2017年3月9日から10日にかけて京都大学百周年時計台記念館にて第19回日本ヒト脳機能マッピング学会が開催されました.本研究室からは廣安 知之先生,日和 悟先生,田中 勇人(M2),萩原 里奈(M1),水野 めぐみ(B4)が参加し,田中(M2),萩原(M1),水野(B4)がポスター形式で発表しました.発表題目は以下の通りです.
田中 勇人,日和 悟,廣安 知之
萩原 里奈 ,日和 悟,廣安 知之
水野 めぐみ,日和 悟,廣安 知之
本学会は,脳の病態に関係する臨床医,脳機能研究に携わる医学,工学,情報学,脳神経科学の研究者,さらには脳機能イメージングの技術開発に関わる専門家が集まる学会です.私は本学会で3回目の参加ということもあり,ポスター発表では当然緊張することなく自身の研究について90分間ディスカッションすることができました.様々な研究者の方々と例年よりも近い距離感で議論し合うことができ,ポスター発表を行った3人ともに有意義な時間を過ごせたようです.聴講では,最新の解析手法に関する演題のみならず,脳機能イメージング技術の社会への実装に焦点を当てた演題も多く,自身の研究意義を改めて確認し直すことができました.本学会で培った相手のニーズに合わせた説明の仕方,議論し合う場での意識のもち方を今後の社会人生活に活かしていきます.
【文責:M2 田中(勇)】
学会参加報告書
報告者氏名 |
萩原里奈 |
発表論文タイトル | 暗算課題時の成績の違いによる機能的コネクティビティの比較 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 萩原里奈,日和悟,廣安知之 |
主催 | 日本ヒト脳機能マッピング学会 |
講演会名 | 第19回日本ヒト脳機能マッピング学会 |
会場 | 京都大学百周年時計台記念館 |
開催日程 | 2017/3/9-2017/3/10 |
- 講演会の詳細
2017/3/9-10に,京都大学百周年時計台記念館にて開催されました第19回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.この大会は,脳の病態に関係する分野の臨床医(脳神経外科,神経内科,精神科,放射線診断料など),人の脳機能に関心を寄せる神経科学者・心理学者,さらには技術開発に関わる工学・情報学の専門家などの脳画像研究やその応用に関心のある研究者・医師・学生が参加します.発展の著しいニューロイメージングの知見を,広く日社会で活用していくあり方,可能性,方向性についての情報交換,議論の場となることを目的に開催されています.
本研究室からは他に廣安先生,日和先生,M2の田中勇人さん,M0の水野さんが参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は9日のポスターセッションに参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,1時間半自由に参加者の方と議論を行いました.
今回の発表は,「暗算課題時の成績の違いによる機能的コネクティビティの比較」と題して発表いたしました.以下に抄録を記載します.
ワーキングメモリ(WM)は,日常生活で用いられる重要な記憶システムであり,機能的コネクティビティ解析が行われている.しかし,WM課題の成績が異なるときの脳状態は十分に検討されていない.本研究では,WM課題時の成績の異なる脳状態の比較を行う. 被験者32名に対して,整数1桁の加算(Low-WMタスク)と3桁の四則演算(High-WMタスク)から成る暗算課題時の脳活動を,fMRIで計測した. High-WMタスクの正答率と回答数においてk-means法を用いて被験者を分類した.そして,成績の異なるグループにおいて機能的コネクティビティ解析を行い,他領域との結合の強さを示すStrengthを算出した.Low-WMタスクでは,高成績群より低成績群において中前頭回,下前頭葉三角部,中前頭回眼窩部のStrengthが有意に高い値を得た.一方,High-WMタスクでは,低成績群より高成績群において小脳のStrengthが有意に高い値を得た.低成績群は,Low-WMタスクにおいても脳領域を活動させていることが考えられる.一方,小脳は内的音声のメカニズムによってWMシステムを支えていることが報告されている.High-WMタスクにおいて高成績群は小脳と他領域の協調を強めることで,情報保持の能力を高め高成績を収めたことが推察された.したがって,成績の違いによって脳状態が変化することが示唆された. |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は課題に対する方略はアンケートをとっているのかといものでした.今回の実験ではアンケートをとっておらず,結果に対して方略に関する検討が不十分になってしまったため、今後はアンケートをとるようにしたいと思うと回答致しました.
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問はコネクティビティをどのように算出しているのかというものでした.こちらの質問に対する回答ですが,各タスクの時系列データを抽出し連結し,脳領域間で相関係数を算出し,機能的コネクティビティとしていると回答致しました.
・質問内容3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,タスクの負荷を変化させて,各グループのネットワークの変化を検討しているのかというものでした.この質問に対して,今回は2種類の負荷のタスクのみで検討しており,負荷に対する変化は検討できていないと回答致しました.負荷を変化させることで,各グループの方略がより有用であるのか検討できるのではないかというアドバイスを頂きました.
・質問内容4
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,言語情報として記憶を保持しているという結果があるが,言語性IQなどをアンケートとして集計しているのかというものでした.今回は,アンケートを集計しておらず,タスクの成績を踏まえて検討したと回答致しました.
・質問内容5
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,グループの成績に違いがあるのかというものでした.こちらの質問に対して,Group Bの平均がGroup Aより少し高いけれど,グループ間に有意な差はないと回答致しました.
・質問内容6
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,Low-WMタスクと比較して,High-WMタスクにはワーキングメモリ以外の,覚醒度やアテンションなどの要因による脳活動がのってしまうがそれに関して検討しているかというものでした.こちらの質問に対して.今回の実験ではその要因を考慮して設計できていないため,今後は考慮して設計するようにしたいと思うと回答致しました.
- 感想
3度目の学会参加で,緊張することもなく伸び伸びと発表することができました.今まで参加した学会の中で,多くの方とお話ができ,また自分自身では気づくことができなかった点を指摘していただいたり,アドバイスをしていただいたりと有意義な時間を過ごすことができました.今回いただいた指摘やアドバイスに関して,今後取り入れながら研究を進めていきたいと考えています.
- 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 脳ビッグデータを活用したコンテンツ評価・生成技術 著者 : 神谷 之康 セッション名 : シンポジウム1「ニューロイメージングの社会への実装」 Abstruct : 脳活動パターンから心や身体の状態を解読する脳情報デコーディング技術は,脳とコンピュータを直接つなぐ情報通信の可能性を招き,ブレイン-マシン・インターフェース(brain-machine interface, BMI)の基盤となるものである.しかし,機械学習にもとづくこの方法は,学習データを取得する実験条件に制約され,実世界のニーズに即した多様な出力を生成することは難しい.一方,インターネットに存在する画像やテキストの大規模データは,多くの人びとが体験した内容や心理状態を記述した「心的コンテンツの素材」とみなすことができる.近年の深層学習技術の進展により,これらの大規模データからコンテンツ認識や生成に有用な特徴抽出や表現学習が可能となりつつある.本発表では,多様なコンテンツに対する脳情報データとインターネット上で得られる大規模データをもとにして,多様な出力を実現する脳情報デコーディング技術を紹介し,脳情報をコンテンツのデザイン支援に応用する技術の可能性について議論する. |
オフライン解析における脳データからのコンテンツ予測に関する発表でした.被験者からのテキストコンテンツを被験者にすべて記述してもらい,そのコンテンツを用いて脳状態を検討していました.私の実験は被験者に画像を提示ものではなく,課題を遂行してもらうけれど,被験者の状態を本人に記述してもらいそのデータを用いることでより深く脳状態の検討ができるということを再確認させられました.今後の実験で改善していきたいと考えさせられました.
発表タイトル : 系列運動技能の定着に対する宣言的記憶システムの関与 著者 : 菅原 翔 セッション名 : 一般口頭3[認知・情動] Abstruct : 運動技能のパフォーマンスは,速度と精度という2つの観点から評価することができる.系列運動技能に関しては速度を優先する練習が一般的であり,精度を優先する練習の効果はよく分かっていない.そこで,速度優先の練習に精度優先の練習を加えることが,系列運動技能のパフォーマンスおよび実行時の脳活動に与える影響を,機能的核磁気共鳴画像法により検討した.速度を優先する練習のみを行う統制群(47名)に比べ,精度を優先する練習を加えた実験群の参加者(58名)は,練習終了時点で有意に高いパフォーマンスを示した.しかし,統制群で観測された睡眠中の技能定着に由来する24時間後のパフォーマンス改善は,精度優先練習を加えた実験群では観測されなかった.また,海馬と後部帯状回を含む宣言的記憶システムでの練習終了時点における課題関連活動は,統制群に比べて実験群で有意に高いことが示された.一方,睡眠前後での宣言的記憶システムにおける課題関連活動の上昇は,実験群よりも統制群で有意に大きかった.以上の結果から,睡眠中に起こるはずの系列運動技能の定着が,精度を優先する練習を行うことで先取りされた可能性が考えられる.さらに,宣言的記憶システムが技能定着によって引き起こされるパフォーマンス改善に関与することが示唆される. |
本発表は,精度を優先した練習が宣言的記憶にどのように関連するのかを研究したものでした.統制群と実験群の参加者は共に同じ量の速度を優先した練習を行い,実験群はそれに追加して精度を優先した練習を行っているため,実験群の方が練習量が多いにも関わらず,パフォーマンスの向上は統制群が高いという興味深い結果でした.本発表は運動技能に関しての研究であり,自分の研究とは異なる記憶ですが,関連などを知りたいと思いました.
参考文献
- 第19回日本ヒト脳機能マッピング学会,
http://www.jhbm19.jp/
学会参加報告書
報告者氏名 | 水野めぐみ |
発表論文タイトル | fNIRSによる協調行動時の脳機能ネットワークの検討 |
著者 | 水野めぐみ, 日和悟, 廣安知之 |
主催 | 医療情報システム研究室 |
講演会名 | 第19回日本ヒト脳機能マッピング学会 |
会場 | 京都大学百周年時計台記念館 |
開催日程 | 2017/03/09-2017/03/10 |
- 講演会の詳細
2017/03/09から2017/03/10にかけて,京都大学百周年時計台記念館にて開催されました第19回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.この学会は,脳の病態に関係する分野の臨床医(脳神経外科、神経内科、精神科、放射線診断科など),人の脳機能に関心を寄せる神経科学者・心理学者,また技術開発などに関わる工学・情報学の専門家が集まり,発展の著しいニューロイメージングの知見を,広く実社会で活用していくあり方,可能性,方向性についての情報交換,議論の場となることを目的としている.
私は9日10日の両日参加いたしました.本研究室からは他に廣安先生,日和先生,田中勇人さん,萩原さんが参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は10日の午前のセッション「ポスターセッション2」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,1時間30分の間自由に発表および質疑応答を行う時間となっておりました.
今回の発表は.「fNIRSを用いた協調行動時の脳機能ネットワークの検討」,以下に抄録を記載致します.
私たちは,他者と関わりながら生活を送っている.集団の中で円滑に生活を送るためには,互いが協調し合う必要があり,他者の意図を理解し,それに適応して行動することが求められる.そこで,協調行動時の脳機能を検討することにより,集団生活を送るうえで重要な脳機能の解明を行う.本稿では,提示間隔が規則的に変化する刺激に対し,タイミングを同期させる行動制御に関する脳機能を検討する.実験課題としてタイミング制御機能を調べる同期タッピング課題を用いた.提示間隔が一定間隔で広くなる音刺激とすることで,行動を制御しながら,人がタイミングを同期する際の脳活動を計測した.計測にはfNIRSを用い,脳血流変化量の時間的相関により脳機能ネットワークを検討した.ネットワークの中心性を示す次数の高い脳部位,刺激音と反応の時間差の検討を行った.左中前頭回の次数が高い群は,群内の反応時間の平均値は刺激提示より遅く,注意制御を行うことでタイミングを合わせていたことが示唆される.また,左中後頭回の次数が高い群は,反応時間の平均値は刺激提示より早く,音刺激を予測し行動していたことが示唆された.よって,上手くタイミングを同期するためには,同じ刺激に対して,反応的に応答する人と予測的に行動する人がいることが考えられた.以上より,協調行動に重要なネットワークは,左中前頭回または左中後頭回が中心的なネットワークであることが示唆された. |
・質疑応答
今回のポスター発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.クラスタ間の被験者の過去の経験などの特性に違いはないのか,という質問を頂きました.この質問に対し,今回アンケートを実施していないため,検討できておりません.今後実験を行う際にはアンケートによる調査も行っていきたい思っておりますと回答しました.
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.クラスタAとBの行動の違い,模倣と予測の行動の違いが分からないと質問を頂きました.この質問に対し,模倣は刺激呈示を真似ることで,予測とは刺激の間隔を推測することであると回答しました.
・質問内容 3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.クラスタ間の違いを説明する上で,共通して出る部分を除外するべきではないか. この質問に対し,そのクラスタ間の比較を行うのではなく,その脳状態がどのような状態であるかを検討する必要があると考えていると回答しました.
・質問内容 4
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.他者との関係性を調べるのであれば,他者から何となく感じる空気感が重要になるので,笑顔の画像や怒っている画像を提示してはどうかとアドバイスを頂きました.今回は,タイミングを同期由来のみの脳活動を検討するため,そのような空気感は除外する必要があったが,他者との関係性を検討する上で今後の参考にさせて頂きますと回答しました.
- 感想
初めての学外での発表でありポスター形式での発表で,探り探りの発表でしたが,たくさんの方に話を聞いていただき,積極的に発表することができたと思います.相手の方がどのような方なのかがつかめず,どこを重点的に,話をすればいいのか戸惑ってしまうことがありました.今後は相手の知識を確認しながら話せるようにしたいと思います.また,上手く質問に答えきれていない部分も多く,的確な回答を瞬時にできるようになりたいと思いました.ネットワーク解析やグラフ理論とは何かといった質問をされることが多く,広く普及している解析ではないことを改めて実感しました.題目にネットワークと入っている発表が多かったため,あまり説明方法を練っていなかったので,今後はより簡潔な説明も行えるようにしていきたいと思います.また,研究室内だけでは分からない脳機能研究分野の現状を知ることができ,勉強になりました.
- 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : NIRSを用いた持続的注意反応課題遂行時の脳機能計測 著者 : 山岡香央,今須寿晃,阿部能久,古賀良彦 セッション名 : ポスター発表 Abstruct : 持続的注意に関わる脳領域については,磁気共鳴機能画像法などを用いた研究は多く存在するが,光トポグラフィ装置(NIRS)を用いた研究は少なく,一貫した結果がえられていない.また,持続的注意は認知症患者で低下が見られる機能の一つでもあることから,本機能の測定や維持・改善は認知症予防にも大きな貢献となると考えられる.そこで,本研究では,NIRSを用いて持続的注意に関わる脳領域を特定する為に持続的注意反応課題実施中の酸化ヘモグロビン(HbO2)変化量を測定した.この際,持続的注意状態の指標として,脳波を同時に測定した.持続的注意がより必要とされるNoGo条件では,参加者は提示される1-9の数字に対し,「3」以外でボタンを押し,「3」ではボタンを押さないよう教示された.一方,注意があまり必要とされない,GoOnly条件では,参加者はすべての数字でボタンを押すよう教示された.両条件の脳波を比較した結果,NoGo条件の方がGoOnly条件よりも持続的注意や反応抑制を反映する成分の振幅が大きかった.さらにHbO2変化量を比較した結果,前頭極,前頭前野背外側部,下前頭回において,NoGo条件の方がGoOnly条件よりもHbO2の変化量の増加が大きかった.これらの脳領域は,持続的注意,反応抑制,目標の維持に関わる脳領域であることが報告されており,先行研究の結果とも一致する.以上の結果は,NIRSによって持続的注意を含む前頭葉機能に関わる脳領域を示したものであるといえる. |
持続的注意課題として,Go/NoGo課題が用いられていたことに興味を持ちました.しかし,ながら持続的注意に対する見解よりも行動抑制についての検討が行われており,持続的注意のみに関する脳領域を検討することの難しさを感じました.行動抑制に対する検討にはBIS/BASというアンケートが用いられており,私の研究においても他者に合わせるために行動を抑制する可能性があるので今後行うアンケートを検討する上で調査してみようと思います.
発表タイトル :「他者との憩い経験」の回想を通じた自尊心向上による妬みとシャーデンフロイデへの抑制効果のfMRIを用いた検証 著者 :山崎 翔平 セッション名 :一般公演 「認知・情動」 Abstruct : 妬みとそれを介して喚起される他者の不幸を喜ぶ感情であるシャーデンフロイデは様々な社会的トラブルの原因となる.両感情は自尊心と負相関することが示されており,本研究では,心理介入による自尊心向上が両感情を抑制するかの検証をした.両感情の評価のため,質問紙に加え,より客観的な指標として脳活動も計測し感情を抑制するかの検証をした.被験者として40名の大学生を雇用し,男女比が偏らないよう介入群と対照群の2グループに等分した.介入群に対しては,自尊心を向上させることが知られている「他者との憩い経験」の階層を促す面接(5分間)を行った.対照群には自尊心向上を伴わない話題で面接を行った.介入前後での両感情の変化を見るため,質問紙と脳活動の計測を行った.脳計測では両感情を誘起させる文章をMR装置内で黙読する課題を行わせた.両群の介入前の脳計測で,妬みによる背側前帯状皮質の賦活とシャーデンフロイデによる腹側線条体の賦活が見られた.これは先行研究の結果と一貫している.介入群のみでこれらの領域の賦活が介入後に低下し,低下量について有意な群間差が見られた.以上より「他者との憩い経験」の回想を用いた介入による自尊心向上が妬みとシャーデンフロイデを抑制する客観的証拠を示すことができた. |
他人の不幸を喜ぶ快感情のことをシャーデンフロイデと呼ぶことを初めて知りました.また,自尊心との関係を検討されている点,シャーデンフロイデを感じやすい人,感じにくい人は対人関係を築くうえで重要な個性の一つであると考えるため,とても興味深い研究であると感じました.また,質問紙においてSocial desirabilityに気を付ける必要があるという点は今後アンケートを用いる上でも考慮していきたいと感じました.
参考文献
・第19回日本ヒト脳機能マッピング学会, http://www.jhbm19.jp/
学会参加報告書
報告者氏名 | 田中勇人 |
発表論文タイトル | 照明環境と表示媒体が視覚的注意と機能的コネクティビティに及ぼす影響の検討 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 田中勇人, 日和悟,廣安知之 |
主催 | 日本ヒト脳機能マッピング学会 |
講演会名 | 第19回日本ヒト脳機能マッピング学会 |
会場 | 京都大学百周年時計台記念館 |
開催日程 | 2017/03/09-2017/03/10 |
- 講演会の詳細
2016703/09から2017/03/10にかけて,京都大学百周年時計台記念館にて開催されました第19回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加いたしました.この学会は,医学,工学,情報学,脳神経科学などの研究者が集い,計測やイメージングの最先端技術の情報や今後の展望を共有して議論し合うことを目的に開催されています.今回の大会のテーマは,「ニューロイメージングの社会の実装」で,発展の著しいニューロイメージングの実社会での活用法,可能性,方向性について議論する場を目指して,本大会は開催されました.
私は9,10日ともに参加いたしました.9日には,9:00に会場入りし,18:30まで聴講を行い,そのうち13:20〜14:50に自身の研究に関するポスター発表を行いました.10日には,9:00に会場入りし,15:30まで聴講を行いました.本研究室からは他に廣やす先生,日和先生,萩原,水野が参加されました.
- 研究発表
- 発表概要
私は9日の13:20からの「ポスター発表1」にて発表およびディスカッションを行いました.発表の形式はポスター発表で,13:20-14:50の90分間,様々な研究者や学生と議論させていただきました.
今回は,異なる照明環境と表示媒体が視覚探索時における脳活動に与える影響について発表しました.紙媒体とディスプレイを使用した視覚探索実験を行い,日常的な白色環境下において紙媒体で成績が良かったグループAとディスプレイで成績が良かったグループBに分けて,視覚探索時の脳活動の比較を行い,課題成績と脳活動との関連性について考察した結果を示しました.
以下に抄録を記載致します.
【背景】近年、執務者の知的生産性を向上させるための最適な作業環境が求められている。視作業時のパフォーマンスにおいては、照明環境や表示媒体が影響するとされている。 【目的】そこで本研究では、照明環境が脳活動に及ぼす影響が表示媒体により異なるかを検討するために、紙媒体とディスプレイを用いた視作業時の脳活動計測を3種類の照明環境下で行う。 【方法】本実験では、116CHのfNIRSにより視覚探索時の脳血流変化を計測する。照明環境は光色が赤、白、青となる空間に制御する。パフォーマンスは正答率で評価し、脳活動においては活性部位と機能的コネクティビティの解析を行う。 【結果】白色環境での正答率により、紙媒体でパフォーマンスが高いグループAと、ディスプレイで高いグループBに被験者20名を分類した。各群で3種類の照明環境と2種類の表示媒体全ての条件における正答率を比較した。グループAでは青色環境でディスプレイを用いた時に、グループBでは赤色環境で紙媒体を用いた時に正答率が有意に低かった。これらの環境では角回が活性し、前頭極と角回が前頭眼野と結合する傾向が見られた。 【考察】これらの部位が背側注意ネットワークに属することから、正答率が低い時は視覚的注意の対象範囲が局所的になり、刺激全体に注意を向けずに作業効率が低下したと考えられる。 【結論】よってパフォーマンスを低下させる照明環境・表示媒体には個人差があるが、その際の脳状態は同じである可能性が示唆された。 |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
京都大学大学院工学研究科の特定研究員の奥畑志帆さんからの質問です.質問内容は,「得意とする媒体によって機能する注意ネットワークが異なってくるというお話でしたが,背景色と文字色のコントラスト比は算出されましたか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「コントラスト比に関しては算出しておりません.赤色環境下での紙媒体実験では背景色がオレンジ色になり,青色環境下での紙媒体実験では白色環境よりも背景色が白くなっていることは目視で確認いたしましたので,コントラスト比も視覚的注意に影響を及ぼす可能性はあると思います.ですので,今後研究を行う後輩に引き継ぎという形で,コントラスト比からの知見の可能性を示していきます.」です.
・質問内容2
明治大学大学院理工学研究科の栢沼一修さんからの質問です.質問内容は,「紙媒体とディスプレイでは,何が異なってくるのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「紙媒体では照明光が反射する反射光の影響の影響を被験者は受けているのに対し,ディスプレイでは反射光に加えてディスプレイからの透過光の影響も受けています.透過光により周辺視野が比較的明るくなることが考えられますが,被験者の眼球に入る光の量を物理量という形で計測できていません.このような光量も計測できると,より考察を深めることができて面白いなっと気づきました.」です.
・質問内容3
名前を控え損ねてしまいましたが,「fNIRSでは近赤外光を使って脳血流変化量を計測していると思うのですが,照明光の影響を受けて計測に支障をきたすということはないのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「照明周波数の影響や照明光の干渉については調べきることができていません.」です.
- 感想
日本ヒト脳機能マッピング学会,私にとっては思い出深い学会となりました.2015年7月に行われた第17回JHBM,2016年3月に行われた第18回JHBM,そして今年度に参加した第19回JHBMと,3年連続で参加しました.今回のポスター発表では,修士論文でまとめあげた演題で発表しました.いつになく緊張することなく発表およびディスカッションに臨むことができ,fNIRS研究に関わっている研究者だけではなく,他大学の大学院生にも興味を持っていただけて,ポスターセッションの90分間はずっと声を張り上げたまま終始過ごすことができました.私にとっては,とても忘れることのできない,感慨深い時間となりました.このような機会を与えてくださった廣安先生,日和先生,そして一緒にポスター作成に挑みリハーサルにも参加してくれた後輩の皆さんに心より感謝いたします.また今回の学会では,「ニューロイメージングの社会への実装」 というテーマで開催され,最先端の脳科学研究が今後社会でどのように実用されようとしているのかを感じとれる演題も多くて,とても楽しく聴講することができました.学生最後に参加した学会が,自身の研究も社会に必要とされているものだと実感できる場となりました.本当に参加できてよかったです.ありがとうございました.
- 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : ニューロマーケティングのマーケティングへの応用 著者 : 辻本悟史 セッション名 : シンポジウム Abstract 人の意思決定や行動は,意識化できない要因に左右されているため,近年の商品開発や広告などのマーケティングの分野で,生理指標や脳科学の手法を活用されようとしている.本稿では,EEGを用いたニューロイメージングの社会実装の一例として,実践事例を紹介し,近年明らかになってきた購買行動のプロセスについて議論する.EEGによる手法では,時間周波数解析により広告やパッケージのマーケティング素材に関連して生じる心理状態を推定するとともに,アイトラッキングによる注視位置・時間の調査を行っている.これらの手法を通して,従来の質問紙による主観評価よりも,市場の売り上げやシェア率を高い精度で予測できる.この社会実装の事例を通して,購入意思決定における無意識の情動反応の影響の大きさを再確認する. |
この発表では,ヒトの知覚や意思決定は無意識に左右され,広告やパッケージはどれだけ感情的に消費者に訴えられるかが重要であることから,EEGから得られる生体情報をもとに消費者の状態を客観的に推定し,その状態をリアルタイムでフィードバックされていた.リアルタイムでフィードバックされるまでの技術的な内容までは理解することができなかったが,脳活動を複数回計測することによる再現性,脳活動を調査する意義について言及されており,また今後の脳科学研究の実用例の一部をリアルに紹介されていたため,興味深く聴講することができました.自身の研究意義を再確認するきっかけにもなりました.
発表タイトル : 内側前頭前野の低周波活動とポジティブイリュージョンの関連: 安静時NIRSによる検討 著者 : 吉村晋平 セッション名 : ポスター発表 Abstract 健常者には,自己の個人特性や能力が優れていると評価するポジティブイリュージョン(PI)が現れる.PIは内側前頭前野のDefault Mode Network(DMN)の安静時の機能的結合性と関連するとされている.しかし,PI についてfNIRSによる検討は行われていない.本研究では,DMNの活動とPIの個人差の関連をfNIRSを用いて検討する.内側前頭前野に配置した22チャンネルの低周波信号値を個人ごとに算出し,自己評価判断との相関を求めた.チャンネルの一部とネガティブ語に対する自己評価の高さで相関が見られた.これらの結果から,DMNの安静時活動がPIと部分的に関連することが示された. |
この発表では,fNIRS実験にて島津製作所のLABNIRSを使用されているということだったので,fNIRS解析手法について着目して聴講しました.演者の方は低周波信号の振幅値を算出していましたが,これはMRIを用いた先行研究を参考にした解析手法ということでした.今後は活性判定やコネクティビティ解析手法を試みるとおっしゃっていたので,MISLの学生が行っている解析手法は最先端であると改めて実感しました.その他にも,解析にはNIRS-SPMやEEGLABを使用して解析しているともおっしゃっていました.しかし,安静時にどうして内側前頭前野が活動するのか,安静時がどのような状態を示しているのかを今後言及されていくということでしたので,これらの考察内容に関してディスカッションできたことがなかなか面白かったです.
参考文献
- 第19回日本ヒト脳機能マッピング学会 http://www.jhbm19.jp/program/