第42回 日本磁気共鳴医学会大会

9月19日から21日にかけて徳島のアスティ徳島にて第41回日本磁気共鳴医学会大会が開催されました。本研究室からは山本先生とM1の大村が参加し、大村が「快の度合が異なる画像に対する脳の活性領域と度合の検討」という発表題目で口頭発表を致しました。
日本磁気共鳴医学会大会は、臨床・基礎・技術系の多様な参加者による自由で闊達な交流と議論の場となることを目的とした学会です。
私、大村の発表は2日目の20日で、発表時間は7分という短い時間だったので時間内に話したい内容を話しきれるか不安でしたが、発表時間ジャストで発表することができました。また、同じ発表セッション内には学生がおらず、論文で拝見したことがあるような偉大な先生方に囲まれての発表で緊張しましたが、大きな問題が起こることもなく、様々な質問やアドバイスを頂くことができました。非常に有意義な時間を過ごすことができました。
これらの意見を参考にさせて頂き、今後の研究を進めていきたいと思います。
最後になりましたが、学会参加にあたり、廣安先生、山本先生、リハーサルに参加してくださった皆様には大変感謝しております。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
【文責:M1大村】
無題  無題1  無題  P1150314

学会参加報告書

 
報告者氏名
 
大村歩
発表論文タイトル 快の度合が異なる画像に対する脳の活性領域と度合の検討
発表論文英タイトル  
著者 山本詩子,大村歩,田中美里,廣安知之
主催 日本磁気共鳴医学会
講演会名 第41回日本磁気共鳴医学会大会
会場 アスティ徳島
開催日程 2013/09/19-2013/09/21
 

 
1. 講演会の詳細
2013/09/19から2012/09/21にかけて,アスティ徳島にて開催されました第41回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.この第41回日本磁気共鳴医学会大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された学会で,臨床・基礎・技術系の多様な参加者による自由で闊達な交流と議論の場となることを目的に開催されています.
私は19,20,21日の全日参加いたしました.本研究室からは他に山本先生が参加されました.
 
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は19日の午後のセッション「fMRI」に参加いたしました.発表の形式は口頭発表で,7分の講演時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,快の度合別に選別した画像を見せた際の脳活動の違いについて発表しました.以下に抄録を記載致します.

抄録中身
近年の医療技術の発展に伴い,脳卒中や脳梗塞といった脳疾患患者の生存率は大きく向上している.しかし,これらの患者は言語障害や運動障害といった後遺症が残る可能性が非常に高く,障害が発現する以前よりも会話や感情の表現が困難になる.従って,このような感情を適切に表現できない患者をサポートするBMI(Brain Machine Interface)などの感情識別システムの開発が求められている.本研究では特に感情の上位概念である快と不快に着目した.これら快と不快の識別に関する先行研究は多く存在する.しかし,実際に感情識別システムを利用する場合を考えると,快と不快の2値の識別ではなく,度合の識別も重要になる.例えば,患者がケアを受ける時や,温度や照明環境といった部屋の環境等は,どれくらい快いかを段階的に評価,識別することで,より質の高い患者の支援が可能となる.よって本研究では快と不快の度合の識別に用いる指標の開発を目的とし,本稿では,その予備的な検討として,快の度合が異なる刺激に対して識別に十分な脳活動の違いが得られるかを確認する実験を行った.
快の度合を高,やや高,通常の3段階で定義した刺激画像を9人の被験者に提示し,MRI装置を用いてBOLD(Blood oxygen level-dependent)信号の計測を行った.集団解析結果では,単純主効果解析において,より高い快を誘発する刺激画像を提示した時,視覚野における活性領域が拡大した.そして,被験者個人においても,被験者9名中8名においても集団解析結果と同じ傾向となった.一方,帯状回においても活性が見られ,その活性は高い快を誘発する画像ほど活性領域の広さが拡大した.また高い快を誘発する画像ほどZ値の値が高くなり,帯状回での活性度合が高くなった.また,高からやや高,やや高から通常を比較した場合,より高い快の活性から低い快の活性を差し引くと,帯状回の活性に有意差が見られることが確認された.以上の結果より,快の度合は視覚野の活性領域の広さと、帯状回の活性領域の広さおよび活性の度合に反映されることが示唆された.よって,fMRIを用いて脳の活性から快の度合の識別を行うことは十分に可能であると考えられる.

 
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
 
・質問内容1
情報通信研究機構未来 ICT 研究所所属の宮内先生からの質問です.こちらの質問は視覚野を考察に使うなら瞳孔径も計測した方が良いというアドバイスでした.この質問に対し,検討する必要があるのでぜひ検討させて頂く,と回答した.
 
・質問内容2
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問はIAPSは外国人向けではないのか、という質問でした.この質問に対する回答ですが,そのように偏らないようにテーマを決めて刺激画像を選別した,またIAPSは日本人にも妥当性があるという報告もあると回答した.
 
2.3. 感想
初の学会で緊張しましたが,発表時間の7分ちょうどで発表することができ,自分としてはなかなかうまく発表できたのではないかと思っています.また,質問やご指摘を多数頂き,自分の勉強不足や実験結果の検討不足を痛感いたしました.
 
3. 聴講
今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
 

発表タイトル       : 拡散テンソル像
著者                  : 下地啓五、佐藤典子、青木茂樹
セッション名       : シンポジウム1 「多施設評価のためのMR定量化と統計解析」
Abstruct            : 多施設間共同研究では、限られた研究期間内に多くの症例数を集めることが可能となり、症例数が多ければより微細な構造変化について検討を進めることができると期待できる。それだけではなく多施設が共同で多くの症例を集めることで、単施設では避けられない症例の偏りが解消し、研究者が事前に予期できない交絡因子を打ち消す効果も期待できる。しかし異なる施設で異なるMRI装置を用いることが、新たな交絡因子となる危険性が指摘されている。拡散テンソル像の多施設(装置)間差異についての検討では、全く同一のモデルを使用しても違うMRI装置を使用すると有意な差が検出されることを示す報告が多い。同一装置を使用すると有意差はほとんど検出されないことから、少なくとも縦断研究には同一装置を使用すべきとする報告は多い。多施設(装置)間差異は避けられないことを前提に、これらの差異を定量化する試みもいくつか報告されている。拡散テンソル像の多施設(装置)間差異の定量化法としては変動係数の算出が最も一般的のようである。変動係数は標準偏差を平均で除して求められ、差異が少ないほど小さくなる。同一装置での撮像と比較して、異なる装置間で撮像すると変動係数が上昇するとする報告が多い。多施設(装置)間差異を交絡因子の一つとして制御する必要がある。交絡因子の制御法には限定、マッチング、層化、補正といった処理が用いられるが、拡散テンソル像を用いた脳画像統計解析の文脈において、その具体的な方法について紹介する。最後に既に海外から文献報告されている拡散テンソル像解析を用いた多施設間共同研究をとりあげ、これらの研究が交絡因子をどのように制御しているかを紹介する。

この発表は拡散テンソル画像の装置間差異を制御方法についての解説でした。自分の研究では拡散テンソル画像を使う予定はありませんが、装置間で結果の差異が生じるというのはとても興味深く思いました。研究室でも違うfNIRS装置を用いてfNIRSの同時計測を行うような研究もするので、非常に勉強になりました。
 

発表タイトル       :新しい画像技術によるコントラストの臨床応用:PADREによる新たなコントラスト
著者                  : 米田哲也
セッション名       : シンポジウム2 「新しい画像技術と病態解析のBreakthorough」
Abstruct            : 従来、臨床で主に使用されているMRI画像は、magnitude画像と呼ばれるプロトン密度を反映した画像コントラストを提供している。これに対して位相画像と呼ばれる画像は、対象の磁性を反映した画像であり、生物物質が化学的状態の違いで様々な磁性を示すため、位相画像は従来のMRI画像コントラストと違った医用画像情報となり得ることが十分に期待される。例えば、ヘモグロビン分子は酸素との結合状態によって、常磁性体と呼ばれる磁石と引き合う(磁力線を引き寄せる)磁性を示したり(deoxy-hemoglobin)、反磁性体と呼ばれる磁石と反発する(磁力線をはね除ける)磁性を示したりする(oxy-hemoglobin)。このような組織の化学的結合状態の違いによる磁性の違いを画像化するアイデアは、既に磁化率強調画像法(SWI)により実現されている。位相情報を、臨床画像コントラストとして使用するアイデアは、一見単純なように見えて、その背後にある物理学的背景と医学的背景が高度に結びついているため、やや複雑であるように見える。例えば、前記のヘモグロビン分子は血液中の赤血球と結びつくことで、単独で存在するものと違った磁性を示すだけで無く、その血液を取り囲む血管の幾何学的形状(柱状)が、外部磁場の影響で血管の内外に、血管の静磁場に対する走行方向に依存した新たな磁場・磁性を生み出してしまうため、結果的にヘモグロビン分子が関与する血液の磁性は常に同じとは限らなくなる。しかしながら注意深く観察すると、いくつかの重要な組織では、ある程度の範囲で一定の位相値、すなわち磁性を示すことがわかるため、これらを区分して強調することで、上記の複雑な物理的背景も画像化できるのでは無いかというアイデアに到達できる。位相差強調画像化法(PADRE)はこのようなアイデアの下に生まれた位相画像技術であり、従来法では観察が難しかった変性疾患など、微小な組織の違いを鋭敏に捉えて画像化できる技術である。そこで今回は、PADREが得意とする臨床画像コントラストとはどのようなものか、また、今後どのような臨床画像に使用されるようになるのかなどを、技術背景を理解しながら議論してゆく。

この発表は今まで描出が難しかった病変部位をPADREを用いて描出することについて検討している発表でした。自身の研究には直接関係ありませんが、deoxy-hemoglobinやoxy-hemoglobinの化学的状態を描出するという点が自身の研究との共通点で大変興味深い発表でした。PADREは血液だけでなく白質と関連する病変も描出できるらしく、さらにすばらしいと思いました。
 

発表タイトル       : fMRIによる臨床診断認知負荷ストレス課題の妥当性の検討
著者                  : 國見充展、木山幸子、中井敏晴
セッション名       : fMRI
Abstruct            : 【目的】加齢に伴いBOLD信号は亢進する。我々はその程度やパターンが課題と難度に依存することを示した(Kunimi et al. ISMRM 2013 32330)。指標となる行動データとそれを反映する脳活動の関係を明らかにすれば、この現象は臨床診断に応用することが可能である。そこで本研究ではfMRIによる臨床診断用認知負荷ストレス課題の作成に先んじ、用いられる課題の要求仕様を明らかにすることを試みた。本研究ではfMRIを用いて2価のTask Switch課題と視覚的N-back課題の2つのワーキングメモリ課題の妥当性を検討した。ワーキングメモリは目標指向性の高い場面において重要な機能を持つが、加齢影響を受けやすいとされている(Vecchi&Cornoldi. 1999: Myerson. Hale. Rhee. &Jenkines, 1999など)。そのため、日常認知の加齢影響を客観的に吟味する際にワーキングメモリ課題が用いられる。
【方法】本研究ではTask Switch課題では速度(CSI-50, 650, 1250ms)、N-back課題では記憶負荷量(N-1, 2, 3)のそれぞれ3条件を実験条件とし、難度と脳活動の関連を調べた。若年群20名、高齢群20名が実験に参加した。GRE-EPI法を用いて脳機能画像を収集した(3T, Slices=39, TR=3000ms, TE=30ms, Thickness=3mm, Gap=0.72mm, FOV=192mm, 64×64)。取得したデータはStatistical Parametric Mapping(SPM8)を使用して解析を行った(すべてp<0.001, uncorrected)。
【結果と考察】視覚野および前頭前野の広範囲にわたる賦活がみられた。条件間で比較すると、認知や意思決定を行う前頭前野背外側部([BA]46)や視覚的注意を担う角回([BA]39)の賦活に有意な差が見られた。年代群間で比較すると前頭前野背外側部のほか、色と形の判断に関係すると考えられる左右の紡錘状回([BA]18)の賦活に差が見られた。本研究から市空間認知と意思決定に関わる領域の加齢影響を客観的に検出する認知計測法として、難度の異なる認知課題の脳賦活応答比較を臨床画像診断に応用できる可能性が示唆された。今回設定した条件間隔の妥当性の検討と調整が今後の課題である。

この発表はワーキングメモリ課題の妥当性について検討した発表でした。研究室ではワーキングメモリ課題を用いている実験もあり、課題によって賦活する脳部位が異なっていたりと大変興味深かったです.