2014年3月6~7日に、
「
「課題の難易度変化による成績の違いが脳活動に及ぼす影響」
「fNIRSを用いた脳の異種感覚情報処理機構についての検討」
私にとって初めての学会でしたが無事発表を終えることが出来まし
リハーサルに参加してくださった先生方および研究室の皆様、
皆さんのお蔭で無事発表を行うことが出来ました。
本当にありがとうございました。
【文責:B4滝】
学会参加報告書
報告者氏名 | 滝謙一 |
発表論文タイトル | fNIRSを用いた脳の異種感覚情報処理機構の検討 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 滝謙一,山本詩子, 廣安知之 |
主催 | 東北大学大学院 医学系研究科 高次機障害学 |
講演会名 | 第16回日本ヒト脳機能マッピング学会 |
会場 | 仙台国際ホテル |
開催日程 | 2014/03/06-2014/03/07 |
1. 講演会の詳細
2014/03/06から2014/03/07にかけて,仙台国際ホテルにて開催されました第16回日本ヒト脳機能マッピング学会(http://jhbm.umin.jp/jhbm16/)に参加いたしました.この学会は,東北大学大学院医学系研究科によって主催され,ヒトの脳機能解明のための知識を広く共有しあうことを目的に開催されています.
私は両日参加いたしました.本研究室からは他に横内先生,山本先生,杉田さん,将積さんが参加しました.
・その講演会が,どういう主旨,研究領域の研究会なのかについて説明
・講演会のWebサイトがあるなら,講演会名の点で参照する
・自分の参加日程と,他の参加者について説明
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は6日の午後のポスターセッション「心理」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,5分の講演時間と2分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は「fNIRSを用いた脳の異種感覚情報処理機構についての検討」という演題で行いました.以下に抄録を記載致します.
【目的】脳は周囲の状況を理解するため,感覚情報を処理する.複数種の感覚情報が入力された時と単体の感覚情報が入力された時では,情報処理の優先順位による活性部位の違いがあると仮定し,単体と複数の刺激が入力された時の脳の処理機構の違いを機能的近赤外分光法(functional Near Infrared Spectroscopy: fNIRS)を用いて検討する.【方法】計測機器はfNIRS 装置(ETG-7100:日立メディコ製)を使用し,122chで全脳を計測した.被験者は22~24歳の健常成人15名とした.実験設計は30sのレストと15sのタスクを5回繰り返すブロックデザインとし,視覚刺激のみの場合,聴覚刺激のみの場合,視聴覚刺激両方を提示する場合の計3回を行った.タスクにおける視覚刺激は7.5Hzで反転するチェッカーボード,聴覚刺激は1000Hzの正弦波音を提示し,レストではどの課題においても被験者は常に画面中央の固視点を見続けた.各試行において得られたデータを加算平均して活性の検討を行った. 【結果】視聴覚刺激提示時にのみ活性した領域は両側頭極付近に集中し,単体刺激提示時にのみ活性を示した領域は頭頂葉に見受けられた. 【考察】両側頭極付近の活性は,上側頭溝の多感覚統合領野の活動により活性したと考えられる.この領域は視覚と聴覚情報の統合を行う.また頭頂葉には、体性感覚情報と視覚情報を統合する多感覚統合領野が頭頂開溝に存在しており,単体の感覚刺激提示時は,体性感覚情報との統合を優先したのに対し,視聴覚刺激提示時は,視覚と聴覚の関係性を理解するために上側頭溝の活動を優先したため,視聴覚刺激提示時では活性が減少したと考えられる. 【結論】感覚刺激が複数の時と単体の時の活性領域を比較したところ,視聴覚刺激提示では,両側頭極付近が活性したのに対し,単体刺激提示時では,頭頂開溝付近が活性した.脳は異種の感覚情報を統合して処理するために,体性感覚情報よりも視聴覚刺激の統合を優先することが示唆された. |
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
花王株式会社所属の難波綾さんからの質問です.こちらの質問は統合が行われるタスクにはどのようなものがあるかというものでした.この質問に対し私はマガーク効果の説明を行いました.
・質問内容2
岩手医大の石橋靖宏さんからの指摘です.指摘内容は対応のあるt検定が行えていないのではないかというものでした.私のやり方では有意差ありの判定が出やすいということなので,後で確認を行っておきますと返答しました.
2.3. 感想
発表形式はポスター発表ではあったが,マイクで発表を行ったためか,ホールにいるほぼ全ての方が座長さんのいるポスターに集まる状態となっていた.そのため大変緊張してしまい,発表後もあまり質問をもらうことができず,少し残念だった.
3. 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 中心前回における言語反応の多様性著者 : 丹治和世セッション名 : 一般演題 Abstruct : 【目的】機能的MRIによる脳機能画像研究では、音声刺激に対して中心前回運動前野が賦活されることが報告されている。これは音声知覚の際に運動表象が活用されるという理論と矛盾せず、運動前野の音声知覚への関与を示唆する。しかし、中心前回に限局した損傷では言語の理解が障害されることはなく、中心前回における聴覚反応の機能的意義について詳細は解明されていない。今回我々は覚醒下手術中に、動詞生成課題を用いて音声刺激、文字刺激、および構音運動に関連した事象関連誘発反応を測定し、中心前回における感覚反応と運動反応の局在について調べた。【方法】症例は40-50代の女性3例。覚醒下手術中に開頭下で誘発反応を測定した。電極間間隔5mmのグリッド電極を使用し、動詞生成課題施行中の誘発反応を左中心前回より測定した。【結果】全例において、音声刺激に選択的な、高ガンマ帯域を含む広い周波数帯域の誘発反応がみられた。文字刺激に選択的な反応は1例で観察され、音声刺激への反応と比較してやや背側で活動が観察された。また、音声および文字刺激に対して反応がみられた全ての電極で構音に関連する運動反応が観察された。【結論】音声刺激に対する中心前回の活動は、fMRIのみならず脳波においても一般的にみられる現象であることが判明した。また、中心前回において文字刺激に特異的な反応もみられることがわかった。今回各症例で感覚反応が検出された部位は限局的であり、標準脳上の座標には個人差がみられた。先行研究では、脳損傷症例の病巣が中心前回に限局する場合でも、多様な構音異常が出現することが報告されている。今回頭蓋内脳波で観察された中心前回の多様な反応は、中心前回損傷症例における症状の多様性の神経基盤として理解できる。また、術中マッピングの際に中心前回の言語関連領野を同定するための指標となる可能性がある。 |
文字刺激によって感覚反応が見られた部位は限局的で,5㎜幅で電極を置いて計測したが,
反応している部位と隣では全く反応が異なる.このことから脳機能はかなり細かく機能がわかれているのではないかと推測されていた.これが事実であれば,NIRSで脳機能計測を行うとき,脳のどこを計測しているかを厳密に求めなければいけない.
発表タイトル :統合失調症患者のresting state fMRIにおけるdefault mode networkの検討著者 : 船越 康宏セッション名 : 一般演題 Abstruct : 【背景・目的】fMRI撮像でタスク刺激を行わないresting state fMRI(rsfMRI)が考案され、その中で注目されているのがdefault mode network (DMN)である.DMNは閉眼安静時で最も酸素代謝や血流量が高く,脳の標準状態を形成するとされている.特に後部帯状回がDMNの中心的なつながりが有るとされ,アルツハイマー病や認知機能障害などで信号変化があるとされている.そのため,DMNはこれらの病気を表す新たな指標になる可能性がある.本研究では健常人と統合失調症患者に対してrsfMRIを撮像し,DMNの活動領域に変化がみられるか検討を行った.【方法】健常人(24-64歳)10名と統合失調症患者(24-53歳)5名を対象とした.統合失調症患者には,薬物投与2週間前と投与6週間後のrsfMRIの撮像を行った.前処理として体動補正や時間補正などを行い,独立成分分析を用いてDMNの抽出を行った.【結果・まとめ】統合失調症患者は,健常人に比べDMNの後部帯状回で活動領域が狭く見られた.統合失調症患者における薬物投与後のDMNの活動領域は,投与前に比べ拡大して見えた.今回の結果より,健常人と統合失調症患者のDMNの領域の範囲には相違が認められ,薬物療法によってDMNの領域が拡大し、正常者に近くなる可能性が示唆された. |
素晴らしいと思ったのが何もしていない安静時の脳活動からでもわかることがあるかもしれないということでした.今後はノイズが大きい,変化が見られないなどの一見無意味なデータを注意深く見ておきたいと思いました.
参考文献
1) タッチの大脳メカニズム, https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/26/3/26_3_253/_pdf
2) 脳における異種感覚の統合様式,http://ci.nii.ac.jp/els/110003229210.pdf?id=ART0003750791&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1395996546&cp=
3) 頭頂連合野と運動前野は何をしているのか? http://www.congre.co.jp/jpta48/jpta48_ver4/pdf/K-B_shinkei-201.pdf
Ⅰ目的: 本研究では,被験者の課題成績に基づき,課題の難易度変化が脳活動に及ぼす影響の検討を目的とする. |
Ⅱ方法:
音刺激のGO/NOGO課題において,GO信号とNOGO信号の周波数差を変化させることにより,課題の難易度付けを行う.
GO信号を1000Hz,NOGO信号を1020,1030,1040,1050,1060,1100Hzに設定し,周波数差が小さいほど,課題の難易度が高いと定義する.各被験者の課題成績はGO/NOGO課題に対するエラー率および反応時間とする.また課題遂行時の脳活動を機能的近赤外分光法(functional Near Infrared Spectroscopy: fNIRS)を用いて計測する.
Ⅳ結果: 前頭極における,課題中の被験者12人の平均Oxy-Hb積分値は,NOGO信号を1060Hzに設定時最大となり,課題の難易度が高くなるに伴い,減少傾向が見られた.また下前頭回においては,NOGO信号を1030Hzに設定時最大となり,課題の難易度が低くなるに伴い,減少傾向が見られた.一元配置分散分析(p<.05)の結果より,前頭極における結果にのみ有意差が見られた(F(5,66)=4.3169, p < .05, F(5,66)=0.864, p > .05).
下前頭回において,課題成績より,被験者を高成績群,低成績群の2群に分け,平均Oxy-Hb積分値を算出した.高成績群においては,NOGO信号を1030Hzに設定時最大となり,課題の難易度が低くなるに伴い,減少傾向があったのに対し,低成績群では,傾向が見られなかった.一元配置分散分析(p<.05)の結果より,高成績群にのみ有意差が見られた(F(5,30)=3.871, p < .05, F(5,30)=0.702,p > .05)
Ⅴ考察及び結論: 前頭極は,未来の予知や,自分の行動の是非に深く関係していると言われていることから,全被験者において,難易度が低い課題で,より音の聞き分けが出来ていると考えられる.一方,右下前頭回においては,高成績群でのみ,難易度の高い課題で脳活動が有意に大きくなる傾向が見られた.右下前頭回は反応抑制に深く関係していると言われていることから,GO/NOGO課題時に主に機能するとされる反応抑制は,課題成績の影響を受けることが示唆された.
・自分の講演日程,セッション名,発表形式
・今回の発表内容について簡単に説明
1.1. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
「データ処理の際、0点はどのように設定しているのか。設定の仕方を誤ると、脳血流変化の傾向を打ち消す可能性がある」
→0点の設定は課題が始める直前に設定している。今回は0点をこの時間に設定しているが、血流変化の特徴を消している可能性は考えられるので、今後それを含めた0点補正の仕方の検討が必要だと思っている。
・質問内容2
座長さんからいただいた質問
「難易度設定をもっと増やしたらどうなるのか。より簡単な課題を行うと、変化の傾向がどのように変化するのか」
→易しい課題においての検討はできていないが、変化傾向を見る必要はあると思う。今回の結果からの推測では、易しくなるに伴い減少する傾向が考えられる。今後他の難易度による検討も必要である。
・アドバイス1
座長さんから
「検定の仕方について。1020Hzと1100Hzにおいては、例外の変化傾向が見られる。この結果から、統計解析をする際には例外の扱いをして、それ以外で検討してもいい。」
・アドバイス2
周波数の設定をもう少し細かくすると面白い。この傾向がどのように伸びているのか興味深い。
1.2. 感想
今回は2度目の同学会の参加であり、流れを把握していて困惑することなく準備を行えた。しかし、就活との両立に苦戦し、リハーサルにおいてはまとまりきれておらず、先輩のアドバイスを多く頂いた。いつも話している研究内容であっても、しばらく考えていなかったら内容を忘れてしまう事を実感した。リハーサルの反省を生かし、本番に向けては研究の内容を再確認したのと、想定質問に対する回答をまとめた。また発表時間も指定があったので、時間内に発表できるように本番の直前まで練習した。その結果、本番では納得のいく発表ができただけでなく、奨励賞を受賞することができた
今回の学会で奨励賞を受賞することができたのは、周りで支えて下さった先生や先輩方のおかげだと、賞を受賞した瞬間に感じた。日頃から研究に取り組める環境にあることを感謝したいと思う。また、そのような環境を自分が主体となって作っていきたいと思う。
・発表した感想と反省を手短に書く.
2. 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : ヒト記憶過程における過去と未来への思考を媒介する神経基盤の解明 |
著者 : 釜屋 憲彦(かまやのりひこ)、朴 白順、金田 拓巳、重宗 弥生、月浦 崇
セッション名 : 一般演題 ポスター発表2
Abstruct : 記憶対象を自己と関連付ける(自己参照)ことで記憶は促進されるが、その方略の違いが記憶に関連する神経基盤に与える影響については明らかではない。本研究では、過去や未来の自己と結びつける方略を用いることによって、記憶記銘の神経基盤が受ける影響を検証した。fMRIを伴う記銘では、単語から連想できる自分が過去に体験した出来事(1年/10年前)を想起、あるいは体験するであろう未来(1年/10年後)を想像するように求めた。その後、提示された単語の再認を行った。結果、1) 過去・未来条件で共通に統制条件(単語の意味判断)と比較して、内側前頭葉、内側頭頂葉、外側側頭葉、楔部に、2) 過去条件>未来条件で後部帯状回に、未来条件>過去条件で右下頭頂小葉に、3) 1年条件>10年条件で内側前頭葉や内側頭頂葉に、有意な賦活を認めた(図)。以上より、1) 刺激の記銘時における過去や未来への思考には自伝的記憶ネットワークが関与すること、2) 過去と未来の思考とで認められた頭頂葉内側と外側の解離は、過去思考における出来事の現実性と、未来思考における出来事の創造性がそれぞれ関与すること、3) 1年条件と10年条件で認められた賦活の相違は、時間的に近い出来事では自己参照過程がより強く関与していることが示唆された。
この研究では、過去か未来の事を連想する際の脳活動の変化を調べていた。その結果から、ネットワークに関連する過去と未来それぞれの思考には特徴があることが示唆されている。このことから、同じネットワークを使っていたとしても、それぞれの思考によって機能が違うことが考えられる。この結果から、同じ部位による活性が見られたとしても、その機能による活性であるのかを区別することの必要性がある。
発表タイトル :性差と加齢がもたらす他者の顔に対する価値表象に関わる神経基盤への影響 |
著者 : 伊藤 文人(いとうあやひと)、藤井 俊勝、阿部 修士、川崎 伊織、林 亜希子、上野 彩、吉田 一生、 境 信哉、麦倉 俊司、高橋 昭喜、森 悦朗
セッション名 :一般演題(口頭発表)
Abstruct : 近年の脳機能画像研究から、他者に対する選好(複数の人物から好ましい人物を選び出すこと)を形成する上で腹内側前頭前野が重要な役割を果たしていることが明らかにされている。しかし、腹内側前頭前野における価値表象プロセスが、対象の性差や加齢といった要因により影響を受けるかどうか十分に明らかにされていない。本研究では、性別や世代の異なる様々な人物に対する腹内側前頭前野の活動パターンが、性差や加齢によってどのような影響を受けるか検討した。 本研究には健常若年者32名(男女各16名、平均年齢21.2歳)と健常高齢者32名(男女各16名、平均年齢68.3歳)が参加した。fMRI撮像中、被験者は様々な人物の顔写真を一枚ずつ呈示され、どの程度心地よいと感じるか評定課題を行った。その後の選択課題において、被験者はfMRI撮像中に呈示された2名の顔写真を呈示され、どちらの顔がより好きか選択を行った。 心地よさの評定課題の結果に基づき、顔の心地よさの上昇に伴って活動が上昇する脳領域を全脳で解析した結果、腹内側前頭前野が認められた。そこで、若年男性、若年女性、高齢男性、高齢女性それぞれの腹内側前頭前野の活動データに対し、顔写真の性別(男性、女性)、顔写真の年齢(若年、高齢)、選好判断の結果(選ばれた、選ばれなかった)を要因とした3要因の分散分析を行った。その結果、女性被験者では世代の違いに関係なく選好の主効果が認められ、対象の人物の性別や年齢に影響を受けることなく腹内側前頭前野が選好を形成することが明らかとなった。一方、若年男性では年齢と性別の主効果が認められ、腹内側前頭前野が対象の人物の性別や年齢の違いを反映することが明らかとなった。高齢男性では有意な主効果、交互作用は認められなかった。本研究結果は、他者の顔に対する価値表象プロセスに性差が存在し、加齢による影響も男女で異なることを示唆している。
顔の認識に関する研究や、男女差の研究をみることが多い。この研究では、男女によって顔の認識の仕方に差があるというものだった。脳科学的にも男女差が認められつつあり、それは顔の認識に関してもあるということがわかった。私の研究でも同じようなこと言える可能性があるので、男女差を考慮して検討も視野に入れたいと思う。
発表タイトル :脳機能画像法による正直さの研究 |
著者 : 阿部 修士
セッション名 : シンポジウム
Abstruct : ヒトが正直な行動を選択するか、不正直な行動を選択するかについては、大きな個人差が存在する。本発表では、側坐核における報酬への感受性の個人差が不正直な行動の割合に関与していると仮説を立て、両者の関係性を fMRI で検討した研究を報告する。fMRI 撮像中に被験者は、コイントスの予測課題(コインが表か裏かの予測を行い、正解であれば報酬が与えられるが、正解・不正解は自己申告に基づくため、不正直な被験者は偶然の確率を有意に超えて、つまり嘘をついて報酬を得ることが可能な課題)を行い、正直な行動・不正直な行動の割合と、それぞれに関わる前頭前野の活動が測定された。また、コイントス課題に加え、金銭報酬遅延課題(一定の遅延の後のボタン押しによって、報酬を獲得する、もしくは罰を避ける課題)を行い、報酬予測時の側坐核の活動が測定された。その結果、金銭報酬遅延課題時の側坐核の活動が高い被験者ほど、コイントス課題において不正直な行動を選択する頻度が高く、さらに不正直な行動を抑制して正直な行動を選択する際の前頭前野の活動をより必要とすることが明らかとなった。これらの結果は、ヒトの正直・不正直な行動が、側坐核における報酬感受性の個人差によってある程度規定されうるという仮説を支持するものである。本研究はヒトの正直さ・不正直さに関わる神経基盤として、嘘に対して促進的な報酬処理のメカニズムと、抑制的な認知的コントロールのメカニズムの相互作用が重要であることを示唆している。
この研究は正直さを脳活動から検討するというものであり、嘘に対して促進的な報酬処理のメカニズムと抑制的な認知的コントロールメカニズムの相互作用を見ていることから、私自身の研究との関連性もあると思う。これは課題に取り組む姿勢の指標とも考えられる。正直か、不正直かの個人差によって、課題への成績に大きく影響される。この正直さの違いが脳活動に影響するとわかっていることから、認知の脳活動を見る際には要素を細分化する必要があることがわかった。
参考文献
1) 第16回日本ヒト脳機能マッピング学会 http://jhbm.umin.jp/jhbm16/
学会参加報告書
報告者氏名 |
將積彩芽 |
発表論文タイトル | 雑音環境下における数字記憶課題時の成績と脳血流変化に対する男女差の検討 |
発表論文英タイトル | Gender Differences in Influence of Sound Environments on Performance of the Memorizing Numerical String Task and Cerebral Blood Flow Changes |
著者 | 將積彩芽,山本詩子,廣安知之, |
主催 | 医療情報システム研究室 |
講演会名 | 第16回日本ヒト脳機能マッピング学会 |
会場 | 仙台国際ホテル |
開催日程 | 2014年 3月6日~3月7日 |
1. 講演会の詳細
2014年3月6日から7日にかけて仙台国際ホテルにて開催されました,第16回日本ヒト脳機能マッピング学会に参加致しました.近年,EEG,PET,MRI,NIRS等の臨床応用により,非侵襲的に高次機能局在の研究が可能となっています。この学会は,人脳における高次機能マッピングに関心の高い研究者間の情報交換の場と研究協力を促進するための機会を提供すること,各方法の技術開発、臨床応用などを促進し、医療の発展に寄与し、広く国民の健康増進に貢献することを目的に開催されています.
本研究室からは他に横内先生,山本先生,杉田,滝が参加しました.
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は6日午後のポスター発表のセッション「心理」に参加致しました.発表の形式はポスター発表で,5分の講演時間と2分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,雑音環境下における数字記憶課題時の成績と脳血流変化に対する男女差の検討というタイトルで行いました.以下に抄録を記載致します.
【目的】 本研究では音環境が数字記憶課題の成績,脳血流変化に及ぼす影響の男女差の検討を目的とした. 【方法】 本実験では,被験者を男性5名,女性5名とし,静音,ピンクノイズ,ホワイトノイズの3種類の音を作業時に提示した.知的作業として,8個の数字を3秒間で記憶し,7秒以内に順番通りに入力する数字記憶課題を行った.各音環境において数字記憶課題を30問行い,それぞれ正答文字数を測定した.作業時の脳血流変化はfNIRS(functional near infrared spectroscopy)を用いて計測した.また,心理的要因の調査を目的とし,実験後にアンケートを行った. 【結果】 男性は静音,女性はホワイトノイズで最も良い成績を示した. t検定の結果,ホワイトノイズのみ男女間の成績に有意差が認められた.また,左側頭部の下前頭回付近が被験者間で共通して活性し,より高成績を示す音環境において,大きい脳血流変化を示す結果となった.快と感じた音の順序と,高成績を示した音の順序は一致する傾向となった. 【考察】 心理学的な既存研究によれば,女性は男性に比べてホワイトノイズ快に思うと報告されている.本実験では,男性は静音を快と感じ,女性はホワイトノイズを快と感じた傾向にあった.このことより,快と感じた音において集中力が高まり,高成績,脳血流量の増加につながったと考えられる.また,ホワイトノイズはマスキング効果により,fNIRSの動作音などをマスキングした可能性がある. 【結論】 本研究では,音環境が数字記憶課題の成績と脳血流変化に及ぼす影響の男女差の検討を目的とした.静音,ピンクノイズ,ホワイトノイズの3種類の音環境の中で数字記憶課題を行った結果,ホワイトノイズ提示下で課題成績に男女差が見られた.快と感じる音は男女で異なる傾向となり,快と感じる音ほど高成績につながる結果となった.また,活性部位は左側頭部の下前頭回付近であり,その部位では高成績を示す音環境ほど脳血流が大きく活性する結果が得られた. |
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
群馬大学大学院 医学系研究科 神経精神医学でNIRSの研究をされている桜井敬子先生から頂いた質問です。ピンクノイズとホワイトノイズはどういう違いがあるのかというものでした.ピンクノイズは音のパワースペクトルが周波数に反比例する音であるのに対し,ホワイトノイズはパワースペクトルが全ての周波数に対して等しい音である,と答えました.また,ピンクノイズとホワイトノイズはカラードノイズというものの一種であり,他にもパープルノイズやブラウニアンノイズなど周波数特性が異なる種類があることを伝えました.実際にパソコンで音も聞いていただきましたが,違いはほとんど分からない,という感想を頂きました.
・質問内容2
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター所属の菅野巌先生から頂いた質問です。こちらの質問は,ホワイトノイズは女性にとって本当に良いものなのか,というものでした.ホワイトノイズは男性にとって不快,女性にとって快であるという参考文献がある.実際に,アンケート調査も行ったが,被験者の心理状態にもそのような傾向が見られた,という内容で答えました.
・質問内容3
京都大学大学院 工学研究科 生体医工学講座・生体機能工学分野所属の小林哲生先生から頂いた質問です.ピンクノイズとホワイトノイズは効果にどのような違いがあるのかというものでした.ピンクノイズにはリラックス効果があり,ホワイトノイズにはマスキング効果や集中力向上の作用があることが報告されているという内容でお答えしました.
2.3. 感想
今回のポスター発表はマイクを持った発表で,聴講者は皆,座長についてまわり,しかし質問は誰もしない,という珍しい形式でありました.しかし,自分のポスターの前にずっと立っていると,興味を持ってくださった方に話しかけて頂くことが出来ました.また,実際に音を聞いて頂く準備をしていたことで,さらに興味を持っていただけたように感じました.そして,男性としては女性がホワイトノイズで成績が良くなるのは理解できない,という感想が多かったのですが,多くの方におもしろい結果だと言って頂くことができたので良かったです.
3. 聴講
今回の講演会では,下記の2件の発表を聴講しました.
発表タイトル : ヒト記憶へのトップダウンとボトムアップな効果を媒介する神経基盤 著者 : 月浦 崇 セッション名 : 「シンポジウム1」 Abstract : ヒトの記憶過程とその神経基盤は,記憶以外のさまざまな心理過程によって影響を受けるが,その影響は大きく分けて,①「トップダウンな心理過程」による効果と,②「ボトムアップな心理過程」による効果,に分類される.一般に,①「トップダウンな心理過程」は「意図的処理」を反映しており,例えば記憶を記銘する際にその対象の意味を能動的に考えて記銘することで,その後の想起が促進されるような現象で認められる過程である.他方,②「ボトムアップな心理過程」は一般的に「自動的処理」であり,例えば情動的な刺激に対する記憶は促進される,ような現象によって知られている.本講演では,このフレームワークの中で我々がこれまでに行ってきたfMRI研究を中心に紹介し,ヒトの記憶過程における「トップダウン」と「ボトムアップ」の効果,及びその相互作用を媒介する神経基盤について考察する. |
普段の生活をしていると、自然と様々な光景を記憶している場面がありますが、そのような記憶にも種類があるということで驚きました。人の脳は、様々な感情を踏まえた上で瞬時に複雑な処理をし、記憶に残してしまうので、やはり簡単に解明できるものではないなと感じました。また、私は記憶課題を用いているので、その課題中に被験者が感じている感情によっても脳機能は変わってくるのかなと思いました。
発表タイトル : 後出し負けじゃんけん課題を用いたNIRSの精神科領域への臨床応用 第2報 著者 : 菊池千一郎, セッション名 : 一般演題 口頭発表 『社会・言語』 Abstract : 後だし負けじゃんけん課題(drRPS)施行中のNIRSでは、課題の作業量増加に伴い、前頭前野の課題中の血液量変化が線形に増加する傾向がある。この課題の作業量依存性に血液量が増加する特性は、ステートマーカーとしての可能性を秘めていると考えられる。われわれは、drRPSを採用したNIRSを、精神科領域への臨床応用の試みとして以前他の学会で発表したが、今回より詳細に解析を検討して報告する。対象は、説明による同意を得たうつ状態を呈する精神疾患患者64例である。NIRS機器は日立メディコ社製ETG-4000を用いた。検査は精神科先進医療のプロトコールにあわせて行われた。drRPSの課題デザインは、同時に行われた言語流暢性課題(VFT)のそれに準拠して、勝ち30秒、負け60秒、勝ち70秒とした。それぞれの課題において、遂行中の前頭部、左右側頭部関心領域の酸化ヘモグロビン平均波形の積分値(積分値)を求め、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)や課題成績との関連をピアソンの積率相関分析を用いて検討した。5%を有意として、10%を相関傾向が認められるとした。VFTでは、すべての積分値と課題成績、およびすべての積分値とHAM-Dとの間に有意な相関は認められなかった。一方、drRPSでは、右側頭部積分値と課題成績との間に5%の水準で正の有意な相関を認めた上に、残りの積分値と課題成績との間にも正の相関傾向が認められた。さらに、右側頭部積分値とHAM-Dの間に1%の水準で負の有意な相関が認められた。drRPSで特に右側頭部で有意な相関が認められた理由は不明だが、我々の先行研究では、負ける時と勝つ時の活動の差が右腹外側前頭前野において最も鮮明に認められており、これが敏感な指標となっている理由の一つと考えられた。drRPSを用いたNIRSは、ステートマーカーとして利用できる可能性が示唆された。 |
負ける時と勝つ時とで活動に差が出るという結果がおもろいと感じました。勝つという行動は、分かりやすいが、負けるとなると判断は難しくなってしまいます。じゃんけんは普段は勝とうとするものであるため、逆の行動をするためにはさらに脳活動が必要になるのだと考えられました。
参考文献
1) 第16回 日本ヒト脳機能マッピング学会 プログラム・抄録集