第42回日本磁気共鳴医学会大会 が京都のホテルグランヴィア京都で開催されています。 研究室から下記の学生と教員が発表しています。 DTIとfNIRSデータを用いた脳活性部位間の神経線維3D描画システムの構築 ○大谷 俊介 マルチタスク時の心理状態の差異が脳活動へ及ぼす影響の検討 ○岡村 達也 ワーキングメモリ課題における異なる方略を用いた訓練の脳活動と神経線維への影響 ○小淵 将吾 快の度合が異なる際の男女における脳活動の違い ○大村 歩 確的推論による脳画像の自動ラベリング手法の検討 ○山本 詩子 学会参加報告書
報告者氏名 | 小淵将吾 |
発表論文タイトル | ワーキングメモリ課題における異なる方略を用いた訓練の脳活動と神経線維への影響 |
発表論文英タイトル | Working memory training strategies and their influence on changes in brain activity and white matter |
著者 | 小淵将吾, 山本詩子, 田中美里, 廣安知之 |
主催 | 日本磁気共鳴医学会 |
講演会名 | 第42回日本磁気共鳴医学会大会 |
会場 | ホテルクランヴィア京都 |
開催日程 | 2014/09/18-2014/09/20 |
1. 講演会の詳細 2014/09/18から2014/09/20にかけて,ホテルクランヴィア京都にて開催されました第42回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.この大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された大会で,「今,MRの魅力を語ろう!」というテーマで,新しい技術がもたらす画像法の理解と今後の臨床応用へとつなげることを目的に開催されました. 私は全日参加いたしました.本研究室からは他に山本先生,大村さん,岡村,大谷が参加しました. 2. 研究発表 2.1. 発表概要 私は19日の午後のセッション「脳のfMRI」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,3分の講演時間と3分の質疑応答時間となっておりました. 今回の発表は,ワーキングメモリ課題における異なる方略を用いた訓練の脳活動と神経線維への影響というタイトルで発表いたしました.以下に抄録を記載致します.
【目的】情報の処理をしつつ,一時的に必要な情報の保持をする働きを担うのがワーキングメモリ (WM) である.WM容量を向上させることにより,反応抑制課題成績の向上や,注意・欠陥多動性障害の症状の改善が見込まれている.しかし,効果的なWM容量の向上方法は未解明である.本研究では,WM容量を計測する課題の一つであるリーディングスパンテスト (RST) における異なる方略を用いた訓練が,脳活動と神経線維へ及ぼす影響について検討する.【方法】健常者12名 (男性10名,女性2名; 平均年齢22.3±0.95歳) を対象に介入実験を行った.被験者12名中8名を1ヶ月間WM課題の訓練を行う訓練群 (イメージ方略の訓練群5名,リハーサル方略の訓練群3名),残り4名を訓練を行わない統制群に分けて実験を行った.1か月間のWM課題の訓練前後でRST時の脳機能画像と拡散強調画像を1.5 [T] のMRI装置を用いて取得した.データ解析にはSPM8を使用し,脳活動は個人解析と訓練群ごとの集団解析 (paired t-test) を行い (p < 0.001, uncorrected),拡散テンソル画像法によって測定される拡散異方性 (FA) の変化をVoxel-based analysisを用いて検討した.またDTIStudio (FACT法) を用いてTractographyを行った (FA > 0.2, angle < 70°). 【結果・考察】訓練前後のRSTの正答率の変化は,イメージ方略の訓練群においてのみ成績が上昇した.MRIデータより,イメージ方略の訓練群においては訓練前に比べ,訓練後に前部帯状回と右楔部に有意な脳活動の上昇が生じ,右側頭葉のFA値が有意に上昇した.FA値が有意に上昇した領域からTractographyを行った結果,神経束である右下縦束が描画された.WMの中央実行系の機能を担うとされる前部帯状回の脳活動の上昇,そして視覚イメージに関する神経束である右下縦束のFA値上昇により見込まれる神経線維の髄鞘化は効率の良い情報伝達を可能にし,効果的なWMの使用につながったと考えられる. 【結論】RSTにおける効果的な方略はイメージ方略であり,訓練が脳機能と脳構造に影響をあたえた.したがって,WMの訓練方法の違いによって,容量向上の効率や脳活動,また神経線維への影響が異なることが示された. |
2.2. 質疑応答 今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました. ・質問内容1 シーメンスジャパン所属の滝澤さんからの質問です.こちらの質問はFA値の上昇は統計的に有意なものなのかというものでした.この質問に対する私の回答は,はい.統計的な手法としてVBMを用いています.しかしながら人数が少ないため,確証は得られないので,今後被験者数を増やす必要があると答えました. ・質問内容2 質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問は方略の結果の差異は人数が異なることによるものではないのかという質問でした.この質問に対する回答ですが,確かにその可能性も考えられますが,個人の結果を考慮すると,集団解析と同じような結果が得られていますと回答しました. ・質問内容3 質問者の氏名を控え損ねてしまいました.この質問はADHDとワーキングメモリの関連,FA値と神経との関連の詳細について知りたいという質問でした.この質問に対する回答は,先行研究を提示して,ADHDとワーキングメモリ容量には正の相関があることや,FA値の上昇が神経の髄鞘化につながることを説明いたしました. 2.3. 感想 ポスター発表は初でしたが,説明は丁寧にできたと考えています.丁寧すぎて時間をオーバーしてしまったこと,そして処理の詳細を記述していなかったことが反省点です. 3. 聴講 今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
発表タイトル :視覚意識と初期視覚野著者 :山本洋紀 セッション名 :シンポジウム1:fMRIでみる脳-視覚コラムからシステムまで- Abstruct :私たちは,刺激と知覚が乖離する時(ないはずの物が見える等)のfMRIによって,視覚意識の脳過程を調べています.本講演では,視覚皮質を対象にした最近の下記研究を紹介し,視覚意識に果たす初期視覚野の役割を考察します. 1)ない物が見える:アモーダル補完に関するfMRI 視覚物体の多くは他物体で遮蔽されていますが,人は遮蔽部分を容易に補完し,物体の全体像を即座に把握できます(アモーダル補完).本研究では,遮蔽物体を見ている際の脳活動をfMRIで計測しました.その結果,V1/2野において,遮蔽されて欠損した視覚像がまるで絵を描くように補完されて,物体の全体像が再構成されていることを明らかにました.さらに,V1の補完に関わる活動は,事前に見ていた物体の形を反映して,補完が必要でないと判断される場合には生じないこともわかりました.人間の視覚系は,外界に対する「解釈」を加えた,より高次の処理を行っていることを示しています.また,視覚皮質の活動は,見えている物体だけでなく,見えなくてもその存在を感じるだけで生じることが確認されました. 2)ある物が見えない:視覚意識の個人差に関するfMRI 左右の目に全く異なる画像が入力されると,知覚は揺らぎ安定しなくなります.この現象は両眼視野闘争(BR)と呼ばれ,視覚入力は一定のまま,主観的な知覚だけが不随意的に切り替わることから,視覚処理に関わる神経活動と視覚意識に関わる神経活動を分離できる現象として,数多くの神経科学的研究の対象となってきました.ところが,BRの脳過程については,まだ十分にはわかっていません.本研究では,BRによって見えなくなった目標刺激によって引き起こされた低次視覚野の脳活動に着目したfMRI実験を行いました.この結果,目標刺激が見えなくなる時間が長い人ほどV3野とV4v野の反応が弱いことがわかりました.この結果は低次視覚野の活動が両眼視野闘争の知覚交替のダイナミクスの決定に関与していること示しています. |
この発表は錯視に対する脳活動変化の研究の総説でした.錯視であっても実際に見たのと同じように人の脳が働くという結果は興味深かった.また時系列データの取り扱い方について講演していただいたので,今後この発表で用いられた脳活動のピークの変動を可視化した手法を参考にして,解析を行いたいと思う.
発表タイトル :脳画像から心を読む著者 :神谷之康 セッション名 : Abstruct :脳の信号は心の状態や行動をコード化している「符号(コード)」と見なすことができる.そして,その符号を復号化(「デコード」)することで,脳から心の状態を推定することが可能になると考えられる.しかし,脳の信号は非常に複雑なパターンをもっていて,人が目で見ただけでその意味を理解するのは一般に困難である.そこでわれわれは,機械学習と呼ばれるコンピュータ・サイエンスの手法を取り入れ,コンピュータに脳活動信号の「パターン認識」を行わせて脳の信号をデコードするアプローチを提唱した.本講演では,人が見ているものを脳活動パターンからデコードする方法を中心に紹介しながら,ブレイン-マシン・インターフェースや情報通信への応用など,この技術の可能性について議論する. |
機械学習による脳のデコーディング手法の総説でした.脳機能イメージング装置のデータから,脳の理解をするための,エンコーディングとデコーディングの手法が興味深かった.このような技術が医療情報システム研究室に取り入れられれば,研究の幅が大きく広がると感じた.
発表タイトル :統合失調症における安静時脳ネットワーク研究-resting state fMRI研究-著者 :福永雅喜, 橋本亮太, 大井一高, 渡邉嘉之, 山森英長, 藤本美智子, 安田由華, 武田雅俊 セッション名 : fMRI-疾患 Abstruct :【目的】 統合失調症は,主要な精神疾患の1つであり,社会生活に強い影響を及ぼしうる.しかし,現在まで,臨床的に適用可能な,統合失調症のためのバイオマーカーは考案されていない.本研究の目的は,イメージングバイオマーカーの創成を目標に,resting state fMRIを用いて,統合失調症患者と健常者における安静時脳ネットワークの相違を検討することである. 【方法】 統合失調症患者36名(男性:18,女性18,年齢:33.4±12.3歳,罹病期間:13.1±2.1年,発症年齢:23.3±11.2歳),および年齢,性別が相同する健常者(男性:18,女性18,年齢:32.8±12.8歳)を対象に resting state fMRI 測定を3T MRIにて実施(GE Signa HDxt 3.0T, TR/TE=2s/30ms, 150 volumes).すべての被験者は,インフォームドコンセントの後,実験に参加した.被験者には,安静閉眼,リラックスしつつも覚醒を保つように指示した.安静時脳ネットワーク活動の検出には,AAL(Automated Anatomical Labeling)より提供される脳各部位のROIの時系列変化を抽出後(DPARSF, http://www.restfmri.net/forum/dparsf),各領域間の時系列相関性を総当たりで算出し,比較を行った.また,患者,健常者ともほぼ同数の別群にて結果の再現性を検証した. 【結果・考察】 脳各部位の時系列相関性では,全般的な傾向として,健常者に比較し統合失調症において,相関係数の低下がみられた.とくに,右下前頭回,左・右島,右楔前部,左上頭頂小葉,右中心後回,左・右帯状回を seed ROI とする voxelwise correlation において,健常者に比較し統合失調症で有意な相関係数の低下が,2つの患者・健常者データセットにおいて共通してみられた.本研究結果より,fMRI による安静時脳ネットワーク計測が,統合失調症補助診断に向けたイメージングバイオマーカーとして応用しうることを示唆すると考えられた. |
統合失調症患者のrsfMRIの結果も興味深かったが,解析手法としてROI間での時系列相関性を用いていたのが勉強になった.また1セッションと2セッションでのrsfMRIのデータの変化がみられたのは貴重な知識となった. 参考文献 1) 日本磁気共鳴医学会誌, vol. 34, 第42回日本磁気共鳴医学会大会 講演抄録集
学会参加報告書
報告者氏名 | 大谷俊介 |
発表論文タイトル | DTIとfNIRSデータを用いた脳活性部位間の神経線維3D描画システムの構築 |
発表論文英タイトル | 3D drawing system to combine DTI data of nerve fibers and fNIRS data of activated brain regions |
著者 | 大谷俊介,山本詩子,田中美里,廣安知之 |
主催 | 日本磁気共鳴医学会 |
講演会名 | 第42回日本磁気共鳴医学会大会 |
会場 | ホテルグランヴィア京都 |
開催日程 | 2014/09/18-2014/09/20 |
1. 講演会の詳細
2014/09/18から2014/09/20にかけて,ホテルグランヴィア京都にて開催されました第42回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.この第42回日本磁気共鳴医学会大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された研究会で,学生と研究者と医療従事者が参加して,核磁気共鳴に関わる新しい技術と今後の臨床応用についての議論を行い,MR医学における原点への立ち返りと次へと飛躍の起点になることを目的に開催されています.
私は18,19,20日の3日間参加いたしました.本研究室からは他に山本先生,大村さん,岡村,小淵が参加しました.
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は19日の午前のセッション「脳・脊髄-拡散基礎2」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,3分の講演時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,DTIとfNIRSデータを用いた脳活性部位間の神経線維3D描画システムの構築という題で発表しました.発表内容は提案システム用いることで,DTIとfNIRSデータで,機能的に繋がりが示唆された領域間に構造的な繋がりの存在が確認できるというものです.以下に抄録を記載致します.
抄録中身本研究の目的は精神疾患の発症メカニズムの解明に繋がるであろう脳内ネットワークの解明を行うことである.そのために,3Dプログラミングの一種であるDirect3Dを用いて,MRIのDTI (Diffusion Tensor Imaging) データを用いた神経追跡手法により得られる脳神経線維の走行とfNIRS (functional Near-Infrared Spectroscopy) から得られる脳活性部位を3D可視化するシステムを構築した.よって本稿では,基礎的検討として,この提案システムを用いて,評価実験を行い,脳活性部位間の神経線維の関係性を検討することを目的とする.[方法] 本提案システムはDTIデータを用いた神経線維の3次元座標データ,fNIRSの脳血流量変化データから判断できる活性CH,fNIRSの磁気計測より得られるProbe毎のCHの3次元座標データを用いて,活性部位間の神経線維を描画するシステムである.本システムを用いた評価実験では,短文を読みながら文中の指定された単語を記憶するRST(Reading Span Test)課題時の複数の活性部位の関係性を検討した.この活性部位は,RSTの成績によって異なり,低成績者の場合は,DLPFC(Dorsolateral prefrontal cortex)とブローカ領域が活性し,高成績者の場合,DLPFC,ブローカ領域,ウェルニッケ領域が活性すると言われている.本実験では,それらの部位を活性部位と定義し,成績が高い被験者,低い被験者各1名の課題時のfNIRSの活性CHのデータ,MRIの脳神経線維データを用い,各被験者の活性部位間の神経線維の描画を行った.それらの描画結果の比較を行い,活性部位間の神経線維の関係性を調査した. [結果] 低成績者の場合,DLPFCとブローカ領域にのみ神経線維の強い繋がりがあることが確認できた.高成績者の場合,DLPFCとブローカ領域,ウェルニッケ領域とブローカ領域に神経線維の繋がりがあることが確認できた.これらの結果から,RSTの成績によって脳特定部位間の神経線維の繋がりの構造には違いがあることが示された. [結論] 以上の結果より,先行研究で繋がりが示唆された領域間に神経線維の繋がりが存在し成績によってその繋がりの構造が異なることが確認できた.本システムを用いることで,MRIとfNIRSデータから活性部位間の神経線維を可視化することで脳内ネットワークの解明に繋がることが示唆された. |
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
京都大学大学院 情報学研究科 システム科学専攻 所属の大関真之さんからの質問です.こちらの質問は,「先行研究を用いて評価実験を行ったが,どんなことを示すことができれば良かった実験ですか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「先行研究で成績の違いで機能的繋がりの領域が異なっていたため,その領域間の神経線維に違いを示すことができれば良い」というものでした.
・質問内容2
京都大学医学研究科 人間健康科学系専攻先進医療機器開発学 所属の酒井晃二さんからの質問です.こちらの質問は,「低成績者にはウェルニッケとブローカ領域に繋がりが存在しなかったのか」というものでした.この質問に対する私の回答は,「神経線維を追跡できるほどの線維は存在しなかった」というものでした.
2.3. 感想
発表時間が限られていたため,自分の研究内容をしっかり伝えることが出来なかった.もう少しポスターに処理の詳細などを記載する必要があり,ポスターだけでも内容を理解してもらえるような工夫が必要だと感じた.次回のNeuroscienceもポスター発表なので,この経験を生かしていきたい.
3. 聴講
今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 拡散MRIデータのガンマ分布モデルによる解釈著者 :押尾 晃一セッション名 :拡散強調MRIで何がみえるかー水透過性と灌流の可視化ー Abstruct :生体のnon-gaussian diffusionの解釈として様々なモデルが提案されているが、実際の組織学的な所見との関連がわかりにくいことが多い。この中でいわゆるstatistical modelはADCが連続して分布することを仮定するため、制限拡散や灌流を含む組織の実態を表現しやすい。昨年の大会で分布の形としてこれまで提案されていた正規分布よりも実際の生体の状態に近いと考えられるガンマ分布を用いたモデルを提案した。 ガンマ分布はρ(D) = A Dk-1exp(-D/θ)で定義される。ただしAは標準化定数。ADCがこの分布に従う時、MR信号はS(b) = PD / (1+θb)kとなる。従来法と同様にb値を変えて数点信号を計測し、カーブフィッティングによりPD、k、θを求める。 【IVIMとの関係】 IVIMは基本的には2コンパートメントモデルで、ADCの大きい方の成分を灌流と見なすものである。これはまたADCの分布の形を仮定するstatistical modelの一種とみることも可能で、2つの鋭いピークを持った分布に相当する。 【水透過性との関係】 近年生体組織でのADCの低下は主に制限拡散によるというのがコンセンサスになりつつある。ガンマ分布モデルもこの考え方に基づいているが、水分子がある程度細胞膜を通過できる状態でのADC低下の定量的な解析が今後の課題と考える。 |
この発表で着目したのは,拡散MRIで撮像している水の拡散は正規分布に従うこと前提としているが,提案しているガンマ分布を用いる方が有効だというものでした.これは従来とは異なり,制限拡散や灌流を含む組織の実態を表現しやすい.この分布を用いることで,従来法と比べて生体内の水の拡散を正確に追うことができ,撮像結果の正確性が増し,精度の良い神経線維を描出することが可能だと思います.
発表タイトル :睡眠時の自発性脳運動 –fMRIと脳波の同時計測-著者 :宮内哲, 寒重之セッション名 : fMRIでみる脳 –視覚コラムからシステムまで- Abstruct :健常なヒトの意識状態は,生理学的な覚醒水準の観点からは覚醒,浅いノンレム睡眠,深いノンレム睡眠(徐波睡眠),レム睡眠の四種類に大別できる。fMRIは局在性の脳活動を高い空間分解能で計測できるが,血流の変化に伴う磁気共鳴信号の変化を計測しているため,脳波のように意識水準の変化に対応した明確な変化は示さない。したがって,これまでのfMRI研究で計測されてきた脳活動のほとんどは,上記の4つの意識状態の中の覚醒時のみにすぎない。 脳波とfMRIを同時に計測する事により,全ての意識状態に対応した脳活動をfMRIで扱うことが可能となる。われわれは脳波とfMRIの同時計測システムを構築し,これまでにレム睡眠時の急速眼球運動に伴う脳活動,意識状態の変化に伴うDMN(Default Mode Network)の変化 など,睡眠時の自発性脳活動を報告してきた。本シンポジウムでは,これらに加えて,覚醒から傾眠期への移行及び徐波睡眠とレム睡眠におけるRSN(Resting State Network)特性の変化について紹介する。 |
この発表で着目したのは,fMRIと脳波の同時計測することにより,意識状態の変化を検討することができることです.fMRI実験では,レストとタスクをみて脳活動を評価しているが,本当にレストができているのかという問題があります.脳波を同時計測することにより,被験者の意識状態を確認することができ,タスクで生じる脳活動をより正確に計測できると思います.
参考文献
[1] Miyauchi et al., Experimental Brain Research 192(4) :657-667 (2009).
[2] Koike et al., Neuroscience Research 69 : 322-330 (2011).
[3] Uehra et al., Cerebral Cortex doi: 10.1093/cercor/bht004 (2013).
[4] Watanabe et al., NeuroImage doi: 10.1016/j.neuroimage (2014).
発表タイトル :Diffusion Tensor Imaging にための性能評価ファントム開発 –経時的安定性と複数個作成時の画一性の評価-著者 :橘篤志, 小畠隆行, 佐野ひろみ, 立花泰彦, 川口拓之, 福士政広セッション名 :マイクロイメージ・基礎 Abstruct :【目的】Diffusion Tensor Imaging(DTI)は水拡散の方向依存性を表した撮像法であり,見かけの拡散係数や拡散異方性を定量できる。DTIは定量的な指標を求める事が可能であり広く応用されているが,その値を客観的に評価する方法は確立されていない。われわれは拡散異方性をもつDyneema(Dy)線維を利用したDTIファントムに関して昨年の本学会にて発表を行った[1]。本研究の目的は,このファントムの経時的安定性と複数固作成時の画一性を評価する事である。 【方法】Dyとの比較のため,構造が既知の毛細管を配置したガラス製のキャピラリープレート(CP)を使用した。サンプルを直径10 mmの円筒形サンプルケースにそれぞれ入れ平行に設置し撮像を行った。MRI装置はSIEMENS社製 MAGNETOM Verio 3.0 T,12ch Head-Coilを使用した。撮像シーケンスはRESOLVE[2]をSegment数5にて用いた。撮像条件はFOV 200 mm,Matrix 100,Slice thickness 2.0 mm,TR 5000 ms,TE 96 ms,Average 2,b-value 0, 1000 s/mm2,MPG 12軸とした。撮像結果のサンプル部にROIを作成しFA,ADCを計測した。 【結果】3ヵ月前後の比較では,CPはFA=0.753からFA=0.748,ADC=1.05×10-3 mm2/sからADC=1.03×10-3 mm2/sとなった。DyはFA=0.543からFA=0.539,ADC=1.28×10-3 mm2/sからADC=1.26×10-3mm2/sとなった。CP・DyともにFA・ADCは同傾向に減少していることから,装置の特性の変化に起因している可能性が大きい。Dy7本を測定して画一性を評価すると,FA=0.537±0.0165 (CV=0.0308),ADC=1.27±0.0282×10-3 mm2/s (CV=0.0222)となり,ファントム間でのばらつきは小さかった。 【結論】Dyを用いたファントムのFA,ADCは経時的変化もなく,複数個作成時のばらつきも少なかった。この結果はDyファントムがDTI定量評価に有用であることを示唆している。 |
この発表では,Dyneemaという線維を用いて,DTIのための性能評価ファントムを作成していた.作成目的は,DTIが本当に神経線維を撮像しているのかということではなく,あらゆる追跡手法を用いた際の追跡結果を評価するためのものでした.ファントム作成方法についても発表されていたので,ファントム作成者に伝えて,本ファントムと同等のレベルのファントムを作成してもらいたいと思います.
参考文献
[1] 橘篤志. 第41回日本磁気共鳴医学会大会. 2013; P-3-203.
[2] David A.P. et al. Magn Reson Med. 2009;62:468-475
学会参加報告書
報告者氏名 | 岡村達也 |
発表論文タイトル | マルチタスク時の心理状態の差異が脳活動へ及ぼす影響の検討 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 岡村達也,山本詩子,田中美里,廣安知之 |
主催 | 日本磁気共鳴医学会 |
講演会名 | 第42回日本磁気共鳴医学会大会 |
会場 | ホテルグランヴィア京都 |
開催日程 | 2014/09/18-2014/09/20 |
1. 講演会の詳細
2014/09/18 ~ 2014/09/20にかけて,ホテルグランヴィア京都にて開催されました第42回日本磁気医学会大会に参加いたしました.本大会は,「今、MRの魅力を語ろう!」をテーマに,NMR現象のより深い理解から臨床応用まで、活発な議論の場となることを期待し,日本磁気共鳴医学会によって主催されました.
私は全ての日程に参加いたしました.本研究室からは他に山本先生,大村さん,小淵,大谷が参加しました.
2. 研究発表
2.1. 発表概要
私は19日の午後のポスターセッション「脳とfMRI」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,3分の発表時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,マルチタスク時の心理状態の違いが脳活動に及ぼす影響を検討したものです.発表タイトルは「マルチタスク時の心理状態の差異が脳活動へ及ぼす影響の検討」です.以下に抄録を記載致します.
【目的】本研究の目的は,マルチタスク時の脳活動とストレスの関係を解明し,より低ストレスでマルチタスクを行うための方略を提案することである.そのた めの基礎的検討として,本稿ではfMRI と,気分を評価する質問紙法である短縮版POMS (Profile of Mood States)を用いて,マルチタスクを行ったときの,個人ごとの心理状態への影響の差異と,その違いが脳活動に及ぼす影響について検討する. 【実験方法】実験課題には,被験者に同時に2つの情報を処理させるマルチタスク(以下Multi)と1つの情報を処理させるシングルタスク(以下 Single)を表現することが出来るonline letter matching 課題を採用した.被験者は健常者16名(平均年齢:22±1歳,右利き15名,左利き1名)を対象とした.本研究ではまず,各被験者のMulti とSingle のタスク時の脳活動をfMRI を用いて計測した.次に,各タスク時の心理状態の変化を短縮版POMS を用いて計測した.Multi とSingle のタスク前後の心理状態が正に変化した被験者を高ストレス群,負に変化した被験者を低ストレス群と定義した.そして,Multi とSingle において,高ストレス群と低ストレス群の脳活動の部位の違いを調査した.【実験結果】両タスクにおいて,高ストレス群,低ストレス群の被験者が存在した. このことから,同じタスクを行ったとしても,個人によって心理状態への影響が異なることが示された.Multi において,両群の脳活動を比較したところ,低ストレス群の小脳虫部において活性部位の違いがみられた.Single では,低ストレス群の小脳において活性部位の違いがみられた.このことから,タスクに対する心理状態の違いによって活動する脳部位が異なることが示され た.また,小脳虫部は注意や予測を司る部位であることから,タスク時のストレスは注意や予測と関係がある可能性が示唆された. 【結論】マルチタスクに対する心理状態の変化は個人によって異なり,その違いによって同じタスクを行っても活動する脳部位が異なるという結果となった.Single でも同様の部位に活性の違いがみられたことからマルチタスクに特有の部位ではないと考えられる. |
2.2. 質疑応答
今回の講演発表では,以下のような質疑を受けました.
・質問内容1
質問者の氏名を控え損ねてしまいました.こちらの質問は,課題に対する心理状態の変化と課題成績の間に関係はあったのかについてです.この質問に対して私は,TMD得点の変化と課題成績の散布図を見る限り,関係性はみられなかったとお答えしました.
・質問内容2
千葉大学の平野さんからの質問です.こちらの質問はクラスタリングの概要についての確認でした.この質問に対して私は,何が入力でどのような分類を得たいからクラスタリングを用いたのかをお答えしました.
・質問内容3
座長をされておりましたシーメンス・ジャパン株式会社の瀧澤さんからの質問です.こちらの質問は,タスク時の心理状態が異なると脳活動に差が生じるのかという確認と,今後の展望についてでした.この質問に対して私は,その差を利用してより低ストレスに課題を行えるような方法を提案することが展望の1つであるとお答えしました.
2.3. 感想
学会では,自分と似た分野の方々の現在の研究を聞くことが出来て,大変刺激になりました.発表は緊張しましたが,研究室での普段の練習や,先輩方のアドバイスのおかげで学会を楽しむことも出来ました.次回に向けてこれからも研究に励もうと思いました.
3. 聴講
今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 視覚意識と初期視覚野著者 :山本洋紀 セッション名 : fMRI でみる脳-視覚コラムからシステムまで- Abstruct :私たちは、刺激と知覚が乖離する時(ないはずの物が見える等)のfMRIによって、視覚意識の脳過程を調べています。本講演では、視覚皮質を対象にした最近の下記研究を紹介し、視覚意識に果たす初期視覚野の役割を考察します。 1) ない物が見える:アモーダル補完に関するfMRI1 視 覚物体の多くは他物体で遮蔽されていますが、人は遮蔽部分を容易に補完し、物体の全体像を即座に把握できます(アモーダル補完)。本研究では、遮蔽物体を 見ている際の脳活動をfMRIで計測しました。その結果、V1/2野において、遮蔽されて欠損した視覚像がまるで絵を描くように補完されて、物体の全体像 が再構成されていることを明らかにました。さらに、V1の補完に関わる活動は、事前に見ていた物体の形を反映して、補完が必要でないと判断される場合には 生じないこともわかりました。人間の視覚系は、外界に対する「解釈」を加えた、より高次の処理を行っていることを示しています。また、視覚皮質の活動は、 見えている物体だけでなく、見えなくてもその存在を感じるだけで生じることが確認されました。 2) ある物が見えない: 視覚意識の個人差に関するfMRI2 左 右の目に全く異なる画像が入力されると、知覚は揺らぎ安定しなくなります。この現象は両眼視野闘争(BR)と呼ばれ、視覚入力は一定のまま、主観的な知覚 だけが不随意的に切り替わることから、視覚処理に関わる神経活動と視覚意識に関わる神経活動を分離できる現象として、数多くの神経科学的研究の対象となっ てきました。ところが、BRの脳過程については、まだ十分にはわかっていません。本研究では、BRによって見えなくなった目標刺激によって引き起こされた 低次視覚野の脳活動に着目したfMRI実験を行いました。この結果、目標刺激が見えなくなる時間が長い人ほどV3野とV4v野の反応が弱いことがわかりま した。この結果は低次視覚野の活動が両眼視野闘争の知覚交替のダイナミクスの決定に関与していること示しています。 |
この発表は,レチノトピックな対応を利用して,活性する脳活動の部位の時系列的な変化を見て,遮蔽物の物体を補完しているのかを判断しようとした実験である.錯覚,または補完が行われたかどうかは本人の主観により判断するものが多いが,この手法では,レチノトピックな対応を指標に用いているところが素晴らしい発想だと思いました.
参考文献
1) Ban H., et al. (2013) The Journal of Neuroscience, 33(43), 16992-17007.
2) Yamashiro H, et al. (2014) Journal of Neurophysiology, 111(6), 1190-202.
発表タイトル :脳画像から心を読む著者 :神谷之康 セッション名 : fMRI でみる脳-視覚コラムからシステムまで- Abstruct :脳の信号は心の状態や行動をコード化している「符号(コード)」と見なすことができる.そして,その符号を復号化(「デコード」)することで、脳から心の状態を推定することが可能になると考えられる.しかし,脳の信号は非常に複雑なパターンをもっていて,人が目で見ただけでその意味を理解するのは一般に困難である.そこでわれわれは,機械学習と呼ばれるコンピュータ・サイエンスの手法を取り入れ,コンピュータに脳活動信号の「パターン認識」を行わせて脳の信号をデコードするアプローチを提唱した.本講演では、人が見ているものを脳活動パターンからデコードする方法を中心に紹介しながら,ブレイン-マシン・インターフェースや情報通信への応用など,この技術の可能性について議論する. |
この発表では,ある刺激を提示したときの脳活動を計測しラベルを付ける.そして,そのラベルと刺激を対応させるようなデコーダを作り,新規の脳活動に対してもそのモデルにあてはめて刺激にデコードするといったものでした.脳活動に対してBayesian CCAなど様々な方法で解析を試みており,その方法は是非参考にしたいと思いました.
発表タイトル :睡眠時の自発性脳活動 -fMRIと脳波の同時計測-著者 :宮内哲,寒重之 セッション名 : fMRI でみる脳-視覚コラムからシステムまで- Abstruct :健常なヒトの意識状態は,生理学的な覚醒水準の観点からは覚醒,浅いノンレム睡眠,深いノンレム睡眠(徐波睡眠),レム睡眠の四種類に大別できる。 fMRIは局在性の脳活動を高い空間分解能で計測できるが,血流の変化に伴う磁気共鳴信号の変化を計測しているため,脳波のように意識水準の変化に対応し た明確な変化は示さない。したがって,これまでのfMRI研究で計測されてきた脳活動のほとんどは,上記の4つの意識状態の中の覚醒時のみにすぎない。 脳波とfMRIを同時に計測する事により,全ての意識状態に対応した脳活動をfMRIで扱うことが可能となる。われわれは脳波とfMRIの同時計測システムを構築し,これまでにレム睡眠時の急速眼球運動に伴う脳活動1) ,意識状態の変化に伴うDMN(Default Mode Network)の変化2)など,睡眠時の自発性脳活動を報告してきた。本シンポジウムでは,これらに加えて,覚醒から傾眠期への移行3)及び徐波睡眠とレム睡眠におけるRSN(Resting State Network)特性の変化4)について紹介する。 |
この発表では,EEGとfMRIを同時計測することによって,被験者の睡眠状態を脳波で判断し,その状態における脳活動を計測しようとしたものだった.現在,活発に研究がすすめられているRSNに対して,睡眠状態という視点でのアプローチは新しく,素晴らしいものだと思いました.
参考文献
1) Miyauchi et al., Experimental Brain Research 192(4) :657-667 (2009).
2) Koike et al., Neuroscience Research 69 : 322-330 (2011).
3) Uehra et al., Cerebral Cortex doi: 10.1093/cercor/bht004 (2013).
4) Watanabe et al., NeuroImage doi: 10.1016/j.neuroimage (2014).
学会参加報告書
報告者氏名 |
大村歩 |
発表論文タイトル | 快の度合が異なる際の男女における脳活動の違いの検討 |
発表論文英タイトル | |
著者 | 大村歩,山本詩子,廣安知之 |
主催 | 日本磁気共鳴医学会 |
講演会名 | 第42回日本磁気共鳴医学会大会 |
会場 | ホテルグランヴィア京都 |
開催日程 | 2014/09/18-2014/09/20 |
- 講演会の詳細
2014/09/20から2014/09/20にかけて,ホテルグランヴィア京都にて開催されました第42回日本磁気共鳴医学会大会に参加いたしました.この第42回日本磁気共鳴医学会大会は,日本磁気共鳴医学会によって主催された学会で,臨床・基礎・技術系の多様な参加者による自由で闊達な交流と議論の場となることを目的に開催されています.
私は18,19,20日の全日参加いたしました.本研究室からは他に山本先生,小淵くん,大谷くん,岡村くんが参加されました.
- 研究発表
- 発表概要
私は19日の午前のセッション「脳のfMRI」に参加いたしました.発表の形式はポスター発表で,3分の発表時間と3分の質疑応答時間となっておりました.
今回の発表は,快の度合が異なる際の男女における脳活動の違いの検討について発表しました.以下に抄録を記載致します.
抄録中身 【目的】本研究の最終目的は,非侵襲生体計測装置であるfMRIを用いて快の度合を識別する指標を開発することである.感情の働きは年齢や性別などの違いによっても異なると考えられることから,本稿では快の度合による脳の賦活部位や賦活の度合の違いを男女別に確認することを目的とする.【方法】本実験では,快の度合が異なる視覚刺激を用いて,快の度合に基づく賦活部位や賦活の度合について男女の違いの検討を行った.被験者は男性健常者7名,女性健常者8名(21-24 才,右利き)を対象とした.快の度合について,最も高い度合をHigh,やや高い度合をMiddle,低い度合をNeutralの3段階で定義し,これら度合別に選出した刺激画像を各被験者に提示し,MRI信号を計測した.得られた計測データは,男女ごとに集団解析を行い,性別による賦活部位や賦活の度合の違いについて検討を行った.【結果】男女での脳の賦活を比較すると,女性の方が帯状回や前頭部に賦活が現れやすい傾向が見られた.女性の場合,High画像を見せた際にのみ帯状回に賦活が現れ,MiddleやNeutral画像を見せた際は帯状回には賦活は見られなかった.また,快の度合が低くなるにつれて前頭部の賦活の広さも小さくなった.男性の場合,High画像を見せた際は帯状回での活性は見られなかった.また,女性の場合と同様,快の度合が低くなるにつれて前頭部の賦活の広さも小さくなった.しかし,女性と比べ前頭部での賦活は広くない傾向が見られた.前頭部は注意や関心を司る部位であり,快の度合が高いほどより注意や関心を引いたため,前頭部に賦活の差が現れたと考えられる.また,女性の方が男性に比べ感情強度が強いという報告もあることから,男女での快の度合の違いが前頭部に現れたと考えられる.【結論】本実験では快の度合による脳の賦活部位や賦活の度合の違いを男女別に確認した.男女で共通して快の度合が低くなるにつれて前頭部の賦活の広さが小さくなる結果だったが,男性よりも女性の方が賦活の広さが広い傾向が見られた.今回の結果より,快の度合やその性差の識別が可能であることが示唆された. |
- 質疑応答
今回の発表では,質問はありませんでした.
- 感想
2度目の磁気共鳴医学会大会で前回よりも緊張せずに発表できました.発表時間の3分は少し過ぎてしまいましたが,自分としてはなかなかうまく発表できたのではないかと思っています.しかし,ご指摘や質問は頂けなかったため,少し残念でした.
- 聴講
今回の講演会では,下記の3件の発表を聴講しました.
発表タイトル : 睡眠時の自発性脳活動 -fMRIと脳波の同時計測- 著者 : 宮内哲,寒重之 セッション名 : シンポジウム1「fMRI でみる脳-視覚コラムからシステムまで-」 Abstruct : 健常なヒトの意識状態は,生理学的な覚醒水準の観点からは覚醒,浅いノンレム睡眠,深いノンレム睡眠(徐波睡眠),レム睡眠の四種類に大別できる。fMRIは局在性の脳活動を高い空間分解能で計測できるが,血流の変化に伴う磁気共鳴信号の変化を計測しているため,脳波のように意識水準の変化に対応した明確な変化は示さない。したがって,これまでのfMRI研究で計測されてきた脳活動のほとんどは,上記の4つの意識状態の中の覚醒時のみにすぎない。 脳波とfMRIを同時に計測する事により,全ての意識状態に対応した脳活動をfMRIで扱うことが可能となる。われわれは脳波とfMRIの同時計測システムを構築し,これまでにレム睡眠時の急速眼球運動に伴う脳活動1) ,意識状態の変化に伴うDMN(Default Mode Network)の変化2) など,睡眠時の自発性脳活動を報告してきた。本シンポジウムでは,これらに加えて,覚醒から傾眠期への移行3) 及び徐波睡眠とレム睡眠におけるRSN(Resting State Network)特性の変化4) について紹介する。 参考文献 1 Miyauchi et al., Experimental Brain Research 192(4) :657-667 (2009). 2 Koike et al., Neuroscience Research 69 : 322-330 (2011). 3 Uehra et al., Cerebral Cortex doi: 10.1093/cercor/bht004 (2013). 4 Watanabe et al., NeuroImage doi: 10.1016/j.neuroimage (2014). |
この発表はレム睡眠中になぜ眼球が動くのか,夢と関連があるのかについて検討,またレム睡眠中の脳の賦活について検討している発表でした。自分の研究では睡眠とはあまり関係ありませんが,レム睡眠中の賦活(脳幹)について検討している点などが珍しく,非常に勉強になりました。
発表タイトル :脳画像から心を読む 著者 : 神谷之康 セッション名 : シンポジウム1「fMRI でみる脳-視覚コラムからシステムまで-」 Abstruct : 脳の信号は心の状態や行動をコード化している「符号(コード)」と見なすことができる.そして,その符号を復号化(「デコード」)することで、脳から心の状態を推定することが可能になると考えられる.しかし,脳の信号は非常に複雑なパターンをもっていて,人が目で見ただけでその意味を理解するのは一般に困難である.そこでわれわれは,機械学習と呼ばれるコンピュータ・サイエンスの手法を取り入れ,コンピュータに脳活動信号の「パターン認識」を行わせて脳の信号をデコードするアプローチを提唱した.本講演では、人が見ているものを脳活動パターンからデコードする方法を中心に紹介しながら,ブレイン-マシン・インターフェースや情報通信への応用など,この技術の可能性について議論する. |
この発表は見ている画像を視覚野の賦活情報を用いて再構成するという発表でした。視覚野のデータを用いて識別を行っており,脳情報から感情を推定したい私にとっては非常に参考になりました。さらに,画像を再構成するだけでなく,夢を推定するという研究にも取り組んでおられ,非常にすばらしいと思いました。
発表タイトル : 統合失調症患者のresting state fMRIにおけるdefault mode networkの検討 著者 : 船越康宏,原田雅史,岸田弥奈,山内千明 セッション名 : fMRI-疾患 Abstruct : 【背景・目的】fMRI撮像でタスク刺激を行わないresting state fMRI(rsfMRI)が考案され、その中で注目されているのがdefault mode network (DMN)である.DMNは閉眼安静時で最も酸素代謝や血流量が高く,脳の標準状態を形成するとされている.特に後部帯状回がDMNの中心的なつながりが有るとされ,アルツハイマー病や認知機能障害などで信号変化があるとされている.そのため,DMNはこれらの病気を表す新たな指標になる可能性がある.本研究では健常人と統合失調症患者に対してrsfMRIを撮像し,DMNの活動領域に変化がみられるか検討を行った.【方法】健常人(24-64歳)10名と統合失調症患者(24-53歳)5名を対象とした.統合失調症患者には,薬物投与2週間前と投与6週間後のrsfMRIの撮像を行った.前処理として体動補正や時間補正などを行い,独立成分分析を用いてDMNの抽出を行った.【結果・まとめ】統合失調症患者は,健常人に比べDMNの後部帯状回で活動領域が低下して見られた.また統合失調症患者における薬物投与後のDMNの活動領域は,投与前に比べ広く見られた.そして,薬物投与前と健常人におけるspatial correlationは0.680,薬物投与後と健常人では0.735となった.今回の結果より,健常人と統合失調症患者のDMNの活動領域には変化が見られ,薬物療法によってDMNの信号を改善する可能性が示唆された. |
この発表は統合失調症患者のDMNについて独立成分分析(ICA)を用いて検討した発表でした。脳機能の繋がりについてICAを用いている点が非常に勉強になりました.今後脳の領域間の機能的なつながりについても検討しないといけないため,非常に参考になりました.