日本光脳機能イメージング学会 第20回学術集会

2017年7月15日(土)に東京都千代田区永田町の星陵会館にて日本光脳機能イメージング学会第20回学術集会が開催されました.本研究室からは廣安先生,M1の中村(清),西澤,池田が参加しました.各学生がポスター発表,約2分のフラッシュトークにて自身の研究成果を発表しました.発表題目は以下のとおりです.

      ◆「ワーキングメモリ課題時における賦活脳領域の検討 –fNIRSとfMRIの比較-」
        池田幸樹,日和悟,廣安知之

◆「持続的注意課題時におけるfNIRSを用いた脳状態の遷移の検討」
西澤美結,日和悟,廣安知之
◆「自動車運転動画視聴時の脳活動のfNIRSによる検討」
中村清志郎,日和悟,廣安知之

光脳機能イメージング学会は,まだ歴史の浅い光による脳機能計測法の基礎研究を深め,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究を促進するための機会を提供する場です.基礎研究や医療応用の研究など様々な発表があり,興味深かったです.ポスター発表では,3名ともたくさんの方にポスターを見に来ていただくことができました.また,fNIRSを知っている方が多いこともあり深い議論や研究のアドバイスをいただくことができました.いただいた意見やアドバイスを研究室で共有し,研究に反映させていきたいです.学会終了後は,OBの方と合流し楽しい時間を過ごすことができました.


【文責:M1 池田】

学会参加報告書

報告者氏名 池田幸樹
発表論文タイトル ワーキングメモリ課題における賦活脳領域の検討 -fNIRSとfMRIの比較-
発表論文英タイトル Examination of activated brain region in working memory task – comparison between fNIRS and fMRI –
著者 池田幸樹,日和悟,廣安知之
主催 医療情報システム研究室
講演会名 日本光脳機能イメージング学会第20回学術集会
会場 星陵会館
開催日程 2017/07/15

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/07/15(土)に,東京都の星陵会館で開催されました日本光脳機能イメージング学会第20回学術集会に参加いたしました.光脳機能イメージング学会は,まだ歴史の浅い光による脳機能計測法の基礎研究を深め,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究を促進するための機会を提供する場として開催されています.私は終日参加し,本研究室からは他に廣安先生,中村(清)さん,西澤さんが参加されました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は午後のポスターセッションに参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,セッション時間は約1時間半,フラッシュトーク約2分となっておりました.
今回の発表について以下に抄録を記載致します.

1. 背景 ワーキングメモリ(WM)とは,複雑な思考のために情報の処理をしつつ,一時的に必要な情報の保持をする働きを担う記憶システムである.WM課題遂行時に,前頭皮質と頭頂皮質の活動が確認されている.これらの領域は脳表面にあるため,自然な状態で計測可能なfNIRSでも計測可能である.本研究では,WM課題時におけるfNIRSの有用性を確認するため,fNIRSとfMRIの賦活脳領域の比較を行った.
2. 方法 本実験では,WM課題としてN-back課題を用いた.N-back課題とは,刺激が連続的に提示される中で刺激を記憶し,N個前の刺激に対応した反応をし,記憶した情報を次々に更新していく課題である.被験者はfMRIでは健常者30名,fNIRSでは健常者10名を対象に実験を行った.計測には,116CHのfNIRS(Hitachi ETG-7100)とfMRI(Hitachi Echelon Vega 1.5T)を用いた.解析は,一般線形モデルによる統計解析を行い賦活脳領域の推定を行った.
3. 結果・考察 fNIRSで計測されたデータを用いてGLM解析を行い,有意水準5%で平均値の差の検定を行った.N=3の場合,前頭では左中前頭回眼窩部,左下前頭葉三角部,左下前頭葉眼窩部,側頭では左右中側頭回,右下側頭回,後頭では右下後頭回,頭頂では左補足運動野の活動が確認された.fMRIもfNIRSと同様にGLM解析を行い,多重比較補正を行い有意水準5%で検定を行った.主な活性領域は左右中前頭回,左右下頭頂小葉,左尾状核,左視床,右島皮質であった.さらに脳機能ネットワーク解析を行った結果,賦活領域である右中前頭回と右下頭頂小葉の間に脳内ネットワークが確認された.これらの領域間伝達経路には左弁蓋部,右楔前部,小脳が含まれていることが確認された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
こちらの質問は,最適化を行った結果とパフォーマンス結果との相関はあるのかというものでした.この質問に対して,今回はパフォーマンス結果を考察する時間がなかったため,今後検討していきたいと回答しました.
 
・質問内容2
こちらの質問は,なぜ刺激ベクトルの長さは何を表しているのか,なぜ刺激の大きさを最適化するのかというものでした.この質問に対して,刺激ベクトルの長さは受け取る刺激の大きさで,タスク中一定の刺激が与えられているが受け取る刺激はタスク内容や個人,チャンネルにより異なるためであると回答しました.
 
・質問内容3
こちらの質問は,どのように0点補正しているのかというものでした.この質問に対して,タスクの開始を0にしていると回答しました.さらに,タスクの開始から下がってしまう被験者もいるのでタスクの開始時と終了時の平均などを取って一次近似してもよいのではないかとアドバイスいただきました.
 

  • 感想

今回,初めての国内学会でした.たくさんの方にポスターを見に来ていただきました.私なりに考えたことを伝えることができ,面白い研究だと言っていただけたので,研究へのモチベーションにつながりました.また,fNIRSに詳しい方が多いことから,様々な意見やアドバイスをいただくことができました.一部を以下に示します.
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・パフォーマンスとの相関を取ってみると面白いのではないか
・顎を固定すると体動などのノイズが劇的に減る
・ゲームをよくしていると目的の領域がうまく働かず,違う領域で処理をしてしまうことがあるので,ゲームを日常的にしているかどうかなど考慮するとよい
・2-back,3-backで刺激を立てる大きさを変えてみるとよい
・このままでは故意的に最適化をしているように見えるので,Oxy-HbとDeoxy-Hbの刺激ベクトルを比較して,同様の傾向が見えるかどうか確認するとよい
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これらのアドバイスを研究に反映させていきたいと考えています.
 

  1. 聴講

今回の学会では,下記の1件の発表を聴講しました.

発表タイトル: 情報秘匿時の脳血流動態反応に関するadaptive GLM解析
著者: 新岡陽光,徳田竜也,檀一平太,宇賀美奈子
セッション名: ポスターセッション
Abstruct: 問題と目的 嘘は,我々の生活に至る場面で見られる行為である.心理学や犯罪学の分野では,虚について検討されている.本研究では,近赤外分光法(fNIRS)を用いて,嘘の中でも,自分を守るためにしばしば行われる「情報の秘匿」について,GLM解析により前頭-側頭領域における脳血流動態反応との関連を検討する.
方法 研究参加者:大学生,大学院生および社会人の52名(男性28名,女性24名,平均年齢23.942.52,19-31歳).26名ずつguilty群(模擬窃盗を実施)とinnocent群(模擬窃盗を実施しない)に分類.計測装置:52チェンネルのfNIRSシステム(ETG-4000)を使用.サンプリングレートは10Hzで記録.実験手続き:1.模擬窃盗:guilty群のみ模擬窃盗を実施.部屋の中にある箱に入っているアイテムを盗み出し,盗品を隠しに行ってもらった.2.見本合わせ:情報秘匿課題において使用する項目について,情報の秘匿とは無関係な刺激特性による脳血流動態反応を統制するため,事前に視覚呈示.3.情報秘匿課題:模擬窃盗に関連する質問(裁決質問)と関連しない質問(非裁決質問)をランダムな順で60施行呈示した.1施行の流れとしては,はじめに注視点が2秒呈示され,その後,質問文と画像が呈示された.15秒後,「はい」,「いいえ」の文字が左右いずれかにランダムに出現し,すべての質問について「いいえ」と口頭で答えた後で対応するキーを押して回答した.guilty群は裁決質問について情報を秘匿していることになり,非裁決質問については情報を秘匿していないことになる.一方,innocent群は,裁決質問,非裁決質問のいずれについても情報を秘匿していないことになる.
脳機能計測におけるGLMアプローチ NIRS計測を用いたヒトの脳機能研究において,fMRI計測における標準的な解析法である一般化線形モデル(GLM)が適用されるようになってきている.GLM解析では,時系列データについての回帰式を作成し,血流動態反応関数(HRF)を畳み込むことで生成された基底関数との類似性に基づいて,脳活動を評価する.その際,説明変数と誤差項を線型になるように組み合わせた形で記述される.HRFには,さまざまな時間パラメータが設定されるが,多くの場合fMRI計測における解析と同様のパラメータが用いられている.Uga et al.(2014)は,fMRI計測における出力信号とNIRS計測における出力信号の違い等から,最適な時間パラメータを用いたGLM解析の方法について提案し,検討を行っている.その結果,課題の特性に応じて,最適な時間パラメータは異なり,そのようなパラメータを用いることで,認知課題中の血流動態反応について,理論的にもうまく説明が可能であることを示した.本研究においても,最適な時間パラメータを用いたGLM解析を用いて,情報秘匿時の脳血流動態反応について説明を試みる.また,従来のGLM解析との比較も行う.結果の詳細についてはポスターで報告する.

この発表で着目した点は,HRFを最適化したadaptive GLM解析を用いていたところです.賦活解析の手法はGLM解析と同様らしく,時間があまりなくHRFの最適化について詳しくは聞けませんでしたがτp=11に統一して解析を行っていました.
学会参加報告書

 
報告者氏名
 
西澤美結
発表論文タイトル 持続的注意課題時におけるfNIRSを用いた脳状態の遷移の検討
発表論文英タイトル
著者 西澤美結,日和悟,廣安知之
主催 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会
講演会名 第20回 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 学術集会
会場 星陵会館
開催日程 2017/07/15

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/07/15に,星陵会館にて開催されました第20回光脳機能イメージング学会に参加いたしました.この学会は一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会によって主催された学会で,近赤外線分光法を利用した脳機能計測法の基礎研究をさらに深め,より発展し確立した技術として脳機能の研究や臨床応用に定着させるため,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会を提供する目的で開催されています.
私は終日参加しました.本研究室からは他に廣安先生,M1池田,M1中村が参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は15日の午後のフラッシュトーク,ポスター発表に参加いたしました.発表の形式は2分間の口頭発表と95分のポスター発表となっておりました.
今回の発表は,「持続的注意課題時におけるfNIRSを用いた脳状態の遷移の検討」です.以下に抄録を記載致します.

人々は日常生活の約50%の時間を目の前の行為に注意を向けられていない状態で過ごしていると言われている.しかし,自動車運転時や仕事などの作業を行うときは意図的に注意を維持しなければならない.人の注意の持続は時間とともに低下すると言われており,ある標的に意図的に注意を向けていても無意識に注意が逸れる.そこで意図的な注意の持続を促す課題を行い,fNIRSを用いて課題中の脳機能状態の変化を分析した.この状態変化に重要な脳部位が判明すれば,注意の逸れを検出できる可能性があり,自動車運転時の事故防止や作業効率の向上が期待できる.そこで本稿では,機能的結合に着目して,その時間変化を解析することにより注意状態の変化との関係を分析した.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は「機能的に結合しているかしていないかという指標は何で出しているのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「相関係数での検討を行っている」と回答しました.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は「この研究を行うことで社会にどう貢献していけるのか」ということでした.この質問に対する私の回答は,「個人で異なる脳状態変化を検討可能になることによって自動車運転時の事故防止や作業効率の向上につながる」と回答しました.
 
・質問内容3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は「状態の種類は2つだと仮定して解析を行ったのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「個人ごとに最適な状態数の検討を行った結果を使用して解析を行った」と回答しました.
 
・質問内容4
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は「状態に対する行動データの照らし合わせは,どうしているのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「現在は検討していない」と回答しました.「関係性が見れたら面白い」という指摘を受けたので,「行動の推定を行えるような解析を今後行いたいと思っている」と回答しました.
 
・質問内容5
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は「状態数が同じ被験者はすべてこの脳状態になったのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「状態数が同じ被験者の中でも例を取り上げてポスターに結果を載せている,状態数が同じでも被験者によって脳状態は違っている.」と回答しました.
 
 

  • 感想

私は学外でのポスター発表が2回目であったので緊張することなく発表することが出来ました.ポスターにも多くの方に足を運んでいただき,研究に興味をもっていただくことができとてもうれしく感じました.研究内容や解析に自信がなくなることも多いのですが,「fNIRSでここまで解析を行うことができるのか!」,「面白い研究だね」といっていただき,今後も頑張っていこうと思いました.今後の解析方法の指摘も多く受けたので,今後の解析にも反映していこうと思います.また,他の参加者のセッションやポスター内容は,研究室では行われていない内容や解析が多かったため,新鮮さがあり多くの技術を学ぶことが出来ました.1日の開催でしたがとても充実した学会参加になりました.
 
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : fNIRSの向かう道
著者                  : 壇一平太
セッション名       : 大会長講演
Abstruct            : fNIRSの誕生から四半世紀が過ぎようとしている.2000年代初頭には,「fNIRSは脳機能研究に非ず」という理由で論文が拒絶されることも多々あったが,現在,fNIRSは,脳機能イメージングの正当なツールとして,一定の評価を得るに至っている.fNIRS Society という専門の国際学会も誕生し,そのオフィシャルジャーナルNeurophotonicsも軌道に載りつつある.こういった現状から考えると,すでに一定の研究パワーを有するfNIRS研究が廃れることはないだろう.ただし,日本が競争優位性を保っているとは言い切れず,今後,Japan-passingが起こるという可能性はある.そこで,本公演では,特に日本のおかれた現状のメリットとデメリットに着目し,fNIRSの向かう道について考察する.

 
この発表は,fNIRSデータ解析手法の開発や医工連携共同研究についての発表でした.特にデータ解析の部分では補正の仕方など新しく知ることが出来ました.またfNIRS特有のdelay問題は今後実験設計などを考えていくうえで重要であると感じました.
 
 

発表タイトル       :赤ちゃんの視覚と脳
著者                  : 山口真美
セッション名       : 招待講演
Abstruct            : 最新の乳幼児を対象とした知覚発達研究・脳科学研究を紹介しながら,乳幼児期の視覚認知機能の発達初期過程を概説する.これまでの研究から,顔認知や物体認識の基礎にある恒常性の発達など,認知機能の基礎が完成されるのは生後8か月までであることわかってきた.これらの成果を示す行動実験の概要と,近赤外分光法(fNIRS)を用いた顔認知の能力を測る脳計測研究,特に言語獲得前の色認識の脳内機構についても概説する.

この発表では,乳幼児期の視覚認知機能の発達初期過程についての発表でした.赤ちゃんの脳機能計測を段階的に行うことによって年齢別に脳機能の検討が行うことが可能であるということがわかりました.今までの研究とは違った観点からの研究でとても面白かったです.
 

発表タイトル       : fNIRSによる母子同時計測データからの相互作用の抽出
著者                  : 森本智志
セッション名       : ポスターセッション (心理・認知・発達)
Abstruct            : 近年,複数人の脳活動を同時に計測し,脳活動レベルの相互作用を明らかにするhyper-scannig研究が盛んになってきている.fNIRSは拘束の少ない条件で計測が可能であることから、特に自然な環境下における脳活動の相互作用を評価する上で有用だと言える.従来研究の多くは時間周波数軸におけるコヒーレンスを調べることで,同期的な脳活動の評価を行ってきた.しかし,比較する信号が互いに近い周波数を持つことを前提としているため,母子間のように血流動態が明らかに異なるような脳活動の同期の評価にはふさわしくない.そこで我々は,異なる周波数特性を持つfNIRSデータにおいて同期活動を評価する手法について検討した.

この発表はhyper-scannigについての発表でした.解析でウェーブレット変換を行っていること,NMFを使用していることなど,私の研究とは違った解析を行っていることからなぜその解析であるのかということを知ることが出来,大変参考になりました.
 
参考文献

  • 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 第20回学術集会, http://jofbis.umin.jp/rally-020.html

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
中村清志郎
発表論文タイトル 自動車運転動画視聴時の脳活動のfNIRSによる検討
発表論文英タイトル Study of brain activity by fNIRS when watching driving movie
著者 中村清志郎,日和悟,廣安知之,
主催 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会
講演会名 第20回一般社団法人
日本光脳機能イメージング学会学術集会
会場 星陵会館(東京都千代田区永田町2-16-2)
開催日程 2017/07/15

 
 

  1. 講演会の詳細

2017/07/15に星陵会館(東京都千代田区永田町2-16-2)にて開催されました第20回一般社団法人日本光脳機能イメージング学会学術集会(http://jofbis.umin.jp/rally-020.html)に参加いたしました.日本が先導して開発を進めてきた近赤外線分光法を利用したイメージング装置は,非侵襲かつ簡便な計測法として脳機能計測の一手法として広く普及しています.近年では基礎研究にとどまらず精神疾患などの臨床検査にも用いられています.光による脳機能計測法の基礎研究をより深め,脳機能研究や臨床応用に定着させるため,研究者間の情報交換および研究協力を促進するための場として本学会が行われています.
本学術集会では,fNIRSの今後を再考させる講演や臨床応用に関する発表とともに,ポスターセッションによる発表も行われました.また,招待講演では中央大学の山口真美先生による「赤ちゃんの視覚と脳」というタイトルで講演いただきました.また,「fNIRSの臨床応用」と題してfNIRSによる精神疾患の診断やその問題点,基礎研究に関する発表が行われました.
私は,M1の池田さん,西澤さんとともにポスターセッションにて発表しました.

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は16:25~18:00のポスターセッションに参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,95分間の発表となっておりました.
今回の発表は,自動車運転動画視聴時の脳活動のfNIRSによる検討について発表しました.以下に抄録を記載致します.

【目的】
交通事故の9割はヒューマンエラーによって発生している.また,交通渋滞の多くはドライバに起因するものであることが明らかとなっている.これらのドライバに由来する交通問題の解消を目指し,運転支援システムの開発が進められている.特に,システムがメインで運転を行い,必要に応じてドライバが運転する運転支援システム(レベル3)の実現に向けて,ドライバの状態推定を行うことが求められている.本研究の目標は,自動車運転時の脳活動から被験者(運転者)の状態を推定し,運転支援システムの制御に生かすことである.本稿では運転動画を視聴した際の脳活動の計測を行い,直進および右左折時の脳活動を分析した.
【方法】
近赤外分光分析法(functional Near Infrared Spectroscopy: fNIRS)を用いて,被験者5名に対して自動車運転動画視聴時の脳活動を測定した.レスト時(30[s])は画面中央の「+」を注視し,タスク時(30[s])にはドライバ目線の自動車運転動画(右折1回,直進2回,左折1回)を提示した.計測装置には島津製作所製LABNIRSを使用し,前頭部,後頭部(各22ch)の計測を行った.また,被験者に対して自動車の運転頻度・免許取得からの経過年数に関するアンケートを実施した.計測された脳血流量にバンドパスフィルタ(0.006-0.33Hz)をかけ,各レスト・タスク時の積分値からタスク/レスト比を活性度として算出し,各タスク時の活性度上位5chを抽出した.
【結果】
選択されたchから,右折動画鑑賞時は一次視覚野が,直進動画鑑賞時は二次視覚野が活性している傾向が見られた.一次視覚野には方位選択性があると考えられており,右折時の傾きに対して注意を向けている可能性が示唆された.また,二次視覚野の働きの一つとして奥行きの知覚に関わることが挙げられることから,直進時は歩行者,対向車の位置関係に注意を向けている可能性が示唆された.今後,個人ごとの活動の違いや各ブロックの違いを被験者の視線を解析し明らかにしていく.

 
 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は動画を見た時の脳活動の特徴が分かって,結果として何ができるようになるのかというものでした.この質問に対する私の回答は現段階では運転動画を見た際の脳活動はrest時よりも前頭葉の活動が低下するとわかり,他の脳部位がより活動していると予測でき,他の脳部位の計測が必要であるとわかったと回答しました.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問はベースラインをどこに置いているのかというものでした.この質問に対する回答ですが,計測スタート地点での血流量を0として考えていると回答しました.ベースラインについては様々な検討がなされていて,再考が必要ではないかとのご意見もいただきました.
 
・質問内容3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問はどのような動画を被験者に提示したのかというものでした.この質問に対する回答ですが本実験で用いた運転動画をお見せしました.
 

  • 感想
    本学会に参加するにあたって,実験結果が思うように出なかったこともあり,とても準備に時間がかかってしまい,発表直前まで準備をしていました.また,会場の壇上でフラッシュトークをした際はとても緊張してしまい,当初発表しようと思っていた内容の7割ほどしかうまく発表できませんでした.しかし,ポスターセッションでは吹っ切れて自分らしい発表ができたと思います.基本的な説明が不足していたのか,基本的な質問が多かったです.今後はより簡潔で分かりやすく,深い発表ができるように精進していく必要があると感じました.



 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 嚥下を測る
著者                  : 松田 剛
セッション名       : シンポジウム
Abstract     : 厚生労働省によると平成27年における日本人の死因の第3位は肺炎であり,高齢者になるほどその比率は高くなっている.高齢者が肺炎を引き起こす要因としては,食べ物や唾液が気道に侵入してしまう誤嚥(嚥下の失敗)が最も多いといわれており,老化による筋力や反射機能の低下のほか,脳血管疾患などによっても嚥下障害は引き起こされる.嚥下は舌口腔から咽頭,食道まで複数の筋が関わる緻密かつ連続的な運動でありながら,普段は特に意識することなく実行されているため,リハビリなどで意識的に嚥下を行う必要が生じた際,その実行方法(筋の動かし方など)の理解には困難が伴う.そこで我々は,言葉では理解が難しい嚥下運動を「見る」または「聞く」だけで促進できる新たなリハビリ法の可能性を検討してきた.その根拠となる人間の認知機能がAutomatic imitation である.Automatic imitation とは目にした他者の運動を無意識のうちに模倣してしまう認知機能のことであり,言い換えれば外部刺激と自身の運動の互換性による運動の促進効果のことである.手足の運動に関してはすでに報告がある一方で,嚥下運動に関する報告はまだない.もし嚥下運動に対してもAutomatic imitationが生じるならば,他者の嚥下を視聴するだけで自身の嚥下が促進される可能性がある.本講演では,咽喉音,筋電,脳活動の測定によって嚥下運動のAutomatic imitationを検討した3つの実験について紹介する予定である.

 
この発表は高齢者でよく起こるとされている誤嚥性肺炎の防止のためにAutomatic imitationを利用したリハビリを考案し,その時の脳活動の比較を行ったとのことでした.嚥下の音を被験者に聞かせ,その時の嚥下と脳活動を計測し,実際に嚥下が行われ,促進されているという結果が得られたとのことでした. 実験設計もよく練られていて,自身の実験でも予備実験を大事にしたいと思いました.
 
参考文献
第20回一般社団法人日本光脳機能イメージング学会学術集会
http://jofbis.umin.jp/rally-020.html