2019年7月20日に星陵会館にて開催されました第22回日本光脳機能イメージング学会学術集会に参加いたしました.この学会は,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会を提供する目的として開催されています.本研究室からは吉田早織(M2),藤田渉(M1)の2名が参加しました.発表形式はポスター発表およびフラッシュトークでした.発表題目は以下の通りです.
- 「ワーキングメモリ容量が脳機能に及ぼす影響」
藤田 渉,丹 真里奈,日和 悟,廣安 知之 - 「ダーツ投てき時の脳活動における体動除去手法の検討」
吉田 早織,日和 悟,竹田 正樹,廣安 知之
今回の学会が初めての学会だったので緊張しましたが,初めて研究室外の人へ自分の研究内容を説明する貴重な経験となりました.また,NIRS研究の最前線にいる人達のお話を聞くことで,今後検討するべきことや新しい解析手法を知ることができ,非常に勉強になりました.認知課題を用いたNIRS研究は情動や言語流暢性課題,ハイパースキャニングなどが多く,ワーキングメモリをテーマにしている人は少ないのかなと感じましたが,ポスターには多くの人が見に来てくださり,自分の研究に対する自信になりました.今回の学会で得られた課題を踏まえ,今後の研究や発表に活かしていきたいと思います.
【文責:M1 藤田】
学会参加報告書
報告者氏名 | 吉田早織 |
発表論文タイトル | ダーツ投てき時の脳活動計測における体動除去手法の検討 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 吉田早織, 日和悟, 竹田正樹,廣安知之 |
主催 | 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 |
講演会名 | 第22回 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 学術集会 |
会場 | 星陵会館 |
開催日程 | 2019/07/20 |
- 講演会の詳細
2019/07/20に,東京で開催されましたに第22回一般社団法人日本光脳機能イメージング学会学術集会参加しました.この学会は,一般社団法人日本光脳機能イメージング学会によって主催された研究会で,近赤外光による脳機能計測法の基礎研究をさらに深め,より発展し確立した技術として脳機能の研究や臨床応用に定着させるため,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会である[1].本研究室からは他に,廣安先生,M1の学生として藤田が参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私はポスター発表フラッシュトークおよびポスター発表に参加いたしました.発表の形式は2分間のフラッシュトークと1時間のポスター発表で,参加者の方と議論を行いまいした.
今回の発表は,「ダーツ投てき時の脳活動計測における体動除去手法の検討」について発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
【目的】 ウェルネスダーツは認知機能の向上をもたらす可能性があると言われており,短期記憶能力を高めることが認知機能検査により明らかにされている[1].これを脳機能の面から検討するため,本研究ではダーツ投てき時の脳活動の計測を行った.しかし,計測データは投てき動作によるモーションアーチファクトを多く含むため,アーチファクト除去が需要である.fNIRSの研究において,モーションアーチファクト除去手法はいくつか開発されているが,本研究において有効な手法は明らかではない.そのため,複数の手法を適用しその結果の比較を行った.また,加速度計により頭部の動きを計測し,動作による脳血流データへの影響を検討した. 【方法】 実験はLABNIRS(島津製,38CH,サンプリング周波数: 37Hz)を用い,投てき動作を実行する2名の成人男性の脳血流変化を計測した.各被験者は,31秒から40秒のランダム間隔で,音声の指示に従って10回連続で投てき動作を行った.得られた脳血流データの処理はfNIRSデータ処理パッケージの1つであるHomer2(Huppert et al. 2009)の関数を用いて行った.初めに,脳血流データを光学密度データに変換し,principle component analysis(PCA),targeted principle component analysis(tPCA),movement artifact reduction algorithm(MARA),wavelet filtering,kurotsis wavelet(kWavelet)を適用し,モーション検出アルゴリズムhmrMotionArtifactを用いて手法の比較を行った.また,加速度計により判定される頭部の動きの区間とhmrMotionArtifactによりモーションアーチファクトと判定される区間との関連を確認した. 【結果・考察】 モーション検出アルゴリズムの結果は,パラメータ値に依存する.また,加速度計の値に大きな変化がみられるとき,脳血流データには投てき動作によるモーションアーチファクトが含まれていると考えられる.これをhmrMotionArtifactにより正しく判定するには,サンプル間の変動のばらつきの指標である標準偏差の閾値を低く設定する必要がある.また,本研究では5つの手法を用いたがwavelet filteringがダーツ投てきによるモーションアーチファクトの除去に最も有効であることを確認した. |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.質問者の氏名を控え損ねてしまいました.
・質問内容1
質問は,最も良い体動除去手法はれかというものでした.この質問に対しては今回の結果ではPCAとCBSIが最適だと答えしました.
・質問内容2
質問は,tPCAでノイズ除去できないのはどこか誤りがあるのではないかというものでした.この質問に対しては,効果のあったCHと効果を示さなかったCHがありましたと答えました.
・質問内容3
質問は体動除去手法の手順を教えてほしいというものでした.この質問に対しては,体動除去手法について図を使用しながら説明しました.
・質問内容4
質問は,バンドパスフィルタの範囲はなぜこの値なのかかというものでした.この質問に対しては,タスクとレストの周期的なノイズと心拍や脈拍を除去するためにこの値にしていると答えました.
・質問内容5
質問は, なぜODデータで処理しているのかというものでした.この質問に対しては先行研究の通りに行ったためと答えました.
・質問内容6
質問は,ウェルネスダーツを行った際に実際,脳の変化はあったのかというものでした.この質問に対しては,今後検討していきたいと答えました.
・質問内容7
質問は,あウェルネスダーツの何に期待しているのかというものでした.この質問に対しては,計算や集中しているときに脳の活性が見られると仮説を立てていますと答えました.
- 感想
今回,初めてフラッシュトークを行いました.大変緊張し,早口になってしまいました.もっとわかりやすい発表が出来たのではないかと感じました.ポスターセッションでは,体動除去手法はどれがいいのかという質問を何度か頂き,fNIRS装置を使用されている方にとって体動除去手法の選択は難しく,悩まれている方が多いと感じました.また,誤りがあるのではないかという指摘を頂いた際に理解不足のまま関数を使用している点があるなと感じたため,確認していきたいと思いました.今回は臨床に携われている方も多く,ウェルネスダーツの効果について尋ねられることもあったため,脳機能の面から解明できるように早く研究を進めなければと思いました.今回の学会参加も準備がギリギリになってしまったので,期限に余裕をもって形にする能力を今後,意識して身に付けていきたいと思います.
- 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : fNIRSjの特性を考慮した適切な実験計画と解析 著者 : 皆川 泰代 セッション名 : シンポジウム:「近赤外分光法における皮膚血流の影響とその対応」 Abstruct : fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy)は MRI (Magnetic Resonance Imaging)などの大型の脳機能計測装置よりは安価で実験も行いやすく,脳機能研究初心者でも実験は遂行できるためか,学会などの研究報告等で適切でない実験計画や誤った解析方法などを見かけることが少なくはない.fNIRS の実験ではその計測原理を正しく理解した上で,実験の目的にそった適切な実験計画を立案することが重要になる.データを取得して,解析手法を考えるのではなく,目的にそった独立変数をあらかじめ設定し,そのために従属変数としてヘモグロビン濃度変化量から得られるどの指標(例,濃度変化量の大きさ,潜時,時系列情報)をどのように解析するかといったことを計画したほうが良い場合が多い(もちろん得られたデータに応じて解析方法を追加,修正する場合も多いが).また fNIRS の特性を理解することで,皮膚血流が生じやすい実験タスクなどの対象者に応じた対応も可能となる.本発表では以上のような適切なfNIRS の実験計画方法について,具体的な実験を紹介しながら説明し,適切なデータ解析についてもふれる.これらの中で特に皮膚血流の問題についても焦点をあて,これまでの経験をふまえつつコメントする. |
この発表は,fNIRSを用いた実験計画方法についてとこれまでの研究,実験内容の紹介でした.実験を行う前に,タスクの種類とそれに合わせた実験設計を考えることが大切だと仰っていました.具体的には,タスクには何を使用するのか(受動タスクか能動タスクか),実験の目的に合わせて必要な実験条件は何か,ベースラインをどうするのか(レストのタスクの重要性),などでした.また,感情喚起や言語想起,に関するタスク時やボタン押しは,皮膚血流の影響が大きくなるという話があり,本研究室でも扱っているタスクのため興味深かったです.これらの影響を防ぐには,実験設計の工夫によるレストとタスクの引き算,または血流動態分離法,CBSI,独立成分分析が挙げられていました.また,ハイパースキャンの研究で用いられるWavelet coherence(WTC)は時間方向のスムージング効果があるためアーチファクトの影響が少ないため何も適用されないことがほとんどであると示されていた.本発表の内容は今後,実験設計を考え計画書を作成する際に,考慮するとともに,血流動態分離法について調査したいと思います.
発表タイトル : 血流動態分離法の原理と皮膚血流問題における効果 著者 : 産業技術総合研究所 人間情報研究部門 山田 亨 セッション名 : シンポジウム:「近赤外分光法における皮膚血流の影響とその対応」 Abstruct : 機能的近赤外分光法(fNIRS)は簡便で安全性も高い反面,その計測信頼性には多くの疑問が付されており,特に近年,課題遂行により皮膚血流が変化することの問題が広く認識されている.ここでは,我々が行ってきた fNIRS 技術の高度化への取り組みの中から,血流動態分離法[2]の原理を概説し,皮膚血流の影響除去における効果について述べる. 神経活動に伴って生じる動脈血供給の一過性増大は,当該局所の毛細血管床において酸素化ヘモグロビン量を増大させると同時に脱酸素化ヘモグロビンを静脈へと洗い流す.同時に,周辺組織への酸素供給が酸素化ヘモグロビンの脱酸素化によって行われる.これらのヘモグロビン動態に共通する顕著な特徴は,酸素化/脱酸素化ヘモグロビン量の増減が常に相対方向に生じることである.一方,酸素交換を行わない動脈・静脈などの太い脈管系では,脈管内血液の酸素化/脱酸素化ヘモグロビン量の割合は変化しない代わりに,血流量の変動は,管径の拡張/収縮によって吸収される性質をもつ.このため,そこでの血流動態は酸素化/脱酸素化ヘモグロビン量の増減が常に同一方向に生じる特徴を持つことになる. いま,fNIRS 信号がこれら2つの成分からなり,各成分では両ヘモグロビン変化の間に正負が異なる比例関係が成り立つと考えると,二つの成分は以下のように記述できる. ここで,は通常の fNIRS 計測で得られるヘモグロビン変化量,とはそれぞれ脳機能活動とその他の活動に由来するヘモグロビン変化量を表す. , は各血流動態での両ヘモグロビン変化間の比例係数である.2つの血流動態は組織的にも生成機序的にも異なる起源をもつため,両者の間の相互情報量を最小化する係数 , を見出し,その値を用いて分離を実行することができる. この手法は,上述のように平易な前提に基づき,調整パラメータも少ないにもかかわらず,体動,姿勢変化,呼吸状態変化などに由来する fNIRS 信号変動を効果的に分離・除去することが実験的に確認されている.また,層状モデルに基づく多点計測法との同時計測で,両手法の結果が極めて高い相関を持つことが確認されている.このことは,この手法の頭皮血流の影響除去への有効性を示している. 当日時間が許せば,これらの知見が示す頭部血流変化の描像についても述べたい. |
この発表は,NIRSの計測値から脳血流の成分のみを抽出する方法である血流動態分離法についてであった.血流動態分離法を適用すると多くのCHで増加が見られていたものが,特定のCHで見られるようになり,脳血流由来の成分を抽出可能である.この手法はマルチディスタンス法と同様に皮膚血流の影響を効果的に除去できる.この手法はマルチディスタンス法とは異なり,現在の計測データに適用することが可能であるため,今後調査が必要だと思いました.しかし,質問時に大きな動きを伴う際に適用することは可能なのかという質問があり,本手法は固定した状態で計測していることを前提としているとあったため,私の研究課題にはマルチディスタンス法のほうが適しているかもしれないと思いました.
参考文献
[1] 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会
http://jofbis.umin.jp/
[2] 第22回 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会 学術集会 予稿集
学会参加報告書
報告者氏名 |
藤田 渉 |
発表論文タイトル | ワーキングメモリ容量が脳機能に及ぼす影響 |
発表論文英タイトル | Influence of working memory capacity on brain function |
著者 | 藤田渉, 丹真里奈, 廣安知之, 日和悟 |
主催 | 医療情報システム研究室 |
講演会名 | 第22回 日本光脳機能イメージング学会 学術集会 |
会場 | 星稜会館 |
開催日程 | 2019/07/20 |
- 講演会の詳細
2019/07/20に,星稜会館にて開催されました第22回 日本光脳機能イメージング学会 学術集会に参加いたしました.この学会は,光脳機能イメージング法に関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会を提供する目的として開催されています1).
本研究室からは他に廣安先生,吉田さんが参加しました.
- 研究発表
- 発表概要
私は午後のセッション「ポスター発表フラッシュトーク」,「ポスター発表」に参加いたしました.フラッシュトーク発表の形式は口頭発表で,2分の講演時間となっておりました.ポスター発表は約1時間で参加者の方と議論を行いました.以下に抄録を記載致します.
1. 背景 ワーキングメモリ(WM)とは,情報の処理と保持を担う高次認知機能の記憶システムである。ワーキングメモリの能力の向上は,感情の制御による精神状態の安定化や集中力の向上に繋がり,近年では,児童の発達障害の改善や高齢者の認知症予防へのアプローチとして注目されている。また,WM課題に対して保持可能な記憶量をWM容量という。WM容量には個人差があることが報告されている。そこで,本研究ではWM容量の個人間の違いによって脳機能がどのように変化するのかを検討した。2. 方法 本実験では,WM課題としてN-back課題(N=1,2,3)を使用した。N-back課題とは,連続して提示される刺激を記憶し,N個前の刺激との異同判断を行う課題である。提示刺激には音声的方略を回避するため音韻的に閉じた大小文字のアルファベット12文字を用いた。また,異同判断はボタン動作によって判定をおこなった。N-back課題中の24名の健常な被験者の脳活動を前頭部(18CH),側頭部(12CH),頭頂部(8CH)にプローブを配置したfNIRS(LABNIRS,島津製作所)を用いて計測した。得られた脳血流データにバンドストップフィルター(0.12~0.35,0.7~1.5Hz)をかけてノイズを除去し,一般線型モデルによる統計解析を行って賦活脳領域の推定を行った。賦活解析にはSPM-fNIRS toolboxを用いた。さらに,賦活脳領域に関して該当するボクセルのt値の平均値を標準化しZscoreを算出した。Zscoreを賦活量としてN-back課題の正答率と相関解析することで、WM容量の違いにおける賦活量の変化を検討した。3. 結果 被験者24名のうち,過半数において賦活のみられた領域のうち3-back時の左中心前回において,正答率と賦活量の有意性のある相関がみられた。左中心前回は運動や発音の指令などの体性感覚に関連していると報告されている。本実験においては,課題成績の低い被験者はボタン操作に注意を過剰に向けているため,課題そのものへの注意が逸れている可能性がある。反対に,成績の高い被験者はボタン操作への注意を最低限に抑えていると考えられる。この結果は,特定の脳領域の活動の違いによってワーキングメモリ容量の個人差を予測できることを示唆している。 |
- 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
N-back課題はWMを計れているのかという質問でした.
この質問に対しては,N-back課題では文字の記憶保持と,記憶する文字の更新処理を並行して行っているためWMを測れていると答えました.
・質問内容2
何をZ変換しているかという質問でした.
この質問に対しては,全ボクセルのt値をZ変換していると答えました.
・質問内容3
N-back課題の刺激を第二言語などで行っているものはあるのかという質問でした.
この質問に対しては,私が今まで調べた文献の中にはなかったので,わからないがやってみるのも面白いかもしれないと答えました.
・質問内容4
なぜRSTやストループ課題ではなくN-backを用いたのかという質問でした.
この質問に対しては,課題の難易度を容易に調節することが可能だからと答えました.
・質問内容5
なぜプロットが被験者人数分ないのかという質問でした.
この質問に対しては,今回は賦活のみられた被験者しかプロットしておらず,賦活していない人を入れたらどうなるのかも検討していきたいと考えていると答えました.
・質問内容6
一つの領域だけでなく,複数の脳領域で相関をみられないかという質問でした.
この質問に対しては,ネットワーク解析を行い,その結合の強さと成績の相関をみればできるので,今後検討していきたいと考えていると答えました.
・質問内容7
1,2backで賦活が少なく,3backで賦活が多いことへの考察を教えてという質問でした.
この質問に対しては,1,2backが被験者にとって負荷の弱いものであったと考えていると答えました.
・質問内容8
パフォーマンスが低い人の方が活動するのではないかという質問でした.
この質問に対しては,負の相関にある脳領域があれば想定できるが,今回は正の相関しかみられなかったため,それは考えにくいと答えました.
・質問内容9
呈示文字はどんなものを使用したかという質問でした.
この質問に対しては,音韻を閉じたアルファベットを用いていると答えました.
・質問内容10
ワーキングメモリに関連する脳領域は前頭前野以外にもあるのかという質問でした.
この質問に対しては,縁上回や角回など頭頂や側頭部にも存在すると答えました.
・質問内容11
ワーキングメモリには音韻ループ以外にどんなものがあるのかという質問でした.
この質問に対しては,エピソードバッファや中央実行系も存在すると答えました.
- 感想
・今回の学会が初めての学会だったので緊張したが,初めて研究室外の人へ自分の研究内容を説明する貴重な経験となりました.
・NIRS研究の最前線にいる人達のお話を聞くことで,今後検討するべきことや新しい解析手法を知ることができ,非常に勉強になりました.
・認知課題を用いたNIRS研究は情動や言語流暢性課題,ハイパースキャニングなどが多く,ワーキングメモリをテーマにしている人は少ないのかなと感じましたが,ポスターには多くの人が見に来てくださり,自分の研究に対する自信になりました.
・名刺をくださる方がいて,何か共同研究をしたり意見交換したりするための人脈作りができることも学会に参加するメリットだなと感じました.
・「先生」と呼ばれるので学生の身分ではあるが,専門家として見られている,専門家として振る舞わなくてはと思いました.
- 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : マルチディスタンス法による皮膚由来信号分離法 著者 : 木口雅史 舟根司 セッション名 : シンポジウム Abstruct : NIRS計測では、頭皮上に設置した光源と検出器を用いるため、光が頭皮を通過する際に頭皮血流の影響を受ける。注目する脳機能を抽出するために一般的に用いられる対照状態との比較法によれば、対照状態の頭皮血流を脳活動状態と同様に制御することが求められるが、タスクや被験者の状態によっては、このような統制が困難な場合もある。そのため、対照状態の統制によらずに頭皮血流の影響を除去する手法が提案されており、これらを用いることにより、より自由な計測デザインを組むことが可能となる。ここでは、我々が開発した2つのマルチディスタンス法について紹介する。他の手法と比較した本方法の特徴は、信号成分を信号源の深さにより分離することにある。 そのため、脳機能計測のゴールデンスタンダードであるfMRIと比較しやすい。 図1に、モンテカルロシミュレーションによる頭皮と灰白質における部分光路⻑の光源-検出器距離(SD 距離)依存性を示す。灰白質の信号強度が SD 距離に比例するのに対し、頭皮の信号強度が SD 距離に依存せず一定であるというモデルを用いることにより、2つの異なるSD距離を用いて得られた信号から、頭皮信号と深部信号を定量的に求めることができる。MD-ICA(Multi-Distance Independent Component Analysis)法[1]では、独立成分解析により得られたヘモグロビン信号の 各コンポーネント波形を上記モデルにより頭皮成分と深部成分に分離し、成分ごとに再構成して頭 皮信号と深部信号を得る。RT-SSS(Real-Time Scalp Signal Separation)法[2]では、計測信号に 上記モデルを直接適用して頭皮信号と深部信号を得る。両方法は同じモデルを用いているため、得られる結果は原理的に同じである。独立成分解析に TDD-ICA を用いているために MD-ICA では困難であったリアルタイム処理が、RT-SSS では可能となる。しかし、RT-SSS では高周波ノイズがリ アルタイムで頭皮信号と深部信号に分離されるため、一見ノイズの影響が顕著に見える。また、ノイズ除去の方法が異なることにより、MD-ICA と結果が一致しない場合がある。いずれの方法でも、SN 比の高い計測信号を得ることが重要である。 [1] Funane T, et al., Neuroimage 85, 150-65 (2014). [2] Kiguchi M, et al., J. Biomed Optics 19, 110505 (2014). |
この研究は,NIRS計測において脳機能由来の成分を抽出する際に,頭皮血流の影響によって統制できないことを改善する新しいマルチディスタンス法を開発したというものでした.
この発表を聞いて,そもそも今まで全く皮膚血流のことは考慮していなかったため,これから実験を行う際には必ず懸念すべきだなと感じました.また,細かい原理的な話がまだまだ理解が及ばなかったため,調査が必要であると思いました.
発表タイトル : Real World 認知脳科学へ向けて 著者 : 嶋田総太郎 セッション名 : 招待講演 Abstruct : 近赤外分光法(NIRS)は計測時の低身体拘束性から日常生活に近い環境での脳機能計測が可能である。この特徴により、乳幼児を対象とした実験や、医療・リハビリ現場での使用、また身体運動を伴う課題や社会性認知研究などさまざまな分野に応用されている。本講演では、その中でも日常生活(Real World)における認知課題への機能的NIRS (fNIRS)の適用例として、(1)自己身体認識、(2)コミュニケーション、(3)教育応用の3つの研究を取り上げて紹介する。 自己身体認識は、自らの身体を自己のものであると認識する、人間にとって基本的な認知能力であるが、脳損傷や錯覚によって変容しうる。講演では、自らが操作するロボットハンドに対して自己身体感を抱くロボットハンド錯覚を紹介する。自己身体表現は頭頂葉で処理されていると考えられるが、ロボットハンドを操作しているときの脳活動を計測することはfMRI等では難しい。講演者らはfNIRSを用いてロボットハンド錯覚中の脳活動計測実験を行い、頭頂葉の活動が錯覚と関連していることを示している (Ismail & Shimada, 2018)。 コミュニケーションは2人以上の間で行われる行為であり、これを調べるためにはコミュニケーションしている2人の脳活動を同時に計測すること(ハイパースキャニング)が望ましい。ここでは、fNIRSを用いたハイパースキャニング研究をいくつか概観した後で、講演者らが行った対戦ゲーム中のプレイヤーと応援者の脳活動をハイパースキャニングした研究(Koide & Shimada, 2018)について紹介する。プレイヤーと応援者の脳活動の機能的結合解析を行った結果、プレイヤーの運動野と応援者の頭頂葉の活動に有意な結合性を見出しており、この結果について考察する。 最後に、教育への応用について取り上げる。教育現場は上述のコミュニケーションが重要な役割を果たすが、教師と生徒あるいは生徒同士の脳活動の関連性を調べた研究はまだほとんどなされていない。授業中の脳活動を分析することで、より良い授業を設計しようとする教師を支援できる可能性がある。講演者らは、動画授業を収録中の教師と、撮影された動画を視聴している生徒の脳活動を計測し、被験者間相関(ISC)解析を行った。その結果、教師と生徒および生徒間に相関した脳活動を見出した(Hirako & Shimada, in prep)。この他にも最近の教育分野における脳機能計測研究についても紹介したい。 これらの研究を概観しながら、Real world の認知課題に対して fNIRSを用いた脳活動計測実験を適用することの可能性と今後の展望について考えてみたい。 |
この発表は,私たちの研究室でも使用しているcuiのタッピング課題やストップウオッチ課題などハイパースキャニングを用いた研究が多く紹介されていました.また,新しく応援課題をされていて,応援しているだけでは賦活がみられず,勝った時に賦活するという結果でした.この発表を聞いて,やはりNIRS研究ではハイパースキャニングが注目されていて,協調の定義を明確にした実験デザインが重要だなと感じました.また,IBAS解析やPPI解析など聞きなれない解析もされていて,非常に勉強になりました.
参考文献
- 一般社団法人 日本光脳機能イメージング学会, http://jofbis.umin.jp/