【速報】第46回磁気共鳴医学会大会

2018/09/07~2018/09/09の日程で、 第46回日本磁気共鳴医学会大会
がホテル日航金沢にて開催されました。
研究室からは下記の学生が発表しました。

  • データ駆動型クラスタリングに基づく性差が脳構造ネットワークに及ぼす影響の検討 奥村康平(M1)
  • Finding characteristic functional connectivity structure of Kanizsa illusory contour perception 杉野梨緒(M1)


学会参加報告書

報告者氏名 奥村康平
発表論文タイトル データ駆動型クラスタリングに基づく性差が脳構造ネットワークに及ぼす影響の検討
著者 奥村康平, 日和悟, 廣安知之
主催 日本磁気共鳴医学会
講演会名 The 46th Annual Meeting of the Japanese Society for Magnetic Resonance in Medicine
会場 ホテル日航金沢
開催日程 2018/09/07~2018/09/09

 
 

  1. 講演会の詳細

2018/09/07~2018/09/09に石川県金沢市ホテル日航金沢にて開催されました第46回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.第46回日本磁気共鳴医学会大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された講演で,医療従事者や企業の技術者などのMRIに携わる方が参加して,MRIやMRSにおける多チャンネル化や圧縮センシングなどのハード,ソフト面の最先端の研究成果の情報交換,議論の場となることを目的に開催されています.本研究室からは他に日和先生,M1の杉野梨緒さんが参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は9月8日の9時30分~より開催されたセッションの「脳コネクトーム」に参加いたしました.発表の形式は30分のポスター発表となっておりました.
以下に発表内容の要約を記載致します.

【要旨】
Conventional studies of sex differences in human connectome have compared characteristics between males and females. However, there was an assumption that sex-related features were dominant in the differences. We examined effects of sex differences on structural network using clustering algorithm.
 
【本文】
性別による脳の機能的・構造的な差異に関する研究は数多く行われてきた。従来の研究では,性別や年齢,ボディマス指数などの被験者属性を考慮してデータを分類し,群間比較することにより,解析を行ってきた.しかし,属性による分類を用いた解析では,性別以外の属性を剰余変数として統制する必要があるが,考え得るすべての剰余変数を抽出することは現実的ではない.よって本研究では,拡散テンソルトラクトグラフィーによって得られた脳神経ネットワークを性別という属性ではなく,データの特徴に基いて分類し,その中で性別の差異がデータの分類にどの程度影響するのかを検討した.脳画像はHuman Connectome Projectから,3T MRIにより撮像された30名の被験者(男性15名:年齢35歳,女性15名:年齢35歳)のデータを取得し利用した.全脳に対して確率的トラクトグラフィーを行い,AALアトラスに基づいて全脳116領域間の構造的結合度行列を作成した.次に,構造的結合度行列をその特徴に基づいて分類するため,Jensen-Shannon divergenceによって行列間の類似度を求め,これを距離指標としてk-medoids法により全被験者データを2群に分類した.その結果,30名のデータは男性14名と女性2名のAグループ,男性1名と女性13名のBグループに分類された.これにより,2群の特徴の差異において性別という属性が支配的であることが示唆されたが,同時に性別によらず構造的特徴が類似する被験者も存在することがわかった.さらに,ネットワーク特徴量の一つである次数中心性を脳領域ごとに算出し,2群で比較したところ,Aグループは上頭頂小葉が,Bグループは尾状核,扁桃体の次数中心性が一方の群より有意に高く,これらの領域が性差に寄与している可能性が示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
何故エッジの重みづけに領域にサンプリングしたseed数の情報を用いているのか,行列は対角行列ではないのか,という質問をいただきました.この質問に対し,「追跡本数でエッジの重みづけを行ってしまうと,領域間のコネクションの強さが領域の大きさによるものになってしまう.もちろんそういった情報を取り入れたいのであれば追跡本数をエッジの重みとすれば良いと思うが,本研究では領域の大きさに由来しない領域間の関連性を表現したいためこの重みづけを行った.」 と回答しました.
 
・質問内容2
今回脳構造に影響を及ぼす要素の中で相対的な評価を行うために含んだ要素として何故年齢を選んだのか,10歳差にしたのはなぜなのかという質問をいただきました.この質問に対し,「本研究に用いたデータセットはConnectome DBから取得したものである.Connectome DBに表記されている要素として行動データの他は性別を除くと年齢の表記しかなかったため年齢を用いた.また同じくデータセットの都合で10歳差が最大限に用意できる年齢差であった.」と回答しました.
 
 

  • 感想

今回行った研究発表は自分にとって半年ぶりとなる外部での研究発表であり,日本語での発表であったので,研究自体の説明は納得のいく形で行う事ができた.いささか説明がおぼつかなかった点や,ポスターの内容を説明し終えるのに一回当たりの時間が5~10分ほどかかってしまった点が今回の反省点であると考えている.これらの反省点から説明のアウトラインの構築と時間配分の調整を対策として行うことで,次回の発表に役立つと思われる.また今回のポスター発表時は,脳構造に関する分野の方が多く参加していたが,注目している内容が脳画像の機械学習を用いて再構成を行う研究や病気の診断等に拡散データをFAやMDを用いている方が多く,脳コネクトームに対してグラフ理論を用いた解析はあまり詳しくない方が多かった.そのため研究の概要やコンセプト,手法,後の展望を話すことが多かった.またこの発表を通じて,より良い発表の仕方や次の研究の進め方について気づけたことが多かったように感じる.結果に関して議論すること多かったため,今後の学会などで結果に関してより有意義な議論ができるように研究をより深めていきたいと感じた.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 神経構造的・機能的コネクトーム解析の相違と可能性
著者                  : 羽賀 柔
セッション名       : 脳コネクトーム
Abstruct            : [目的・背景]脳科学におけるconnectomeとは,脳領域とそれらの相互接続を指す.神経構造コネクトーム解析は脳領域間の神経構造的な接続,機能的コネクトーム解析は脳領域間の機能的な接続を解析する方法である.これらの解析技術は,小動物の疾患モデルにおいて異常な連結性を確認する際に重要である.本研究では,MRIを用いて撮像を行い,これら2つの異なるコネクトーム解析の相違について検討した.
[方法]本研究では,コモンマーモセット(Callithrix jacchus)を対象とした.MRデータ収集には実験動物用の9.4 T-MRI装置を使用した.健康なコモンマーモセットの生体脳について,拡散強調画像と覚醒下での安静時機能画像を撮像した.神経構造コネクトーム解析は線維配向分布(FOD)情報からTractographyデータを作成し,領域データと合わせて行った.機能的コネクトーム解析は脳画像情報より雑音処理後に賦活化部位の信号抽出を行い,領域データと合わせた.それぞれのコネクトーム解析で得られた脳領域接続情報を比較・検討した.
[結果・考察]神経構造コネクトーム解析の結果の特徴としては,他の領域に対し視覚関連の領域間接続が顕著に描出されていることが挙げられる.これはコモンマーモセット脳の構造上,視覚系領域が占める割合が多いためであると考えられる.一方,機能的コネクトーム解析の結果では,体性感覚機能や聴覚機能に関連しているとされる島皮質と他領域間の相関が強い傾向にあった.これは覚醒下でのデータ収集が影響を与えた可能性がある.また,大脳基底核に属する領域間の相関も比較的高い傾向にあった.それぞれ異なる結果を示した一方で,一次運動野と一次体性感覚野の接続など,両解析に共通した傾向も観察された.脳と疾患への理解をより深めるためには,構造と機能の両面から検討する必要がある.したがって,これらのようなアプローチの異なる解析手法の相同性解明が重要であるといえる.

この発表ではマーモセットのMR画像から神経構造コネクトーム解析と脳の機能的コネクトームの解析を行っていた.得られたConnectivity matrixから特徴的な領域間の接続を抽出しマーモセットの特性と関連付けてそれぞれ考察を行っていた.それぞれで解析を行っているかたは多かったが,両面から解析している研究を実際目にしたのは初めてであったため研究の話をしていて楽しかったし,自分の知見が広がったように思う.

発表タイトル       :ディープラーニングを使った構造的ネットワークでのアルツハイマー病,レビー小体型認知症の鑑別
著者                  :和田昭彦
セッション名       : 機械学習
Abstruct            : 【目的】ディープラーニング脳ネットワーク解析によるアルツハイマー病(AD),レビー小体型認知症(DLB)の鑑別を検討した.【方法】AD18例(平均73.4才),DLB8例(平均72.8才),健常者(HC)24例(平均72.0才)を対象とし,拡散テンソルMR画像による構造的脳ネットワークデータ(隣接マトリックス)を対象としてNeural Network Console (https://dl.sony.com/ja/)を用いて機械学習を行った.全データの80%を教師・検証データ,20%を評価データとし,3層の畳み込み層と3層の全結合層からなるニューラルネットワークをinitial modelとして学習を開始,ベイズ最適化による自動構造探索にて改変と最適化したモデルの精度を評価した.【結果】 AD,DLB,HC分類の精度は6層のinitial model では0.47であったが,畳み込み2層,全結合層2層に改築,活性化係数の変更,Dropout, BatchNormalizationを付加したモデルにて精度は0.71まで向上した.平均適合率は0.81,AD,DLB,HCの再現率は0.67,0.25,1.0であった. 【考察・結論】ディープラーニングにて構造的脳ネットワークによる認知症疾患の鑑別モデルが構築できた.

この発表では,神経構造ネットワークデータからCNNを用いて精神病の診断を行っているものでした.自分の研究と近い手法を用いて臨床的な研究を行っている方もいることを知って構造的コネクトームを研究することは直接的に社会への貢献につながることを実感できた.この聴講を通して自分の研究へのモチベーションが向上したように思う.

発表タイトル       :DWI信号の常識と非常識
著者                  :小畠 隆行
セッション名       : 教育公演【基礎2】
Abstruct            : DWIは研究・臨床を問わず広い分野で利用されている.中でも,拡散強調の強さを表す指標であるb値を変化させた場合の信号変化(b依存信号)は特徴的であり,その変化と生体構築・性状との関係については多くの報告がなされてきている.
b依存信号はBi-exponentialカーブによくフィットすることが知られており,このことから生体内の水拡散は大きく二つに分けられる可能性が示唆されている.しかし,ことはそれほど簡単ではない.
例えば [1],細胞内を想定したファントム実験ではb値に依存するDWI信号はExponentialカーブ(図1右グラフの破線)とは異なり上に凸な減衰を示すことが分かっている(図1A).また,細胞外スペースを想定したファントム実験では,一つのコンポーネントであるにもかかわらず下に凸なBi-exponentialカーブに類似した変化を認める(図1B).
このレクチャーでは,b値を構成する位相標識空間周波数(q値)および拡散時間の概念も利用しながら,これらの現象について解説してゆく.

この発表では,ファントムを用いて拡散パラメータが実際の構造や撮像方法によってどのように変遷するのかという話を基礎から語るというものでした.最近の自分は解析のことを中心に勉強を行い用いているデータについてはあまり勉強をできていなかったため,多くの知識を得ることができた教育公演でした.また公演を通して改めて勉強をし直す必要があることを認識できました.
 
参考文献
・第46回磁気共鳴医学会大会
https://www.c-linkage.co.jp/jsmrm46/
学会参加報告書

報告者氏名 杉野梨緒
発表論文タイトル Finding characteristic functional connectivity structure of Kanizsa illusory contour perception
著者 杉野梨緒,日和悟,蜂須賀啓介,村瀬文彦,廣安知之
主催 日本磁気共鳴医学会
講演会名 第46回日本磁気共鳴医学会大会
会場 ホテル日航金沢
開催日程 2018/09/07-2018/09/09

 
 

  1. 講演会の詳細

2018/09/07から2018/09/09にかけて,ホテル日航金沢にて開催されました第46回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.この第46回日本磁気共鳴医学会大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された国内学会で,磁気共鳴現象を使用した研究に携わる様々な背景を持つ研究者を集め,学際研究・異分野融合研究に立ち返りながら未来を目指すことを目的に開催されています1
私は2018/09/07に参加いたしました.本研究室からは他に奥村康平くんが参加しました.
 

  1. 研究発表
    • 発表概要

私は7日の午後のセッション「一般口演:脳機能」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,発表時間は発表7分,質疑応答3分で合計10分となっておりました.
今回の発表は,Finding characteristic functional connectivity structure of Kanizsa illusory contour perceptionです.以下に抄録を記載致します.

Brain activities during perception of illusory and real contours induced by Kanizsa figure were measured by fMRI. The brain regions where the functional network metrics differed significantly between two states were extracted using linear discriminant analysis and stepwise feature selection.
 
錯視は標識や広告,トリックアートなどに利用されている.特に日常生活において見ることが多い錯視の1つに主観的輪郭が存在する.主観的輪郭の神経基盤に関する従来の研究では,錯視中の活性化領域に焦点が当てられている.そこで本研究では脳の機能的ネットワークから主観的輪郭知覚時における脳活動の特徴について検討した.本研究ではfMRIを用いて錯視状態と非錯視状態を比較するために,20名の健常被験者(男性:16名,年齢:22.9±2.8歳)に対して主観的輪郭を知覚させるKanizsa Figureを用いて画像提示課題を行った.脳領域をノード,高い相関値を持つ脳領域間をエッジとした脳機能ネットワークに対して,グラフ理論解析を行い,各脳領域の次数中心性の特徴量を算出した.次に錯視状態と非錯視状態で次数中心性の差が大きな脳領域をステップワイズ法により選択した後,選択された脳領域で線形判別分析を行った.その結果,ステップワイズ法により11個の脳領域が選択された.この11領域による錯視状態と非錯視状態の判別率は100%であった.この11領域のうち,錯視状態で次数中心性が高い領域は右中前頭回,左上前頭回内側部,右前部帯状回,左中心傍小葉,左尾状核の5領域であった.さらにこの5領域をシード領域としたseed based analysisにより,この5領域と高い協調性を示す領域について検討を行った.その結果,この5領域は左直回,右下前頭回眼窩部,左海馬の3領域との高い協調性をもつことがわかった(cluster size threshold:FDR, p<0.05).これらの協調関係は錯視状態に特徴的な脳活動であるため,主観的輪郭の知覚に関わることが示唆された.

 

  • 質疑応答

今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
主観的輪郭を見ている状態と実輪郭を見ている状態において脳活動が異なる仮説は何に基づいているのかについて質問を受けました.この質問に対して,錯視が脳の補完という働きによるものであることから,脳活動が異なるのではないかと考えていると答えました.
 
・質問内容2
判別することにより脳領域を選択する方法について質問を受けました.この質問に対して2状態を判別可能である脳領域はその特徴量に差が大きいことが考えられることから,状態間で異なる挙動を示す脳領域を選択したと答えました.
 
・質問内容3
検出された領域の結合は錯視に関わっていることについて説明がつくのかについて質問を受けました.この質問に対して,気づきに関わる領域と注意に関わる領域の結合があったことから,錯視状態においてより注目していたことが考えられ,また主観的輪郭という存在しない輪郭を知覚する場面においてより注目することが必要なのではないかと考えていると答えました.さらに今回は従来あまり行われてこなかった結合解析を行ったことで,錯視状態と実輪郭知覚状態で結合性の差を見つけられたことにポイントがあると思っていると答えました.
 
 

  • 感想

今回学外での口頭発表は初めてで会場も広く非常に緊張していました.発表が突然始まったこともあり,緊張がほぐせないまま発表が始まってしまいましたが,時間内に話しきることもでき,質問をしてくださる人もいて,無事に発表を終えることができました.解析についてはうまく伝えられないかった部分もあったとは思いますが,イントロダクションや結果などはうまく伝えられたのではないかと思います.質問についてはうまく答えられた質問もありましたが,上手に回答することができなかった質問もあったので,自身の研究に対する理解が足りていなかったと思っています.しかし今回の発表によって,より自身の研究について深く考えられる機会を作ることができたと思います.
 

  1. 聴講

今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : OPTIMIZATION OF FIBRE TRACKING PARAMETERS IN THE CONNECTOME MAPPER FOR ANALYSIS OF BRAIN STRUCTURAL CONNECTIVITY
著者                  :ワンニ アラッチゲ プラディーパ ルワン, Atsushi Senoo, Wataru Uchida, Yuya Saito, Hiroyoshi Hara
セッション名       : 口述発表:拡散1
Abstruct            : The connectome mapper is feasible pipeline tool including well-known neuroimaging software. We aimed to optimize tractography parameters; turning angle, number of seeds per voxel and step size for network measures. Our study suggested there is no optimal value in given parameters of tractography.
Background
Many structural connectivity studies are based on most publicly available tractography methods with the default tractography parameters. The optimal parameters of tractography can be varied and it can bring different connectivity profiles in network measures. Therefore, access to tractography parameters could be beneficial as it will help to a better understanding of streamline features. Although a few studies have been led to optimize turning angle and step size in tractography, our study is novel and slightly different since the parameters are related to the tractography in the connectome mapper.
Objective
We aimed to optimize parameters including a number of seeds, step size and angular threshold in tractography of the connectome mapper.
Materials & Methods
Ten healthy subjects DTI and T1 images (3.0T, Philips, Achieva) were processed to construct connectivity matrices using the Connectome Mapper and the graph theory analysis was applied on connectivity matrices using Brain Connectivity Toolbox. Connectivity measures of five different number of seeds per voxel(15,25,35,45,55), step sizes(0.1, 0.5,1,1.5,2) and turning angles (40,50,60,70,80) were analysed for network measures including degree, betweenness centrality, local efficiency, cluster coefficient, eccentricity, strength, small-worldness and characteristic path length.
Discussion
The results emphasized that more connections can be obtained when increasing these parameters. Therefore, our study suggested that strong dependence does not suggest given parameter are any more optimal than another.

この発表はシード数とステップサイズ,angular thresholdの3つのパラメータに対して最適値を求めるために,それぞれのパラメータを変化させたときのグラフ理論特徴量の変化についての内容でした.なじみのある特徴量が用いられていることから,構造についての研究ではありましたが,研究の理解がしやすかった印象があります.構造についての研究であるため,理解できなかった部分も多かったが,比較的興味深く感じた研究発表でした.
 

発表タイトル       :機能的磁気共鳴画像法の基礎
著者                  :河内山 隆紀
セッション名       : 教育講演11:基礎3
Abstruct            :機能的磁気共鳴画像法(functional MRI; fMRI)は,脳活動の時系列的変化を高空間解像度で非侵襲的に計測できる脳活動計測法であり,現在,臨床や研究の現場で広く活用されている.代表的なfMRIは,blood oxygenation level dependent(BOLD)効果を利用して神経活動に伴う血流動態反応を計測するBOLD fMRIである.その原理の概略を説明しよう.血液内の赤血球に含まれるオキシヘモグロビンは常磁性体であり,その周辺に磁場の乱れを生み,局所磁場不均一に敏感なT2*強調画像の信号強度の減少をまねく.一見すると,神経活動の増加による脳酸素代謝量の増加によってデオキシヘモグロビンが増加することにより信号強度は減少するように思われる.しかしながら一方で,神経活動の増加は,脳酸素代謝量の増加に比べて大きな脳血流量の増加を引き起こす.その結果,デオキシヘモグロビンは脳活動時にむしろ減少し,信号強度はかえって上昇する.このようにBOLD信号は,脳血流量,脳血液量,脳酸素代謝量などの複数の生理学的パラメータに依存している.また静磁場強度や撮像シーケンスによって信号の起源となる毛細血管床や細静脈の関与の様式が異なるなど,信号の生成メカニズムは複雑である.さらに最終的に得られる計測データには,神経活動由来の信号に加えて,MRI装置に由来するシステムノイズ,被験者の体動や心拍・呼吸などの生理的過程に由来するノイズ等,様々なノイズが含まれており,計測時や解析時にはそれらに対する配慮も必要となる.fMRIを実験に有効に活用し,その結果を正しく解釈するためには,信号の生成原理や特性についての理解が不可欠である.本教育講演では,BOLD fMRIに焦点を当て,その生理学的・物理学的メカニズムと信号特性について分かりやすく解説したい.

この発表はfMRIの撮像原理についての講演でした.機能についての内容が少ない中で,非常にわかりやすく,fMRIに対する理解が深まりました.普段勉強しないような生理学的な原理から話してくださったため,普段fMRIとはこういうものだと流してしまっていた原理について学べるよい機会でした.また,自身の理解の浅さを実感しました.講演で聞いた内容はこのままにせず,メモを見ながら再度勉強する機会を設け,研究室に広めていけたらと思います.
 

発表タイトル       :デフォルトモードネットワークと認知機能 -左右半球間の安静時機能的接続性の検討-
著者                  :吉川 輝, Masahiro Ida, Yuri Masaoka, Masaki Yoshida, Nobuyoshi Koiwa, Satomi Kubota, Ryo Manabe, Natsuko Iizuka, Masahiko Izumizaki
セッション名       : ポスター発表:fMRI
Abstruct            : We investigated the relationship between FC of the DMN and cognitive function. The elderly subjects underwent the MMSE test and resting state fMRI. Our results showed that a negative correlation between cognitive function decline and FC of bilateral in the medial superior frontal gyrus.
安静時脳機能画像 (rs-fMRI)では,非課題中でも前頭前野内側部,後部帯状回,頭頂葉と側頭葉を主として賦活が見られる.これらの領域間は機能的な接続性(FC)を有していると考えられDefault Mode Network (DMN)と呼ばれている.このDMNにおけるFCは,認知症などの疾患により低下することが示唆されている.これまでの報告では,大脳半球内側面に位置する前頭前野内側部や後部帯状回は,その左右領域を一つとして捉えFCを解析していることが多い.そこで本研究は,DMNに属する領域の左右半球間のFCと認知機能検査(MMSE)のスコアとの関係性を調べた.被験者は,脳疾患を有しない25名 (平均74.4歳)とし,MMSEを実施して2群 (High score群,Low score群)に分けた.rs-fMRI撮像は,荏原病院放射線科(MAGNETOM Trio A Tim System, Siemens)にて行なった.撮像中,生理学的ノイズを補正するために,呼吸と心拍を同時記録し,これらの生理学的ノイズはDRIFTER (SPM8)を用いて補正した.その後,DMNとして報告されている15領域をROIとして抽出し,各領域の左右半球間におけるBOLD信号の相関係数を求め,MMSEとの関係性を検討した.相関係数が0.7以上を示したFCは,上前頭回内側部,上前頭回内側眼窩部,前・中・後帯状回,上頭頂回,楔前部,上側頭回の8領域であった.これらの領域とMMSE scoreとの相関関係を調べると,上前頭回内側部および前帯状回で統計学的に有意な負の相関がみられた.これら2領域に着目し,L群,H群に分け比較検討した結果,上前頭回内側部の左右間のFCがH群よりL群で有意に高い値を示した.これらの結果より,前頭葉内側部の左右間で構成されるFCと認知機能との間に関連性が示唆された.

この発表は高齢者の認知機能レベルを示す成績とDMNに関わる脳領域の結合度に負の相関を発見したという内容でした.機能的結合性を使用した発表でしたが,使っているツールが自身の研究と異なっていたため,興味深いと思い質問しました.結果としては自身が使っているツールとの違いについてはわからないとのことでしたが,他のツールを知る良いきっかけになったのではないかと思います.この発表の結果は,認知機能が衰えている被験者はDMNに関わる脳領域が左右の同じ領域で機能的結合性が高かったという結果で,認知機能の低下とDMNの結合性の高さが関わっているのではないかとの見解を示していた.内容についても興味深く,成績との相関を見ているのは研究室の研究にも役立てられるのではないかと思う.
 
 
 
参考文献
1)第46回日本磁気共鳴医学会大会,
http://www.c-linkage.co.jp/jsmrm46/index.html