【速報】日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会

日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会 が、星陵会館にて開催されました。
研究室からは、下記の2名の学生が発表しました。

  • fNIRSによる瞑想状態推定システムの構築 藤井聖香(M2
  • fNIRSによる集中瞑想の神経基盤の検討 山本渉子(M1)


学会参加報告書

 
報告者氏名
 
山本渉子
発表論文タイトル fNIRSによる集中瞑想の神経基盤の検討
発表論文英タイトル Study of the neural basis of focused attention meditation by fNIRS
著者 山本渉子, 日和悟,廣安知之,
主催 日本光脳機能イメージング学会
講演会名 日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会
会場 星陵会館
開催日程  2018/7/14

 
 

  1. 講演会の詳細

2018/7/14に,東京の星陵会館にて開催されました日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会に参加いたしました.この日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会は,日本光脳機能イメージング学会によって主催された研究会で,光による脳機能計測法の基礎研究をさらに深め,より発展し確立した技術として脳機能の研究や臨床応用に定着させるため,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会を提供する目的に開催されています.
私は全ての日程に参加し,本研究室からは他にM2の藤井(聖)さんが参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は14日の午後のセッション「フラッシュトーク」,「ポスター発表」に参加致しました.発表の形式は口頭発表で,2分のフラッシュトークと1時間半のポスター発表を行いました.
今回は,「fNIRSによる集中瞑想の神経基盤の検討」というタイトルで発表致しました.以下に抄録を記載致します.

【目的】
マインドフルネスとは,今この瞬間に注意を向けることであり,マインドフルネス瞑想によりストレス低減や集中力向上の効果が期待されている.瞑想の重要な要素の1つに注意がある.瞑想では身体感覚に注意を向け,内受容的な注意を維持するよう心掛ける.本研究では,瞑想により内受容的な注意を誘導するかどうかを調べることを目的とした.また,聴覚外部刺激に反応し,それを数える時の外受容的状態も測定することにより,内受容的状態の特徴を検討した.
【方法】
瞑想初心者10名の2課題中の脳血流変化を計測した.課題には,1)breath-counting task(BCT)と2)auditory counting task(ACT)の2つを用いた.BCTは,マインドフルネス瞑想の行動尺度として有効であることが示されている[1].BCTで用いた数息観とは,マインドフルネス瞑想の1つであり,息の出入りを数えることにより呼吸に意識を集中させる瞑想法である.BCTでは,呼吸を1から9まで繰り返し数え,1-8回目では1つのボタン,9回目の呼吸で別のボタンを押すよう指示した.ACTでは,聴覚刺激が提示され次第ボタンを押し,BCTと同様に1から9まで音の回数を繰り返し数えるよう指示した.両課題とも気が逸れたら3つ目のボタンを押し,1から数え直すように指示した.前頭部(47CH),後頭部(47CH),頭頂部(22CH)にプローブを配置したfNIRS装置(ETG-7100,日立製作所)を用いて,2つの課題における脳活動を測定した.脳血流データにバンドパスフィルタ(0.008-0.09Hz)をかけ,脳領域間における脳血流変化の時間的同期を調べるため,各被験者の相関係数行列を算出した.その相関係数行列をエッジ密度15%で2値化し,グラフ理論に基づき,ある領域と他の領域との結合本数である次数中心性を算出した.次数中心性は,脳内ネットワークにおける重要性を表す.この次数中心性を用いて,2課題間における脳機能ネットワークの違いを検討した.
【結果】
ACTと比較し,BCTでは右上前頭回背側部の次数中心性が有意に高かった(図1).上前頭回背側部は背側注意ネットワークに含まれている領域であり,トップダウン的注意に関係していることが報告されている.ACTは,外部刺激に対して受動的な状態を誘導したが,BCTは内受容的感覚に対して,能動的な注意を誘導したと考える.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
複数の方から質問いただきました.こちらの質問は,瞑想できているかはわからないのかというものでした.この質問に対して,今回は初心者しか測定していないため分からないが,今後実践者も測定し,検討していきたいと回答しました.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,瞑想といえば呼吸を数えるものなのかというものでした.この質問に対する回答ですが,そうではなく瞑想にはさまざまな種類があるが,今回は瞑想初心者でも比較的簡単に行うことができる数息観を用いたと回答しました.
 
・質問内容3
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,fNIRSをなぜ使っているのか,もっと深部を見ることができるMRIを用いたり,脳波と同時計測した方がいいのではないかというものでした.この質問に対して,より日常の生活に近い状態で測定でき,瞑想状態に適していると考えていると回答しました.
 
・質問内容4
国際基督教大学の方から質問いただきました. こちらの質問は,fNIRSでは注意に関する領域を測定することができるのかというものでした.この質問に対して,本実験結果で測定できた領域もあり,この実験だけではなくNIRSを用いた注意研究も行われているため,測定できる領域もあり検討可能であると回答しました.
 
・質問内容5
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,MRIの結果と比較しているのかというものでした.この質問に対する回答ですが,同じ実験はまだMRIでは行っていないため比較できてていないと回答しました.
 
・質問内容6
複数の方から質問いただきました.この質問は,熟練者は測定していないのかというものでした.この質問に対して,今回は測定していないが,今後初心者と実践者の比較もしていきたいと回答しました.
 
・質問内容7
こちらも複数の方から質問いただきました.こちらの質問は,複数のブロックのデータをどのように使っているのかというものでした.この質問に対して,賦活解析では各課題3ブロックをすべて用いて解析している.ネットワーク解析は各課題1ブロックずつしかないため,そのブロックを解析していると回答しました.
 
・質問内容8
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,ネットワーク解析では相関係数を求める手法がよくある手法なのか.何の相関を見ているのかというものでした.この質問に対する回答ですがよく用いられている手法であり,各脳領域同士のNIRSから得られた脳血流変化量の相関を見ていると回答しました.
 
・質問内容9
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,相関がどのくらい高かったら結合があるとみなしているのかというものでした.この質問に対する回答ですが,現在の手法では,被験者ごとの結合本数を合わせるために上位からの割合を用いて閾値を決定している.そのため,被験者によって相関の値は異なるため今後の検討課題であると回答しました.
 
・質問内容10
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,結合本数が多いことから何が言えるのかというものでした.この質問に対する回答ですが,degreeが高いほど他の脳領域と多く同期して変化しているので重要な脳領域であると考えると回答しました.
 
・質問内容11
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,例えばどの脳領域同士の相関が高いのかというものでした.この質問に対する回答ですが,結合先はまだ見ていないため今後検討する必要があると回答しました.
 

  • 感想

ポスター発表の前にフラッシュトークがあり,かなりたくさんの方々の前で発表し,とても緊張しました.また,新しい実験設計での初めての発表であったためどのように説明するべきか,何を主張するか悩んだところもありました.しかし,先生方にもご助言いただき,うまく話せたと思います.続いてポスター発表では,発表時間中たくさんの質問をいただきました.ポスターで説明できたと自分では思っていたことも質問いただくことが多く,うまく伝えられていないことも多いということを実感しました.また,NIRSに関する学会ではありましたが,解析方法など異なる方が多く,研究分野を知らない方へ発表する機会はなかなかないため,とても貴重な機会となりました.自分としてはいつもより詳しく説明したつもりではありましたが,伝えきれない部分もあったので,これからは話す相手に合わせて話せるようにもっと準備をしようと思いました.自分の研究についてももっと理解を深め,さらに考えて進めていきたいと思います.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       :近赤外線を用いた周産期管理
著者                  :浜松医科大学 副学長・病院長 金山尚裕
セッション名       :特別講演1
Abstruct             :
1)    内診指装着型胎児オキシメーター
胎児状態の把握は胎児心拍数モニタリングが胎児管理のゴールドスタンダードになっているが,疑陽性が多い.パルスオキシメーターを用いて胎児の酸素動態把握ができないか多くの研究者がチャレンジしてきた.米国で1990年代後半に胎児パルスオキシメーターが開発された.これは近赤外線センサーを経腟的に挿入し胎児に装着し胎児の酸素動態を診る方法である.残念ながらデータ取得率が低いこと,子宮内にセンサーを挿入することによる感染の問題,操作性が悪いこと,臨床的にはこれを導入しても帝王切開率が変化なかったことなどの理由で普及しなかった.過去に開発された胎児パルスオキシメーターは胎児に近赤外線センサーを装着するものであった.我々は発想を180度転換し,胎児に装着するのではなく,診察する医師の指に装着することを思いついた.これを実現するためには指腹に乗せられる超小型のセンサーの開発が必要であったが,従来のセンサーを100分の1のボリュームに縮小し,それを指サック内に納めることを静岡大学の庭山先生との共同研究で成功した.本機器は小動脈のパルスを捉えて酸素飽和度を測定する従来型のパルスオキシメーターではなく,末梢の毛細血管レベルの酸素飽和度(regional SO2 局所(組織)酸素飽和度)を検出している.胎児の頭部に当てれば末梢の脳組織を含む胎児頭部の酸素飽和度を測定できる.指装着型オキシメーターを装着後,透明な手袋をはめて測定するので患者には直接触れずに測定可能でき感染の問題も発生しない.本オキシメーターは内診の一環として測定ができるので医療者側,産婦の負担や違和感がないのが特徴である.本オキシメーターは新生児科医が娩出直後の新生児やクベース内の処置時に任意の部位を測定できるので出生直後の新生児管理にも役だつ.本機器により客観的な新生児評価が可能となると思われる.パルスオキシメーターは循環低下している新生児では測定できない.本オキシメーターはどんな状態でも瞬時に酸素飽和度と総ヘモグロビン量が表示される.排臨,発露,第1涕泣時でも測定可能である.発表では本オキシメーターが有効であった臨床データを示す予定である.本オキシメーターは医療者の指に装着する世界初のウエラブルオキシメーターであり,触診の延長上で使用でき,医師の“第6感”になりうるもので医療の各領域に応用可能である.本オキシメーターは機能検査オキシメーターとして認可され発表されている(名称 トッカーレ アステム (株)川崎).
 
2)    TRSを用いた母体脳循環モニタリング
妊娠高血圧症候群および子癇などに関連する妊婦の脳循環障害が注目されている.近年の報告では脳出血・脳梗塞は妊産婦死亡の第2位となっている.このため妊娠中の脳循環障害の予防・管理は極めて重要な周産期医療の課題である.また分娩時の性器出血の正確な測定は難しく問題になっている.我々は浜松ホトニクスと共同で近赤外線時間分光法(TRS)を用いて,分娩時における産婦の脳組織酸素飽和度,脳血流量のモニタリングを非侵襲的に行っている.TRSが妊娠高血圧症候群の病態把握や分娩時ショックの診断において有効であることを述べる予定である.

指サックに着けられるほどの小さなセンサーであり,実際にこの機器を使用している映像を見て,リアルタイムに,そしてすごく簡単に測定できることに驚きました.また,胎児にセンサーを装着するのではなく,医療者の指に装着するという発想の転換にもさらに驚き,発想を変えることの重要さも感じました.このようなモノづくり以外でも,例えば実験内容や解析方法など,自分のやっていることも視点を変えることでできることもあると思うので考えてみようと思いました.
 
 

発表タイトル       :新生児の頭蓋と光の散乱
著者                  :名古屋市立大学 新生児・小児医学分野 岩田欧介
セッション名       :シンポジウム
Abstruct             :
周産期医療に近赤外分光法(NIRS)による“光の窓”が開かれてから早くも30年以上が経過している.脳組織における酸素供給と消費のバランスを低侵襲で簡便に繰り返し観察することが可能となるため,新生児への応用を進めることで,1.生理的・病的状態におけるエネルギー代謝特性と,その発育に伴う変化が劇的に解明され,2.遠からずNIRSが臨床判断のために不可欠なベッドサイドツールとなる,と誰もが(?)信じていた.30年後,新生児の脳代謝と機能に興味を持つ研究者として,1についてはNIRSの劇的な貢献があったと言いたい.しかしながら,多因子によって規定される組織酸素飽和度の変化・差異の解釈には常に慎重な解釈が求められるため,正直な研究の考察には,仮説以外の様々な可能性に含みを持たせた,あいまいで歯切れの悪いものが多い.このような慎重なアプローチを後目に,非医学分野におけるNIRSは,“あかちゃんの脳に良い”環境や生活習慣に安易なお墨付きを与えるジャンクサイエンスツールとして広く信頼を得ている.2についても,中年期を迎えたNIRSは,未だにNICUにその定位置を見いだせずにいる.未知数に比して方程式が少ない現状を打破すべく,時間・空間・周波数など,新たなディメンジョンを追加することで,NIRSの情報量をより絶対的なものにしようとする様々な取り組みが行われている.その一つである近赤外線時間分光法(TR-NIRS)は,光路長を追加情報として用いることで,組織内ヘモグロビンの絶対量推定を可能にするだけでなく,近赤外光の組織内散乱を係数として定量評価することを可能にしている.本シンポジウムでは,私達のチームがNICU入院中の新生児に対して,出生から退院まで定期的に取得した光の散乱情報を元にした解析結果を,Publicationに先駆けて紹介したい.

赤ちゃんの10人に1人は蘇生が必要と聞いて,出産に対してそこまで命に対して危険を伴うと思っていなかったためとても驚きました.また,帝王切開で生まれると散乱係数が低いなど,生まれた方法によって影響されるものがあるということも初めて聞いて驚きました.このように新生児特有の特徴を学ぶことはなかなかないと思うので,すごく貴重な機会だったと思います.また,近赤外線時間分光法(TR-NIRS)についてあまり知識がなかったため,改めて自分で調べて学ぼうと思います.
 
参考文献

  • 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 第21回学術集会, http://jofbis.umin.jp/rally-021.html
  • 第21回 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 学術集会 予稿集

学会参加報告書

 
報告者氏名
藤井聖香
発表論文タイトル fNIRSによる瞑想状態推定システムの構築
発表論文英タイトル Construction of a system for estimating meditation state using fNIRS
著者 藤井聖香, 日和悟, 廣安知之
主催 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会
講演会名 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会
第21回学術集会
http://jofbis.umin.jp/rally-021.html
会場 星陵会館(東京都千代田区永田町2-16-2)
開催日程 2018/07/14
  1. 講演会の詳細

2018/07/14に,東京の星陵会館にて開催されました日本光脳機能イメージング学会第21回学術集会に参加いたしました.こちらの学会は,一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会によって主催された学術集会で,学生や大学教授,医師,企業が参加しておりました.日本が世界に先駆けて開発した近赤外線分光法を利用した脳機能イメージング法の研究を臨床応用などに促進し、医療の発展に寄与し、広く国民の健康増進に貢献するための議論を行い,この光による脳機能計測法の基礎研究をさらに深め,より発展し確立した技術として脳機能の研究や臨床応用に定着させることを目的に開催されています.
本研究室からは他にM1の山本さんが参加されました.

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は14日の午後のセッション「フラッシュトーク」,「ポスター発表」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,2分のフラッシュトークと約1時間のポスター発表となっておりました.
今回の発表は「fNIRSによる瞑想状態推定システムの構築」という題で発表いたしました.以下に抄録を記載致します.

マインドフルネスとは、瞑想などを通じた身体感覚への注意の維持や観察によって「今この瞬間の体験」に意図的な注意を向けること、またそのようなヒトの状態であり、集中力の向上やストレス低減に効果があるとされている。近年では、瞑想により脳の構造的・機能的な変化が生じることもfMRI研究により明らかにされている[1][2]。一方で、瞑想を始めたばかりの初心者には、瞑想中にどのような状態になればよいのかの判断が難しく、瞑想の熟練者との対話を通じてその方法を自己獲得することが唯一の方法である。そこで著者らは初心者の瞑想実践を支援することを目的として、脳機能情報に基づく瞑想状態の定量化とフィードバックシステムの開発を行う。
本システムでは、熟練の瞑想者が瞑想した際に発現する脳機能ネットワークを「瞑想メタ状態」と定義し、これを目標状態として各被験者の現在の状態との類似度をリアルタイムにフィードバックすることで目標状態への到達を支援する。脳活動計測には日立製作所ETG-7100を用い、116チャネルの脳血流変化量を計測した。メタ状態は5名の瞑想実践者(45.6±0.7歳、累積実践時間3910±2228h時間)の5分間の瞑想実践中の脳血流変化量データから構築することとし、動的機能的結合解析により瞑想中の各時刻の機能的結合度行列を算出したのち、安定して瞑想ができていると考えられる瞑想区間の後半に該当する機能的結合行列に対して、5名の実践者全員で共通して見られた機能的結合を瞑想メタ状態と定義した。
提案システムでは、上記で作成した瞑想メタ状態を用いて、初心者の瞑想中の機能的結合度と瞑想メタ状態との類似度を定量化し、目標状態へと誘導するためのフィードバックを行う。フィードバックを行う際には、「瞑想の実践を阻害しないこと」「良い方向に遷移したことをリアルタイムに被験者(ユーザー)に伝え、その瞬間の感覚を掴ませること」が重要である。本研究では、適切なフィードバックを行うための状態判定のしきい値、メタ状態との類似度の計算方法、そしてフィードバックの方法について検討を行い、システムの有用性を検証したので報告する。
  • 質疑応答

今回のポスター発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
日本女子大学のホマエさんという方からの質問でした.質問は「この研究のGOALはなにか?」「熟練者のばらつきは考慮できているのか?」「音が鳴ったら被験者はどうしたらいいのか?」という質問をいただきました.1つ目の質問については最終的に実用性があるものとして,汎用化できたらと考えていると回答しました.2つ目の質問に対しては少し,答えに戸惑った部分もありましたが,共通部分でメタ状態を作成しているという点で納得していただけました.3つ目の質問に対しては実験前にインストラクションでどうすべきか教えていると回答しました.
・質問内容2
名前を聞きそこねてしまいましたが,リコーの方からの質問でした.質問は,「全脳で測定しているが,実用性はあるのか」という質問でした.このような質問はリコーの方から以外にもいただいておりました.答えとして,全脳では実用性はかなり低いが,瞑想の研究が進んで,より簡易な装置でも瞑想状態の推定が可能となれば実用性も高くなる.まだ基礎研究の段階だと回答しました.システムという話を出すと実用性が求められることが分かりました.

  • 感想

こちらの学会は2年ぶりの参加であり,また初めて先生方がいらっしゃらない学会ということで少し不安を抱えながらの学会でした.2年で,日本におけるNIRS研究はどこまで進んだのか,知りたいと感じていました.また,システムが完成してからの初めての学会ということで自身の研究に対する自信をつけたいと考えておりました.講演については,今回は周産期治療がテーマということで,どちらかというと臨床研究であり,なかなか自身の研究との共通点を見つけることが困難でしたが,赤ちゃんに関する知識は身につきました.とてもおもしろい講演ばかりでした.
ポスター発表では,初めから多くの方に来ていただき,山本さんの写真を撮る余裕がないほどでした.しかし,ネットワークや瞑想についてはまだまだ知らない方が多く,一から説明する必要がありました.周りのポスター発表でもネットワークを用いた研究はほとんどありませんでした.こういった点からMISLは世界レベルの研究をしていると感じることが出来ました.自身の研究についてもおおよそ説明をすることができ,興味を持っていただけました.不安な点もありましたが,自信につながったと思います.

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.

発表タイトル       : 周産期における脳酸素代謝の特異性
著者                  : 日下 隆
セッション名       : 大会長講演
Abstract            : 新生児黄疸を認める動物はヒトとアカゲザルのみで,その生理的意義はビリルビンの抗酸化作用により,生後の急激に増加する活性酸素を消去して組織障害を軽減することと考えられる. ビリルビンは,ヘモグロビンのプロトヘムがヘムオキシゲナーゼによりα位で開環し,ビリベルジンⅠXαが生成され,そのビリベルジンⅠXαがビリベルジン還元酵素により還元され生成される.生成されたビリベルジンⅠXαはヒトでは主にビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素によりグルクロン酸抱合され胆汁・尿中へ排泄される.ビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素活性の発達パターンは新生児黄疸の生後経過とよく対応し,出生を契機に一日約1%ずつ上昇し,ほぼ3ヶ月で成人活性となる. ヒトは出生を契機にして肺呼吸を行い,動脈内の酸素分圧は急激に上昇する(PO2が約30から90mmHg程度に上昇).酸素はミトコンドリア電子伝達系からの電子を受け取り,水に変換されるが,生後の急激な酸素供給の上昇に応じて電子伝達系の電子供給が急激に増加することは考え難い.よって不完全な電子の供給を受けた酸素は活性酸素となり,多くの生体成分と反応してその機能や構造を損傷し得る.特にヒト新生児は酸素消費量が低いため(特に未熟な脳),活性酸素やフリーラジカルが産生され易くこの防御のためにビリルビンを利用していると考えられる.  このような酸素毒性に脆弱な新生児において,酸素毒性に起因する病態としては,中枢神経障害を来す病態理解や,早産児への輸血療法や出生児の蘇生の基準に関し,ベットサイドでの酸素代謝や循環評価は臨床的に重要である.Near-infrared Spectroscopy(NIRS)は新生児の脳循環や酸素代謝評価に応用されており,特に時間分解分光法(Time-Resolved Spectroscopy,TRS)は脳血液量や脳内Hb酸素飽和度の定量的測定が可能で,NICUにおける測定が簡便であるためベッドサイドでの循環管理,酸素投与量を設定するために有用である.

日下先生は,新生児の視覚野について世界で初めて論文を書かれた先生であり,周産期医療に関して日本を代表するお方とのことでした.私達が普段行っている,脳の血流変化量から脳機能を推定する研究とは異なり, 酸素代謝を測定していました.普段聞かないお話で聞き慣れない言葉も多くありましたが,新生児の話は新鮮で研究だけでなく,知識としてとても参考になりました.赤ちゃんのストレスを酸素代謝から予測したり,産まれた時期によっても酸素代謝が異なったりと,周産期治療における,酸素代謝の情報はとても重要であり,赤ちゃんの予後,命に関わる情報が得られると感じました.またその測定にNIRSが用いられており,2年前よりもNIRSの臨床応用が進んでいると感じました.

発表タイトル       : 早産児の音声言語処理の脳機能発達
著者                  : 有光 威志
セッション名       : シンポジウム
Abstract       : 我々は,機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて新生児の非侵襲的脳機能研究を行っている.本発表では音声刺激による聴覚誘発反応を検討したいくつかの研究について紹介する.  まず,我々は.正期産児の音声処理機能が,これまでに考えられていたよりも比較的成熟していることを明らかにした.成人では,音韻(母音と子音)と抑揚の処理で,左右大脳半球の機能即成果が見られ,音韻と抑揚で左右側頭部の優位性が異なる.生後3-5日の正期産児において成人同様に,抑揚に対して右側頭部優位な処理が行われていることがわかった.一方で,音韻に対しては,左右側頭部の機能側性化は認められなかったが,言語野の一部である縁上回で左半球優位の反応が認められた.これらの結果から,正期産児は生後まもなくから抑揚処理を担う脳内回路が右聴覚野を中心に構築されていること,音韻処理に対して,新生児期は発展途上であり,今後の言語体験により母国語の音韻特性に特化した脳内回路が構築されていくことが考えられた.さらに今回の研究で,音韻処理に対して音韻記憶に関与する縁上回が強い脳反応を示し,すでに新生児期において音韻の記憶に関連する機能をこの部位が担っていることが示唆された.  次に,早産児と正期産児を含め上記の音韻・抑揚刺激に対する血行動態反応(HRF)パターンの変化と左右側頭部の機能側性化について検討した.一般的な成人のHRFパターンは酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)が上昇し,脱酸素化ヘモグロビンが減少するが,音韻・抑揚刺激に対し,正期産児は成人と同じ正の方向のoxy-Hb変化を示したが,早産児は負の方向の変化を示す等,正期産児と異なる割合が多かった.早産児のoxy-Hb変化のパターンは修正週が進むにつれて発達し,修正39週以降で正期産児と同等になった.また,検査時週数が修正39週以降の早産児は,正期産児と同様に,抑揚変化に対して右半球優位の傾向を示した.これらの結果から,早産児における音韻・抑揚処理に対するHb変化のパターンや聴覚野の機能側性化は,出生予定日では正期産時に近いものであることが示唆された.早産児の音声処理機能に関わる脳血行動態制御は,出生予定日までに正期産児に近づくことが示唆された.  本研究は,新生児期における音声処理の脳機能は比較的成熟しており,早産児においても,その機能が発達していくことをfNIRSで明らかにした.この成果が,言語機能の神経学的基盤とその発達過程を明らかにすることに貢献できることを期待している.

赤ちゃんの機能発達にはとても興味を持っていたため,こちらの講演はとても楽しみにしておりました.驚いたことは,新生児の段階でも抑揚に対して,成人の同様の反応があること,音韻に関しても発展途上だが,成人で活動する左言語野の一部は活動しているなど,新生児の時点ですでに言語野は発達しているということです.また,早産児は,正期産児や成人とは異なる血流変化が見られたものの,成長し,修正週が進むにつれて追いついていくことも驚きました.お腹の中にいるときから外界の声や音などが聞こえていて,お腹にいる間から発達しているのではないかと考えました.次はぜひ,お腹の中にいる間の発達過程について知りたいです.また,赤ちゃん学におけるNIRS研究はNIRSの長所を活かし,これからより発達していくのではないかと考えました.
参考文献

  • 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会, http://jofbis.umin.jp/index.html