第16回日本ワーキングメモリ学会大会が、2018/12/01に、白百合女子大学で開催されました。
研究室から、3件の発表をおこないました。
- ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響:機能的結合行列の低ランク近似に基づく検討 相本武瑠(M2)
- ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響:
グラフ理論解析と状態識別に基づく検討
石田翔也(M2) - N-back課題の難易度に伴う脳活動の変化領域の検討 丹真里奈(B4)
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学会参加報告書
報告者氏名 | 相本武瑠 |
発表論文タイトル | ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響:機能的結合行列の低ランク近似に基づく検討 |
発表論文英タイトル | The influence of working memory load on brain function network structure: a study based on low rank approximation of functional connectivity matrix. |
著者 | 相本武瑠,風呂谷侑希,谷岡健資,宿久洋,日和悟,廣安知之 |
主催 | 日本ワーキングメモリ学会 |
講演会名 | 第16回日本ワーキングメモリ学会大会 |
会場 | 白百合女子大学 |
開催日程 | 2018/12/01 |
- 講演会の詳細
2018/12/01に,白百合女子大学にて開催されました第16回日本ワーキングメモリ学会大会に参加いたしました.この学会は,ワーキングメモリに関心のある研究者や学生が参加しています. 本研究室からは他に日和先生,相本,石田,丹が参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は2日の11:00~のセッション「一般発表(2)」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表となっており,12分の発表と3分間の質疑応答を行いました.
今回の発表は,「ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響:機能的結合行列の低ランク近似に基づく検討」と題して発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
複数の脳領域間の時間的相関の指標であるFunctional connectivityは,認知神経科学研究において近年広く用いられており, Working memory(WM)研究においてもfunctional connectivityに基づいた脳機能ネットワーク構造が検討されている.しかし,WM負荷が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響を検討した事例は少ない.本研究では,WM負荷の増大に伴って変化する特徴的な脳機能ネットワーク構造を,データ駆動型アプローチにより抽出する方法を提案する.提案手法は,複数被験者の機能的構造行列データから,行列の低ランク近似によりその集団に特徴的な脳機能ネットワークを表現する1枚の機能的結合行列を推定する.さらにその導出の過程で脳領域のクラスタリングを行い,ネットワーク内に存在するモジュール構造を抽出する.functional Magnetic Resonance Imaging(fMRI)を用いて計測された健常成人29名(22.4±0.17)のN-back(N = 1,2,3)課題時の機能的結合行列をそれぞれ入力とし,各N-back負荷における機能的結合行列をそれぞれ1枚ずつ推定した結果,各N-back負荷に特徴的な脳機能ネットワークとそのモジュール構造が明らかになった. |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
質問は「石田さんの発表の時には抽出出来ていた,前頭前野が出てきていないのはなぜか.」というものでした.この質問に対して私は、「私の手法はモジュール構造を強調する手法であるため,前頭前野はモジュール構造を有していない可能性がある.」と回答しました.質問者の氏名は立教大学の川越さんです.
・質問内容2
質問は「3backで体性感覚野を含むモジュールが抽出されたのは,課題を上手く行えていないからではないか.」というものでした.この質問に対して私は、「プレトレーニングを行っている.」と回答しました.質問者の氏名は京都大学の苧坂さんです.
- 感想
初めての口頭発表であり,口頭発表に苦手意識があったためとても緊張していた.しかし,事前にしっかりと準備が出来たので本番ではあまり緊張する事なく発表出来た。また,発表内容が他分野であるにも関わらず,結果の内容についての質問を多く頂いたことから,内容も上手く伝えることが出来たと感じた.聴講の最後にはワーキングメモリ研究に対する今後の展望も聞く事が出来た.記憶を保持しながら情報を処理する生物の行動は,持続的なものではなく瞬間的なものであるのかもしれないと感じた.
- 聴講
今回の講演会では,下記の4件の発表を聴講しました.
発表タイトル :音楽家の演奏時脳活動 著者 :田中昌司 セッション名 :一般発表(1) Abstract: ⾳楽家の演奏時の脳活動は⼗分に研究されていない。本研究は,演奏時の脳内プロセスを明らかにすることを⽬的としている。演者はこれまで MRI VBM によって⾳楽脳の解剖学的な特徴を明らかにし(Sato et al. 2015),また安静時 fMRI による機能的ネットワークの⾳楽家と⾮⾳楽家の⽐較を⾏なった(Tanaka & Kirino 2016a, b , 2017a, 2018)。さらに,イメージ演奏時の fMRI データから機能的ネットワークの抽出を⾏っている(Tanaka & Kirino 2017b)。本稿は,それと関連して最近始めた演奏時の脳波解析の結果を報告する。実験はワイヤレス脳波計(32 channels, g.tec)を⽤いて,実際の演奏,イメージ演奏,演奏のリスニング,および安静時の脳波を計測した。被験者は,⾳楽 家(声楽・器楽)および芸⼤・⾳⼤⽣である。オペラのアリア歌唱の制御に関わると考えられる前頭極のgammaパワーの増加,感情の⾼ぶりとともに増加するbetaパワー(中⼼線を含み広範囲に およぶ)などを観測した。コヒーレンス解析の結果およびsLORETAを⽤いた信号源推定の結果についても報告する。 |
本発表は,楽器演奏者が演奏を行っている時のイメージを測定したものでした.DMNに関連する楔前部などの活動が報告されていました.また,目を閉じていても視覚野の領域間でコネクティビティーが存在すると話していたことから,楽器演奏中のイメージは計測出来ている様に感じた.ただ実際に演奏している時の脳活動とは異なるので,演奏中の脳活動をいかに測定するかが課題であると感じた.
発表タイトル :時間的に迫られた“がけっぷち”の意思決定と不安 著者 :曽雌崇弘,永岑光恵,⽵内あい,福⽥恵美子 セッション名 :一般発表(1) Abstract:社会のスピードが加速するマクロ的な状況において,⽇常⽣活の個々の局⾯においても,早急な意思決定が試されるストレス状況に直⾯することがある。実⾏系機能である意思決定は,将来的⾏動を企画し実⾏することに関与するが(Osaka, Logie & DʼEsposito, 2007),熟慮を外的に制限されたストレス状況において,不安がどのように意思決定に影響を与えるかは,重要な現代的課題である。そこで,本研究では,意思決定課題の⼀つであるアイオワギャンブリング課題を⽤いて,時間的ストレス状況における意思決定過程の変動,ならびに不安との関係性に関して,33名の被験者を⽤いて調べた。全試⾏,ならびに部分試⾏を対象とした⾏動成績の⽐較においては,統制条件と時間的ストレス条件間に有意差が⾒られなかった。⼀⽅,⾏動パターンと不安尺度スコアの関係性には,複数の項⽬において条件間の違いが⾒られた。上記の結果に関して,意思決定過程と不安の関係性の変動という観点から議論し報告を⾏う。 |
本発表は,時間的に制限がある状況において意思決定にどのような変化が発生するかを測定したものであった.結果として,時間制限がある状況下において,人は不安な状態であれば中程度のリスクを選択する様になるというものであった.不安尺度にはSTAIを用いており,状態の判定に利用出来ると感じた.
発表タイトル :認知的再評価におけるワーキングメモリと自尊感情の関連 著者 :則武良英,湯澤正通 セッション名 : 一般発表(3) Abstract:本研究の目的は,ワーキングメモリ (以下WM) 容量と感情制御方略の関係について明らかにすることである。本研究では,感情制御方略の中でも適応的方略である認知的再評価に焦点を当てる。認知的再評価とは,ネガティブ感情が生起する原因となる出来事を,肯定的に再解釈することにより感情の生起を調節する方略である。換言すると,出来事に対するネガティブな情報に新しい情報を加えることで,ニュートラルもしくはポジティブな情報に更新する方略といえる。このことから,WMは認知的再評価の促進要因であることが先⾏研究で示されている。しかし,肯定的な解釈の伴う認知的再評価には,WM以外の心理的要因が関わっていることが考えられる。そこで本研究では, 大学生を対象に集団式のWM課題と質問紙を実施した。その結果,認知的再評価方略の使用には, ⾃尊感情も関連している可能性が⽰唆された。 |
本研究は,ワーキングメモリと認知的再評価の関係を明らかにしようとしているものであった.仮説としては,ワーキングメモリ容量が大きい人がネガティヴな状態である時,認知的再評価をしようとすると,かえってネガティヴな感情が生起するというものであった.結果として,自尊感情と認知的再評価の関係性は示されていたが,ワーキングメモリとの関係性をどのようにして示すのかが課題であると感じた.
発表タイトル :脳活動パターン解析による質感の視覚記憶メカニズムの検討 著者 :藤道宗人,津田裕之,山本洋紀,齋木潤 セッション名 : 一般発表(4) Abstract:質感はヒトが安全に生活していくために正確な認識が求められる重要な題材である。これまでヒトの質感知覚の正確性やその神経基盤が示されてきたが,質感知覚を支える視覚記憶メカニズムを検討した研究はほとんどなかった。そこで本研究は視覚記憶に着目してその神経メカニズムを検討することを目的とした。具体的には,質感知覚を担う腹側⾼次視覚野と視覚記憶に関与する頭頂間溝が質感の視覚記憶にどのように関連するかを検討した。実験は2種類の質感(光沢感・粗さ)に関する遅延弁別課題と神経基盤を同定するローカライザー課題で構成された。ローカライザー課題から腹側⾼次視覚野と頭頂間溝を同定し,それぞれの領域の脳活動に対してマルチボクセルパター ン解析を適⽤した。その結果,腹側高次視覚野と頭頂間溝が質感の視覚記憶に関連するが,それぞれの果たす役割には機能的な差異があることが示唆された。 |
本発表は,質感の指標である光沢感と粗さを記憶している時の脳活動とそれらの活動が,2つの状態をどの程度の精度で識別出来るかを測定したものであった。賦活領域として,腹側高次視覚野と頭頂間溝が同定されており,状態識別の精度は6割程の精度を持っていた.
参考文献
1)第16回日本ワーキングメモリ学会
, http://square.umin.ac.jp/jswm/ja/
学会参加報告書
報告者氏名 | 石田 翔也 |
発表論文タイトル | ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響: グラフ理論解析と状態識別に基づく検討 |
発表論文英タイトル | The influence of working memory load on brain function network structure in working memory task: Investigated based on graph theory analysis and states discrimination |
著者 | 石田翔也,丹真里,奈日和悟,廣安 知之 |
主催 | 日本ワーキングメモリ学会 |
講演会名 | 第16回日本ワーキングメモリ学会大会 |
会場 | 白百合女子大学1号館1308教室 |
開催日程 | 2018/12/01 |
- 講演会の詳細
2018/12/01に,東京都の白百合女子大学にて開催されました第16回日本ワーキングメモリ学会大会に参加いたしました.日本ワーキングメモリ学会は脳科学研究に関わらず,教育現場などのあらゆる分野におけるワーキングメモリ研究に携わる方が参加して,ワーキングメモリの研究成果の情報交換,議論の場となることを目的に開催されています.本研究室からは日和先生,相本,丹が参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は一般発表(2)に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で12分の講演時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,「ワーキングメモリ課題における課題負荷量が脳機能ネットワーク構造に及ぼす影響:グラフ理論解析と状態識別に基づく検討」について発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
Functional connectivityは複数の脳領域間の脳活動の時間的同期を示し,認知神経科学研究における重要な指標のひとつである.ワーキングメモリ(WM)の神経基盤はこれまで数多く検討されてきたが,課題負荷の増加に伴う脳機能ネットワーク構造の変化については十分検討されていない.そのため本研究では異なるWM負荷間の脳機能ネットワークの違いを抽出することを目的とする.本実験ではfunctional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)を用いてN-back(N=1,2,3)課題遂行時の脳活動を計測した.計測には健常成人29人(22.4±0.17歳)が参加した.得られたfMR画像に対して脳領域ごとに平均BOLD信号を求め,領域間の機能的結合度を計算した.さらに,グラフ理論解析により領域ごとの脳機能ネットワーク指標を求め,この指標を特徴量としたSparse Linear Discriminant AnalysisによりWM負荷の異なる3つの脳状態の分類と関心領域の選択を行った.結果として1-back以上の課題負荷において左中心後回や左中心傍小葉、2-back以上の負荷において右下頭頂小葉や右側頭極上側頭回部がそれぞれ負荷量の増大に応じてネットワーク構造が変化することがわかった. |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
Default Mode Networkとworking memory負荷の間におけるネットワークの違いを見ないのはなぜか?
・質問内容2
刺激の提示は何秒間隔になっているにか?
・質問内容3
2-backから3-backへの脳機能ネットワークの変化はパフォーマンスの変化によるものではないのか?
- 感想
この学会に参加したことでワーキングメモリに関する様々な研究を聴くことができ,どのようなアプローチで解明されようとしているのかを知ることができたと思います.また,ワーキングメモリは関して私がこの研究室に入って初めて詳しく学んだ分野だったため,その時に学んだ知識を生かすことができたと感じています.発表に関しては質問も受け,興味を持っていただけるような内容にできたという印象です.今までは自分だけが扱うテーマやデータで発表していました.しかし今回のような同じテーマやデータを扱う3人の異なるアプローチをうまく相手に伝えるのに苦戦しましたが,3人でうまく話し合ってわかりやすい発表を行うことができたため,貴重な経験になりました.質問などで頂いた意見をもとに今後は修士論文に注力したいと思います.
- 聴講
今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
No.1
発表タイトル : 音楽家の演奏時脳活動 著者 : 田中昌司(上智大学理工学部情報理工学科) セッション名 : 一般発表(1) Abstruct : ⾳楽家の演奏時の脳活動は⼗分に研究されていない。本研究は,演奏時の脳内プロセスを明らかにすることを⽬的としている。演者はこれまで MRI VBM によって⾳楽脳の解剖学的な特徴を明らかにし(Sato et al. 2015),また安静時 fMRI による機能的ネットワークの⾳楽家と⾮⾳楽家の⽐較を⾏った(Tanaka & Kirino 2016a, b, 2017a, 2018)。さらに,イメージ演奏時の fMRI データから機能的ネットワークの抽出を⾏っている(Tanaka & Kirino 2017b)。本稿は,それと関連して最近始めた演奏時の脳波解析の結果を報告する。実験はワイヤレス脳波計(32 channels, g.tec)を⽤いて,実際の演奏,イメージ演奏,演奏のリスニング,および安静時の脳波を計測した。被験者は,⾳楽家(声楽・器楽)および芸⼤・⾳⼤⽣である。オペラのアリア歌唱の制御に関わると考えられる前頭極の gamma パワーの増加,感情の⾼ぶりとともに増加する beta パワー(中⼼線を含み広範囲におよぶ)などを観測した。コヒーレンス解析の結果および sLORETA を⽤いた信号源推定の結果についても報告する。 |
本発表の音楽家の演奏時脳活動は様々な演者のイメージ演奏の脳活動を計測していた.
被験者の中には様々な楽器を扱っている演者が混ざっていたため,楽器による影響はないのかが気になった.日本人の機能的ネットワーク解析の発表を初めて聞くことができたので勉強になった.
No.2
発表タイトル : 小学校入学時点の児童のワーキングメモリと9か月後の算数の計算スキルの習得 著者 : 小池薫(広島大学大学院教育学研究科) 湯澤正通(広島大学大学院教育学研究科) 福屋いずみ(山口短期大学児童教育学科) 梶木育子(広島大学大学院教育学研究科) 小澤郁美(広島大学大学院教育学研究科) 小田真実(広島大学大学院教育学研究科) セッション名 : 一般発表(4) Abstruct : 本研究の⽬的は,⼩学校⼊学時点の WM が,その後の算数の計算スキルとどのように関連するか を明らかにすることである。本発表では,⼩学校 1 年⽣の 5 ⽉時点での WM 容量とその 9 ヶ⽉後の加算・減算スキルとの関連を検討した結果を報告する。⼩学校 1 年児童 31 名を対象に,5 ⽉に WMアセスメントをパソコンで個別に⾏なった。WM アセスメントは⾔語性 WM 課題 24 問と視空間性WM 課題 40 問で構成されていた。9 ヶ⽉後に,計算スキルの測定課題として 10 をまたぐ繰り上がりや繰り下がりのある加算・減算をパソコンで⾏い,正答数と平均反応時間を測定した。パソコンの画⾯上に提⽰された加算・減算の式と答えについて,児童は答えがあっているか判断しマウスで○×の選択をして回答した。課題の正答と誤答は同数であった。また,計算の際に各 WM にかかる負荷についても検討するため,計算の間,⾔葉や絵を覚えておく⼆重課題(⾔語負荷条件,視空間負荷条件,統制条件の 3 条件)を⽤いた。結果については当⽇報告する。 |
この研究ではワーキングメモリの解明を脳活動ではなくパフォーマンスから行っていた.
容量のアセスメントを行うソフトがあることもわかったため,実験でも用いることができれば脳活動とともに検討できそうなので参考になった.さらにワーキングメモリを言語性と視空間性と種類によって検討していて面白いと感じた.もっと統計的な手法をたくさん組み込めば新しい結果が出そうだとも思った.
No.3
発表タイトル : 脳活動パターン解析による質感の視覚記憶メカニズムの検討 著者 : 藤道宗人(京都大学大学院人間・環境学研究科・日本学術振興会) 津田裕之(京都大学大学院人間・環境学研究科) 山本洋紀(京都大学大学院人間・環境学研究科) 齋木潤((京都大学大学院人間・環境学研究科)) セッション名 : 一般発表(4) Abstruct : 質感はヒトが安全に⽣活していくために正確な認識が求められる重要な題材である。これまでヒ トの質感知覚の正確性やその神経基盤が⽰されてきたが,質感知覚を⽀える視覚記憶メカニズムを 検討した研究はほとんどなかった。そこで本研究は視覚記憶に着⽬してその神経メカニズムを検討 することを⽬的とした。具体的には,質感知覚を担う腹側⾼次視覚野と視覚記憶に関与する頭頂間 溝が質感の視覚記憶にどのように関連するかを検討した。実験は 2 種類の質感(光沢感・粗さ)に 関する遅延弁別課題と神経基盤を同定するローカライザー課題で構成された。ローカライザー課題 から腹側⾼次視覚野と頭頂間溝を同定し,それぞれの領域の脳活動に対してマルチボクセルパター ン解析を適⽤した。その結果,腹側⾼次視覚野と頭頂間溝が質感の視覚記憶に関連するが,それぞれの果たす役割には機能的な差異があることが⽰唆された。 |
質感の視覚記憶がワーキングメモリにと関連しているのかは非常に疑問に残った.
その他にもワーキングメモリであるのかわからない発表も多かったため,まだまだワーキングメモリシステムを使うときの実験課題が明らかになってないように考えた.物理的特性をしっかりと考慮されており,デザインがすごく興味深いと感じた.
5 参考文献
・第16回ワーキングメモリ学会大会
http://square.umin.ac.jp/jswm/ja/jswm16_program.pdf
学会参加報告書
報告者氏名 | 丹 真里奈 |
発表論文タイトル | N-back課題の難易度に伴う脳活動の変化領域の検討 |
発表論文英タイトル | The study of brain activity during N-back task within changing difficulty |
著者 | 丹真里奈,日和悟,廣安知之 |
主催 | 日本ワーキングメモリ学会 |
講演会名 | 第16回ワーキングメモリ学会大会 |
会場 | 白百合女子大学 1号館 1308教室(ボルダ・チエリ) |
開催日程 | 2018/12/1 |
- 講演会の詳細
2018/12/1,白百合女子大学1号館にて開催されました第16回日本ワーキングメモリ学会大会に参加いたしました.この学会は,ワーキングメモリに関心のある研究者や学生が参加しており,専門分野は心理学や教育学,脳科学などざまざまでした.ワーキングメモリの知見を社会で活用する方法,またこれからの可能性や方向性についての議論の場となることを目指す学会です.
本研究室からは私と日和先生,相本,石田が参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は11:00~12:00の一般発表(2)で発表しました.発表の形式は口頭発表となっており,質疑応答を含め15分間発表でした.
今回の発表は,「N-back課題の難易度に伴う脳活動の変化領域の検討」と題して発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
概要: ワーキングメモリ(WM)の神経基盤の検討においては,課題成績の違いによる脳活動への影響がこれまで数多く検討されてきた.しかし,実際には同じ課題成績であっても課題負荷には個人差があると考えられるため,課題負荷が脳活動に与える影響を明らかにする必要がある.そこで本研究では,N-back課題を用いてWM負荷の変化に伴った活動を示す脳領域を抽出する.機能的核磁気共鳴画像法を用いて,健常成人29名(年齢:22.4±0.17歳)のN-back課題遂行時の脳活動を計測した.さらに,SPM12を用いて,賦活解析を行った.負荷量に伴い賦活量が増加する領域として,記憶・注意に関わるとされる左下頭頂小葉や左上前頭回 ,右楔前部などが抽出された.楔前部は成績と相関のある脳領域としても抽出されており(p<0.001,uncorrected),WMに関連する領域と推定される.また,背側注意ネットワークに含まれる上頭頂小葉や,腹側注意ネットワークに含まれる中前頭回における脳活動変化も確認することができた.これよりWMの負荷量に伴い,脳内の注意資源の消費が増大することが示唆された. |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
質問は「注意の消費が増加するとはどういうことか.難易度にともない,単位時間当たりの処理量が増えるため,注意資源が増加するのは当然ではないか.」というものでした.この質問に対して私は、「注意が増加するだけでなく,増加パターンにより働きの違いを考察した」と回答しました.また,「負荷量の変化に伴う脳活動をみたのがおもしろい.考察がおもしろい.」と言っていただきました.質問者は京都大学の斎藤智先生でした.
・質問内容2
質問は「ソフトは何を使っているのか.」というものでした.この質問に対して私は、「SPM12を用いています.」と回答しました.質問者は日本学術振興会・国立障害者リハビリテーションセンター研究所の阿栄娜先生でした.
- 感想
初めての学会発表だったためとても緊張しましたが,スライドを工夫したり話し方を何度も練習したこともあり,満足のいく発表をすることができました.別の発表者の方に「とても分かりやすかった」と言っていただき,学会に参加したことで成長を感じることができとても嬉しかったです.ワーキングメモリに関する新たな知見も得られました.さまざまな専門分野の方が参加されていたので,ワーキングメモリに関する多くのアプローチがあることを知り,とてもおもしろかったです.また,研究に関しての貴重なご意見をいただいたり,ほかの発表者の発表を聞くことで参考になることが多く,今後の研究のために重要な学会発表となりました.
- 聴講
今回の学会で聴講した発表のうち,下記3件を報告いたします.
発表タイトル : 時間的に迫られた“がけっぷち”の意思決定と不安 発表者 : 曽雌崇弘 セッション名 : 一般発表(1) 概要 : 社会のスピードが加速するマクロ的な状況において,日常生活の個々の局面においても,早急な意思決定が試されるストレス状況に直面することがある.実効系機能である意思決定は,将来的行動を企画し実行することに関与するが(Osaka, Logie & DʼEsposito, 2007),熟慮を外的に制限されたストレス状況において,不安がどのように意思決定に影響を与えるかは,重要な現代的課題である.そこで,本研究では,意思決定課題の一つであるアイオワギャンブリング課題を用いて,時間的ストレス状況における意思決定過程の変動,ならびに不安との関係性に関して,33名の被験者を用いて調べた.全試行,ならびに部分試行を対象とした行動成績の比較においては,統制条件と時間的ストレス条件間に有意差が見られなかった.一方,行動パターンと不安尺度スコアの関係性には,複数の項目において条件間の違いが見られた.上記の結果に関して,意思決定過程と不安の関係性の変動という観点から議論し報告を行う. |
本発表は, 時間的ストレス状況における意思決定過程の変動,不安との関係性を調べたものでした.不安尺度にはSTAIが用いられました.不安な時,高いリスクはもちろん取らないが,中くらいのリスクを選択するという結果が意外でおもしろいと感じました.
発表タイトル : 脳活動パターン解析による質感の視覚記憶メカニズムの検討 発表者 : 藤道宗人 セッション名 : 一般発表(4) 概要 : 質感はヒトが安全に生活していくために正確な認識が求められる重要な題材である.これまでヒトの質感知覚の正確性やその神経基盤が示されてきたが,質感知覚を支える視覚記憶メカニズムを検討した研究はほとんどなかった.そこで本研究は視覚記憶に着目してその神経メカニズムを検討することを目的とした.具体的には,質感知覚を担う腹側高次視覚野と視覚記憶に関与する頭頂間溝が質感の視覚記憶にどのように関連するかを検討した.実験は 2 種類の質感(光沢感・粗さ)に関する遅延弁別課題と神経基盤を同定するローカライザー課題で構成された.ローカライザー課題から腹側高次視覚野と頭頂間溝を同定し,それぞれの領域の脳活動に対してマルチボクセルパターン解析を適用した。その結果,腹側高次視覚野と頭頂間溝が質感の視覚記憶に関連するが,それぞれの果たす役割には機能的な差異があることが示唆された. |
本発表は, 質感知覚を与える視覚記憶メカニズムを検討することを目的としており,腹側高次視覚野や頭頂間溝が質感の視覚記憶に関連し,各役割に機能的な差異があることが示唆されていました.研究における課題に対する仮説が明確であり,興味深い内容でした.また,発表の仕方について参考になるところが多かったです.
発表タイトル : 自閉スペクトラム症児の認知機能特性を脳磁図で探る 発表者 : 池田尊司 セッション名 : 発達の臨床と理論研究懇話会 講演 概要 :自閉スペクトラム症(ASD: autism spectrum disorder)は対人コミュニケーションに困難を抱えていることが知られている.これは,主に社会性の機能不全として顕在化するが,この要因として,より低次の感覚・知覚レベルでの歪みが背後にあることが指摘されている.我々の研究グループで は,非侵襲かつ時間解像度に優れる脳磁図(MEG: magnetoencephalography)を用いた幼児期の脳機能研究を進めており,診断および療育につながるバイオマーカーの探索を行っている.本講演では,MEGによって計測可能な知覚およびワーキングメモリの働きについて概説した後,乳幼児研究の手法的特徴や,これまでに明らかになったASD児における脳活動の特徴を紹介する.また,親子間のコミュニケーションに関する脳活動を直接観測する手法である親子ハイパースキャン研究についても触れる. |
本講演は,MEGによる脳機能計測や親子ハイパースキャン研究について紹介がありました.私はハイパースキャンと乳幼児研究について非常に興味があるため,親子間のコミュニケーションに関わる脳活動を観測する研究のお話はとてもおもしろかったです.また,乳幼児研究の難しさも感じました.
参考文献
- JSWM: Japan Society for Working Memory
, http://square.umin.ac.jp/jswm/ja/