を行う順番は固定で行ったのか?
 開眼・閉眼状態の統制は取ったのか?
 OOMタスクの動画は運動想起を疑似的に体験できるものになっているのか?」
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問に対する回答は,「実験に際してOOMタスクでは動画を見せるタスクを行っているため,すべての被験者に対して開眼状態で手若草図に実験を行ったとお答えしました.二つ目の実験に関しては,今回はタスクの違いによる脳活動を見るため、順番は固定で行いました。実験タスクの順番をランダムで行うとMIVタスクの統制がとりにくいと考え、順番は固定で行いました.」とお答えしました.
 
・質問内容4
「パワースペクトラム分布の出し方は?加算平均は周波数解析を行った後にかけるべきではないのか?波形を加算平均してしまうとβ帯域の脳波がつぶれてしまっているかもしれないのでは?」
名古屋工業大学 船場先生からの質問です.この質問に対する私の回答は「パワースペクトラム分布は左手,右手運動想起時の脳波を加算平均し,識別に最も効いていた周波数帯域のパワー分布をプロットしました.今回は加算平均をしたのちに周波数解析をしてしまっているため,運動想起に関連する周波数成分がつぶれていしまっている可能性があります.学校に持ち帰って解析をやり直してみます.」とお答えしました.また脳波のフェーズロックという性質やμ波帯域の定義,CSPは狭いチャンネル配置で行ったほうがうまくいくことなど,初めての聞くことをたくさんご指導いただきました.
 
・質問内容5
「パワースペクトラム分布は被験者全員分のものなのか?
μ波をどういう定義で位置づけているのか?
視覚野での活動は原波形からも判断できることが多いのでは?」
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問には「パワースペクトルは識別が最もうまくいった2人分のパワースペクトラム分布です.今回の解析でμ波は7~12Hzの周波数帯域の脳波と帯域のみでの定義を行いました.」とお答えしました.また三つ目の質問に対しては,「視覚野での原波形を確認していないため,判断できるかは現時点ではわかりません.もう一度学校に帰り,確認してみます.」とお答えしました.
 

  • 感想

今回の学会は私にとって二回目の研究発表を行う場でした.口頭発表は2分間で自分の研究の概要を,ポスターセッションでは研究の詳細について発表しました.私は生体計測―脳・感覚―部門で発表を行い,たくさん先生方から研究についてご指導をいただきました.他大学の先生方へ向けての初めての発表だったため,緊張した部分もありましたが自分の研究の改善点や足りない部分を再認識することができました.今回の学会では自分の所属する研究室で扱っているような脳活動を用いた研究が多数発表されており,自分の分野に対する知見を広げることもできました.また似たようなテーマを扱っている研究発表を聞くことで自分の研究に自信を持つこともできました. 私はBCI操作における脳活動の検討というテーマで発表しましたが,脳の局在的な解析についてよりも時系列信号としての脳波の取り扱いを中心にご指導をいただきました.また今回の学会では脳波の研究に詳しい他大学の先生から運動想起型BCIの研究について,研究の動向や詳しい解析の内容や改善策など,たくさんの知識をいただけたので,その知識を自分の研究に生かしていきたいと思いました.また他分野の先生方から実験設計についてもたくさんご指摘をいただきました.明確にしたい事柄をより鮮明に明らかにするために,実験統制をより詳細にとる必要があると感じました.

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.

発表タイトル       : サル皮質脳波と表面脳波の同時計測による波形の類似性の検討著者                  : 藤森麻佑 片見依利 大橋健斗 長谷川功 飯島淳彦セッション名       : ポスターセッションAbstruct            : 皮質脳波(ECoG)は外科的手術により脳表に留意した電極から脳波を記録する方法であり,従来の表面脳波(EEG)に比べると、直接的な計測方法である.本研究ではニホンザルにECoG電極を留置し,慢性的に脳は記録すると同時に,EEGを記録し,その波形の類似性について検討した.その結果,EEG波形に対するECoGの各電極から得られた波形との間には,前頭葉において,相関係数0.53~0.84の範囲で相関があり,側頭葉では0.43~0.95の相関があった.特にECoGとEEGの物理的距離が近い電極間で高い相関が見られた.またEEG波形に対するECoGの各電極の波形との時間的なずれを計測したところ,物理的距離に依存した時間差があった.

この発表は侵襲的に計測した脳波信号と非侵襲的に計測した脳波信号の関係に関する発表でした.こちらの研究室ではニホンザルを被験体に侵襲的な計測を行っていました.私の研究では非侵襲的に計測可能なEEGを用いたものであるため,得られる信号に対する信頼性の部分で不透明なところがありました.脳表面で計測する信号と高い相関があることを前提にEEGを計測していましたが,この発表により自分の計測した信号の裏付けが取れる内容で大変興味深いものでした.特に信号波形に位相と波形の相関が距離に依存している点が自身の研究を進めていくうえで有益であると感じられました.
 

発表タイトル       : 事象関連電位P300を用いた睡眠の質の評価著者                  : 後野光覚 黒津明日大 岡田志麻 大野ゆう子セッション名       : ポスター発表
Abstruct            : 睡眠不足が問題視されている現代社会においちぇ質の高い睡眠をとろうという志向が高まっている.しかし睡眠の質というものを定量的に評価する方法はいまだに確立されておらず,質の高い睡眠とはどのようなものかも解明されていない.本研究では認知力の指標となる事象関連電位の一つであるP300に着目した.起床直後,もしくは日中の認知力の高さが睡眠の質の高さと関係があると仮定してP300を用いて睡眠の質を評価することを目的とした.P300を誘発するためのオドポール課題を就寝前に1回,その後睡眠をとってもらい,起床後に1回,さらに起床3時間後に1回行った.オドポール課題のターゲット刺激は30回とした.課題中の脳波を計測しターゲット刺激提示前後を、切り出し30回加算平均を行うことでP300を算出した.睡眠中は睡眠ポリグラフ検査にのっとり,脳波,眼電図,おとがい筋筋電図を計測した.これらの計測データを用いてRechtschaffen & Kales法に基づいて睡眠震度を判定した.睡眠全体における各ステージの占有率と就寝前,起床後,起床後3時間後のP300との相関関係を評価した.

この発表は睡眠の質を知的作業パフォーマンスに関連付け定量的評価・研究したものでした.
脳波を用いた睡眠の評価では睡眠中に取得した脳波を解析するものが多い中,睡眠時のもの
で行うのではなく,睡眠前後の生体情報から解析を行う点は新しい知見でした.オドポール課題を
用いて計測したP300の処理は加算平均のみとシンプルなものであったが,一つ一つのデータ
の紐づけが丁寧にされており,わかりやすい発表でした.PVTタスク時にもP300は計測されてい
る可能性があるので自分の所属する研究グループの研究を進めるうえでもいくつかヒントを得る
ことができました.
 

発表タイトル       : Filter Bank Common Spatial Patternによる単一電極からの2クラス運動想起判別法の検討著者                  : 岩田祐樹 小野弓絵 石山敦士セッション名       : ポスター発表
Abstruct            : 近年Brain Machine Interface(BMI)の研究は国内外において盛んにおこなわれており,その技術は単純な機械操作からリハビリテーションのような医療応用まで,幅広い分野で活躍する可能性を持つ.BMIシステムの一つに脳波で計測される運動想起脳活動を出力に用いたものがある.運動想起の判別には空間フィルタであるCommon Spatial Pattern(CSP)を周波数帯域で区分したFilter Bank CSP(fbCSP)が有用である.本研究では左右の運動想起に対応し活動を示す脳の部位が空間的に独立であることを利用し,全電極ではなく特徴的な脳活動を呈する領域の電極のもみを用いた判別をおこなった.またfbCSPによる情報量の変化と判別率について検討した.

この発表は私と同じ研究である運動想起型BCIの研究でした.扱ったデータセットはBCIコンペティションのデータを用い,運動野付近の3CHのうち1CHのみを使用し,運動想起を識別するものでした.今回の学会の中で唯一CSPを用いた解析をしており1CHを用いた左右手の運動想起識別は新しい発想でした.またFBCSPの有用性についても考えることができました. 最適化手法を用いてFBを被験者ごとに決定していく必要性を改めて感じました.
 
参考文献

  • 生体医工学シンポジウム2016 in 旭川 プログラム

 
学会参加報告書

 
報告者氏名
 
横山 宗平
発表論文タイトル 脳神経線維を模擬したファントムの作成と神経追跡結果の検討
-crossingファントムの検討-
発表論文英タイトル Development a nerve fiber phantom and investigation of fiber tracking result
-Investigation of crossing phantom-
著者 横山宗平, 廣安知之, 日和悟
主催 日本生体医工学会
講演会名 生体医工学シンポジウム1)
会場 旭川市大雪クリスタルホール国際会議場
開催日程 2016/09/17-2016/09/18

 
 

  1. 講演会の詳細

2016/09/17から2016/09/18にかけて旭川市クリスタルホール国際会議場にて開催されました生体医工学シンポジウムに参加いたしました.生体医工学シンポジウムは,日本生体医工学会によって主催されたシンポジウムで,生体医工学分野の発展の一助とするための研究者間のコミュニケーションの場の提供,理工系・医学系研究者の研究活動の促進,若手研究者の本分野への勧誘,迅速な研究成果報告の機会の提供を目的に開催されています.
私は両日参加しました.また,本研究室からは他に石原が参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は18日の午後のセッション「PET、MRI、CT」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で2分の講演時間とポスター発表で1時間30分の講演時間となっておりました.
今回の発表は,crossing走行を模擬したファントムを作成して神経構造が神経追跡におよぼす影響を検討した内容を発表しました.以下に抄録を記載いたします.

核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)を利用した拡散テンソル画像法(Diffusion Tensor Imaging:DTI)により,脳神経線維で構成される白質の詳細な情報を得ることが可能である1).DTIの問題点の一つに,脳神経線維の走行に沿って拡散する水分子の情報から神経追跡を行い画像化するため,複雑な線維構造に対する描画性の低下があげられる.それに対して,描画性の向上を目的としたDTIを利用した神経追跡手法が提案されている2).それらの手法の評価,検証をするためには,脳神経線維を模擬した被検体が必要である.本稿では,DTIを利用した神経追跡手法において描画性の低下が懸念される構造の一つであるcrossing走行の構造を模擬したファントムを作成する.実験では追跡手法の検討のため,作成したファントムの交叉部位が神経追跡に及ぼす影響を確認する.ファントムの作成に使用した中空糸は直径約5.4㎛の線維が12本の束になることで1本の糸を成すマルチフィラメントである.この中空糸を10000本束ねて,熱収縮チューブで固定することでファントムの線維束を作成した.作成した線維束を水に浸すことで脳神経線維を模擬したファントムを作成した.crossing走行ファントムは線維束を作成するときに一定の本数ずつ交叉させることで作成された.作成したcrossing走行ファントムをFig 1に示す.本稿では交叉部位で250本ずつ交叉させたファントムと500本ずつ交叉させたファントムを作成した. この2種類のファントムを撮像,解析することでファントムの交叉部位が神経追跡に及ぼす影響を検討した.解析には神経追跡が可能なソフトウェアであるDSIstudioを使用した.追跡を行う線維を指定するために関心領域(Region of Interest:ROI)を設定した.ROIはファントムの交叉部位を通過した線維を描画できるようにFig 2のように設定した.また,追跡手法はオイラー法を使用した.追跡条件として水分子の異方性を表現するFanctional Anisotropy(FA)の値が0.25以上,追跡した線維が70°以上に曲がるときに追跡を停止するように設定した. ファントムの左右に設定したROIから追跡を行った結果,500本ずつ交叉させたファントムでは平均574本の線維が追跡された.また,250本ずつ交叉させたファントムでは追跡を行うことができなかった.しかし,ファントムの上下に設定したROIから追跡を行った結果,500本ずつ交叉させたファントムでは平均702本の線維が追跡された.また,250本ずつ交叉させたファントムでは平均1405本の線維が追跡された. ROIを左右に設定した場合,交叉する線維の本数を細かくすることで追跡された線維の減少を確認した.これは,線維が細かく交叉したことによりFA値が低下したため,追跡が停止したと考えられる.これにより,作成したファントムは交叉させた線維の本数が神経追跡に影響を及ぼしていることが確認された.しかし,ROIを上下に設定した場合,追跡された線維の減少は確認されなった.これは,交叉部位内の線維の走行にゆがみが生じたことが原因と考えられる.本来では,交差部位の線維構造の複雑化が原因でFA値が低下し,追跡が停止する.しかし,500本ずつ交差させたファントムは線維の走行にゆがみが生じていたため,追跡した線維が設定した角度を超えたことにより追跡が停止したと考えられる.以上により,交叉部位内の線維の走行に生じたゆがみが神経線維追跡に影響を及ぼしていると考えられる.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
秋田県立脳血管研究センター所属の中村さんからの質問です.こちらの質問は実際の脳神経は90°に交叉した部位はないのになぜ90°のファントムを作成したのかというものでした.この質問に対して私は,初めて交叉したファントムを作成したため,まず90°のファントムを作成して交叉線維を模擬できているか検討したと回答しました.また,中村さんにはMRIの性能について様々な助言をいただきました.
 
・質問内容2
奈良先端科学技術大学院大学所属の佐藤さんからの質問です.こちらの質問はなぜ交叉部位を通過した場合,横方向の線維が描画されにくいのかというものでした.この質問に対して私は,交叉部位内の線維走行にゆがみが生じた影響の可能性があると説明しました.すると,佐藤さんがファントムを90°回転させて撮像することで構造が影響を及ぼしているかの検討ができると助言をいただきました.
 

  • 感想

今回,初めて学会に参加して発表を行いました.緊張していましたが,様々な方に多くの意見をいただくことができ,とても良い経験になりました.
反省として,今回の学会では準備不足が目立ちました.特に自分の発表前の午前のセッションでは緊張のあまり質問をすることができませんでした.そのため,次回の学会参加の際には,前もって準備を行います.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 感情の定量化に向けた事象関連脳波
著者                  : 藤森麻佑
セッション名       : 生体計測 -脳・感覚-
Abstruct            : 安定した感情を持続することは幸福な暮らしの基盤になる.そのため,感情の把握は現代社会の重要な課題の一つである.従来,感情の推定は質問紙によって行われていた.しかし,この方法は実験後の主観的な評価であるため,感情をとらえる手段としては,時間変化を見落としがちであった.この時間変化を用いれば,定量的な指標として感情の推定が容易になると考えられる.そこで,この問題を解決するために,脳の活動電位に着目した.本研究では,感情の生起の際に出るとされる特徴的な電位である刺激先行陰性電位(Stimulus Preceding Negativity:SPN)と後期陽性電位(Late Positive Potential:LPP)をもちいてリアルタイムの感情状態を軽装することを最終目的とする.本報告ではこれを確認するため,連想語の画像,感情喚起画像を連続的に提示する実験を行った.連想語は出現する感情喚起画像の手がかかりとなる単語を使用した.また,感情喚起画像は事前に快・不快画像を2枚ずつ,中世画像を1枚事前に選定した.この連続提示と当時に,SPN・LPPの計測と被験者の主観的感情強度の計測を行った.その結果,快画像・不快画像の提示において,このSPN・LPPが検出され,感情喚起時の脳波計測による感情定量化の可能性が示唆された.この発生した特徴と喚起感情,主観的感情強度の間に定量化の指標となる関係性を見出すことが今後の課題となる.ゆえに,連想語の刺激を感情喚起画像に代え,画像の連続的提示に伴う波形の変化を検討する.

この発表は,快・不快感情の推定を目標とした研究でした. 本研究室でも脳の血流変化を対象とした快不快感情の推定は行われています.しかし,この研究では脳活動電位に着目していました.実験では感情喚起画像の提示前に連想語の画像を提示していました.連想語の画像は提示される感情喚起画像の手掛かりとなる単語が記されています.この連想語を用いることでSPN・LPPが検出されやすくなるらしく,脳の血流変化にも影響が出るなら本研究室でも連想語を用いて実験するのも面白いと思いました.
 

発表タイトル       :感情推定と併用したリアルタイム手話通訳システムの開発
著者                  : 眞田慎
セッション名       :生体計測 -運動-
Abstruct            : 現在,日本における聴覚言語障碍者の数が約360,000人であることに対して,手話通訳士の数が3,405人と少ないことが指摘されている.これは,聴覚障害者と健聴者の円滑なコミュニケーションを妨げる要因の一つとなり,聴覚障碍者の積極的な社会参加を困難にしている.この問題を快けるする手段として,手話通訳士を介さない簡便なコミュニケーション手段の開発が求められている.以上のことから,本研究ではKinectを用いたリアルタイム手話通訳システムの開発を目的とする.本システムは,Kinectのカラーカメラと深度センサを用いることによって,手話動作を構成する動作者の腕の動きと手の形,表情を認識して手話を通訳する.なお,感情推定は同じ手話動作で異なる意味を持つ場合の判別に用いる.腕の動きはKinectを用いた手首の一変化から推定し,手の形はKinectの3パターンの手の形を判別可能なHandState機能と手の周辺の深度値変化を併用することで,8パターンの手の形の判別を行い,表情は顔の特徴部位の位置変化から感情を推定する.これらの腕の動きと手の形,表情の認識の方法の組み合わせで手話動作を認識する.さらに,あらかじめ簡単な手話単語役50語の動作分析をして作成したデータベースとKinectで認識した手話動作のデータを照合することで,実際に行っている動作者の手話動作を特定し,モニター上に訳をテキストで表示する.本実験において,腕の動きと手の形,表情を用いた手話単語の通訳に成功した.

この発表は,リアルタイム手話通訳システムの開発を目的とした研究で,Kinectを用いて腕の動きと手の形,表情を認識して手話を通訳していました.また,手話は同じ手話動作でも異なる意味を持つ場合があるそうで,そのために表情を認識する必要があるとのことでした.実験結果では,腕の動きと手の形の認識の精度は高かったです.しかし,表情の認識の精度は低かったです.また,実験で使用した表情のパターンは喜怒哀楽を示したもので,実際に手話で用いられる表情ではないことが課題だと思われます. 本学会では,Kinectを用いた研究が多く,期待されているデバイスの一つであることを実感しました.
 
参考文献

  • 生体医工学シンポジウム, http://jbmes2016.jsmbe.org/summary/index.html